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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 11 白いカラス  作者: 石渡正佳
ファイル11 白いカラス
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JHKデビュー

 伊刈渾身の著書「不法投棄コネクション」は幸運なデビューを飾った。おりしも地方分権ブームのさなかにあり、地方公務員の出版が歓迎される下地があったこともラッキーだった。不法投棄の闇の構造を描いた著書は大反響となり、毎朝新聞の書評のトップにとりあげられ、ニッケイVP社のビジネス文学賞まで受賞した。この出版を契機に一地方職員という身分でありながら伊刈は全国的な戦いに身を置くこととなった。

 「うちの局の他の番組には出ないでほしいんです。他局はいいんです。JHKデビューはズームインサイトが最初でないと困ります」JHKの本郷ディレクターは伊刈と会うたびに局内のライバル番組に先を越されないかと牽制していた。実際、やはりJHKの看板番組だったチャレンジXのディレクターからも出演の打診がきていたが、本郷の根回しで伊刈のJHK初出演番組は岩手山形県境不法投棄事件を取り上げたズームインサイトになった。

 JHK代々木放送局は窓もなければスタジオの案内板もなく、似たような通路が縦横に走る迷路だった。テロやクーデター対策のためにあえてわかりにくくしているのだ。岩手放送局からやってきた若手の担当者は局内に不案内で、伊刈をスタジオに連れていく途中で迷ってしまった。

 「衣装が汚れますからお食事は控えてください」打ち合わせ室に戻った伊刈が岩手からのお土産の「ゴマすり団子」をはしゃいで食べているのを本郷がたしなめた。伊刈は記念すべきJHKデビューのためにグッチのスーツを奮発していた。看板キャスターの国仲佑子は伊刈がビデオを見終えたころあいに合流した。テレビで見る以上に鼻筋の通った美人で、しかもとても優しい人だった。

 「伊刈さんのお話を聞いていると産廃の世界の深さが伝わってきますね。質問を少なめにしてコメントを長くしてもらったほうがいいですね」生放送なので何よりもゲスト出演者にリラックスしてもらうことを第一にしたアドバイスだった。

 しかし本郷からは伊刈を緊張させる注文が次々に出された。「マニフェストという言葉は禁句です。選挙のマニフェストと紛らわしいです。かといって産業廃棄物管理票という正式名称もわかりにくいですね」

 「廃棄物管理伝票ではどうですか」

 「それで行きましょう」

 アドリブで考えた勝手な造語だったが、一度放送で使えばそれが標準語になってしまう恐れもあった。しかしそれこそが数多の新語を標準語に加えてきたJHKの流儀だった。

 「二重構造の図はどうしますか」

 「それは出しましょう。とてもわかりやすいです」国仲の判断は早かった。「ほかの図はいりません。いろいろ出さないほうがいいです」

 七時前にスタジオに移動し国仲の冒頭の挨拶だけをVに収めた。いきなりキャスターが噛むのはみっともないし、ゲストとのアドリブのやりとりに集中するためにも最初の部分をV撮りするのは正解だと思われた。スタジオ内にリアルタイムで七時のニュースが流れる中、一回だけのリハーサルが行われた。

 「このホン(台本)じゃだめですね」本郷が作ったシナリオを見て伊刈が辛らつにコメントした。

 「伊刈さんのお好きなように話してください」国仲はあくまで冷静だった。

 生放送の本番が始まった。一本目のVのあと伊刈はいつもの講演会と同じように原稿なしの手ぶらで臨んだ。生放送なので二本目のVが流れる数分間が唯一の休憩時間だった。

 「最後に十五秒だけ私が締める時間を残してください」国仲が土壇場で言った。

 伊刈はカメラのわきのタイマーを見ながら最後のコメントを終えた。

 「二十秒残しちゃいました」放送が終了した直後に伊刈は頭を下げた。

 「タイマー見てたんですね。二十秒なら完璧です」国仲はむしろびっくりしていた。

 伊刈は一足先に控え室に引き上げた。少し遅れて国仲を廊下で見かけたので「ゴマすり団子を食べませんか」と誘った。

 国仲は控え室に寄り込んで団子を食べながら雑談を始めた。片づけを終えて引き上げてきた本郷ディレクターが国仲を見てびっくりした。それから打ち上げの会場に向かった。

 「控え室に戻った国仲さんを初めて見ました。普通そのまま帰っちゃうんです」本郷はしみじみと言った。

 番組を見て最初に電話をくれたのは市庁や県庁の同僚ではなく、かつて取締りの対象とした面々だった。

 「テレビ見ましたよ。ねえ今度一緒に仕事やりましょうよ」

 「せめて執行猶予が明けてからにしろよ」

 「そりゃそおっすね」

 憎めない言葉に伊刈も苦笑を禁じえなかった。自分を助けてくれたのはもちろんチームの三人と仙道技監と二人の所長だった。だけどチームの仲間たちを除いたら、ほんとうに危ないときに自分を助けてくれた天使はむしろ敵の中にいたのかもしれないと、その時ふっと思った。

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