アリス-06
「まあ、予想していたシナリオの一つだったがな。」
FAVの反応もレーダーにある。数を揃えるだけの資金が無かったのだろう。反応は1機のみだった。ほかは作戦区域左翼に車両系の反応が中隊規模で戦車が15、軽装甲車両が25、随伴するようにAVが5機、この群が一番我々の陣地に近く侵攻している。あと数十秒というところで拠点の防衛隊が持つ射程範囲に入ってくるところだ。
『ようやく仕事だなあー』
間延びした声で今回作戦に参加している傭兵が呟く。音声が入力されると通信する設定になっているらしい。そのつぶやきの後から、くぐもった駆動音と、合いの手の様にリズムよく発せられる声が無線に乗る。
『うるせーぞベアトリクスこの野郎!毎度てめえそうやって』
『いや、アンタも大概うるさいよデルタの。それから、コールサインで呼べっての。』
『ああ、デルタ1了解したよ。小うるさいブラボー1。』
『……ほんとこのデントなんとかいうオッサン煩い……』
設定を変えていないベアトリクスのつぶやきがそのまま無線に乗っている。本人はそれを知っているのか不明だが、デルタ1、デントレストには届いていないようだった。
他方、亮平の様子を確認する。
「……アルファ1、様子はどうだ。」
雑音を聞いた事に不快感を隠すことなく亮平に状況確認させる。
『接敵まであと20。』
「そのまま敵が射程に入ったところでチャーリー隊と併せて全力攻撃。いいな。」
『アイマム』
防衛隊の男性指揮官も指示を飛ばし始めた。
「チャーリー隊も聞こえたな。あと15で敵が射程内だ。タイミング間違うなよ。」
『『サーイエッサー!』』
アルファ1とチャーリー隊へまとめて指示を出したところで接敵する。
「敵機、射程内です!」
「全力攻撃」
レーダーマップ上に表示された敵のブリップが次々に消えていく。
『こちらアルファ1、うち漏らした戦車、並びにAVを叩く。11時方向に4機。』
「行け。」
ミサイルポッドの再装填は完了していないが、ブーストジャンプからのトップアタックが可能なFAVであれば、戦車程度に後れを取ることはまずない。亮平の機体、アコナイトは中量級だが、装甲を犠牲にして機動力を上げていることから、並のAVではまずその速力に翻弄されるくらいなのだ。機動力に任せた戦闘であれば、この戦域において敗けることはないと予測している。
戦闘開始から数分と経たないうちに敵機はその数を5分の1程度に数を減じていた。だが、敵対組織はさらに戦力を投入してくる。
『こちらブラボー3。レーダーに感。敵の第2波がくるぞ。』
「広域レーダーでも確認した。IFF動作がない。不明機は敵性機体と判定。1時方向から来るぞ。」
管制官からの報告を受け、規模の確認を指揮官が行う。
「規模は?」
「中隊規模が……2つ?うちの研究所何作ったんだよ?」
「文句垂れてる場合じゃないぞ。規模はわかった。ブラボー隊、デルタ隊、聞こえたな。あと30で第2波が射程内に入る。これが本隊だろう。射程内に入り次第全力射。無駄飯ぐらいの汚名返上の機会だ。存分に暴れてこいベアトリクス。」
『アイアイサー。だからそれで呼ぶの止してくれよアンタまでさあ。』
ぼやくようにベアトリクスが了解の報せを送る。
『おおっしゃ、野郎どもぉ。鴨打ちの時間だぞー』
『姉御―もうちょい気合い入れて指示くださいよ』
『うっさい。いいから働くってさぁ。』
『アイマム』
気の抜けるようなやり取りの合間に、敵の進行速度が予測より早かったため、ブラボー隊の射程圏に入る。
『ありゃ、全員きっちり狙って全力射。』
「ブラボー隊、ゴーだ」
指揮官とベアトリクスの命令が被る格好で発砲命令が出される。少し遅れたせいかチャーリー隊の戦域より敵が減るペースが悪くなっていた。
『全機散開。誤射に注意して敵を撃破しろー』
『『アイマム』』
ベアトリクスが駆るFAVはそのままの位置で待機し、隊員の機体が突出している敵部隊を囲む様に動く。ベアトリクスの機体は拠点防衛向けの重量級FAVであるため、下手に動くよりはどっしりと砲撃する方針らしい。
『ブラボー4、5。お前らの居るあたりにぶっ放すから離脱。あとカウント5な』
『ちょぉっ!』
『アイマム。急げブラボー5。』
『出過ぎて逃げ切れんかも。』
かなり残念なやり取りが聞こえてきているが、そんなことにお構いなしにベトリクス|ブラボー1|は砲撃体勢に入っており、カウントを進める。
『にーい、いーち。』
『姉御待ってえええ!』
『無理。砲撃開始』
離脱しきれていない味方がいるにもかかわらず、無慈悲に砲撃を開始するベアトリクス。拠点の12時方向に展開されていた第2波の戦域から10個ほどブリップが消失する。さらに弾着の炸裂音が戦場に響き渡っていく。
『鬼ぃ!かすっちまったじゃないですかあああ』
ブラボー5の叫びが隊全体と指揮所の無線に響き渡る。顔をしかめつつ指揮官の男はオペレーターへ状況を確認した。
「ブラボー5の状況は?」
『右足に破片喰らっちまいました。』
「右脚部の一部アクチュエーターが破損してますね。」
管制官がブラボー5の状況について報告する。
「はぁ。ブラボー隊、そのまま後退。デルタ隊と交代だ。」
呆れた様子で指揮官が命令を出す。
「!!指揮官!チャーリー6、エコー4が中破、チャーリー3が小破しました!」
「なんだと?……ああ、チャーリー6は新人だったか。バイタルは?」
「心拍が上がってますが問題ありません。ただ、戦闘は継続不能と見えます。」
「チャーリーとエコーを交代。エコー4もチャーリー隊に面倒見てもらえ。」
『了解』
突然ともいえる被害報告を受けつつ、指揮官は努めて冷静に対処しているように見えた。敵対企業の私兵団とは練度が違うことから、そうそう予想外の自体はないと考えているのだろう。
「エコー隊はそのまま7時方向へ200ほど前進、その後、デルタ隊とともに敵勢力を包囲するように状況を作れ。」
『エコーリーダー了解。こっちにいる残敵を殲滅する。』
『エコー1、了解』
『エコー5了解。ボーナス取られてたまるかっ!』
そう言ったエコー5を中心として戦列が組まれる。レーダーマップ上では施設の南西方向の敵は3分の1程度まで撃破されていた。そこへアルファ1から通信がはいる。
『こちらアルファ1。敵性FAVとの交戦に入る。』
「HQ了解。アルファ1、交戦予定の場所にマークできるか?」
『マークした。』
「アルファ1からのマークを受信。各隊聞け。レーダーマップ上にマークされた範囲はFAV戦闘区域になる。区域周辺に流れ弾が飛んでくるから留意して行動に当たれ。以上。」




