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アルカディア=コード 天災へと挑みし者  作者: オワタマン
Chapter─壱 運命を知る刻
12/15

謀られたアクシデント─参

 シズハを抱き締めたまま、近くに見えていた岩場の陰へと退避する。

 天災には、打ち込んだ氷塊が深々と食い込んでおり、その動きを拘束している。一時的な休息時間になれば良いが……


 シズハの表情に、あまり恐怖の色は見受けられない。だが、細かく震えている上に呼吸も若干早くなっている。

きっとシズハは俺の前だから、と強がって平静を保っているつもりなのだろう。


「シズハ、震えてるけど」

そう言うと、シズハはハッとした様子で俺から離れると、両手を振って言った。

「べ……別に、そんな事ないよっ。その……さっきまで体が動かなかったから……っ、急に動けるようになったから……っていうか」

「はいはい」

誤魔化すシズハの頭に手を置くと、顔を赤くしてそれを振り払った。


 一呼吸おき、小さく呟く。

「……こんな事してる場合じゃない、か」

それはシズハにも聞こえていたようで、彼女は普段見せないような真剣な表情で

「……センちゃん、時間……稼げる?」

と言うシズハの横顔に、一瞬、けれども長く、俺は息をするのも忘れる程に魅入ってしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 氷塊が崩れ落ち、拘束から解放された天災は、低く唸り声を上げ、鮮血で周囲の海や岩場を赤く染め上げながら、ゆっくりとこちらに迫り来る。

 俺はその様子を岩場から眺めながら、彼奴の眼前に飛び出すタイミングを伺う。


「センちゃん」

 後ろからシズハに呼ばれて振り返ると。シズハは、仄かに赤く光る複雑な紋様の描かれた石を投げ渡してきた。

「準備が出来たら合図する。そしたら、その石を上に放り投げて」

俺は頷き、その石を握り締める。


「センちゃん」

 二度目の呼びかけには振り向かない。シズハの言いたい事は大体分かってる。


「無理はしないで」

その声は、静かに俺を奮起させた。

 ──ああ、勿論だとも。


 天災が辺りを見渡すように首を振る。

──今だ……!


脚部魔力展開(フューラー)、最大出力!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 シズハが動けなくなっていた時、天災は1度たりともシズハを凝視して、その視線を外さなかった。

天災が対象を視界に捉えるだけでそうなるのか、あるいは対象を凝視しなければならないのか。どちらにせよ、厄介な力である事に変わりはない。


「……ま、要は姿を見られなきゃ良いんだろっ!」


 なるべく天災の視界に入らない様に、彼奴の周囲を隼のように旋回する。

時折海面スレスレを飛行し、海から氷の柱を生成し、天災の視界と、その動きを妨害する。


「……はっ! 天災つってもこんなもんかっ!」


 天災の背後に着水し、海に手をかざす。


「《大凍結(フレアフロスト)》、《氷結(アイシクル)戟槍(ランサー)》!」

海が手のひらを中心に広範囲に渡り凍結し、天災の足元を固める。更に鋭い氷の槍が無数に突き出し、天災の体を穿(つらぬ)き、鮮血が迸る。


■■▅■▂▅▅■▅■■━━━━━━━━!!!!!!!

 天災は大きくその身を捩り咆哮をあげる。そのまま低く唸り、藻掻く。


「手応えが無えなぁ……まさか本当にこれだけ……ッ!?」


 一瞬、本当に一瞬の出来事だった。 

「ッ……!」

一瞬だけ目を逸らしたその隙に、突き刺さった氷の槍を全て折り、足元の凍結すら無視して眼前まで迫り、その巨腕をしならせていた。


「……! 脚部魔力展開(フューラー)、オーバーフロー……ッ!!」

 脚に強い電流の流れるような痛みと、筋肉が裂かれる様な痛みが同時に走る。そんなものに一々反応できない。凍った海を蹴り飛ばし、急速に上空へと退避する。


 天災はそのまま腕を振り、凍った海を抉りとっていた。もし回避ではなく防御を選んでいたら、と思うと寒気がする。

 だが……脚は暫くは使えなさそうだ。シミュレーションとはいえ、無理を通し過ぎたか。


▅▅▅▅■━▂▂▂■■■▅▅━━━━━━!!!!


「……何だ?」

 天災は、再び咆哮をあげるとうずくまり、周囲に黒い塵のようなものが漂い始める。俺はその塵に不穏な何かを感じ、ゆっくりと後退りをして天災から離れようとする。


■■■■■■■■■■■■━━━━━━!!!!


「……んなっ!?」

 一際大きなその咆哮に呼応するかのように、周囲の塵が赤黒く発光し始め、天災の背中に集結し、三対の翼のようなものを形作る。


「……まさか、飛ぼうってのか……!」

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