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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
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第一章15 『百の花』

歩みを進めるノイン達の前に現れたのは大きな透明のドーム状で囲まれた空間であった。

建物として形が残っている教会を拠点にしているブルーメとは違い、その場所は幾つもの建物を一纏まりとして魔業で空気を浄化している。要は魔業で空気を浄化している範囲がブルーメのそれと比べて圧倒的に広いのだ、それは即ち空気浄化に用いている魔業の性能が良い事を意味していた。


「これが闇市?」


もっとスラムのような薄汚く、何処からでも犯罪の臭いが立ち込める……そんな場所を想像していたノインにとって、目の前に広がった綺麗とは言えないが、ある程度の清潔感が保たれた空間は、彼が想像する闇市のイメージとは食い違っていた。


「まあ闇市といってもそこまで悪の組織に染まっているわけじゃない……そうだなイメージとしては機関が楽園の外に物資を流すときに一つ一つの抵抗組織を相手にしなくてもいようにできた、機関と抵抗組織の仲介役と考えればいい」


「え……と、ならそこそこ善良な組織なのか? 『闇』って付く位だからもっとこう、なんかあくどい商いでもしてるもんだとばっかり……」


「善良……とは言えねぇが、まあグレーってところだろうな。 闇市と呼ばれる場所自体は楽園の外側に何個かあるんだが、その全てはある一人の人物によって管理されていてな……まぁその何と言うか」


妙にハッキリとしないヌルに違和感を覚える。そんな彼女の意図を察したのかフィーアが横から口を挟む。


「闇市の統率者がちょっとおかしな人なんです」


「おかしな人? それってツヴァイとかツェーンとかドライみたいな?」


ノインの返しに三者が抗議の声を上げるが、ノインとフィーアはそれを努めて無視する。


「はい、その三人と同じ位には変ですね……闇市の『闇』も、何かその方がカッコイイから……という理由で付けたと聞いています」


「あ、それは大分重症だわ」


フィーアの発言が正しいとするならば、どうやら闇市の統率者も相当キャラが濃いらしい……あまり関わりたくないなとノインが心で思うと、ヌルが流石にそれだけではと言う事で闇市の統率者を持ち上げる。


「ま、まぁ変な奴ではあるが、楽園の外側にある幾つもの闇市を纏めているんだ、有能な奴である事に変わりは無いぞ」


ヌルはそう言い建物に近付いていく、建物の入り口には数人の人が立っており、ノイン達が首からかけているドッグタグを見て抵抗組織のブルーメが来た事を理解すると、ノイン達の所持する武器を回収し大きな箱に収納する。

どうやらこの闇市では闇市内での武器の持ち込み並びに使用は禁止されているようだ。


「なあフィー、どこの闇市でも入る前に武器を回収するのか?」


「はいどこの闇市でも武器は回収していますが、中でも此処は一番大きい……先程話した変人統率者さんが直接運営している闇市ですからね、他の場所よりも武器の持込に関してはかなり厳重ですね」


そんな会話をしつつヌルに続くようにして建物を通り過ぎると、そこには多くの人で賑わっていた。

他の抵抗組織に見える者もいれば、シートを敷いて商品を並べ商売をしている者、車の荷台に商品を並べている者など多くの人間が居る。


新東京にてブルーメ以外の人を知らなかったノインにとってその光景は驚愕するのに十分すぎた。


「驚いた……新東京にはまだこんなに人がいるのか……」


「そうだな、普段は別の抵抗組織に出会う事はないが……ことここの闇市は特別だ、機関からの物資や死者の装備品など様々な物が集まる場所だからな」


「……加えてここは建物に囲まれて結構安全ですし、銃などの武器所持が許可されていませんから……安心して他の抵抗組織と情報交換もできます……人の集まる理由はここにもあるかと」


現在ノイン達が居る闇市は多くの建物に囲まれた内側の敷地にある。建物と建物の間を石や板、鉄線や金網といった物で埋める事で隙間を無くし、建物を闇市を守る壁として利用している。

そもそも空気が浄化されている空間に瘴魔が入り込む事は稀で、なおかつ誰も武器を持ち込めない空間であれば確かにこれほど安全な場所は無いのかもしれない。


「でも何でだろうな……訓練場で襲撃されたからか、武器を手放すことに一抹の不安が……」


「……そうですね、しかし外の建物から闇市の皆さんが周囲を警戒していますから、この前のような事にはならないかと」


闇市に売っている物に目を動かす、そこでは魔業や食料をはじめとして様々な物が販売されている。遠くの方では靴や服、骨董品なんかも取り扱っている事から、闇市という名をしたフリーマーケットなのではないかとノインは心の中で苦笑する。


「それでヌルどうやって動くんだ?」


先ず始めにツヴァイが口を開いた。


「……そうだな、それぞれ相棒と闇市を一通り回って見てくれ、そこで情報通り強力な武器型魔業が売られていた場合は即刻交渉して入手が基本だ。 まぁこれは俺の予想だが……恐らく高火力の魔業は表に出ていない、誰彼構わず売る程ここのオーナーは馬鹿じゃねぇだろうからな……よって各員ある程度情報を集めた後、裏を見せてもらえないかの交渉をしようと思う、と言う事で先ずは一通り回るとこからだな」


「んじゃその過程で、そもそもこの闇市に魔業入ってきていないと解った場合は?」


「その時は他の闇市で流れていないかの情報、他にも機関の情報や特異体の情報……つまりは情報収集に徹してくれば構わない」


淡々と闇市での行動について語るヌルにアインスが時間制限を提案する。


「二時間位で一度集合したほうがいいかな」


「あぁそれでいいだろう……二時間後に一度西口で情報を交換しよう、ノインはフィーアに場所を教えて貰ってくれ」


「りょーかい」


ヌルの言葉を聞いてそれぞれが別方向に歩き出す。

正直手分けをしても二時間そこらでは闇市内での全ての情報を収集する事は不可能だろうが、ノインは初めて見る人の多さにやや興奮しておりソワソワと落ち着きがない。


「オラ、アインスさっさと繰り出すぞ! 別の抵抗組織の女の子が俺を呼んでいる!!」


「あぁもうツヴァイ!!――それじゃあノイン君また二時間後に……」


ツヴァイは意気揚々と闇市の人の中に消えていく、どうやら情報収集よりかはナンパをするようにノインには見えたが、アインスが居ればそこまで酷い事にはならないだろうと心の中で思う。


「そ、それではお兄さんまた後で」


「あぁフュンフも気をつけて――」


「――我妹よ、何をしておるのじゃ!! はやく行くぞ!!」


フュンフもツェーンの言葉に催促されて人の中へと消えていく、ふとドライとゼクスの事が気になり辺りを見渡すが、あの記者の塊のようなドライは情報収集という言葉を聞き、どうやら記者魂に火を点けたようでノインがその存在を探そうとしたときには、もうその姿を確認する事は叶わなかった。


「……とりあえずノイン私達も行きましょう」


「あぁ……」


闇市をフィーアと共に歩く、売っている物の説明を時折フィーアから受けながら商品を見るが一つ気になる事が浮かんでくる。


「そういえば、ここに売っている商品はどうやって買えばいい?」


「そうですね……物々交換か紙幣や硬貨による金銭での購入が基本になります」


「金なんてあったのか!?」


新東京において、何処かのゲームのように……例えば外に居る瘴魔を倒したからと言って金銭を落としたりするなんてことはない。

そもそもノインにとって金銭の概念が残っている事自体が驚きだったのだ、加えて言えば機関や楽園から与えて貰う側の抵抗組織が金銭を獲得する手段をノインは思いつけないでいた。


「……私達抵抗組織が稼ぐ基本は、高形態の瘴魔の情報を機関に流して金銭を貰う事が多いです。 他には瘴魔の討伐報告や楽園の襲撃などですかね……」


「え? じゃあこの前の訓練場で戦った瘴魔とか、さっきの第二形態とかお金になったって事か?」


「はい……討伐報告をしてそれが認められればですが……と言っても機関が混乱下にある今では難しいでしょうけど……」


「それでそのお金はどこに? 見たところ何も持っていないように見えるけど……」


ノインが金銭の存在をここまで知らなかったのには二つ理由がある。

先程のように新東京で貨幣制度が残っているはずが無いと思い込んでいたのが一つ、そしてなによりノインが目覚めて今まで金銭を見た事が無かったのが最大の理由だった。


通常買い物と言えば、財布を持ち金銭を持ち歩くのが基本的な形となる。今回ブルーメが確保を狙う高火力の魔業であれば相当な値が付く事は簡単に想像がつく。だが闇市に来るまで、正確には闇市に来てからもだが、ノインはブルーメの誰一人として金銭を持っているようには見えなかった。


「お金はこの中に入っています」


そう言ってフィーアが差し出してきたのは真っ白な薄型のデバイスだった。側面に位置するスイッチを押し込むと何やら数字が空中に浮かび上がっている。恐らくはそのデバイスに振り込まれている金額なのだろうとノインは予想した。


「成る程ね、金銭の管理も全て魔業な訳か」


「はい、持ち歩くのは面倒ですし、何よりも邪魔になりますから」


闇市での商品の購入にも納得がいき、ノインは再びフィーアと共に闇市の商品を見定める。特に変わった商品、とりわけノイン達が求めていた高火力の攻撃型魔業の存在はやはり認められず、約束の集合時間が迫る。


西口にフィーアの案内を聞きながら向っていると、ふとノインは建物の壁に一際厳重そうな扉がある事に気付いた。

先をフィーアが歩いているにも関わらず、そこから離脱しゆっくりと扉の方に向かう。


鉄製の厳重な扉にそっと手をかけと、その扉は意外な事に、厳重そうな見た目とは裏腹にあっさりと開き中の空間にノインを招き入れる。


真っ暗な部屋に入ったノインはその部屋に何かの気配を感じて目を凝らす、そして暗闇に慣れてきたノインの目が捉えたものは体中から紫色の結晶が生えた少女だった。


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