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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 11 白いカラス  作者: 石渡正佳
ファイル11 白いカラス
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偽装土地売買

 阿武隈運送の柴咲町自社処分場の土地名義を調べていた喜多が奇妙なことに気付いた。

 「処分場の敷地の名義は岩見になっています。会社名義でもなければ阿武隈の社長名義でもなかったんです。ファミリ住宅から土地を買ったのは岩見だったんです」

 「岩見は地上げをするだけの処分場ブローカーじゃなかったのか」伊刈にとっても意外な調査結果だった。

 「土地の名義からすると岩見が処分場敷地を買って阿武隈運送に貸していることになります」

 「それじゃ承継届けは岩見が出すべきじゃないか」

 「岩見の処分場じゃ阿武隈の産廃は入れられません。業許可がないですから」

 「なるほど、なんか見えてきた感じだな」

 「もう一つおかしなことがあるんです。隣の東洋エナジアの不法投棄現場なんですが、こっちも土地の名義は東洋エナジアでもないし、水沢でもありませんでした」

 「じゃ誰が買ったんだ」

 「誰も買ってません。もともとの地主のままなんです。所有者の島田幸三の住所を住宅地図で調べたら地元の農家みたいです」

 「地目は山林だったな」

 「そうです」

 「じゃ地主から土地を借りて不法投棄をやってたってことか。それとも地主もグルかな。うっかりしたなあ」

 「そこらへんは警察も調べたんじゃないですか。島田は逮捕されませんでしたから不法投棄とはたぶん関係ないんですよ」

 「検挙したのは警視庁だったな」

 「それともう一つあります」

 「何?」

 「岩見が買った土地と島田の土地の間に国有地があります」

 「赤道のことだな」

 「ええそうです。阿武隈運送の処分場はもともとファミリア住宅が土砂採取のために赤道に沿って崖を切った跡地なんですが、現地に赤道がなくなってるみたいです」

 「つまりどうなるわけかな」

 「水沢が不法投棄するために赤道を掘ってしまったか、それとも岩見が処分場を整形するために崖上にあった赤道まで削ってしまったかどっちかですね」喜多は鋭い推理を展開した。

 「国有地の管理者は?」

 「それも調べたんですが、今も通行している赤道だったら市になるんですが、今はもう通行していない場合は財務省になるそうです」

 「財務省かもしれないってわけか」

 「それがそうでもなくて土木事務所に聞いたら、財務省は境界がきちんと決まっていて何にも問題なくすぐに売り払える土地しか引き継がないそうです。不法投棄現場だとか崩れてしまった崖だとかだと、たとえ通行していなくってもとりあえず市の土木事務所が管理を続けてるみたいです」

 「よく調べたじゃないか」伊刈にとって国有地管理のルールは周知だったが、新人の喜多が自分でそこまで調べたのにお世辞抜きで感心した。

 岩見のことで聞きたいことがあると電話すると、東洋エナジア元社長の水沢は待ってましたとばかり事務所に飛んできた。

 「やっぱりなあ。岩見がおかしなまねやってんじゃねえかと思ってたよ」水沢は聞きもしないのに自分から話し始めた。伊刈が何を知りたいのかすっかりわかっている様子だった。「あそこはよ処分場なんかなかったんだよ。俺は毎日現場に行ってたんだからよく知ってるよ。それでどうすんだよ。処分場閉めさせんだろう」

 「今日はそういう話じゃないんです。現場で硫化水素が出てるんです。岩見の話では東洋エナジアの不法投棄現場から出てると」

 「冗談じゃねえよ。おかしなもん埋めたのは岩見だろうよ」

 「それを調べたいんです」

 「俺はいつでもいいよ。岩見の野郎に勝手なまねさせるわけにはいかねえ。なんでも協力してやるよ」

 「それともう一つ東洋エナジアが産廃入れてた土地は水沢さんの土地じゃないですね」

 「ばか言え俺の土地だよ。だから俺が捕まったんじゃねえか。人の土地ならそいつが捕まんだろう」

 「でも土地の名義は違いますよ」

 「ああ登記のことか。そんなことどうだっていいだろうよ。俺はちゃあんと金を払って買ったんだ。警察にもなんべんも話したよ」

 「どうして買ったのに名義変更しないですか」

 「名義をもらってどうする。ゴミの入った山なんかどうせ売れねえだろう」

 「じゃ最初から不法投棄やるつもりで買ったんですか」

 「そうじゃねえよ。処分場こさえようと思って、まだ金があるときに買っといたんだよ。だけどよ、許可もらえるまで辛抱できなくてな。それで自社処分場にしたんだよ」

 「自社処分場じゃなくて不法投棄現場ですよ」

 「どっちだっておんなじだろう」

 「違いますよ」

 「とにかくあの土地は間違いなく俺が買ったんだよ」水沢は自信がありそうだった。

 「阿武隈運送の処分場との間に国有地があるのご存知ですか」

 「ああ知ってるよ」

 「現地ではなくなってますね」

 「そうかもしんないな」

 「どっちにあると思いますか。水沢さんの側、阿武隈運送の側」

 「さあなあ」水沢は考え込むように腕組みした。

 「阿武隈運送の側に崖が崩れてるって可能性はないですか」

 「あるかもな。もともとだいぶ崩れてたのを岩見がきれいに削ったみたいだからな」

 「あそこではファミリア住宅が土を採ってたんですよね」

 「とんでもねえよ。ファミリアは土地を買っただけでなんにもやってねえ。あの土採場は俺のダチがやっててファミリアの滑川に売ったんだからよく知ってんだ。俺がまだ東洋エナジアの社長だったときにな、滑川に売ってくれって言ったことがあんだよ。そしたらゴミ屋は嫌えだって抜かしやがって。その口の端の乾かねえうちに岩見に売りやがった。とっちめてやろうと思ったら借金こさえて夜逃げだわ。いい気味だけどよ」

 「土木事務所が赤道の境界立会いを実施したら参加しますか」

 「あたぼうよ。俺が地主なんだから行くに決まってんだろう」話の脈絡はでたらめだが、愚直な水沢の話のほうが周到な岩見の話より信用できそうだった。

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