表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

VRMMOで攻略とスローライフの両方を手に入れる方法

VRMMOで攻略とスローライフの両方を手に入れる方法【短編版I】

作者: 陽乃優一

「えっと、それ、2つ同時に『操作』することはできますか?」

「…は?」

「このゲーム、メインとサブの2つのアバターを作成できるんでしょ?」


 チュートリアルを受けながらアバター設定を行っていた私、佐藤春香(さとうはるか)は、そんなことを担当NPCに尋ね、そして、呆れられた。呆れ顔が本当の人間のようだ。


 長かった大学受験を終え、時間的にも余裕ができた私は、本日稼働を始めたばかりのフルダイブ型VRMMO『フェルンベル・ワークス・オンライン』、通称FWOを始めた。

 以前から考えていた、『2アバター同時接続』を目論みながら。


「この場で同時作成はできますが、ログイン後の同時操作はできません。そもそも、インタフェースが対応していませんから」

「あ、ヘッドセットは私の頭にふたつ接続してますから。変な改造はしていませんよ」

「はあ…?」


 ヘッドセットのひとつは、合格祝いとして両親に買ってもらった最新型。もうひとつは、以前中古ショップで自腹で購入した旧型。

 私は担当NPCに説明し続けたが、そのうち、疲れた顔で『上司』を呼んできた。運営側のプレイヤーアバターらしい。その上司プレイヤーにもあれやこれやと説明する。


「確かにお客様からは2アバター分の同期信号を確認していますので、メインとサブのそれぞれに接続を振り分けることができますが…フルダイブ型では前代未聞ですよ?」

「とにかく、一度やらせてもらえませんか?」


 チュートリアル用の仮想空間で接続してもらい、メインとサブの仮アバターを動かしてみる。

 油断すると意識が一方に偏ってしまうが、同時操作はそれなりにうまくいった。


「脳への過度な負担が考えられますから、異常信号を検出次第、強制ログアウトとします。これは譲れませんよ」

「ええ、それで結構です。ありがとうございました」


 こうして私は、剣士タイプの『リーネ』をメイン、錬金術師タイプの『ケイン』をサブに、2アバター同時操作でこのFWOを始めたのだった。



 FWO稼動から数週間後。


【全体メッセージ:プレイヤー『リーネ』率いるパーティが第5エリアのボスを討伐しました。第6エリアを開放します】


「うお、あのプレイヤー、第5エリアもクリアしたのか。相変わらず、トップをキープしてるなあ」

「だなあ。経験値もウハウハらしいし…おお、プレイヤーごとに金貨300枚か」

「金貨300枚!?現実なら3千万円相当じゃないか…って、なんでお前が知ってるんだ?」

「え、あ、いや、これまでのエリアボスクリアの報酬が、順当に増えればそうなる…らしい」


 しまった、つい『目の前の個別メッセージ』をケインとしてしゃべってしまった。リーネの方が討伐直後で気を抜いてしまったかな。


「そっかー。それだけあれば、俺も大きな商店が買えるんだけどなあ」

「僕は、こうしてぼーっと露店販売できる程度でいいかなあ」

「ガチなエンジョイ勢は言うことが違うね。ま、楽しみ方は人それぞれか」


 ガチ勢なのかエンジョイ勢なのかよくわからない評価を、顔馴染みの隣の露店主『ソルト』に言われてしまった、ケインとしての私。

 しかし、あながち間違いでもないだろう。レベル上げよりもむしろ、このゲームに存在するあらゆるポーション作製や魔法発動を試しているという意味では。


 ではなぜこうしてぼーっと露店販売しているかと言えば、リーネが討伐クエストで戦闘をしている時は、そちらに意識を集中する必要があるからだ。

 戦闘中はケインとしてはログアウトしてもいいのだが、こうして露店販売すれば『アリバイ』にもなる。

 リーネとケインが同一プレイヤーであることは極秘なのだ。運営は認めてくれたが、他のプレイヤーにチートと思われても困る。…チートじゃないよね?


「でもよー、最低限とはいえお前ほどスキルを網羅してれば、もっと儲けが出るヤツ作れないか?」

「レベルが最低限だから、作るのに時間がかかるんだよ。あとはまあ、ゲーム内ではそれほど稼ぐつもりはないというか」

「この課金厨めが。イケメン造形も結構金かけたんだろ?」


 課金厨ちゃうわい、と言いたいところをぐっとこらえ、否定も肯定もしないでおく。ゲーム内貨幣はリーネががっぽり稼いでいて、ケインに譲渡できるのである。

 あと、イケメン造形は私の趣味だ、文句あるか。初めの頃のリーネの討伐報酬の多くをつぎ込んだのだ。どうせリーネは攻略しかしないし。…ヒモみたいだな、ケインの私。



「リーネ、おつかれー。今日も凄かったわねえ」

「んー、そうでもないよー。みんながサポートしてくれたし」


 スポーツドリンク代わりのHPポーションを飲みながら、パーティメンバーの『シェリー』にそう答える、リーネとしての私。

 この初級ポーションはもちろん、ケインが作ったものだ。


「サポートったって、2〜3回程度のターンだけだったじゃないの。攻撃はほとんどリーネの蹂躙だったし」

「その2〜3回が重要なのよ。あたし、防御や回復魔法が皆無に近いから」


 リーネは、剣攻撃に特化して成長させている。カンストというわけではないが、剣術スキルは他のどのプレイヤーよりもレベルが高いと自負している。紙装甲だが。


「でも、いくら剣術極振りでも、そのレベルはないわあ。どうやって上げてるの?」

「一に雑魚討伐、二に雑魚討伐、三、四も雑魚討伐で五も雑魚討伐」

「数時間討伐し続けるのを何日もって、どういう神経してるのよ…。昔のキャラ育成じゃないのよ?」


 うん、私も、フルダイブでそんなことばかり続けたら気が狂いそう。ケインとして、並行して魔道書読んだりポーション作ったりしてなければ。


「少女アバターの廃プレイヤー…。ねえ、リーネ。あなた、リアルは男?」

「ぶっ…なんでそうなるの!?」

「だって、剣術無双のロリキャラって、男の理想のひとつみたいよ?」


 うんうんと頷く、パーティの野郎共。マジですかい。

 リアルの私はれっきとした女だ。むしろ、男アバター(ケイン)も使ってるネナベ側だ。


「男の趣味なんて知らないけど、昔やったVRゲーで、その、ちょっと凝ったアバターにしたら…」


 いやもう、ウザかった。明らかに中身がザ・男のプレイヤーが寄ってくる寄ってくる。アバターは男女取り混ぜてだが。結局、ろくに攻略パーティが組めなかった。

 それに懲りて、リーネの造形は基本、デフォルトの少女アバターを更に少し幼くしただけの設定にした。見た目に金をかけるのはケインだけでいい。


「デフォルトのままだと基本値が低いからね。だからなおさら、地道に経験値獲得してスキルポイント振らなきゃなんないの」

「難儀なポリシーねえ…モテないわよ?」

「シェリー、あんた、あたしをどうしたいのよ。とにかく、今日はもう解散。あたしはレベル上げに戻るから」


 いいの、私はケインの方でスローライフ楽しみますから。今だって、お客さんや他の露店主となごやかに談笑している。

 売ってるのが安価なポーション中心のせいか、初心者プレイヤーも男女関係なく気軽に買いに来てくれる。ケインとしての私は、このままのほほんとしていたい。



 リーネが定型動作のレベル上げに入ったので、ケインとしては図書館でお勉強。

 本棚で魔法陣関係の本を物色する。もうちょっと理解すれば、簡易の転移魔法が使えるはずなのよね…。


「あ、あの…」

「ん?…って、シェリー、どうし…あっ、と」

「え?私のこと、知ってるんですか?」


 ケインとしての私に声をかけてきたのは、少し前までリーネとしての私と話していた、シェリー。うっかり、リーネとして反応してしまった。


「あ、ああ、うん。君…って、あの、リーネパーティのひとりだよね。有名プレイヤーじゃないか」

「そ、そんな、有名だなんて…」


 はて、リーネとして接する時よりも、妙におとなしいな。なんか、もじもじしてるし。


「ああ、ごめん。本棚の邪魔になったかな。僕はもう見つけたから」

「え、あ、いえ…その、ありがとうございました!」

「そんな、お礼を言われることじゃないよ。じゃ」


 当面必要な本を持って、貸出カウンターに向かう。ふと振り向くと、シェリーは、じっとケインとしての私を見ている。

 ああ、少し顔を赤らめてるよ。これは、やっちまったかなあ…。


 図書館から出て、宿に向かう。リーネの方もノルマのレベル上げが終わりそうなので、そろそろログアウトしよう。

 しかし、リーネとケインで別々の宿をとるのは、地味にゲーム内貨幣かかるんだよねえ。宿って、ログアウトするためだけのものなのに。

 かといって、時間差使ったとしても、誰かに同じ部屋に入っていくところを見られたりしたら…。


 ひとりなのに不倫しているかのような気分になりつつ、ログアウトする。また、明日。



【エリア攻略組】FWOの有名プレイヤーを語るスレ【街の人気者】


103: 辺境の魔導師

図書館ですっごい美形見つけた!誰か詳しい人いない?


104: 辺境の商人

>>103

知ってるけど、一応、個人情報だしなあ


105: 辺境の錬金術師

>>103

たぶん、街の市場で時々ポーション売ってる人だね。

…ストーカーじゃないよ?


106: 辺境の弓使い

運営さん、>>105 の人です


107: 辺境の剣士

通報しますた


108: 辺境の槍使い

通報した


109: 辺境の商人

通報


110: 辺境の斥候

いくら美形でも所詮はアバター

中身キモオタデブを想像するがいい


111: 辺境の魔導師

>>110

それでも(・∀・)イイ!!

なんていうかなー、モテるためにアバター作り込んでるって感じじゃないんだよね


112: 辺境の錬金術師

図書館に病室を設けよう

手遅れだろうが


113: 辺境の短剣使い

あいつって、安ポ作ったり売ったりしてるだけじゃん

容姿は金かければどうとでもなるだろ


114: 辺境の斥候

そんなヤツより、リーネたんはぁはぁ


115: 辺境の鍛冶職人

>>114

通報

つーか、トッププレイヤー様をはぁはぁとか…

PvPで倒されてしまえ


116: 辺境の剣士

リーネちゃんが紙装甲なのは有名な話

だからどうとは言わないが


117: 辺境の弓使い

今日は運営が忙しいな


118: 辺境の剣士

ちげーよ!PvP向きじゃないってことだよ!

PKに狙われないか心配だ


119: 辺境の槍使い

そういえば、そうだな

レベル上げかボス級討伐しかしてないと、その辺の情報が疎くなりそうだ


120: 辺境の漁師

そこで、リーネたんFCの出番ですよ


121: 辺境の商人

>>120

運営を大漁にしてどうする漁師



 なんか最近、FWOの掲示板では私絡みのことしか話題になってないような…。

 エリア開放は今回に限った話じゃないけど、もしかして、図書館でも結構目立ったかな。シェリーが有名なのは確かだし。

 リーネはともかく、ケインが有名になるのは困るな…。有名税の二重払いは勘弁してほしい。造形を少し崩すか?いやいや…。


 ちなみに、PK情報はケインとしての私がバッチリ把握している。人知れず2つの視点があるのは、こういう時に役に立つのだ。…やっぱチートなのかな、これ。


「あれ、春香もFWOやってたの?」

「!…う、ううん、やって、ないよ?み、見ていた、だけ。美里(みさと)、は、やってるの?」

「もちろん!っていうか、春香もやろうよ!卒業した後も、FWOで会えるようになるし」

「あ…うん、考え、とく」


 既にお気づきのように、私はリアルではコミュ障気味だ。教室で休み時間に携帯端末でこそこそと掲示板を見ていたりするのが、普段の私。

 今回のように、クラスメートが話しかけてくるのは稀だ。『美里』と名前で呼びはしたが、彼女はクラスのみんなにそう呼ばせている。私とは真逆のタイプだ。

 そんな彼女にVRバレするのは大変困る。オンラインVRはもう何年もやってきたが、その分、黒歴史も豊富だ。


「あたしね、『シェリー』って名前でやってるの。これでも、トッププレイヤーなんだから!」


 黒歴史が増えました。世の中狭すぎる。

 同一プレイヤーってことだけでなく、これまで以上にリーネとケインの接触がないよう意識しないと。手始めに、リーネがやたらケイン作の安ポ飲むのをやめるべきか…。


「あ、あとね、弟もやってるのよ。『ソルト』って名前でね。塩をメインに扱う商人だから付けたんだって。黒歴史よねー」


 やめよっかな、FWO。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ