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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
東京侵蝕-黒-(プロローグ)
3/59

プロローグ3 『脱出劇』

本日二本目の投稿です。ご注意ください。

化け物の腕が脚を肩を抉る、青年が力尽きる気配が濃厚になったことを(さと)ってか化け物はけたたましい叫び声を上げ攻め手を増やし決着をつけようとする。

紙一重、まさに針に糸を通すような攻防が続く。次第に青年の体に細かい傷が増えていく中、遂に化け物の腕は青年の腹部に達した。

青年の左脇腹には鎌によって深く抉られた痕が残る。


「……っ!! ……ぐぁが!! いってぇなクソが!!」


全身を焼かれたかと錯覚してしまうような、熱く鋭い痛みが連続的に体中を駆け巡る。その痛み耐えかね思わず右手で傷口を押さえる。あまりの痛みに気付けば無意識に地面に膝を突いている体勢となっていた。

何とか化け物の猛攻を躱している状況下で、膝を突くつまりは体勢を崩すと言う行為が意味するのは隙である。

極限の集中状態の中でうまれた僅かな隙、綻びを見逃すほど目の前の敵は甘くない。


痛みで細めた目に飛び込んできたのは自分の体を一刀両断すると言わんばかりの速度で迫る化け物の腕だった。


「しまっ…………!」


それを認識してようやく自分の行動が悪手であった事に気付く。一瞬でも集中が途切れたら終わりであったあの状況下において膝を突くという行為は化け物にとって『どうぞ殺してください』と言ったように見えただろう。

――これは確実に当たるな

究極までに処理能力があがった脳が下した結論だった。


再びの死の覚悟と共に青年は今度こそ強く目を閉じた。

視覚的情報は瞼によって遮断され、変わりに自身を強く支配してきたのは聴覚能力。死の間際だと言うのに、生きる事を諦めたと言うのに、どうやらとことん体はそれを許してはくれないようだった。

絶対的な死を前に向上した処理能力は目を塞がれたことにより、視覚から聴覚へその居場所を変えた。

限界まで研ぎ澄まされた耳は辺りの情報を高速で集める。体は生きたいと必死で鼓膜を叩く音を探す。今ならば例え何十キロ離れていようが、いかなる喧騒が立ちはだかろうがどんな小さな声も音も拾えるだろう。


そしてこの窮地の中耳が拾った音は他者の声、その音が意味することは即ち青年が切望していた『他者との邂逅』であった。

その声が鋭く発する。


瘴魔(しょうま)を捕捉! 目標、第三形態(サード)! 討て!」


その声に従うように紫色の霧の奥から銃弾の嵐が化け物に向かって降り注ぐ、化け物は悲鳴のような歓声のような理解不能な声を上げ怯む。


青年を仕留める為に放った腕はその軌道をほんの僅か右にずらし地面に突き刺さった。

一先ずの死の緊張感から解放された事と自分と同じ者、この場合は『人』に出会えた事によって青年に限界が訪れその場に崩れ落ちる。いつの間にかダイオードもあの忌々しい霧にも色が戻っていた。


化け物を怯ませた彼らは霧の向こうから現れた。それは全身を黒で覆い、胸には白銀に輝く胸甲を付けた集団。腰には手榴弾にも見える機械を複数個ぶら下げている。手には様々な銃器のような物をそしてなによりその場に居た全員が顔にガスマスクを装着していた。


「ヌル! 不確定要素です」


銃を構えた一人が指をこちらに向けて指す、ヌルと呼ばれた人物がこちらを見るがガスマスクを装着している所為でマスク下に浮かべているであろう表情を読み取ることはできない。


「壁の近くに生存者? タイミングからすると――まさか機関の??」


「どうしますか? おそらくは適格者かと」


どうするというのはおそらく、青年を助けるか助けないかということだろう。

ヌルと呼ばれた人物はこちらを一瞥すると素早く指示を出す。


「アインスとツヴァイは彼の救助を――ドライ・フュンフ・ゼクス・ツェーンはその援護に回れ! 退路は俺とフィーアが確保する! アインスとツヴァイが彼を救出し、合流した後すぐさまこの場を離脱する」


「了解」


指示が下ると全員が一斉に動き二人がこちらに走りよってくるのが見える。途切れそうな意識を必死に紡ぎ体を無理矢理動かす。きっと彼らがアインスとツヴァイなのだろうと頭で考える。

遠くでは四人が化け物に向って銃弾を遠慮なく叩きこんでいる。化け物はそれを苦しそうに浴びながら暴れまわり、それから逃れようと楕円形の下部に付いた無数の突起で素早く移動しているがその努力空しく化け物体には次々と弾丸がめり込む。


「すげ……偏差射撃までしてらぁ」


彼らの奮闘を横目に青年は腹部の痛みに耐えながら、走りよってくる二人の下に匍匐前進していく。二人は青年の下まで辿り着くと二人組みの一人が銃を背中に素早くしまい、肩を貸す。


「おうおう派手にやられたな、生きてっか?」


ガスマスクの下から聞こえた若い声に少々驚きを感じつつも呼びかけに応じる。


「ああ多分。 死んではいないってことは生きているんじゃないかな……つか助けに来てくれるんだったらもうちょっと早いと色々ありがたかったかなぁ……」


「まあそんな重症でそれだけの軽口が叩けりゃ問題ねえだろう」


「ツヴァイ……少しは真面目にやりなって――君大丈夫かい? 大丈夫そうなら彼にこのまま引き摺って行って貰うけど」


もう一人のガスマスクは青年に肩を貸していた男をツヴァイと呼び、軽く注意した。ということはこちらがアインスなのだろう、両者共に非常に若々しい声でこの集団には大人はいないのだろうかと青年は思う。――そう言えばヌルと呼ばれていた人物の声も、そう呼んだ人物の声も若かったような……と青年はさらに思考を深化する。


「本当に大丈夫かい!?」


(多分)アインスが肩を貸されぐったりとしている自分に話かけてくる。少し考え事をしていただけだったのだが、恐らくそれが彼には死にそうになっているように見えたのだろう。


「ああ大丈夫。 腹は滅茶苦茶痛ぇけど……でもどうせ肩貸されて親身になってくれる人がいるのなら女の子の方がよかったかな」


痛みを紛らわし、まだまだ死にそうにないことを二人にアピールする為に少し冗談交じりに返すと一人は片手で頭を押さえ、もう一人は大笑いをした。

当然前者がアインスで後者がツヴァイだ。


「はっはっはっ! お前面白いやつだな気に入ったぜ」


「成る程ね、ツヴァイと気が合うわけだよ……」


言葉が通じる人と出会えて安心したのか、気が緩んだか今まで体を刺すような痛みを放っていた脇腹の痛みは全身を微塵切りにされたのかと錯覚してしまうほどにその痛みの強さを増していた。


「あヤバイ……なんか落ちそう……それとめっちゃ吐きそう……」


「おいおいおい、ここにきて死ぬんじゃねえぞ!? 死体担ぐのは御免だからな……それと吐いたらぶん投げるからな」


「え? じゃあどうしてこんな所にエチケット袋が!?」


「ふさげんな、それは俺のジャケットの胸ポケットだ!! ……あぁクソっ、兎に角大人しくしとけいいな?」


少しでも風が吹いたら飛んで行ってしまいそうな意識を会話というコミュニケーションで必死に繋ぎとめようとする。ツヴァイの言の葉に返そうと思っていたのだが、喉は渇ききっており、体は言う事を利かなかった。


「ツヴァイ! 合図を出したら一気に駆け抜けるよ、道は僕が開くから君は彼を落とさず遅れずついてきてくれよ」


「あいよ!」


アインスが腰につけていた手榴弾のような物を空に放ると、一瞬にして紅い光が辺りを支配した。照明弾のようなものなのだろう、この紫の世界で合図を送るために発光しているそれは紫に負けないようにと強く紅く光り、そのあまりの眩しさにガスマスクも何も着けていない青年は思わず目を細める。


照明弾を合図に化け物と対峙していた四人の陣形が少しずつ変化しやがてアインスとツヴァイの前には道ができた。


「いくよツヴァイ……3・2・1――移動開始(ムーブ)!!」


アインスの呼びかけと同時に二人は地面を力強く蹴って走り出す。

やがて退路を確保するために周辺を警戒していた面々と合流し――


「ヌル! 重症の彼はつれてきたよ!」


「解った、総員全力をもって撤退する!!」


ツヴァイに担がれながら、ぼんやりとそんなやり取りを聞く。

化け物と対峙していた四人も合流し一斉に撤退を始め、この場を離れる。


死から解放された安堵感と人の温もりを感じて今度こそ青年は意識を手放した。

いつの間にか化け物に抉られたはずの腹の痛みは全く感じなかった。


ツヴァイ「なあそういえばお前の名前まだ出てきてないよな?」

青年「そうだね、初登場は次話だね」

ツヴァイ「主人公が俺らより名前出るの遅いのってどうなのかねえ?」

青年「いや、でもほらあらすじでは既出だし……」

アインス「あらすじなんて殆どの人がそんなに注意して読んでいないのでは?」

青年「oh……」

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