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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
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第一章37 『執行者とノインと決着と』

これで長かった闇市編も完結です。

青白い雷を帯びたリッパーは最早目で追うとかそんな次元の速度をしていない。

瘴魔に裂傷が刻まれる前に、青白い一閃の光線として目に映る程度である。


そんな常識外れの――リッパーにとっては常識的な速度で瘴魔を追い詰める。

一方的に痛めつけられている瘴魔の傷が時折凍っている事を見るに、恐らく彼女自身が所持していた短剣の魔業以外にも、アインスから拝借した魔業を使用しているのだろうが、如何せん――見えているのは線と光だけで真実は分からない。


右から左へ、左から右へ……紫一色の空間のキャンパスは無数の光線で満たされる。

その光線の数は時間と共に指数関数的に増加していく。


リッパーが姿を消してから、一分が径過した頃には既にフィーアの面前に広がる空間は、青白い線で充満していた。

それが意味するところはつまり、瘴魔の再生限界がいよいよ近付いてきたという事である。


そんな決着を目前にして静観していたフィーア達の背後から声が聞こえる。

その声はこんな状況下でも思わず聞き入ってしまうほど、澄んでいて美しい声だった。


「リィン――リッパーの援護を!」


新しく登場した音にフィーアが後ろを振り向く。

振り向いた先には二人の女性が居た。


一人は腰まで到達しているほど長い金の髪を揺らし、青い瞳を持っていた。

顔の側面から垂れる髪の毛を、片方だけ三つ編にして前に垂らし……手は腰に携えられている太刀に置かれている。


もう一人は黒髪が部分的に赤色に染まった特殊な髪を持ち、顔や腕に良く分からない刺青を入れている。

同時にその刺青が見えるほど服装における露出が多い。

金髪の女性に比べれば圧倒的に身軽で、武器も持っていないように見える。


二人とも服装が黒色と言う共通点はあるが、金髪の女性の方は鎧のように着込み、片や赤黒髪の女性の方は雑に着こなしているだけである。

そんな怪しさ満点の二人ではあるが、どちらかは定かではないが「リッパー」と光線を見て名前を呼んでいるのだから彼女とかなり親密な関係にあるだろう事は容易に想像がつく。


加えて言えば、そんな状態のリッパーを彼女と認識でき、伝説的なまで情報が制限されている彼女と密接な関係であり、執行者は全員で三人。

フィーア達が答えに辿り着くのは早かった。


そんな突然登場した二人にフィーア達が唖然としていると、赤黒い髪の毛を持つ女性が金髪の女性に向けて言う。


「うへぇ……この距離を行くんスか? ちょっとそれはリィンちゃん的にはキツイっていうか、リッちゃんの雷撃に巻き込まれるから行きたくないというか……」


赤黒い髪の持ち主が不満を告げると、金髪の女性は太刀を勢いよく抜刀し、そんな不満を告げる彼女を鋭く睨む。


「ではあなたの意思関係なく、私が飛ばします」


「うげぇ……タンマタンマ、行きます! 行きますから……もうあんまりその太刀乱用しないで欲しいっス!」


瘴魔とリッパーそして新たに現れた二人の女性との間にはフィーア達――ブルーメが居る。

だがそんな彼等などには目もくれず赤黒い髪の女性が覚悟を決める。


「~よし! メイデンさん飛ばしてくださいっス!」


その覚悟の言葉に被るかのように、金髪の女性が太刀を顔の前で構え祈るように呟く。


「主様……またお力をお借りします…………空間を喰らいなさい、魔業駆動『天音刀』!!」


金髪の女性が太刀を鋭く地面に突き刺す。

するとまるで紫色の瘴気は、その刀に吸い寄せられるかのように太刀に集まり一定量を吸い込んだところで『カッ』と強い光を放った。


その眩しさにフィーア達が目を瞑る……そして再び瞼を開けた時には、金髪の女性の隣に居たはずの赤黒い髪の持ち主はそこには居なかった。


「リッパー! リィンが飛びます、雷撃を止めなさい!!」


その言葉と共に瘴魔を襲っていた青白い光線が止む。

轟音を伴うその光線が止んだ事に、フィーア達が拘束されている瘴魔の方に振り返ると、そこには先程まで自分達の後ろに――金髪の女性の隣に居たはずの赤黒い髪の持ち主が瘴魔の上空に居た。


眩しさに目を細めた間に何が起こったのかは解らないが、兎に角フィーア達の目の前で赤黒い髪の持ち主が瘴魔の下まで一瞬で移動したのだ。

それはリッパーが登場した、轟音を伴うような強引な移動によるものではなく……もっと静かな移動――的確な言葉を宛がうなら『瞬間移動』である。


そんな空間を冒涜するかのように移動した赤黒い髪の持ち主は、拘束された瘴魔の上空で何も持っていない右手を前に突き出し構えて言う。


「さぁ~て、いっきますよぉ! リィンちゃん七つ道具、その一『弓』!!」


その言葉と共に何も持っていなかったはずの右手には弓のような物が現れる。

矢も無いまま赤黒い髪の持ち主はその弓を引き絞ると、さらに言葉を続けた。


「さぁリッちゃん、上手く避けてくださいね~、魔業駆動!!」


引き絞られた弓の本来矢が納まるスペースに、周辺の瘴気が吸い込まれ矢の形へとその姿を変える。

瘴気によって生成された四本の矢を指の間で器用に挟むと、赤黒い髪の持ち主は下に居る拘束された瘴魔向ってその矢を放つ。


瘴魔目掛けて上空から放たれた四本の矢は、目的に到達する前にその数を十、百、千と増やし、まるで矢の滝があるかと錯覚してしまうほどに瘴魔に降り注いだ。


降り注がれる矢と共に赤黒い髪の持ち主は瘴魔をクッションにして着地する。


「うっへぇ~……瘴魔を穴空きにチーズにしたのはいいんスけど、血で服が汚れるのはなぁ……」


服に血が付着した事を気にする赤黒い髪の持ち主の下へ、雷を纏ったリッパーが近付く。


「おっ!! リッちゃん上手く避けたんスね、いや~よかった、よかった!」


赤黒い髪の持ち主はリッパーがあの矢の滝に巻き込まれなかった事に安心し、声をかけるが、その声に対する彼女の反応は冷たい。


「リィン……そこ……どいて……そいつ殺せない」


「え? この瘴魔っスか? いやもうどう見ても決着付いてると思うんスけど……」


赤黒い髪の持ち主の指摘は正しい、現在赤黒い髪の持ち主の足の下で下敷きとなっている瘴魔にはもう何の脅威も感じられない。

リッパーによって散々雷撃による裂傷を負わされ、その傷も癒えぬまま上空から大量の矢を……体に穴が空くほど降らされたのだ、最早勝負は決したといえるだろう。


例え現在瘴魔が負った大量の傷を治してもなお再生限界に達しなかったとしても、これだけの戦力差が覆るとは思えない。

瘴魔と執行者にはそれほど力の差があった。


だがそんな理屈は関係なくリッパーは地面に這いずる瘴魔に怒りを覚えていた。

要は止めを自分で刺さないと気が収まらないと言う事である。


「どかない……なら……リィンごと……殺る」


リッパーの一言と共に再び彼女の体が青白く光る。

発せられた強い閃光に、赤黒い髪の持ち主は彼女が本気の事を悟ったのか慌てて瘴魔の下から飛び退いた。


「わ! ちょっとストップ、ストップっス! 退くから、退くからビリビリは流石に勘弁っス!」


赤黒い髪の持ち主が瘴魔の上から退いたのと、リッパーが瘴魔に青白い雷となって落ちたのはほぼ同時だった。


「あ、危なかったっス……リッちゃん目が真剣なんスから……」


瘴魔の横で息を切らしながら赤黒い髪の持ち主が安堵していると、リッパーが瘴魔に攻撃を直撃させた轟音が響き渡る。


やがてリッパーが青白い閃光から人間の状態へと戻ると、彼女の攻撃が直撃した瘴魔はその一切の痕跡を否定され――全てが消え去り灰となって消失した。

その灰の中に唯一残ったのはノインが瘴魔に刺したままだった、リッパーが持っている短剣のもう片方であった。


自身が苦戦した瘴魔をこうも簡単に葬り去られるとフィーア達は唖然とするしかない。

流石執行者と言うべきか、その力に畏怖の念を抱くべきか……それとも。


そんなフィーア達の気持ちなど無視して、リッパーは自身の持っている魔業を腰に収納すると、地面に落ちた――ノインが突き刺した魔業を拾い上げアインスの下に移動する。


「……はい……コレ……貸してくれて……ありが……とう」


「あ、あぁ」


差し出された二本の魔業をまだ、ハッキリとは状況が呑み込めていない頭でアインスが受け取る。

やがて金髪の女性も、赤黒い髪の持ち主とリッパーの下へ辿り着き何やら話し始めたところでアインスがやっと現実を正しく直視する。


「ちょ……ちょっと待ってくれ! 助けてくれた事には素直に感謝する、だが君達が――いや

、あなた達が噂の執行者なのか……本当に!?」


目の前で繰り広げられた戦闘を見れば答えなど訊かなくても分かっていたアインスであったが、どうしても本人の口から直接――言質をとりたかった。

アインスのそんな慌てふためく様子も見たから、金髪の女性がリッパーの方を向き尋ねる。


「リッパー、私達が執行者である事を話さなかったのですか?」


「……ん……言った……私だけ……他は……話してない」


「あ~メイデンさん、リッちゃんは主様以外には余計な事は喋らないっスよ」


「む……失礼……今日は……いっぱい喋った」


「どうっスかねぇ~」


リッパーと赤黒い髪の持ち主がじゃれあう姿を見て、金髪の女性が一回大きな咳払いをすると、アインス達の方に向き直り話し始めた。


「では、とりあえず自己紹介からしなくてはなりませんね、私は旧東京再生機関執行者所属――執行者No1鉄の処女(アイアン・メイデン)と申します」


「No2切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー


「どもども~執行者No3輪廻転生(リィンカーネーション)です。 気軽にリィンちゃんって呼んでくれて構わないっスよ」


伝説の――噂の執行者が全員目の前に揃い自己紹介された上、あの戦闘を見ているのだから疑う要素は皆無であった。

アインス達はただただ驚くしかない。


彼らのそんな表情を見てか、メイデンはクスッと顔を綻ばせると言葉を紡いだ。


「今回は偶然私達が、通りがかった際に苦戦してらしたようなので微力ではありますが、助力させていただきました。 お怪我は……と悠長に話している場合ではありませんでしたね」


その言葉にこの場にいる――アインス達、ブルーメのメンバーがはっとする。

瘴魔による脅威が去った今一番大切なのは、伝説と語らう事でも、命がある現実に安堵する事でもなく、ノインを連れて一秒でも早く拠点に帰る事である。


「オイアインス! さっさとかえんぞ! 帰還時の警戒は俺に任せてくれ」


憧れの執行者と会えたはずのツヴァイでさえ、執行者と出会えたという喜びを無視してアインスに――全員に帰還の準備を始める事を促す。


「あぁ了解だ……一刻も早く帰ろう」


「ノイン! もう少しです、絶対に死なせませんから」


そんな彼らの様子を見てリィンが告げる。


「いや~愛されているんですねぇ……そのノインと言う人は」


その一言にメイデンが少し悲しそうな顔をして返した。


「そうですね……少し主様に似ているのかもしれません」


そう言うメイデンの横ではリッパーが、震えながら破けた外套を握り締めていた。


そんな状況に何か引っ掛かる物を感じながらもアインス達は急いで変えるために、助けてもらった礼もほどほどにこの場を後にする。


「それじゃあ執行者の皆さん助けていただいて本当に助かりました」


「あぁマジで助かったぜ……こんな状況じゃなきゃ少しは話しくらいしてェんだがな……そうもいかねェんだわ、大切なものには順番ってのが在る」


「アインスさん、ツヴァイさんさっさと帰りますよ!!」


三人とノインはそれだけ告げると執行者の前から紫色の霧の奥へと消える。

そんな三人と一人を見送った後、リィンが口を開いた。


「いや~しっかしリッちゃんが他人に興味を持つとは思いませんでしたねぇ」


「……それ……どういう……意味……」


「だってリッちゃん主様以外には――私達にでさえ心開いてくれないじゃないですか……それなのにあんな遠くから「あの黒髪の人助ける」って言っていっちゃうんですもん。 もう少し自分の速度考えて下さいよ、おかげで追いつくまでどれだけ時間がかかったか……」


「……ん……ごめん」


リッパーとリィンの会話が一区切り付いたところでメイデンが口を挟む。


「まあ過ぎた事はいいとして、それであの瘴魔は完全に倒せたのですか? どうやら完全に背後を取られたようですが……」


「あ~それは多分問題ないっスよ、私が見た感じ分裂したって言うよりかは、部分展開だったんで、母体を滅ぼしてしまえばノープロブレムっス」


「あの瘴魔……絶対に許さない……」


破かれた外套を持って、最早死んだ瘴魔に対して未だに恨みの念を持っているリッパーの頭をメイデンが撫でる。


「はあ……リッパーそれを後で貸しなさい、破けたところを修繕してあげますから」


「……ん……」


話しが一段落したところを見計らってリィンが話す。


「しっかし主様は本当にどこに居るんすかねぇ? 一番可能性が高いのはこの地区なんスね?」


「ええしかし一通り探して見つからなかったので、今度はもうちょっと奥の方まで行って見ましょう」


「リィンちゃん達が見逃していた場合はどうするんスか?」


「私たちの後任には候補生達をつかせます」


「あ~なるほど、人海戦術っスね。 了解っス、それじゃ今から向うんスか?」


「えぇ出来るなら早いほうがいいでしょう」


メイデンの言葉にアインス達――ブルーメのメンバーが行った方向とは逆の方向にメイデンとリィンは歩みを進めるが、リッパーが何時までも彼らが消えた方を向いている事に気付き声をかける。


「どうしたのですかリッパー行きますよ? 一刻も早く主様を探さなければ」


「そんなさっきの黒髪の人が気に入ったんスか?」


そんなリィンの言葉に首を振って否定を表し、メイデンの言葉には心で肯定を示す。


「……ううん……すぐ行く」


そう行ってリッパーも二人の横に並び彼らとは反対方向にその姿を消し去った。


「……まさか……まさか……だよね……ノインって名前だったし……早く見つけないと……どこ……なの? 主様――ユエ様(・・・)……」


たった一言その言葉だけを残して。

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