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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
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第一章5 『楯の作戦』

本日二本目です。

「(そうだ二人じゃない、彼女がいた。訓練が始まるまではしっかり意識していた存在だったのに、アインスとツヴァイの(・・・・・・・・・・)圧倒的な存在感(・・・・・・・)を前にすっかり意識の領域外に持っていかれた!!)」


ノインはアインスとツヴアイによって仕組まれた罠を瞬時に理解すると「クソッ! これが目的か!!」と口から零しながらフュンフを睨む。


「そういうことだァ、ノイン――俺達で仕留められればそれで良し、もし駄目な場合は存在を限りなく消した伏兵に任せるって筋書きだ」


ノインは短く舌打ちをする。


「(つまり二人はわざと俺を引き付けるように戦ったわけか……空中に追い詰めたりして俺の思考を二人に誘導し、最後の保険を最大限に活かせるようにしたわけだ――ひょっとしてツェーンが最初の奇襲で退場になっていなければ、あの存在感の塊のような子だ……彼女に囮をやってもらうつもりだったのかもしれないな……)」


現在ノインはアインスとツヴァイに後ろを、フュンフに前を遮られ、挟み撃ちの状況にある。そしてフュンフはノインの意識が外れている間にしっかりと裏に回りこみ狙いを定めている、この距離でまさか彼女が外す事はないだろう。


「まんまと二重の罠に嵌ったわけか……」


ノインは自身の状況を理解し呟く、フュンフが引鉄を引けばペイント弾はノインに当たり退場となってしまう、よってノインは状況打開の案を出すまでの時間を会話によって稼ぐ事にした。


「今回のノイン君の敗因はフィーアと攻めて来なかったことだね、いくら君の戦闘力が凄くても一人では限界がある。 君を退場させてフィーアを三人で狩って終わりだよ」


そうアインスが呟くと目の前のフュンフがノインにペイント弾を打ち込もうと引鉄に当てた指に力を込める。会話によって時間を稼ごうとしていたノインだったが、どうやらそうはさせてくれないらしい。


「うぅぅぅぅ……これで……終わりです……!」


そんな気弱なフュンフの言葉にノインはある一つの策を思い付く。それが正直うまくいくかと問われれば微妙な反応が返ってくるだろうが、窮地に追い込まれているノインにとって策を精査している(いとま)は無い。


ノインは力強く地面を蹴りフュンフの元に近づく、元々フュンフが撃った弾は確実にノインへと届く距離、それをつめるのはほんの一瞬のうちに終わった。


ノインはフュンフと体が接触しそうなほど近づくと、自身の顔をフュンフの顔に近づける。


「……あの……ノイン……さ……ん?」


戸惑いを隠せないフュンフを無視してノインはどんどん顔を彼女に近づける。お互いの唇があと一センチ程度で重なるところまで来るとフュンフは遂に限界を向えた。


「うぅぅぅ……ノイ……ン……さん……きゅぅ」


彼女は顔を真っ赤に染めて意識を落とす。ノインはそれを確認すると倒れこむ彼女の体を優しく抱きとめ、ゆっくりと地面に降ろす。


彼女が気絶する事によって落とした銃を遠くに足で蹴り捨(・・・・・・・・・・)てる(・・)と――すぐさま後ろに居る二人のちょうど間に最後の一発を発砲した。


「――ぐっ!!」


元々勝ちを確信していた二人の作戦にとってノインがフュンフを凌ぐというのは完全に予想外だった。ノインがフュンフの攻撃を回避した方法も方法だが、一番大きかったのは勝ちを疑っていないというところで、思わぬノインの反撃に二人は少し反応が遅れる。

しかし流石というべきか、普段から瘴魔との戦闘を経験している彼らにとって不測の事態というは別に珍しい事ではない。ちょうど彼ら二人を狙うようにノインが撃った弾に対してぎりぎり二人は、右と左に回避して別れた。


「(正直上手くいくかは分からなかったけど、なんとか成功してよかった。)」


ノインはさっきの作戦でフュンフに悪い事をしたなと思いながら左右に分かれた二人の左の方――アインスを狙う。


銃を振り回し格闘を行い、アインスを追い詰める。


「弾が無くたってこういう使い方が出来るだろ!」


「――成る程ね! 弾の無い銃でも確かに素手で格闘を挑むよりかはリーチも威力も出るからね」


アインスにペイント弾を撃つ余裕を与えないほど、一撃を入れたら瞬時に追撃を加えていく。後ろに居るツヴァイも当然注意しなければならない存在ではあるが、今アインスとノインとツヴァイは直線状に位置している――というよりかは直線状になるようにノインが立ち回っている。


「どうだツヴァイ! これなら誤射(フレンドリー・ファイア)の可能性が高くて発砲はできねえだろ!!」


ノインが狙ったのは誤射である。中央にノインが、そして三人が直線状に位置している関係上、ツヴァイが発砲する場合は当然ノインとアインスの方に撃つことになる。その上アインスからはノインが邪魔でツヴァイの様子を確認する事は容易ではない。もしツヴァイが撃った弾をノインが避けたら、もしくはツヴァイが撃ったタイミングでアインスがノインを振りきろうと大きく動いたら――どちらにせよこの位置関係ではツヴァイの誤射確率は高い。

それが理解できたからこそツヴァイも短く「チッ!!」と舌打ちをし、構えていた銃を下ろす。


ツヴァイが誤射すれば遂にノインとフィーアによる二対一となり、形勢は一気に逆転する。

だが幸いな事にノインの銃には最初の六発発砲に加え、先ほどの分断に用いた一発で合計七発となり弾が入っていない、だからこそ今アインスに近接格闘を挑んでいるわけである。つまりどうにかしてアインスとツヴァイが合流できれば彼らにとってこの危機は一気に好機へと転じる。加えるならノインが近接戦闘をしているのはアインスだけであるのだから、ツヴァイには策を練る時間がある。


「僕をツヴァイと合流させないつもりだね……でも!!」


アインスは地面を強く蹴り跳躍する。先程のノインのように空中に行くという事は、弾の回避が難しいという事だが――


「ノイン君みたいに僕には空中で弾を回避できないけれど、君は弾が入っていない銃しか持っていないのだから関係ないよね」


空中での弾の回避は難しい、だがそれは空中に居る人間に弾を撃つ人間が存在すればの話である。


「――させるかっ!!」


『飛び始めの今ならまだ間に合う!!』と判断し、ノインは空中に居るアインスの足を掴もうと手を伸ばすが、ノインの手がアインスを捕らえることはなかった、もっと正確に言えばアインスの足を掴もうと伸ばした手をノインは引かざるを得ない状況になったのだが……


「助かったよツヴァイ!!」


「――おう感謝しとけよ」


そうアインスが跳躍した事によって、ノインとアインスの重なりによる誤射の可能性が消えた。つまりツヴァイによる発砲がアインスを掴もうとするノインに襲いかかったのである。


「くそっ……もうちょいだったのに……」


ノインは自身の顔を滴る汗を手で拭う。そして汗を拭った手を銃の引鉄に戻した(・・・・・・・・・・)


「――ツヴァイ、ノイン君は僕達の想像よりも遥かに強いようだよ」


「ああ二対一でここまでおされれば流石にな」


再び睨み合いが訓練場を支配する。しかし先程とは違うのはノインが彼らに注意を惹かれたのではなく、彼らがノインに夢中に(・・・・・・・・・・)なってしまった(・・・・・・・)ところにある。つまり立場の逆転、今彼らはノインの圧倒的な力によって視野が狭まっていた。


だからこそノインは確信できた。


「(きっと……いや絶対にフィーアならこのタイミングで仕掛けてくる!!)」


フィーアに頼んだ援護のタイミングを確信したノインは自身の足を一歩、睨み合っている彼らの方に動かす。


「何か来る!! ツヴァイ注意を!」


「あいよぉ!」


見事に誘導された彼らに対してノインはお返しだと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて告げる――


「アインスとツヴァイもうちの相棒の事を忘れているんじゃない?――フィーア!!」


ノインの発言にアインスとツヴァイははっとし、思わずレンガの壁の方を見る。


「……残念ですが、アインスさんツヴァイさん――私は外しません!!」


そう言うとフィーアは引鉄に当てた指の力を強め一発のペイント弾(・・・・・・・・)を二人に発砲する。


「――しまった!!」


アインスとツヴァイがノインに自身を注目するように振舞ったように、ノインも彼らからフィーアの存在が薄れるように立ち振る舞った。しかしここまでフィーアが自身の存在を薄れさせることが出来たのは、ノインのピンチに対しても一切援護せず、また先程アインスが空中に居た隙を突かなかった事も大きく関係しているだろう。


完全に不意を突いたそのペイント弾を二人は紙一重で避ける。だがそれこそがノインの狙っていた二人の致命的なミス(・・・・・・)であった。


突然意識の領域外から飛んできたペイント弾を避ける事に、全神経を導入していた二人は、先程まで対峙していたノインから注意が一瞬だが完全に外れてしまった。


そしてなによりノインの持つ銃には弾(・・・・・・・・・・)が入っていないという(・・・・・・・・・・)思い込み(・・・・)が彼らに敗北を(もたら)した。


そうノインはフィーアの弾を避けたアインスとツヴァイにペイント弾を撃ち込んだのだった。




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