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アルカディア=コード 天災へと挑みし者  作者: オワタマン
Chapter─壱 運命を知る刻
13/15

脅威存在へ捧ぐ覚悟

「……その図体で飛ぶとか、そんなんアリかよ」

 予想外の事態に、顔が引き攣るのを感じる。


 俺が今すべき事は、シズハの準備が整うまでの時間稼ぎ。なのだが、天災が飛ぶとなると非常に厄介だ。

 たかが人間一人で、ましてや生身の人間で、あんな化物相手に制空権を得られるはずも無い。加えて、俺の得意とする氷結魔法は、空中では扱いづらい代物だ。空気中の水分で生み出せる氷程度では、到底天災に有効打などは与えられるはずもない。

 ──魔力をありったけ注ぎ込んで、先程のように氷塊を具現化させる事も出来るが、何分リスクが大き過ぎる。魔力が無くなれば、フューラーでの機動力も維持出来ない。

 最も、先のオーバーフローのせいで、まともに脚が機能するかも危ういが。

 今は、身を守りながら逃げ回るしか出来ない。シズハの切り札が発動するまで、決して長い時間では無いはず。


 ──今は、シズハを信じていよう


 天災は、赤黒い翼を広げ、今まさに飛び立とうと、その翼をはためかせている。

飛ばれてしまえば絶体絶命。どうにかして飛翔を阻止しなければならない。


 ──もし、もしもあの翼に魔力が使われているのなら、翼に触れることが出来れば……勝機はある。


 ふと、シズハの顔が脳裏を過ぎる。無理はしないで、と言われた事を思い出した。いくらシミュレーションと言っても、無謀な駆け引きをして大怪我でもすれば、当然シズハは怒るし、ひどく悲しむだろう。

でも、こればっかりは許してくれと、罪悪感を押し殺して心の中で謝罪する。


「さて、と。んじゃ、もうひと踏ん張りいくか」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「《氷結戟槍》!」


天災から少しばかり離れた海上から、天災の本体と翼を目掛け、鋭い氷の槍を複数射出する。だが、氷の槍はその全てが天災に触れる事無く砕け散った


「……あの塵か」


 天災の周囲に漂う赤黒い塵が、結界の役目を果たし氷の槍を防いでいた。しかし、この目で確かに見た。天災が氷の槍を防いだ瞬間、一瞬翼が小さく萎縮したのだ。守るには翼を構築する塵を結界に回す必要があるのだろう。


「猛攻あるのみ、って事か」


 一定の場に留まるのは危険だ。何しろ彼奴に凝視されれば動きを止められてしまう。


 掌を海に触れ、氷の柱を生成し、天災の視界を遮りながら周囲を大きく旋回する。


 氷の柱は、ただ視界を遮るために生成した訳ではない。柱の一つ一つに魔力が流れている。遠い柱から徐々に崩れ出し、その破片が天災に向かい射出される。決してその威力は高くないが、彼奴に結界を使わせ、飛翔を妨害する。その目的ならば恐らくはこれが最善の策だろう。


「このままシズハが準備出来るまで……!」


 このまま旋回を続け、天災に攻撃をし続ける。そうすれば、飛翔される事は無いはず──


▅▅▅▅▅■■■▂▂■▅▅▅━━━!!!!!


「んなっ!?」


 咆哮と同時に、天災の周囲にあった黒い塵が全て翼へと集まり、氷の破片が天災の肉体に到達する直前に、その肥大化した翼を大きく羽ばたいた。

 余りの風圧に、自分の体、氷の柱もその破片も諸共に全て吹き飛ばされる。

 吹き飛んだ細かな破片は、俺の体中に幾つか傷を与えていった。


「くそっ! そんな無茶苦茶なっ」


 飛翔したのか?いや、違う。ただ風を起こしただけか?それも、違う。翼が極端に縮んでいる。明らかに塵が漂う範囲が広がっている。俺の周りにまで塵が漂っている。ま

「《大凍結(フレアフロスト)》!」


 凍結は広がらない。ただ自分の周囲の狭い範囲を凍らせるだけで留まってしまう。

 塵が、魔力の伝達を阻害しているのだ。急いで、この場を離れなくては──

脚部魔力展開(フューラー)……っ!」

 ──ダメだ。一切速度が出せない。自分の体に伝達する事も封じられるのか──!


 天災が、ゆっくりと視線をこちらへ向ける。身体が硬直する感覚。身動き一つ取ることが出来ない。これでは、シズハの準備が出来ても、どうしようもない。

 ゆっくりと、天災はこちらに向かって迫ってくる。恐怖よりも、焦りが大きい。ただひたすらに思考を侍らせ、打開策を考える。


 ──落ち着け。何か出来ることが無いか。探すんだ。

 塵が鬱陶しい、何とか払う事は出来ないのか?魔力の伝達が封じられている以上、起源魔法もフューラーも使えない。


 魔力の伝達を封じる、それがこの塵の性質、そういう類の魔力が可視化しているのか?だとしたらまだ、希望はある。塵は俺の体に触れているんだ。一か八か、通じるか通じないか、いや、通じてもらわないと困る!


「──天災に由来せし呪縛の塵よ

 ──其の力、我が力を縛るに及ばず

 ──我が手に其の力の寄る辺無し

 ──元来在りし姿へ帰依せよ」


 手のひらから腕にかけて、激しい電流が走るような痛みに襲われる。ああ、この感覚は──どうやら、上手くいってくれそうだ。

 漂っていた塵が、赤い液体となって海上へ降り注ぐ。──これは、恐らく天災の血だろう。

 天災は未だにこちらを凝視しているため、体は動かない。だが、魔力の伝達は阻害されないし、足元は海に触れている。

──ならば!!


「《大凍結》ッ!!」

 広範囲に広がる凍結は、天災の足元を硬め、その動きを止めた。


「これじゃお互いに動けねえな……ハハッ」


 と、皮肉を垂れた瞬間、幾つもの小さな火球が天災の頭部に直撃し、同時に天災の視線が俺から外れた。


「──合図か! 良いタイミングだっ!」

ポケットから、シズハに渡された石を取り出し、それを放り投げる。


 宙を舞う石は、そのまま赤い輝きを放ち、天に巨大な魔法陣を描く。


「間に合って良かった。もう、無理はしないでって言ったのに……」

 シズハは、いつの間にかに俺の後ろにおり、傷だらけの俺の体を見て、溜め息をついていた。

「……仕方ないだろ。飛ぼうとするなんて思わなかったんだ」

「お説教は後で、ね。目の前の事に集中しなくちゃ。でも、本当に無事で良かった」


 淡い笑顔を浮かべるシズハに、申し訳なさを感じる。


「後は私が何とかする。ううん、私と、この子で」

 魔法陣を眺め、手をかざす。魔法陣の輝きはより一層強くなり、同時に周囲の気温が急激に上昇する。加えて、海の上だというのに火の粉が舞っている。その幻想的な光景に俺は息を呑んだ。

 

「ここから、私達の番だよ!」

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