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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
東京侵蝕-黒-(プロローグ)
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プロローグ4 『目覚め』

本日投稿三話目です。ご注意ください。

真っ暗な部屋をランタンの心もとない光がぼんやりと照らしている。部屋の中央には木製のテーブルが部屋の隅には簡素な寝台が二つ月明かりに照らされて置かれている。他にも壁掛け時計や衣装箪笥、鏡など生活に必要な物が最低限揃っている。

そんな小さくて狭い部屋の寝台の片方には黒髪・黒目の青年が眠っている。その顔を時折見ながら寝台の傍に椅子を置いて本を読んでいる少女の姿があった。


本の紙が擦れる音と壁に掛けられた時計の秒針が規則的に鳴らす音が部屋に心地良く響き、青年はゆっくりとその目を開いた。


青年の目に飛び込んできたのは茶髪の美しい少女。少女は真顔で目覚めた青年の顔を見つめている。

記憶が確かな状況で目を覚ましたのは今回を含めて二回であるが、片や瓦礫の中に放置プレイ、片や茶髪の美少女による介抱である。そんな状況に当てはまる解を青年は一つしか持ち合わせていない。


「オッケー、完全に状況は把握した。 つまりここは天国で俺は死んだって訳だ。 でも残念な事にまだ死ぬには早いと思うのよ俺――というわけでお休み」


冗談を交ぜつつ再び目を閉じて眠りにつこうとするが、どうやら茶髪の少女にはそれが通じなかったようだ。


「……突然の環境変化に混乱を起こしていると推測します。 強制的に落ち着かせる手段として……そうですね拳で頭を思いっきり殴ってみましょう」


その可愛い容姿とはかけ離れた物騒な事を呟く少女に慌てて青年は体を起こす。


「いや! やらなくていい、やらなくていいから! 俺めっちゃ冷静でめっちゃ元気!」


「……殴らなくても?」


真顔で返してくる少女に苦笑いしつつ元気さをアピールするためにガッツポーズをとる。


「一先ずは安心しました、ヌルを呼んでくるのでそこで寝ていてください」


驚くほど状況を冷静に理解していた少女に青年はもしやと思い問いかける。


「もしかして……俺で遊んだ?」


「……さてどうでしょう」


真顔だった少女の顔が一瞬ふっと笑ったような気がして、なんとも言えない恥ずかしさに思わず目を逸らしてしまう。

少女は自身の読んでいた本に栞を挟みテーブルに置くと足早に部屋から去って行く。そんな姿を覚醒途中のぼんやりとした頭で眺めながら状況を把握しようとする。


「確か化け物に襲われて……それで確か……そうだアインスとツヴァイに助けて貰ったはずだ。 となるとここはあいつらが住んでいる場所?? いやそもそも瓦礫だらけの街並みと紫色の霧は…………まぁいいか、とりあえずはこの状況を把握していそうな人と会えるようだし……」


軽く部屋を見渡す。特に気になるような物は置いてなかった。

どうやらアインスとツヴァイも見当たらない。


「でも、ここまでくると夢……じゃないんだよなこれ……」


とりあえず青年は今までの事を現実と仮定した上で、これらの事について考える事に決めた。

何よりも明らかにしておきたいのは何処で如何して今の状況ができたのかと言う事である。先程少女が言っていたヌルという人物なら知っている可能性は十分に在るだろう。加えてヌルと言う名前には心当たりがある。確か助けてくれた集団の指導者のような人がそんな名前で呼ばれていたはずだ。


「とりあえずは何とか生き延びたって事でいいんだよな……本当にあの魔物は一体――そういや傷!!」


あの化け物との戦いで青年は左脇腹に大きな裂傷を負った、最後はその痛みで気絶してしまうほどには重症だったと記憶している。しかし実際に青年が傷を負った場所に目を向けるとそこには、青年の予想していた包帯だらけの肌など存在していなかった。


「俺傷負ったよな? それとも全部夢??」


青年が衣服を持ち上げるとそこには傷など一切存在しなかった。治療されていたとしてもその痕が残るはずなのだが、この場合はむしろ傷自体が無かったように綺麗な自分の脇腹がそこにはあった。

先程この一連の出来事は夢などではなく現実であると考えようと決めたところであったが、目の前で起こった不思議な現象にもう青年はその解を夢に求めていた。


「いやでも服は破けているし、真っ黒な染みって多分これ俺の血だろ? 心做しか頭もフラフラする気がするし……」


何が起きたのかは解らないが取り敢えず怪我が無くなり五体満足でいられることに感謝しておく。

そうして寝台から下りようとしたとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「元気そうじゃねえか! よかったよかった」


そう言いながら扉を蹴って入ってきたのは右目に眼帯をつけた赤黒い髪の女だった。顔には若干の火傷の痕が残っており髪は短く切りそろえられている。枯色(かれいろ)をした半袖の衣服を纏い暗い緑色のジーンズを履いている。首からは銀色に輝くドッグタグのようなアクセサリーがチェーンを通してかけられている。女性ではあるのだが見の振る舞いやその話し方からして淑やかとは全く無縁の存在のようだ。


赤黒い髪を持った女の後ろから茶髪の女の子が入ってくる。先程まで青年と不毛なやり取りをし、青年が目覚めるまでは本を読んでいた女の子だ。茶色の髪を後ろで束ね真っ白な服に身を包んでいる。赤黒い髪を持った女と比べて顔立ちも体の発達具合もまだ幼く、少女と呼ぶのが相応しい身なりをしている。彼女の首にも銀色のドッグタグが輝いていることから、組織に属する物の証か何かだろうと判断する。


「フィーア何か飲み物でも出してやってくれ」


「……わかりました」


茶髪の少女フィーアは赤黒い髪の女にそう言われると部屋から出て行った。


「という事はあんたがヌルか?」


「ああそうだ俺がヌルだ、よろしくな」


そういってヌルはテーブルの横に置いてあった椅子に腰を下ろす、寝台から身を起こした青年を手招きしている事から察するにこっちに来て座れということだろう。

大人しく寝台から下りて椅子に座る、訊きたい事は山ほどあった。


「それじゃ先ずはお前さんの名前は?」


「あ、ああ……えと」


瓦礫の中で目覚めたときに開かなかった扉に再び挑戦する。相変わらずこの世界の事やあの化け物といった情報は引き出せない――そもそも持っているのかも解らないが、しかし今回は自身の名前だけはすんなりと手に入れることができた。


「天…………」


「ん? どうした?」


「――え? あ、いやなんでもない。 えっと天音ユエだ」


『天音ユエ』これが自分の名前でありそれは間違いないと、他の誰でもない自分が解っているのだが、何故か今自身の名前に一瞬違和感があった。そんな違和感を拭えないまま会話は続く。


「天音ユエね……聞いたことない名だな。 それにあんなに壁の近くに居たんだ、ユエお前は機関の人間なのか?」


「機関?」


何も覚えていないユエにとってヌルの質問は何もかもが理解できない。


「おいおい、まさか機関を知らないわけじゃないだろう?」


「いや知らないけど」


「え?」


「え?」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「……そうですか、記憶喪失ですか」


「どうやらそうらしいんだよ……コイツどうしたらいいと思う?」


ユエは木製のコップに注がれた紫色の液体を勢いよく飲み干すとコップを机へ音を立てておいた。

あまりにもこの世界に無知であるユエに対してヌルが呆れたところで、ユエは自身が記憶喪失である事を打ち明けた。ヌルもこの展開は予想外だったようで頭を抱えていたところに、フィーアが飲み物を持って帰ってきたというわけだ。


「……逆に名前意外で覚えていることはあるのですか?」


「いやぁそれが殆ど……」


「「…………」」


「いや、やめて。 本当に止めて、そのゴミでも見るような視線めっちゃ刺さる!」


すこしオーバー気味におどけて見せると、ヌルは「はぁ」と溜息をつき口を開いた。


「ならまずはお前にこの世界の成り立ちから説明してやる」


ヌルはユエにそう言い放った。


ユエ「なあフィーア」

フィーア「……なんですか? ユエ?」

ユエ「プロローグ長くない?」

フィーア「まだ後二・三話ありますよ?」

ユエ「お、おう……」

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