変革はいつだって唐突に─弐
「協力してもらいたい事があるんだ。」
先生の眼鏡越しに映ったものは、普段の柔和な眼差しとは打って変わって、鋭くこちらを睨む眼光。それだけで事の重大さはひしひしと伝わるし、きっと断らせてもくれないのだろう。
「……!」
シズハはどうやら乗り気らしく、目を輝かせて話の続きを待っていた。こいつは本当に人助けの気配には敏感なんだ。
シズハの反応を見た先生は一瞬だけ目を丸くして、すぐに目を細め、
「片霧、乗り気なのは良い心掛けだ。でも、もしかしたら期待外れになってしまうかもしれないよ」
どんとこい、と言わんばかりに胸を張るシズハに、先生の強ばっていた表情も、いつの間にかに柔和な表情に戻っていた。
先生は俺に向かってハンドサインで『OK?』と示していた。そのサインに苦笑いで返すと、先生からも同じく苦笑いが返ってきた。
「それじゃあ、詳しくはシミュレーションルームの方で話そうか」
そう言うと先生は席を立ち、足早にシミュレーションルームへと向かって行った。
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シミュレーションルームには、先生の他にもう一人、しなやかな黒髪を末端で一つ縛りにしている少女が待っていた。
「あら、貴方達が叔父様の言っていた方達ね」
先生の事を叔父様と呼ぶその少女は、こちらに気付くと柔らかに表情を崩してみせた。
「叔父様のお話を聞いて頂けたのですね。嬉しい……」
深き慈愛を感じる彼女の微笑みに、少しだけ戸惑ってしまう。
こちらが軽く会釈すると、少女の方からこちらに歩み寄り、雪のように白い手を差し出し握手を促された。
恐る恐る握手を交わすと、彼女はにこやかに微笑んで、
「これからしばらくお世話になりますね」
と言った。
──はい?
聞き返す間もなく、少女はシズハとも握手を交わし、シミュレーションルームから去っていってしまった。シズハも同じように言われたのか、呆気に取られたまま出口の方を眺めていた。
「あの、先生、これは、どういう」
あまりに唐突な事態に、つい片言になってしまう。
先生は頭を抱え、大きく溜息をついた。
「彼女は琴乃アリアといって、私の姪なんだがね……少し、ほんの少しの間だけ、君達の家に置いてあげて欲しいんだよ」
「へ……?」
あまりに唐突で、つい素っ頓狂な声が漏れてしまう。
「ちょっと……それは突然すぎませんか、先生」
さっきまで目を輝かせていたはずのシズハは、驚きを隠すつもりなのか真顔で先生に問いかけている。
先生は申し訳無さそうに目を伏せると、
「これにはちゃんとした事情があってね……今、あの子を一人にしておく訳にはいかないんだよ」
先生の声は若干震えていて、ただの冗談でも、押し付けでもない事は把握した。
「彼女は、今」
一呼吸を置き、再び言葉を紡ぎだす。
「──命を、狙われているんだ」
蚊の泣くような声で呟かれたそれは、今までの先生の発言のどれよりも重いものだった。