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アルカディア=コード 天災へと挑みし者  作者: オワタマン
Chapter─壱 運命を知る刻
14/15

脅威存在へ捧ぐ覚悟─弍

 煌々と紅く、空に映る巨大な魔法陣。シズハはそれに手のひらを(かざ)そうとする。

「センちゃん、まだ動けるようなら、なるべく離れて」

シズハは振り向き、微笑みながら続ける。

()()かもしれないから、ね」


 今からシズハが行おうとしている事の凄烈さを知っている。それは最早、魔法だからと一括りに纏めあげる事が出来ない程に激しく、それが全力であれば、著しくこの世の理を無視しているとも思わせる所業。恐らくそれを、今から彼女は平然と行うのだろう。


(シズハの全力、見るのは魔力検査の時以来か。)

 ゆっくりと後ろへと下がりながらシズハの背中を眺める。

(全力、ね)

 シズハの背中に、翼のように広がり、熾烈に昂る炎を空目した。


「シズハ!」

 シズハは、俺の呼び掛けにすぐさま振り向いた。

「俺の事は無視しろ! ありったけぶっ放せ!」

 そう叫ぶと、シズハは歯を見せて笑う。その笑みは、普段見せるそれでは無く、彼女の内に眠る凶暴性を、これ見よがしに露呈させた笑みだ。滅多に見られないその表情に、俺は身体を震わされた。


「──紅き焔、猛く(いなな)け」

 その声に呼応するように、魔法陣から濁流のように灼熱の焔が溢れ出す。焔はシズハの周囲を、竜が空を舞うように漂い、次にかかるべき号令を心待ちにしているようだった。

「──界を繋げ、」

 次の号令の為にシズハが口を開いた瞬間


■■■▅▂▂▂▅▅━━━■■■▂▂▂───!!!

 巨大な咆哮が一つ(こだま)する。天災は天を仰ぎ、赤黒い塵を、開かれた胸部の眼に集約させていた。


「まずい……! 《大凍結》ッ!」

 俺は咄嗟に海を凍らせ、シズハを護るように氷の柱を生成する。

──が、柱と氷海は生成されてすぐに融解し、水へと還った。シズハが喚んだ焔が、それらを全て溶かしたのだ。

「……っ」

 見上げたシズハの表情は、焔の熱に歪められて見えず、だが、きっと焔の奥で先程と同じ笑みを浮かべているのだろう。

「手ぇ出すな、ってか……」

 不思議と口元が緩む。それがシズハの選択だと言うのなら、俺はそれに従っていればいい。


「──界を繋げ、焔よ、其の概念に形を成せ」

 焔がシズハの体を包み込み、巨大な火球を形作る。


「セン、危ないっ!」

 唐突に誰かに襟首を掴まれ、後ろに引っ張られる。この声は──

「第一級結界魔法『taplteprs(タルタロス)』!」

 眼前に緑色の魔法陣が幾重にも展開される。こんな結界を使える知り合いなんて一人しかいない。

「アゲハさんっ!?何でっ」

 後ろを振り向けば、そこには見慣れた漆黒の長髪と、琥珀色の瞳の女性。シズハの母親、片霧アゲハが居た。

「いい加減……っ、君もお母さんって呼んでくれないものかなっ!」


■■■■▅▅▂▅■▅▅━━━━━━━━!!!!

「──召喚(サモン)、バハムート!!」


 天災は咆哮と共に、集約させた塵から、衝撃波で海を割る程に凄烈な光線を放つ。


 シズハの号令と共に、火球はひび割れ、直下の海を全て巻き上げる程に凄烈な爆発を起こす。


 二つの強大なエネルギーがせめぎ合い、衝突し、干渉する。ただでさえお互い規格外、人類が扱えるものとは程遠いレベルだというのに、それが混じり合う。


 ──即ち、核融合に匹敵、あるいはそれも超える熱量が、今放出されようとしているのだ。


「うぁ……っ!」

 閃光が放たれ、轟音と共に空間が揺れる。腕で目を覆えども、その眩さに暫く視界は明るいままだった。

 耳を劈く轟音の中、眼前の結界にヒビが入る音が微かに聞こえた。

「耐えてくれよっ……! タルタロス!」

 アゲハさんが腕を伸ばす気配がする。きっと結界に魔力を送り込んでいるのだろう。


 1分間程だっただろうか。凄まじい光と、結界越しに響く、耳を劈く轟音は収まった。

 発生した熱量と衝撃波は、アゲハさんが未然に展開した結界タルタロスにより、ひび割れつつも完全に防御されていた。しかし、エネルギーの放出が終わると、タルタロスは音も無く崩壊し、消滅した。


 周囲は、海が全て蒸発し、地表面は赤熱していた。ふと今いる場所がシミュレーターの中である事を思い出し、安堵した。


 しかし天災は健在だ。

 シズハはどこだ? まさか先の爆発で……などと要らないことを勘ぐる。


 先程までシズハが居た場所には、一体の巨大な龍が、翼を広げ、静かに天災を睨みつけていた。


──紅く燃ゆる鱗に、劫火を纏う翼。

──天災に匹敵する巨体が、紅炎の息を吐く。


 その紅い躯体が魅せる威圧感に、俺は息を呑んだ。

「……バハムート」


 その巨龍こそが、シズハが喚んだ、彼女の眷族なのだ。

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