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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
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第一章7 『払拭』

呼吸を整え、目の前に居る瘴魔と対峙する。背中に受けた傷がまるで大火傷を負ったかのように熱く痛む。正直気を抜いたら簡単に倒れてしまいそうだったが、その背中の向こうに 守りたい人(フィーア)が居る以上、ノインは一歩も退くわけにはいかない。


「まさか、こんなにも早く楯としての役割が回って来るとはな……フィーア動けるか?」


「……大丈夫です――それよりノイン! 傷が!」


「俺は適格者だからな、傷の一つや二つくらい多分直ぐ治るだろ…………え、治るよね?」


ノインは昨日のヌルの説明を思いだしていた。故に適格者の自分であれば多少の怪我を負っても大丈夫だと思っていたのだが、まだ自分が適格者である立証が無い事を思いだし不安が生じる。

しかしその瞬間ノインの背中に刻まれた傷からは黒い稲妻のようなものが駆け巡っている。それと共に傷も徐々にではあるが小さくなっていく。その様子にホッと胸を撫で下ろしているとフィーアが叫ぶ。


「……確かに怪我は治るかもしれませんが、怪我をした際の痛みがなくなるわけでも、失った血が戻るわけでもないんですよ!?」


「わかっているよ……正直少しふらふらしてきている……」


ノインは交差点で瘴魔と対峙した際に脇腹を抉られ大量に血を失った、そして今回フィーアを庇いまた血を失っている。昨日の今日で血を流しすぎたノインの体は明らかに血液不足でふらついていた。


「ノイン! 大丈夫か!?」


どうやらヌル達も合流したようだ、瘴魔とある程度の距離を保ちつつこちらに話かけてきている。


「ヌル――楯はしっかりとやったぜ……んなことより武器は無いのか?」


「今ツェーンとフュンフが持って来る! それまで持ちこたえてくれ!!」


「……りょーかい」


交差点で瘴魔と邂逅した際は武器があって数分の時間を稼げた、しかし今は素手、あるとしてもフィーアが持っているペイント弾を撃つ銃くらいである。武器をあの姉妹が持って来るのに何分かかるのかは分からないが、状況が悪いのは明白だった。


「フィーア……隙を見てヌル達の下まで走れよ」


ノインとしては順応者である彼女を巻き込む訳にはいかなかった。何よりもあの交差点での邂逅にてノインは瘴魔に殺されかけている、瘴魔の恐ろしさについてはよく知っているつもりであった。ツェーンとフュンフがヌル達と合流するまでの間、つまりは武器が訓練場に運び込まれるまでの間、ノインは瘴魔にブルーメの面々を狙わせないようにたち回ろうと決める。


「ノイン! それは――」


フィーアの返事を聞く前にノインは瘴魔に向って駆けだす。交差点で対峙した際に楕円形から伸びている突起は金属のように硬かったのはよく覚えている。それに比べてあの不敵に笑う口が特徴的な、人の上半身のような部分は再生こそしたがダメージは通っていたはずたとノインは自身が狙うべき所を定める。


「狙うは……」


ノインは地面を蹴り跳躍する、その行動に不敵な笑みを浮かべた瘴魔は彼を迎撃しようと何本もの腕を振り回す。そう空中なら基本的に逃げ場はないのだが……


アインス達との訓練の時に見せたように、ノインは空中や瘴魔の腕を何度も蹴ってそれを回避し、瘴魔の元まで辿り着くと、人間の上半身の鳩尾部分に拳を鋭く打ち込んだ。


「ガァガガガググガァ……!!」


「日本語喋りやがれ、この瘴魔野郎」


瘴魔の苦しそうにあげた悲鳴のようなものに自身の攻撃が有効的であると確信したノインは、瘴魔の上半身を蹴り上げその反動で後ろに跳び距離をとった。


「ノイン君!! 瘴魔は元々人間だ、人間としての形を残した瘴魔の再生を無視して倒すためには、瘴魔の人間の部分を壊せば良い――つまりは頭か心臓を確実に潰せば良い!!」


「了解!! だけどちょっと丸腰一人だとキツイから、武器を早く持って来ていただけるとありがたいんだけど!?」


「悪い……俺達順応者は武器を持っていなければ瘴魔の間合いには近づけない、というか丸腰の順応者じゃ邪魔にしかならない……武器が到着次第俺達も直ぐに加勢する!! アインス・ツヴァイ・ドライ・ゼクスいつ武器が来ても動けるようにしておけ」


「了解!」


全員がヌルの言葉に従う中、ノインの目はまるで黒い霧でも纏ったかのように静かなツヴァイを捉えていた。そんなツヴァイの状態に意識を持っていきそうになるところを必死に抑えて目の前の瘴魔に集中するため、思考を巡らす。


「(さてと、心臓か頭か……先程の要領で瘴魔に近づくことは出来る、だがやはりその器官を破壊するためには素手では攻撃力が足りない。ここは大人しく武器が来るまで耐え凌いだほうが無難だろう。何でも良いからツェーンとフュンフ速くしてくれよ)」


再びノインは地面を駆ける。瘴魔も再びノインに対して腕を振るが、ノインはいとも容易くその腕を回避する。交差点では限界まで脳を酷使し避けていた攻撃であったが、訓練場で対峙した瘴魔の腕は交差点で対峙したソレよりも簡単に避けることができた。


再び瘴魔の懐に潜り込み、その上半身に蹴りを入れる。人間の心臓がある場所目掛けて全力でぶつけたのだが、やはり当然ではあるが蹴りでは心臓を破壊するにまでには至らない。


もう片方の足で空中を蹴り距離をとろうとした時、瘴魔の腕が足に絡んでいる事に気付く。


「――やばっ!!」


そのまま足が絡まった腕を瘴魔に振り回され、ノインは空中を舞う。その際にも瘴魔は余った腕でノインに追撃を仕掛ける。瘴魔の腕による攻撃を、空中を蹴ることで避けていたノインであったが、片足とはいえ身動きを封じられては避けられない。


瘴魔の腕がまるで槍の嵐のようにノインに降り注ぐ、槍が手の甲に、腕に、足に体の至るところに刺さる、頭や首に刺さるのは何とか回避した。


「……うぐっ……いってぇ、生きているのが不思議なくらいにいてぇ」


再び襲ってきた火傷のような鋭い痛みを全身で感じる。背中の傷も完治していないのにも関わらず負った傷。そろそろ失血死するんじゃないだろうかという不安に駆られながら、ノインは動脈が傷ついていないことを祈りつつ手の甲に刺さった瘴魔の腕を引き抜き、その引き抜いた鋭利な腕で自身を拘束している他の腕を切断する。


「オォォオオオオォォォ!!」


「自分の腕で斬られる気分はどぉよ!!」


体勢を崩しながら何とか地面に着地するが着地の衝撃が傷ついた体に走る。まるで全身が麻痺してしまったかのように動かない。


「これはちょっと血を失いすぎたかもな……」


ノインは地面に膝を突きそうになるが、ふと脳裏に交差点で膝を突き死にかけた記憶が蘇る。ノインは地面に膝がつくのを気合で何とか阻止し、麻痺しているような感覚の体を全力で後ろに動かした。


すると瘴魔の腕はノインの目の前を横一線になぎ払う。後ろに体を動かさず、もし膝を突いていたら今頃は体が真っ二つにされていただろう。


「あっぶねぇ……」


繰り返されるギリギリの攻防の中ノインはやはりフィーアを巻き込まなくてよかったと感じていた。いや、彼女に限らず怪我が出来ない順応者が瘴魔との戦闘に参加する危険性は、今までの攻防でノインが瘴魔から受けた傷の多さと深さが如実に物語っている。


「俺一人で何とかしなければ……」


普段の重さの百倍以上はあるんじゃないかと思えるほど重い脚に鞭を打って立ち上がる。全身が悲鳴を上げているが、動くなという体に従いここで休めば待っているのは死だ。


「やっぱり再生してやがるか……」


ノインの目が捉えているのは先程切断した瘴魔の腕である。瘴魔の腕からは黒い触手のようなものが絡み合い再生を行っている。ふと自分の体を見ると自身の体に刻まれた幾つもの裂傷からは黒い稲妻のようなものが出ていた。


「成る程、この黒い閃光が適格者における傷の再生ってわけね、つか傷が治っていく様子って案外グロいな……」


自身の体に目を向けた一瞬、瘴魔はその腕をノインに向って振るった。先程から瘴魔の懐に潜り込むために何回も瘴魔の腕を避けてきたノインにとって、その腕も十分に避けられる速度であったが――傷ついた体はノインの動けという脳の命令を無視した。


「くそっ!! 肝心な時に動かねぇのかよ!!」


瘴魔の腕が眼前に迫る、その腕は確実にノインの頭部を狙っていた。焦燥感と絶望感が体を支配する、交差点で味わった感覚と全く同じだ。


「(最悪だ……当たれば死……運が良ければ何とか死なない、か?)」


瘴魔の腕が頭に当たる際の速度を出来るだけ減速するために、切断されるのを覚悟で両腕をクロスし眼前で構える。避けられない痛みに備えノインは覚悟を決める……


だがその覚悟は彼の相棒によって無駄に終わる。


「――ノインッッ!!」


ノインと瘴魔の腕の間にフィーアが入る。瘴魔の腕はフィーアの持っていた銃とぶつかり凄まじい音を立て弾かれた。


「フィーア!! ヌル達のところに行っていなかったのか!?」


「……当然です! 私はノインの相棒なんですから!!」


フィーアの持つ銃の銃身は幾つものレンガで補強されていた。これこそあの瘴魔の鋭利な腕によって銃が切断されず、弾き返せた理由である。


「…………ったく。 フィーアに言いたい事は山ほどあるが、とりあえずは助かった」


「……ノイン動けますか?」


「問題ない、それにフィーアがここに居るんじゃ俺が守らないわけにはいかないだろ」


ノインとフィーアは背中を合わせる。ノインの背中の傷は黒い稲妻によってほぼ完治していた。どう動こうかとノインが少し考えていると、瘴魔に対してあらゆる方向からレンガが投げられる。


「……どうやら皆さんも武器がなくても助太刀してくれるそうです」


「いや、そんな皆怪我できねぇんだから、俺一人で︎――」


「……ノインは何でもかんでも一人でやろうとしすぎです、誰もノイン一人に瘴魔を任せるなんて言っていませんよ︎」


「︎!!」


フィーアの指摘にノインはハッとする。


「(そうだ、そうだった……交差点で邂逅した瘴魔があまりにも恐ろしくて、怖くてそれを皆に味あわせないためにと必死になっていた。 でもヌルは確かに俺に前衛として楯を頼んだ、つまり後衛も一緒に戦ういう事、俺一人で戦うなんて我儘だ、と言うよりもそもそも俺は……)」


ちらりとノインは先程の戦闘訓練の際に使用したレンガの壁の方を見ると、そこにはもうレンガの壁はなかった。きっと今そのレンガはフィーアが銃身にくくり付けていたり、皆が瘴魔に向って投げているだろうとノインは思う。全員ノインが闘っている様子を武器が無いからといって指咥えて見ていただけではないようだ。


「全員、細かく移動しながらノイン君とフィーアの援護を!! もうそろそろ武器が来る筈だ、持ちこたえるよ!!」


「おいノイン平気か!? 適格者だから俺達よりかは怪我できるだろうが、折角俺のチームに入ったのに一日で除名なんてやめてくれよ」


アインスが指示しヌルが激励を送る、その言葉に思わずノインは口角を上げる。


「ノイン、俺と他の抵抗組織の女の子ナンパしに行く約束忘れんなよ!!」


「んな約束してねぇだろうが……でも行くわ」


ツヴァイのこの状況に全く合わない軽口に思わず反応するが、これが彼なりの激励なのだろう、再びノインの目に映ったツヴァイの姿に黒い霧はなかった。


「ノインさ~ん、ここで助太刀する代わりに後で取材させてくださいね!!」


「え? これって俺が一方的に助けられている側なの?」


「…………………」


「何言いたいかは代替伝わったぜゼクス!!」


背中合わせのフィーアに少し体重をかけて話す。体重を彼女に預けからだろうか、ノインは少し体が軽くなるのを感じる。


その時はじめてノインはブルーメというチームに入ったのを感じた。


「フィーアには仲間になるには時間が云々とか言っておいてなんだけど……本当はそんなものなんて無くて、ただ俺が皆と距離を置いていたのを時間という単語で誤魔化していただけなのかもしれないな……皆を戦わせるのが……いや、皆と仲間になるのが怖かったのかな……」


背中合わせのフィーアの顔は見えないが、ノインは自身の思いを零す。言葉にして出せば出すだけ、ノインは体が軽くなるのを感じていた。

そして落ち着いて見つめなおすとノインはブルーメの皆を守ると誓っておきながら、彼らと仲間になる事を躊躇っていた自分がいる事に気付く、その理由の在りかは彼自身にもわからないのだが……


「それにちょっと焦っていたのかもしれない……交差点であいつと一人で闘って、瘴魔の強さや怖さを知って……皆が順応者だって聞いたから俺一人で闘わなきゃいけないって思っていた」


「……ノイン、それは傲慢です。 確かに私達は怪我が出来ませんし、前衛を任せるとは言いましたが決してそれは私達が闘わないというわけではありません……それに記憶の無いノインよりも瘴魔に関しては私達の方がプロです」


「ふふん」と胸を張るフィーアを見て、交差点であの瘴魔に植えつけられた絶望感や孤独感、そして何より恐怖が消えていくのを感じる。


「それじゃあ……ちょっくら力借りるわ……」


「……了解です、援護しますノイン!」


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