受け入れ難い変革
先生に依頼され、琴乃アリアという少女を匿う事になってから一週間が経った。特に何も問題は起きず、生活にアリアが加わっただけの変哲の無い日々を送れている。
しかし、どうにも変だ。この一週間の間で、当のアリア本人は幾度となく外出を促してくる。命を狙われているというのなら、本来外出なんてするべきでは無いというのに……
『シズハをつかせれば安心だから』百歩譲って外出する事は許可出来る。しかし俺が変だと思うのはそこじゃない。
この一週間で『何も問題が発生していない』ことにある。
──本当にアリアは命を狙われているのか、そんな疑問さえ湧き出る程に平穏なのだ。
「……なあシズハ」
「んー? どしたの? センちゃん」
ソファーに横たわるシズハは、普段と変わらず寛ぎながらスマートフォンを眺めていた。警戒している様子は微塵も感じない。
「アリアってさ、本当に…命狙われてんのかな」
無意識的に、寛ぐシズハに向かって俺はそう聞いていた。
一瞬の静寂の後、シズハは勢い良くソファーから体を起こした。その表情は至って真面目だった。
「それ……アリアちゃんが嘘ついてるって言いたいの……?」
シズハは怪訝な眼差しで俺の目を見つめてくる。
「いやっ……そういう事じゃなくて」
その視線に少し寒気を感じ、急いで弁明をしようとすると、シズハは不意に表情を崩した。
「あははっ、冗談だよ! センちゃんが言いたい事、大体分かるもん」
ぺろっと舌を出すシズハ。この舌を引っ張ってやりたくなったのはいつ以来だろう。
「確かに、命を狙われている……って言う割にはなんにも起きなくて、嘘ついてるとは思いたくないけど……」
俯いたシズハは、一瞬複雑な表情をしてから、
「やっぱり、本人に直接聞くのが良いんじゃないかな」
と言って俺の顔を見た。別に顔色を伺わなくとも、答えは分かってるはずなのに。
「アリアが部屋から出てきたら話を聞こう」
「うん!」