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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
32/59

第一章24 『分かたれた花』

大変忙しかった時期も残り僅かとなり、密かに進めていた改稿作業も17/4/3にて終了しました。

今までの話全話を大幅に改稿していますので詳細は活動報告にて。

兎に角前置きも程々に続きを投稿します。

毎日と言いたいところですが、まだ暫く忙しく隙を見て投稿させていただきます。

「なっ!!」


驚愕を孕んだ短い悲鳴はブルーメの誰が零したかも分からない。だが最大警戒の穴を突かれた奇襲を受けて全員が周章狼狽する。

そんな誰もが動揺に溺れている状況下で逸早くアインスとノインが沈着を纏う。


「ヌル全員の誘導を!! ノイン君は防御体勢に!」


「了解!! ゼクス頼む」


アインスの指示を受けたノインは短く肯定の言葉を発する。そして臨戦状態へとその身を移行するために、抱えていた少女を落ち着いていそうなゼクスに託す。

少女を手放したノインはその腰から二本の短剣を勢いよく抜き放ち、面前で交差させ構える。


場はまさに心慌意乱と言える。だがそんな混乱もアインスやノインの冷静さを見てか、次第に落ち着いた色に染まる。

全員が自分を取り戻すまでにそう時間はかからなかった。


流石は瘴魔が跋扈する新東京に生きる抵抗組織である。不測の事態に一瞬混乱するものの、落ち着きを取り戻すのが早く、もう全員が指示を待つ状態となっていた。


場を一先ず治めたところでノインが今後の行動方針について自身の考えを吐きだす。


「聞いてくれ皆……ツヴァイの安否がここから確認できない上、敵の姿も見えない。 とりあえず俺がツヴァイを助けに行く、皆は急いで此処から離脱を――」


そこまで言いかけてノインは言葉を止める。そのまま右手を口元に添えて一瞬頭を働かせると、鋭く言い放つ。


「いや変更だ、俺はツヴァイを助けに行く……アインスにフィーア、こっちに付いてくれるか?」


「ああ勿論」


「私も異存ないです」


三人で顔を合わせ頷く。

ツヴァイの怪我の有無、そして襲撃してきた敵が何時また襲ってくるかも分からないこの状況で時間を浪費するわけにはいかない。出来れば迅速に行動したかった。

今にも駆け出しそうな自身の体を抑え、確認も含めてノインがヌルに目配せを送る。その視線に気付いた彼女も簡潔に指示を出す。


「いいかてめぇら、ツヴァイの救出をあの三人に任せて俺達は五人で拠点に向う。 人数が減る分警戒の質は落ちるし、ゼクスの抱える少女も居る……襲撃してきた敵も確認できねぇ状況だ、兎に角生きる事に全力を注いで退避するぞ」


ヌルの指示に全員が武器を構える。現在地からならば闇市よりも拠点の方が近い、楯としてノインが居なくても安全地帯に辿り着ける可能性は高いだろう。

勿論襲撃されたのだから、退避組みが安全に後退するためには、少なくともその敵はツヴァイ救出と共にノイン達が相手をしなければならないが。


退避組みが行動を開始するのと共に救出組みも動く。最終確認も含めて二つの組が背中合わせに構える。


「じゃあヌル、そっちは任せたよ」


「あぁ任しておけ、全員必ず拠点まで連れて行く……だからアインスもツヴァイを含めて全員で帰ってこいよ……」


「勿論、こっちにはフィーアと何よりノイン君が居る。 必ず連れて帰るよ」


この会話を最後に合図も無く全員の一歩が揃う。救出組みは元々の進行方向へ、退避組みは迂回して拠点を目指すために今までの進行方向とは逆に踏み出す。

たった数歩進んだだけでも周囲に漂う瘴気の紫によって、二組は互いを確認できなくなる。


退避組みを心配しながらも、ノイン達救出組みはツヴァイの消えた方向へ歩みを進める。二本の短剣を構えるノインを先頭に後方を二人が警戒し、慎重かつ迅速に紫を切り裂く。


救出組みの任務は二つ『ツヴァイの救出』と『敵の気を引く』である。ここで重要かつ危険なのは後者だとノインは認識している。何故ならツヴァイが吹き飛んだ一瞬に目にしたソレについてノイン達は全く情報を持っていないからだ。

情報が乏しい状態で敵と戦えば常に不測の事態が付きまとう。ツヴァイを救出し、注意をある程度引けば良いわけであるから倒す必要まではないが、戦闘になる以上やはり情報不足には不安がある。


「二人とも悪いな……こっち側に付きあわせて」


「何言っているんだ、僕はツヴァイの相棒だ……むしろノイン君がこっちに来てくれて正直安心しているよ」


「そうですね、それよりもノインが一人で行くと言わなくて良かったです」


フィーアの言葉にノインは目線を外す事で誤魔化す。そんな事をしてもフィーアにはバレているだろうが……実際彼女の指摘通りノインは一人でツヴァイを助けに行く事を考えていた。

その理由は何個かあるが、その中での最大の理由は情報不足での戦闘にあった。何と戦うにせよ負けの気配が強い戦闘に順応者の彼らを巻き込みたくなかったのが本音である。今回の救出における戦闘では最悪『死』もあるだろうとノインは睨んでいた。


しかしそんなノインが協力を要請したのは、訓練所で瘴魔と対峙した際にフィーアに言われた言葉があったからだった。

恐らく同行してくれている二人も死の可能性がある事には気付いているのだろう。それでも救出組みに来てくれた心苦しさから出た謝罪の言葉であったが、それは二人によって一蹴された。


そんな二人の反応にノインは微笑みで返す事しか出来ない。自分を信じてくれる二人に、自分と共に居てくれる二人に、喜び舞い上がる心に戸惑いを覚える。

そんな説明付かない自分の心は隅にツヴァイを助けるための具体的な案の模索に入る。


「なあアインス、今回のこの状況……アインスならどう見る?」


「そうだね……先ず今回の奇襲で最も気になる点は誰も敵の存在に気付かなかった事だね」


「アインスの言う通りですね。 慢心や油断と言った類のものではなかった気がします」


「そう、全員警戒は怠っていなかった……それで襲撃を受けたって事はつまり……」


そこまで紡ぎアインスはノインを見る。アインスのその視線は『二人の考えが合致しているかを確かめたい』と訴えていた。


ツヴァイを救出する関係上、確かに時間は惜しい。だが現状で分析できる敵の情報は入手し、共有しておくべきである。


故に言葉を紡ぐより早く意思疎通が可能なアイコンタクトが必然的に多くなる――


「「瘴魔の透明化」」


二人の声が重なる。二人はこの異常な奇襲攻撃の解を瘴魔の能力に求めていた。

しかし五つある瘴魔の分類において、特殊な能力が備わった瘴魔が意味するところはすなわち。


また(・・)特異体か……」


そう告げるノインの声には明らかに乱調の色が含まれている。右頬を伝う汗の雫を甲で拭って息を整える。


そんな様子のノインが発した「また」にアインスは違和感を覚える。ノインは闇市で特異体の少女に治療を行った事をブルーメのフィーア以外のメンバーに話していない。つまりアインスはノインが特異体と邂逅した事実を知らないのだ。


だがそんな些細な疑問はツヴァイを助ける任務を達成するために、一瞬にして思考の領域外へと捨てる。今現在アインスにそんな事を考えている程時間的余裕はない。


目を閉じ、思考の海の限界までアインスは潜る。ノインを含めた戦力……透明化の能力を有すると考えられる特異体、周辺状況……ありとあらゆる情報を繋ぎ合わせ最善の策を導き出す。


「それでアインス……実際俺達三人が特異体を倒して、ツヴァイを含めた全員で生還できる可能性はどれくらいだと思う?」


ノインの質問は今まさにアインスが思考を巡らせている場所であった。ツヴァイの怪我の有無並びに状況が分からない以上戦力から外した状態で、全員の生存確率を求める。

考えをまとめたアインスがゆっくりと目を開け、結果を告げる。


「……恐らくは一パーセント未満かな……」


「おおぅ」


「それはまた低いですね……」


一応残念だと全身で主張するノインとフィーアだが、どこか予期していたのかその様子には落胆の雰囲気が欠如していた。

特異体の討伐が殆ど叶わない事が解ったノインは本題を切り出す。


「じゃあ討伐無しで、全員が生きて逃走できる可能性は?」


討伐から逃走へと行動を変える事によって、どれほど生存確率が上がるかを問うノインにアインスが間を空ける事なく返答を送る。


「それなら二十パーセントってところかな」


「そいつは重畳……」


アインスの考えるシナリオに沿って事が運べば、二割も生存する確率がある事にノインは力強く応える。

正直ノインでは特異体からの逃走で一人も死者を出さない方法など思い浮かばなかった、故にアインスの策に身を任せる事を決意する。


「ならアインス、ツヴァイ救出の指揮は任せる!!」


「あぁ任せてくれ――悪いけどノイン君には相当無茶して貰うからね」


「上等! むしろ遠慮なく、つか非情に扱ってくれて構わない」


二本の短剣を握る手にさらに力を込める。決意の宿る目をギラギラと光らせながら、ノインは来るべき戦闘に向けて自身の調子を最終確認する。

そんな闘志を纏うノインの横から不満そうにフィーアが口を挟む。


「あのアインスさん? 一応私も居ますからね?」


「わ、わかっているさ……」


フィーアの恨めしげな半目にアインスは少したじろぐと、咳払いをして言い放つ。


「兎に角皆、全員生きてツヴァイを救出しよう!」


「おう」

「はい」


渇が入ったところでツヴァイが消えた方向へと向う足を速める。相談をしながらも歩みを止めていなかった彼らにとってもう何時瘴魔との戦闘になってもおかしくはない。


瘴魔が透明になる能力を有しているのではないかと考察したノインとアインスが正しいとするならば、救出組みは常に不意の一撃を受ける可能性が付きまとう。

だからこそノインは普段よりも目を凝らしていた。瓦礫の変動、瘴気の揺らぎ……視覚的情報に全神経を動員して警戒に当たる。


そんな状態の中、ノインは右目に鋭い痛みを感じる。

あまりの痛みに思わず「うぐっ……」と声が漏れ、短剣を握る手で目を押さえる。周囲を注意深く警戒していたフィーアやアインスにその行動が捉えられていないはずがなく、直ぐにノインを心配する声がフィーアからかけられた。


「ノイン大丈夫ですか?」


「うん……もう大丈夫みたいだ」


ノインの右目に一瞬訪れた痛み、訪れたのが一瞬なら去るのも一瞬であった。フィーアに声をかけられたときには引いていた痛みに違和感を覚えながら、ノインも警戒に戻る。


そんな様子に大事無いと判断したフィーアとアインスもツヴァイを救出するため、周囲の警戒に戻る。


周囲を最大限に警戒していたからこそ二人は、ノインの右目の瞳の色が一瞬だけ紫色に妖しく光った事に気付かなかった。

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