第一章4 『アトラクト』
「――なっ!!」
驚きの声と共に戦闘訓練が始まる。七発しかないペイント弾の内六発を戦闘開始時にノインは撃ったのだ、しかもノイン達にはフィーアも含めて十四発しか弾がない――つまり戦闘訓練開始と同時にほぼ半分の弾を消費した事になる。
「まさか……いきなり乱射してくるとはね」
「ああノインのやつ……大人しそうな顔して結構無茶なことしやがる」
近接格闘が認められているこの訓練で弾切れをおこしたところで確かに詰むことはない、しかし相手に近づかなければならない近接と、遠距離から攻撃を仕掛けられる銃とではどちらが有利かは明白である。しかも数が四対二であればなおさら……
ノインの開始直後撃ったペイント弾を三人は回避した、アインスとツヴァイは咄嗟に後ろに飛び退いて、フュンフはその身を低くして――そしてその場にはゴスロリの服をオレンジ色に染めたツェーンが立っていた。
「我眷属よ早速宴を…………って、なんじゃこれはぁぁぁぁああああ」
「ははは……ツェン坊には当たっちまったか」
「ノイン君の奇襲はある意味で成功したわけだ――まあツェーンの性格を考えると奇襲なんかなくても訓練開始時に真ん中で仁王立ちしてそうだけどね」
「違いねぇ――っと!!」
そんな雑談を交わすアインスとツヴァイの目が鋭く動くノインを捉える。ノインがそのまま近接格闘に移行する可能性を考え銃を構えたが、ノインは横に居たフィーアを脇に抱えてレンガの壁の後ろに隠れた。
乱れた呼吸を少し整え、奇襲の評価を行う。
「……ふぅ、まさかあの奇襲で一人削げるとは運が良かった」
「……あの、ノイン? 離してください」
「ああ悪い悪い」
脇に抱えられたまま不満を告げるフィーアの拘束を解く、身を低くしてレンガの壁に隠れているとフィーアから疑問が飛んできた。
「……それでノイン、あんなに弾を使ってこれからどうするつもりですか?」
「ああそれなんだけど――」
「……いえ愚問でした、ノインが必要なのはきっとコレですよね?」
そう言ってフィーアは自身のある物をノインに手渡す、その行為を見てノインは思わず目を丸くしてしまう。
「フィーア……打ち合わせたわけでもないのに俺の作戦解っていたのか?」
「……正直、戦闘開始時に弾を一発だけ残して全部撃つのには面を食らいましたが……冷静に考えればこれしかないかと。 ……それと昨日少し話しをしてノインの性格はある程度理解しましたし」
「この短い期間で? 相思相愛だな俺ら」
その言葉を聞いてフィーアが少し微妙な顔をする。
「……ノインずっと思っていたのですが、ノインは私と同じ匂いがするのに……どうしてそうやって『ブレる』のですか?」
「――え?」
フィーアの突然の言葉にノインは理解できないと顔で示す。
『フィーアが何を言っているのか理解できない……いや理解したくない……?』そんな感情がノインの胸の中を支配する。
自身を一瞬支配した不思議な感情に戸惑っているとフィーアが言葉を紡ぐ。
「……すみませんこんなときに話す事ではなかったですね。 この話しはまた今度するとして、時間も時間ですしノインはやくコレを受け取ってください」
「あ……あぁ、じゃあ俺の方も……」
フィーアの言葉に何か胸で思わない事がないわけではないような気がするが、とりあえず今は自身の考えている作戦をフィーアが理解しているとノインは確信し、フィーアの差し出したものを受け取り、代わりにノイン自身が持っているものフィーアに渡した。
「(この作戦が上手くいくは正直微妙なところだ……なによりフィーアが動いてくるタイミングが分からない上、それまで三人の猛攻に耐えなければならない。しかも壁に隠れてから少し時間が経っている……ひょっとするともうアインスあたりは気付いているか?)」
ノインは壁の端から少し顔を出すとそこではツェーンが「納得いかんのじゃぁぁぁ」と言いながら退場している姿を確認できた。相変わらずそんな姉に妹がオロオロして対応している。
「……ノイン、そろそろ出ないと時間的に気付かれてしまうかもしれません」
その光景を見たフィーアはどうやらノインと同じ意見を持ったようである。
「オッケー、援護のタイミングは任せたぜ」
「……了解です」
軽く拳と銃をフィーアと交え、ノインは壁から勢い良く飛びだす。壁を警戒していたアインスとツヴァイが構える。
「ツヴァイ――ノイン君が出てきた! フィーアは隠れたままだから気を付けながら対処を!」
「あいよ! まかしとけ」
ツヴァイが、一直線に彼らの元まで走るノインに対して銃を構え撃つ、飛んできたペイント弾をノインは姿勢を低くして躱す。
「当たんねえよ、そんな弾!」
「だろうと思ったぜ――だから……」
含むように言うツヴァイの雰囲気に何か有ると確信したノインは咄嗟に周囲を確認する。すると体勢を低くしたノインにアインスが発砲した。
「――おっと」
姿勢を低くしたまま地面を思いっきり蹴って跳躍する。するとアインスが放ったペイント弾はノインが居た場所をオレンジ色に染めた――だが……
「悪いねノイン君――君なら避けられると思っていたよ」
「――そうそう空中なら避けようがねぇもんなァ」
その発言でノインはしまったと心の中で呟く。確かに空中に飛び上がってしまっては、普通ならペイント弾を避ける術は無い。
「(先程のアインスの銃弾は無理してでも空中に飛びあがらず避けるべきだったか! やっぱり二人は厄介だな……単純に一対一とは警戒する事の多さと戦いの勝手が違う!!)」
ツヴァイがノインに向けてペイント弾を撃つ。しかしそのペイント弾を空中を蹴る事で回避し、その勢いのままアインスの上から踵落としをおみまいする。
「そんな馬鹿な!!」
アインスはノインの踵落としを自身の腕をクロスさせて防ぐ。そのままノインは空中で一回転し、二人とは十分な距離をとった。
「――オイオイオイ! なんだよ今の!?」
「さぁ……僕に聞かないでくれ、ちょっと予想外だった」
二人の驚いている姿を見ながらノインは思考を巡らせる。
「(今の一撃でフィーアの援護が入っていたら作戦は台無しになっていた……本当にナイス判断だよフィーア。さてとこいつら二人はどうしようか……)」
目でしっかりと二人を捉え、銃を握る。二対一である以上こちらが彼らに勝利するためには、隙を突くか奇策をめぐらすしかない。単純な力比べでは絶対に勝ち目がない事は『雨が降る日は天気が悪い』並みに明らかだ。
訓練場で両者の睨み合いが続く。ノインが自身の唇を少し舐め、銃を握る手に力を込める。兎に角二人の注意をもっと引き付けなければ……
そう考えたところでふと我に返った――
「ちょっと待て二人?」
ここに来てノインは自身の考えの違和感に気付く、その衝撃に思わずノインの動揺は言葉となって口から漏れる。
「まさかここまでとは思っていなかったが、保険をかけておいてよかったなアインス」
「ああ全くだよ」
二人の余裕な言葉に冷や汗を垂らしながらノインが後ろに振り向くと、そこには銃を構えたフュンフが立っていた。




