変革はいつだって唐突に
朝の教室に来て早々、担任の先生に呼び出しを喰らった。俺だけではなく、シズハも。口調は普段と何ら変わっていなかった。流石に二人揃ってお説教、なんて事はないだろう。
先生が根城にしているシミュレーション準備室は、隣のシミュレーションルームとガラス越しで繋がっている。
魔力測定機のコンピューターや安全装置で埋め尽くされた部屋だが、散らかっている訳ではなく、ある程度人の入れるスペースは確保されている。
先生は、部屋の中央の机で、並べられた二枚の書類を眺め、
「……しっかし、どうしたらいとも容易くこんな数値が出せるのかねえ」
と、こちらを見てから溜息混じりにそう言った。
「何を見てるんです?」
俺は机越しにプリントを眺めるが、難解な言語ばかりで何が書いてあるかは到底読めたものじゃない。辛うじて数列と名前が混ざっているのは読めるが、sen-sasaragi:16000とsizuha-katagiri:230000……?何が何だかさっぱりだ。
「以前実施したシミュレーションの測定結果さ。その紙の数列が君達の魔力係数。はっきり言っちゃうと異常だね」
先生は妙にはっきりと言い切って、やれやれと言わんばかりに両手を挙げた。
しかし、“異常”だなどと言われるのは癪に障る。少し先生に意見を──
「異常、だなんて…そんな言い方は……ちょっと酷いと思います」
と、シズハの深紅の瞳は、真っ直ぐに先生を睨み付けていた。彼女の表情にいつも浮かべる微笑みは無かった。
その気迫に気圧された先生は、すぐに
「誤解だ……!人を上手く褒められなくて……ね。つまるところ、君達を褒めるつもりで言ったのだが……」
と、額に汗を浮かべながら釈明していた。
シズハの強く訴えかける視線から解放された先生は一呼吸おいてまた話を始めた。
「君達の魔力は凄いんだよ、本当に。魔力係数が高ければ高い程魔法も強烈だからね……」
先生は視線をガラスの向かい側へと移し、シミュレーションルームの壁の方を指さした。先生の指さす先には、白い壁に、真一文字で灼けた跡が刻まれていた。
「シミュレーション中の仮想空間から魔力が漏れ出して火を噴いた、なんて……君達が初めてだよ」
先生の苦笑いを見て、少し申し訳ない気持ちになる。
表情に現れていたのか、こちらを向いた先生はすぐに
「謝る必要は無いんだよ。こちらとしても面白いものが見れたし、大した損害でも無いからね」
と、軽く笑い飛ばしていた。それで良いのか、とも思ったけれど、口には出さないでおこう。
「さて……と、他愛も無い話は程々に、本題に入ろうか」
と、今まで緩ませていた表情は一転、真剣な目付きでこちらを見た。
緊迫した空気は、普段とまるで違う空間にいるようで落ち着かない。
「君たちには、一つ協力してもらいたい事がある。聞いて……くれるかい?」