ボクのセカイ
ボクの、大切な思い出。
「今日で世界が終わればいいのに」
そう考えた人はどのくらい居るのだろう。
ボクは教室の窓からぼんやりと空を眺めながら、何度もそんなことを考えたことがある。
今、世界が終われば、こんな息苦しい世界から解放されるのに。
答えの見えない人生でただ闇雲に走ることもないのに、と。
友人にも恵まれ、何一つ不自由なく生きていけるボクは、世間から見れば幸せ者で、それと同時に最も愚か者なのだろう。
目標は曖昧。
人間関係が嫌い。
顧問が憎い。
親が鬱陶しい。
努力は報われない。
時間が惜しい。
誰も認めてくれない。
そんな世界が嫌い。
そんな自分が嫌い。
……ボクは誰かに認めてもらいたかったのだろうか。
違う。そうじゃない。
ボクは苦しかったのだ。
目に見えない。けれど確実に追ってきている重圧が。
先の見えない将来への不安と焦りが。
その苦しみを拭うことは自分以外誰にも出来ない。
そう分かっていても、ボクは苦しみもがきながら、誰かの救いを待っていた。
心のどこかで他人に期待している自分がいた。
『彼』なら。『彼女』なら。『あの人』なら。
ボクを変えてくれるんじゃないかって。そう思ってた。
でも、所詮そんなものは幻想。
自分が変わろうとしなければ絶対に変わることなど出来ない。
傷つくことを恐れて足を踏み出さなければ景色は変わらない。
分かっていた。
そんなことは嫌になるほど理解していた。
でも……
泥沼だった。
この手首を今すぐにでも切り落として消えてしまいたくもあったし、抑え切れない憤怒を他人にぶつけたくもあった。
そう。僕の世界はもうこの時点で壊れてしまっていたのだ。
自覚する暇もなく、自分の欠点だけが浮き彫りになり、苛立ちは日に日に募っていく。
最悪でどうしようもない日々。
青春の全てを真っ黒いペンキで塗り潰したかのような絶望。
何もかもが嫌で嫌で嫌で仕方なかった。
腹が立って、ムカついて、悩んで、足掻いて、苦しみ続けるしかなかった。
それでも何も変わらない。
誰も変えようとはしてくれない。
だから、ボクは……
現実から逃げた。
意識を閉ざして、仮想の世界に逃げ込んだ。
色褪せた現実を無気力に過ごし、仮想の中にもう一人の自分を作り上げ、その『私』を全力で演じようと思った。
自分とは違う『私』。
未来に悩まされない自由な『私』。
他人の視線を気にすることない『私』。
自分の好きなことを全力で努力できる、
『私』。
その世界には私を認めてくれる『彼』がいた。
私を応援してくれる『彼女』がいた。
努力すれば誰かが応えてくれる。
全力で何かをやった結果は必ず返ってくる。
それは、本当の世界とは違ったものだったけれど……
ボクはそこで気付いたんだ。
『ボク』も『私』も同じ『自分』だということに。
『彼』が認めてくれた『私』も、『彼女』が応援してくれた『私』も、強引かもしれないけど紛れもなく『自分』であり、『ボク』だった。
純粋にそれが嬉しかった。
祝福のメッセージに何度も泣いた。
自分が「生きていてもいいよ」と言われた気がして。
自分の世界が開けた気がして。
その日からだろう。
ボクの人生が少し変わって見え始めたのは。
苦しいのは変わらない。
答えはいつまでも見つからない。
けれど。
変われると分かったから。
生きていく理由が見つかったから。
ボクは走り続けることが出来た。
ボクの生きる理由。
それは、変わるきっかけをくれた『あの人達』を裏切らないように生きるとその時に決めたから。
いつまでも応援し続けてもらえるような人間になろうと誓った。
努力し続けることを絶対に止めないと決めた。
だからボクは――
――私は今を精一杯生きようと思う。
『あの人達』に笑われないように。
弱い自分に押し潰されないように。
『あの人達』に最大級の感謝を。
……ありがとう。