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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 11 白いカラス  作者: 石渡正佳
ファイル11 白いカラス
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手紙

 「親展のお手紙よ。差出人は女性ね」大西敦子が皮肉っぽい仕草で伊刈の机に封書を投げた。宛名には「大西敦子様方 伊刈進一様」と書かれていた。二人が半同棲していることは職場では秘密にしているはずなのにどうして居所がわかったのだろう。封筒の裏には「犬咬の水とみどりを守る会 秋篠圭子」と記されていた。

 「市民団体か」伊刈はほっとしたようながっかりしたような顔で大西を見上げた。もうその時には彼女はきびすを返していた。

 封筒の中には市民団体らしい上目線で独善的な文面の便箋が二枚とチラシが入っていた。


《手紙》

 拝啓 私は「犬咬の水とみどりを守る会」代表の秋篠圭子と申します。犬咬の産廃問題を憂う者でございます。これまで当会は二十余年にわたり、産廃処分場問題に取り組んで参りましたが、状況はますます悪化するばかりで、改善の兆しは見えません。現在、犬咬には次の処分場が稼動中もしくは建設中ですが、どこも問題だらけです。


稼動中の最終処分場の問題

 ・エコユートピア 観測井戸から塩化物イオン検出。

 ・美麗 安定型最終処分場なのに管理型廃棄物を大量に埋め立てている。

 ・太陽環境 不自然な駆け込み許可。不自然な転売。

 ・ナチュラルクリーン 頻繁に経営者が変更されている。


計画中の処分場の問題

 ・角田建設 市民の森に隣接して残土処分場を計画し、大蛇ヶ池の半分を埋め立てようとしている。


 このような状況の中、市外の産廃を持ち込ませないこと、新規の最終処分場を許可しないことを主眼とした、条例の制定を請願して参りました。ところが市議会に上程された産廃条例は、これとは全く異なり、小規模焼却炉や小規模保管場を許可制にするという、ほとんど意味のない内容です。この条例では、大規模処分場が次々と建設され、市外から流入する産廃で、犬咬の環境が汚されている現状を改善することができません。

 そこで来る八月十五日、望洋大学講堂において、「犬咬から日本へ、産廃列島を脱却しよう 全国シンポジウム」を開催することとしました。


 参加団体は以下の7団体です。

 ・犬咬の水とみどりを守る会

 ・海猫ミュージアム友の会

 ・全国産廃残土協議会犬咬支部

 ・環境のために戦う弁護士連盟

 ・緑平和党

 ・地域環境保全学会

 ・ダイオキシン問題全国フォーラム


 県知事及び市長に参加の呼びかけをしましたが、返答がありませんでした。

 そこで私どもは、貴殿に参加を呼びかけることを決議しました。貴殿が市職員でありながら、犬咬の産廃問題のために活躍されていることは、つとに有名です。とくに小磯工業団地裏の廃棄物火災では、完全撤去に至らなかったことは残念ですが、見事に火災を消し止められました。そこでぜひ貴殿に、シンポジウムへの参加をたまわりたく、筆をとりました。

 シンポジウムのスケジュールは別紙のとおりですので、よろしくご参加をお願いする次第です。


《チラシ》

全国シンポジウム 犬咬から日本へ 産廃列島を脱却しよう

~行政と産廃業者の癒着を断ち切ってゴミのない日本を取り戻そう~


産廃問題は行政の怠慢が原因です。行政の不作為責任を徹底追及しよう!

新規処分場の設置許可を断固阻止しよう!

業者と行政の癒着を断ち切ろう!

許可のある不法投棄現場にすぎない最終処分場を全廃させよう!

無意味な産廃条例を廃案にし、新しい産廃条例を制定させよう!


 犬咬の処分場の写真を背景にしたチラシのタイトルや過激なボディコピーの下にはシンポジウムの日程がすでに決まったこのように書かれていた。そこにはシンポジウムパネラーとしてだけではなく不法投棄問題分科会座長として伊刈の名前が勝手に入れられていた。

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