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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-中- 玉響の休息
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第一章43 『報告』

「さてと……それじゃヌル達――退避組みの具体的な話を聞こうか……えっとそれくらいの時間的余裕はあるよな?」


完全に落ち着きを取り戻したノインがフィーアに問う。

ヌル達退避組みと分れてからの話を良く考えればノインは聞いていない。


実際には訊こうと思ってはいたのだが、フィーアが「ツェーンが半瘴魔化した」など重要な事を先に持ってきて伝える所為で、結局その目的は達成されていない。

だからこそノインは改めてヌル達の歩んだ道を――ツェーンが半瘴魔化するに至った理由を知ろうとしていた。


「ええ問題ないと思います。 それでは……そうですね、ノインを連れてアインスさんとツヴァイさんと私が此処――教会に着いたところから話をしましょう」


フィーアはそう言いながら寝台の横に置いてある照明型の魔業の光量を調整する。

調製された魔業は、部屋を先程よりも明るく照らす……その光が煩わしいのか、寝ているエルは呻き声をあげながらシーツにその顔を隠す。


「私達がノインを連れてこの教会に戻ってきたとき、まだ退避組みは帰って来ていませんでした……私達の方が先に拠点に着いたんです」


「へぇ……瘴魔と戦闘していた俺達の方が先に着いたのか、ちょっと意外だな」


「はい、拠点に帰る退避組みとツヴァイさんを助ける救出組みで私達は二手に分れましたが……特異体が出現したのが拠点に向う方向――即ち進行方向だったので、退避組みが迂回して拠点を目指す事になったのは覚えていますか?」


「ああ大丈夫だ……続けてくれ」


「解りました、結果から言うと退避組みが瘴魔と戦っていた救出組みよりも拠点に着くのが遅くなった理由は、その帰還に用いたルートが原因です」


「ルートが?」


予想外の答えにノインは聞き返す。

ツェーンが半瘴魔化してしまったくらいなのだから、てっきりノインは退避組みがその道中で瘴魔に襲われたものだと考えていた。


つまりは怪我ができない順応者の集団が、ノインという適格者の楯を失った状態で瘴魔と戦闘した結果だと予想していたのである。

瘴魔と戦闘しツェーンが大怪我を負う、その傷の再生によって侵蝕係数が上昇……そして瘴魔化、これで話の筋は通るし事実順応者が瘴魔になるパターンとして一番多いのはこの流れだ。


仮にノインの説が正しいとするならば、退避組みも瘴魔と戦闘していたわけであるから救出組みより到着が遅れるのも納得がいく……加えて言えば、退避組みにはノインも居ない上ただでさえ迂回しているのだから、寧ろ到着が遅いのは必然と言えるだろう。

だがフィーアは確かに遅れた原因を「ルート」だと言ったのだ、要するに迂回に用いた道順に時間的損失の全てがあると言う事である。


これがノインの引っ掛かった理由であった。

簡単言えば、単に拠点までの道を遠くとった事で拠点に到着するのが遅れたのであれば、そこにツェーンを瘴魔化させる要因は無いと言っているのである。


だがノインがそう考えていたところで、それをわざわざフィーアに言おうとは思っていなかった。

何故ならばフィーアの話はまだ途中であるし、最後まで聞けばノイン自身が持つ疑問点は解消されるかもしれないと考えていたからだ。


それに先ほどの件もある。

ノインは、自身の感情を優先して所為でフィーアに嫌な思いをさせたと己の行いを悔悟していた。


故にノインは己の持つ疑問点は他所に、フィーアから紡がれる音を待った。


「退避組みは瘴魔との遭遇を警戒して、なるべく人が多いルートを選択して帰還しました。 具体的に言うならば一度闇市方面まで出て、抵抗組織の拠点が在る場所の近くを縫うようにして移動したんです」


「成る程……確かにそれなら瘴魔と遭遇しても助けを求める事が出来るかもしれないし、何より新鮮な空気の下まで逃げ込めれば何とかなる可能性があるからな。 全員の生存を望むのであれば妥当……と言うか当然の判断か」


「私もそう思います。 実際退避組みはそのルート選択のおかげで、一度も瘴魔と接触する事無く拠点の教会まで辿り着けました……代替私達の八時間位後だったと思います」


「相当長く出ていたんだな……俺達が瘴魔と戦っていた時間と拠点に帰った時間に八時間を加算するわけだから……半日位は外に居た事になるのか?」


半日の外出……新東京においてそれだけの長い時間瘴気に汚染された外に留まるという事は異例の事である。

外にいれば当然瘴魔と出会う危険性は高まるし、何より瘴気は人間にとって毒だ、そんな二つの危険性を孕む外に好き好んで出る者など一部の例外を除けば皆無と言っていい。


だからこそ、そんな異例な行動にツェーンが瘴魔化する理由が在った。


「そうです、ノインの言った通り代替退避組みは半日近く外に居ました……普段ならそんな事はありえません。 歩いていくのならば四時間以内が……長距離となれば足以外の移動手段を使うのが殆どです。 瘴気のような毒性が極めて強いものに長時間曝露されればツェーンのように半瘴魔化するのは当然と言えます」


「いやちょっと待ってくれ、だからこそ……と言うか、瘴気の満ちる外で長時間活動する事を可能にする為に魔業が――ガスマスク型の空気浄化魔業があるんだろう? それに長時間瘴気に曝露されたのが原因ならツェーン以外の順応者だって瘴魔化していないとおかしくないか?」


ノインの指摘は正しい、事実外で活動する為にガスマスク型の魔業は存在しているし、仮にそれを付けていても長時間外に居るだけで瘴魔になってしまうのであればツェーン以外にも発症しているはずである。

だが現状はそうなっていないし、ガスマスクが外で短時間の活動を可能にする物なら、ヌルが長い時間を掛けてでも拠点に遠回りする道を選んだ意味が分からない。


フィーアもノインにこの話をすれば、ノインがこのような疑問を持つ事は分かっていた。

故にノインを納得させるために予め用意しておいて説明を付け加える。


「魔業……確かにあのガスマスクがあれば一日程度なら外で活動できます。 ただやはり魔業は魔法みたいな効果を発揮しますが、それでも永久機関は実現できません……つまり最高のパフォーマンスを維持し続けるためには定期的なメンテナンスを必要としますし、例えどれだけ大切に扱っていても寿命があります」


「えっと……要は寿命か、メンテナンス不備かどうかは分からないが、ともかくツェーンの魔業が壊れたとフィーアは言いたいのか?」


「はい、簡単に言ってしまえばそうです」


「いやそれでもやっぱり解せない……だってそんなの出発前に確認する癖をつけておけばいいし、何より予備を持ち歩いていたはずだろう?」


そう闇市から出る際にエルの顔に合う魔業はヌルから「予備」と言われて渡された物だ、その言葉から察するに魔業が機能しなくなった事態に備えて何らかの対策を講じていたはずである。


「では私からノインに訊きたいのですが……ノインは瘴気を吸ってどう思いましたか?」


「は? どうって……」


フィーアの言葉にノインは考えを――この新東京で始めて目覚めたあの時を思いだす。

交差点でブルーメに救われるまでノインは多くの瘴気を吸っている、だがそれについてフィーアに改めて訊かれてもノインは特に何も思いだす事は叶わなかった。


「ごめん……質問の意味がよく解らないんだけど……」


「じゃあこう言い換えましょうか……ノインは瘴気と新鮮な空気との違いを吸って判断する事ができますか?」


「!!」


言い換えられたフィーアの質問に、ノインがその質問に隠された全ての意味を察する。


ノインが特に思いだせなかったのは、それだけ瘴気を吸っても印象に(・・・・・・・・・・)残らなかった(・・・・・・)からである。

つまり味があるわけでも、気分が悪くなるわけでもない……色という一点を除いてしまえば――そう例えば目隠ししてしまえば、吸っている気体が果たして瘴気か新鮮な空気か判断する術はない。


「そうか……ツェーンは自身の魔業が壊れた事に気付いていなかった……そう言う事か?」


「正解です、ですが今回はさらに不運が重なりました。 一つはガスマスクが壊れた事を知らせる装置が――と言うかガスマスクに備わっている故障を知らせる装置ごと壊れてしまった事。 二つ目は総司令官の死によって混乱状態にある機関から物資が届かない事です」


「……? なんで機関から物資が届かない事が今問題になる…………そうか、物資が届かなければガスマスクは新調できないし、メンテナンス道具も足りない。 予備の数も必然的に少なくなり、劣化したガスマスクを付けざるを得なくなる……か」


物資が足りなければ基本的に楽園の外では長く生き残る事が出来ない。

恐らくエルに使用したあのガスマスクも少ない予備の内の一つだったのだろう。


「重なった不運がこの二つならまだ良かったんですが……最悪だったのはツェーンさんの瘴気に対する耐性にありました」


「耐性? 順応者って事か?」


「それもそうなのですが、今回はもっと細かいところです。 つまり順応者の中でも瘴気に対してわりと耐性がある者、ない者に分かれると言う事です」


「ああそう言う事か……同じ括りの中でもって事か。 限りなく適格者に近い順応者も居れば、限りなく耐性ゼロに近い順応者も居るって事だな……つまりツェーンは……」


「後者だと言う事です」


要するに今回ツェーンが瘴魔化した理由を纏めると。

劣化によって壊れたガスマスクに気付かず長時間瘴気を吸い込んだ事、そしてツェーン自身が瘴気に対して殆ど耐性を持っていない事が直接的な原因になっていた。


だがフィーアとノインはそんな半瘴魔化したツェーンを救う方法を考えていた。

その有効性はノインの横で丸くなっている存在――即ちエルが証明している。


つまりは闇市でエルを瘴魔から人間に戻した――治療したように、ツェーンも治療してしまうおうと言う事である。


「よし代替状況は理解できた……フィー急いでツェーンの下に向おう」


「はい解りました。 では移動のために車椅子を取ってきます」


フィーアは立ち上がると扉を開けてこの部屋から――暗闇に支配されている廊下の黒に消えていく。

明かりが灯った部屋でノインはツェーンを助ける事だけを考えていた。

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