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かれはおもう

 ある小学校の授業風景。

 ある日、『彼』の通う小学校の先生が言いました。


「人は何故、生きると思いますか?」


 とても難しい質問です。大人の大半が、答えるのに頭を抱える程の質問です。もしかすると、いまだにその答えを見つけられていない人だっているかもしれません。

 当然、そんな質問に、生まれてまだ六年ほどしか生きていない『彼』や、そのクラスメイトが答えられる筈もなく……


「仮面ラ●イダーになるためです!」


 即答でした。と、同時に現実味のない、悪く言えばアホな発言でした。

 元気よく答えたのは、クラスメイトの飯田君。クラス一のおバカさんです。飯田君は、クラスで一番早く答えられたことが嬉しかったのか、ドヤ顔でした。……ムカつくドヤ顔でした。

 けれど、飯田君が何も考えてないにせよ、自信満々に『生きる意味』を答えたことには変わりません。美人な先生に気に入られたいという下心もあったでしょうし、本当に仮面ラ●ダーなるものに人間がなれると信じていた可能性もあります。

 それでも飯田君には『生きる目的』がありました。これは凄いことです。……その時の『彼』には、何が凄いのかは分かりませんでしたが。

 

 先生は飯田君を誉めます。飯田君はニヘラとだらしなく表情を崩して笑います。

 デュフフ。

 完全に変質者の笑い方でした。


 ……彼は今、まともな人間になれているでしょうか。



 質問は続きます。


「他に分かる人はいるかなー?」


 クラスのアイドル、山崎さんは言います。


「お嫁さんになるためだと思います!」


 この年にして既に若干メタボ気味の高本君は言います。


「ゲームを作るためでぇす」


 腹黒い上に金に汚い芳川さんは言います。


「お金持ちになるためです!」


 彼らに続くように、次々とクラスから声が上がっていきます。


「モテるため!」

             

             「忍者に……」


「楽しく生きるためでーす」

            

             「パン屋になるっ!」


「花屋が一番最強だぜ!」

 

             「え、お前、その見た目で!?」


「うるせぇ!!」


             「先生とけっこ……」


「ばっか! 先生は俺のものだ!」


             「冗談言ってっとシメるぞこら!」


「あぁん!?」


          「せんせーい! 岸方君と安西君が喧嘩し始めました!」



 生きる意味答弁会が、気付けば大乱闘スマッシュクラスィーズに早変わり。これこそが小学校。秩序の欠落した無法地帯のあるべき姿です。


 打撃音と罵声が飛び交う中、先生は至って冷静な表情のまま、『彼』に向かってこう聞きました。


「○○君、あなたはどう思いますか?」


 流石は教師。子供たちの扱いには慣れています。

 先程までわめいていたクラスメイト達が、一瞬で黙り込み、視線を『彼』へと集中させます。


 彼は、皆から一斉に視線を受けつつ、躊躇ためらいがちに答えました。



「……わかりません」



 教室が、静まり返りました。

 周りを見回せば、皆が気色の悪いモノでも見るような目で自分を見ています。


 ――何故?


 彼はそう思いました。


 彼には分かりませんでした。


 今、なぜ自分が生きているのかも。

 皆に生きる意味があるのかも。

 これからに生きる意味を見出すのかも。


 彼には、皆が異常に見えていたのです。


 あまりにもあっさりと『夢』を語れるクラスメイトが。

 人生に『意味』を求める教師の姿が。



 クラスメイトの反応に困惑する彼へと向けて、おバカな飯田君が、いつになく真剣な表情で問いかけます。それが、これからも彼の心を縛り続けるとは、微塵も思わずに。


「じゃぁさ……」



「お前、何で生きてんの?」



 かれはかんがえます。


             自分はなぜ生きているのかと。


 かれはおもいます。 


             この世界は異常だと。


 かれは……


 皆様には『生きる意味』、ありますか?

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