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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
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第一章21 『執行者-壱-』

ソファーの深い場所に座りなおしたゼリクがこちらを見据える、その様子にノインはヌルに目配せをすると、彼女はブルーメが闇市に来た理由を告げる。


「俺達が今回闇市に来たのは、最近出回っているって話の魔業を買うためだ」


ヌルの言葉にゼリクの肩眉がピクリと反応し持ち上がる。


「ほぅ……成る程なてめぇらも(・・・・・)魔業目当てってわけか……」


ノインにとって気になる言葉を発したゼリクは自身の頭を数回右手で掻く、頭を掻く腕の動きにあわせて緑色の髪が揺れる。


「……情報を漏らした覚えはねぇが、高火力の魔業が流れてきている事を知っているってこたぁ……相当優秀な情報網を持ってやがるな?」


ブルーメが闇市を訪れた理由は、トップが死んだ事で統制を失った機関から高火力の魔業が流れているという情報を聞いたからである。もしもこれが過激派に渡り、それを用いて襲撃でもされれば、ただでさえ弱まっている機関では対処しきれないだろう。故に穏健派であるブルーメで出来る限り確保しておく必要があった。

当然情報が集まる闇市のリーダーであるゼリクがその情報を知らないはずがない、加えて言うならば高火力の魔業を商品として扱っているのだからブルーメよりこの件に関しては詳しいだろう。


ゼリクも普通なら流れてこない魔業を手にして、それを誰彼構わず売りつけるほど馬鹿ではない。流れてきた魔業は表には出していないし、流れてきたという情報も漏らしてはいない。つまりは一時的に秩序を失っている機関が立ち直るまで、機関から高火力の魔業が楽園の外側に流れている事実を隠していたということだ。

楽園の外側におけるゼリクの立場は高い、そんな彼の情報規制を無視しこの事実に辿り着けるのは、相当優秀な情報網も持っている証拠になる。先程ヌルが言った「魔業を買う為に来た」という発言に対してゼリクが驚いた背景にはこのような事情があった。


「結論から言おう……高火力の魔業自体は確かに流れてきている。 今まで機関の頂点が厳格に流れる魔業を制限していた所為で、その枷が外れた今悪事に走る奴が少なからず出てきたってわけだ」


「なら、やっぱり機関のトップが死んだって言うのは確かな情報なのか?」


「いやそれは正確じゃねぇ、正確には『死んだ可能性が最も高い』だ。 俺の方に入ってきた情報によれば第一次東京脱出作戦で煮え湯を飲まされたって話だぜ」


「……つまりは裏切られたって事か?」


ノインの確認にゼリクはその首を縦に振って肯定を示す。その行為を受けて機関のトップを裏切った人物をノインは想像するが、その人物像は一切浮かんでは来なかった。

というのもこの瘴気に満ち溢れた新東京は箱のような壁に囲まれており、その外には瘴気など無い世界が広がっている、それを破ろうと奮闘する機関に協力する事はあっても裏切るというのは普通では考えられない。唯一可能性があるとすれば壁を守る傍観者くらいである。


「そうだったのか流石に俺の情報網にもそこまでは引っ掛かってないな」


どうやら機関のトップが作戦中に裏切りに合い、現在死亡した確率が最も高いという話はヌルにとっても初耳だったようだ。


「まぁこれは相当機密性のたけぇ情報だからな……」


「そんな情報をなんで俺らに?」


「あぁ? お前らは俺の持っている借りを魔業の販売と情報の開示で返させようってんだろ?」


どうやらゼリクには少女をノインがわざわざ購入した事実と、ブルーメが魔業を買いに来たという目的で、ノインがどうやって自分に借りを返させようと考えているのかの答えに辿り着いていたようだ。


「まぁこっちとしては話が早くて助かるが……それで死んだ可能性が最も高いというのは?」


「あぁどうやら仲間に裏切られた後の……機関の頂点の位置情報は未だ不明(ロスト)らしい、壁の付近には瘴魔が特に多い、それで見つからねぇって事は……死んだ可能性が最も高いってわけだ、一応今の所は行方不明って扱いだがな」


行方不明とはなっていても生きている可能性は確かに低いだろう、どうのように裏切られたかまではノインには解らないが、裏切った以上機関のトップは武器を取り上げられたり、あるいは怪我を負っていたり不利な状況に立たされたはずに違いない。そんな状況下で瘴魔の多い壁付近で行方をくらませれば瘴魔に食われたと考えるのは至って普通の発想である。


「そう言えばどうして瘴魔は人を襲う?」


ちょっとした疑問がふとノインの口から零れる。


「あん? んなことも知らねぇのか?」


記憶の無いノインにとって瘴魔がどうして人を襲うのかは非常に気になる事であったが、どうやらこの新東京に住む人間にとっては常識だったようだ。そんな常識をノインが疑問としてゼリクにぶつけても、何だかんだその疑問に答えてくれる姿勢を見せるゼリクにノインは心の中で感謝する。


「いいか瘴魔っつうのは瘴気を食らう化け物なんだよ、基本的に瘴気の中に居ることを好む。だからこそ新鮮な空気の雰囲気下に在るこの闇市や各抵抗組織の拠点、楽園の中までは侵入してこようとはしない……んで人間を襲うのはその人間が内包している瘴気をとり込むためだ」


つまり瘴気は瘴魔にとって生きるために必要なエネルギーなのだ。人間を襲うのはその者が内包している瘴気を食らう事で自身に瘴気を蓄積するためである。要は人間で言う食事に当たる行為である。


「いやちょっと待ってくれ、それならわざわざ人間を襲わなくても瘴魔を襲えばいいじゃないか」


ノインはゼリクの、瘴気を得るために瘴魔は人間を食らうと言う説明に疑問を持った。体内の瘴気の侵蝕度合いを示す侵蝕係数からも明らかなように、人間よりも瘴魔の方がその身に宿す瘴気量は多い。であるならば人間を襲い瘴気を得るよりかは、瘴魔を襲い瘴気を得たほうが獲得できる瘴気の総量は圧倒的に多いだろう。

ノインの疑問には想定内といった顔でゼリクはその質問に応答する。


「瘴魔にはまだ解明されていない謎が幾つもあるが、それもその内の一つだ……つまり瘴魔は生きるために多くの瘴気を求めているにも関わらず、共食いだけは絶対にしない」


ゼリクの答えにノインは心の中で小さく舌打ちする。もしも瘴魔が瘴気を得るために共食いと言う道を選択してくれたのであれば、人がここまで多くの危険を冒してまで瘴魔の討伐に精を出さなくても良かったであろう。

ノインがそんな事を考えていると今度は横からヌルが言葉を飛ばす。


「それで最近の特異体の事については当然知っているよな?」


「特異体?」


ゼリクは何時の間にかノインの膝に頭をのせて眠っている少女を一瞥する。だがヌルの質問の意図はそこには無いと直ぐに理解したのか、顎に手を当てて少し考える。そして頭の中から該当する情報を引き出し口にする。


「あれか、機関の頂点に飼われていたっつう特異体の事か! あれに関してはまだ姿は確認されていねぇが、ここ最近瘴魔が新鮮な空気下に侵入する事例が多発している事から見ても、ほぼ間違いなく野に放たれただろうな……まぁそれもあって機関の頂点が死んでいる可能性がたけぇわけだが……」


機関のトップが手懐けたとされる特異体の話はノインもヌルから聞いている。この闇市に来る前に彼女が言っていた瘴魔を操る能力を持った瘴魔らしいが、なにより恐らくはその瘴魔を操る能力の所為で訓練場に第三形態が現れたのだ、ノインの怪我はその特異体に責任があると言ってもいい。


「その特異体も十分面倒な事この上ねぇが、何よりもまずいのは執行者(・・・)が機能してねぇことだろうな――」


「――執行者!?」


ゼリクの『執行者』という単語に過剰なまでに反応したのは、今までソファーの後ろに静かに立っていたツヴァイだった。

ノインはその声に驚き後ろを振り向くと、ツヴァイは興奮気味にその上半身をソファーの方へ乗り出している。そんなツヴァイの行動に横のアインスは頭を押さえていた。


「どうしたよツヴァイ? その執行者っていうのと何かあったのか?」


「オイオイオイ――!! 執行者を知らねェのかよ!?」


ツヴァイの興奮具合とアインスの様子から見てきっとこの話の終着点は碌でもない所だと予想できたノインであったが、執行者についての詳しい話は聴きたかった為あえて口には出さなかった。


「いいかノイン! 執行者ってのはな機関のトップに仕える三人の順応者の事だ、一人一人の戦力は凄まじく第三形態程度なら単騎撃破が可能って噂だ」


「第三形態を単騎撃破!? 適格者でもない順応者が!?」


訓練場で戦った第三形態を単騎で撃破してしまうと言う事実にノインは驚愕する。しかも傷の治りが速い適格者なわけでもない、いや仮にも機関のトップに直接仕えているのだからそれなりの強さが求められるのかもしれないが、それでもその強さは異常と言わざるを得ない。


「……ツヴァイさん、ツヴァイさんが執行者に興味がるのはそこではないですよね……」


執行者を語るツヴァイにジト目のフィーアが言う。


「オウもちろんだ! いいかノイン、執行者のすげぇ所はここじゃない本当に凄いところは…………」


わざと溜めて話すツヴァイにノインも思わず固唾を飲む。何時にもまして真剣な顔つきのツヴァイは一回ゆっくりと目を閉じた後、鋭く瞼を開き言い放つ。


「執行者は全員超絶美人らしい!!」


ツヴァイの言葉を聞いたノインはまるでコントのようにその体を転けさせる。ツヴァイの話はくだらないところに落ち着くと言う事を理解していたはずなのに、何時の間にかその真剣な雰囲気からその事を忘れてしまっていたノインは、自身の浅はかさを目頭に手を当てながら呪う。


「アーソリャタシカニミテミタイナー」


「だろ!!」


ツヴァイの発言にブルーメ一同は呆れの色を浮かべるが、目の前に座るゼリクはその様子に爆笑する。


「いや~やっぱてめぇのところの赤毛の兄ちゃんはおもしれぇな……っと。 とりあえず話を戻すぞ、基本的に執行者ってのは抵抗組織から寄せられた情報を元に第三形態や第四形態の討伐を行っている、だが今は独断で機関の頂点を捜索しているらしくてな……ただでさえ特異体によって瘴魔が暴れまわってんのに執行者が別の事をしていて動かない、はっきり言えば今の新東京の状況は凄く悪い」


解ってはいた事だが改めて新東京の状況を把握すると、相当悪い方向にあるようだ。ゼリクの発言にノインが冷や汗を垂らすのと時を同じくしてツヴァイは「壁の近くに行ったら執行者の誰かと会えねェかな~」と浮かれており、そんなツヴァイにはアインスの全力ヘッドロックが炸裂していた。

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