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作者: 仄明かり

昔、僕が住んでいた町に変わった少女がいた。


具体的に説明すると、少女は毎日毎日空き地に穴を掘っていたんだ。家の隣の空き地に、来る日も来る日もシャベルを持って訪れて、いくつもいくつも穴を掘っていた。


理由はだれにもわからない。彼女に聞いてもわからない。


少女は所謂「良いところのお嬢さん」だったから少女の家族は当然そんな彼女を嫌がった。一時は彼女のシャベルを奪って隠してしまったほどだった。

でもシャベルがなくても素手で地面を掘り始めた我が子を見兼ねて、しまいにはありかを教えてしまった。


来る日も来る日も少女は穴を掘っていた。少女は正直、町中の笑い者にされていた。彼女に面と向かって酷い言葉を投げかける人も何人かいた。少女はそれでも毎日毎日穴を掘り続けた。


そんな彼女に僕は何度か「そんなに穴を掘って何の意味があるんだい?」と質問をしたことがある。

すると彼女は決まって「それを見つけるために掘っている」とチャーミングに笑って回答した。


ある日のことだ。

悪いやつが悪いことを考えた。

その悪いやつはそんな悪くもないやつにもその思いつきを伝えて、その考えを町中の人達に吹き込んだ。

町中の人達はそれを良いアイデアだと思った。


その思いつきはこうだ

「なにか大きくてくだらないものを埋めて、彼女が探していたものはそれなんだと思い込ませてみよう。きっと穴を掘るのなんてやめてしまうさ。」

町中の人達みんながみんなやったかどうかは別として、たくさんの人がそいつの手伝いをして大きくてくだらないものを空き地に埋めた。外から見ても掘り返したことがわからないようにご丁寧に細工までして。

それらはすべて彼女が寝静まってる間に行われた。


次の日、町の人たちは少女が恥を掻くのを見に集まった。「今日こそ何か見つかるんじゃないのか?」なんてヤジを飛ばす奴もいた。

彼女は少し変だなとは思いつつも構わず穴を掘った。すると一時間もしたところでガチンとシャベルが何かにぶつかる音を立てた。彼女の目がその瞬間に輝いたのを誰もが目の当たりにした。


彼らの内の何人かはその時になって初めて自分がなにをやらかしたのかを悟った。


さて、彼女は急いでシャベルを抜いて周りを掘り崩し始めた。「ついに見つけた」きっとそう思ったに違いない。

しかし、2時間近く経った頃にはそれがいかに大きくてくだらないものだったかがはっきりと分かってしまった。それを見た悪いやつは指を差してこれ見よがしに叫んだ。

「おい見ろよ。あいつが探してたものはあんなにくだらないガラクタだったんだ。世話ねえな。」

ホント、世話ないよな。


その日から少女はパタリと穴を掘りに行くのを止めた。それどころか彼女の家族の話を聞く限り、部屋からも出てこないらしい。よっぽどショックなことだったのだろう。


町中の人たちや彼女の家族は最初は清々としていたものの、何日が経つに連れて徐々に寂しくなってきた。そして何よりも「彼女に悪いことをした」と申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。自分勝手な奴らだ。


ある人が言った「みんなで少女を外に出そう」と。彼は毎日彼女の部屋から見えているであろう空き地に座り込み、少女に出てこいよと呼びかけた。するとポツリ、ポツリとそうやって彼女を呼び出そうとする連中が空き地に集まってくるようになった。

最終的に、彼女の部屋から見たらそれはもう夏祭りの様相だと言えてしまうほど人が集まった。


そんなところにいないで出てこいよ。シャベルを持って出てこいよ。バカな僕らを許しておくれよ。


なんだかんだでみんなそれを楽しんでいたのかもしれない。まるで天の岩戸みたいなお話だね。


そんな日々がしばらく続いたある朝のことだ。少女の部屋のドアが開いたままになっていると彼女の母親が町の人たちに叫んだ。みんなは喜んだ。喜んで彼女の部屋に押しかけた。


みんなが部屋にたどり着くと彼女の姿はなかった。どこにもなかった。

彼女は姿を消していた。

「ついに見つけた。」と書き置きだけを残して忽然と。


窓から外を見るとあの空き地が見えていた。空き地には人ひとりが入れるくらいの穴が新しく空いていた。

覗いてみると穴はどこまでも続いていた。

ふかく、ふかーく。


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