変革はいつだって唐突に─参
命を狙われている。そんな言葉、この生活の中で耳にする事など無いと思っていた。しかも、自分の命でも、シズハの命でもなく、つい先程まで名前も知らなかった少女の命への警鐘。
唐突にそんな事を打ち明かされても、実感は何も沸かない。家に置いてほしいなどと言われても、危険な賭けに身を投じる人間がいるとは思えない……のだが。
「命を狙われてる……って、そんなの、放っておく方が無理だよねっ!」
なんて、得意気な表情をしてみせる。
……今回ばかりは叱ってやらなくては。何せ今回は、シズハの浅はかな言動一つで、こっちの身も危険に晒す事になってしまうかもしれないのだから。
「シズハ、ちょっとこっち向け」
と、シズハを振り向かせてから、その両頬を軽く掌で押さえ付ける。
「ふぉう……っ!? ……ど、どうひたの? センひゃん」
シズハは目を丸くして、困惑した様子を浮かべる。
──状況を分かっていなさそうなシズハに対して、僅かに苛立ちを覚えてしまった。
「どうしたもこうしたもあるか! もしあの子を家に置いたとしたら、こっちも危なくなるかもしれないんだぞ!?」
怒号を上げてから、酷く顔を顰めてシズハを睨み付けていた事に気付く。気付いた時にはシズハは怯えた様子で俺の目を見ていた。
「でも……っ。私は……!」
徐々にシズハの目に涙が溜まっていくのが見えて、自分の過ちを認識する。
──しまった……。俺はなんて事を。
などと狼狽えるのも束の間、すぐにシズハは表情を戻して、両手の平で俺の頬を押さえ付けてきた。先程シズハにした事を、そっくりそのままやり返されたのだ。つい「ゔぇっ」と情けない声が漏れてしまう。
「ふっふっふ……。センちゃんが私の泣きに弱いのは知ってるんだから……」
その悪意ある微笑の中で、未だに涙が浮かんでいるのが見えて、俺は結局何も言い返せなかった。
「別に、ただの気まぐれとか、楽しそうだからとか、そういうのじゃないんだ」
シズハは後ろを向いて、顔を見せないようにしながらそう言った。
「あの子、私達を見つけた時、凄く嬉しそうな表情してた。私達を、見ず知らずの私達を信用してくれたんだよ……」
──俺が馬鹿らしかった。結局の所、シズハは軽い気持ちであの少女──琴乃アリアを匿う、と言ったのではない。彼女の抱いた希望を、シズハは見抜いていたのだろう。
「……本当に、大丈夫だと思うのか?」
こんな事を聞く意味は無い。答えは既に分かっている。
「大丈夫だよ!」
「その根拠は?」
「だって私、強いもの!」
と、輝かんばかりの笑顔で言い放つ。
彼女はそう。どんな逆境であれ、本当にその一言で覚悟を決めるのだ。