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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
第一章-前- 新東京
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第一章3 『戦闘訓練』

今回の話からやっと動き始めます。

訓練を行うにしても、訓練場の場所が分からないノインは広間から訓練場に移動するブルーメのメンバーの後ろに着いていくしかない。

先程知り合ったばかりの面々が扉から出ようとしているところで、ノインもその後を追うために歩みを進める。


「……ノイン」


まだ聞き慣れない自身の名前を告げられ、ノインは足を止める。その音がした方を見るとそこにはフィーアが立っていた。

無表情とは言わないまでも感情豊かではない彼女だが、ノインを引きとめたフィーアの表情にはステンドグラスを透った光の所為かやや陰が落ちている。そんな独特な表情にノインは思わず言葉が詰まる。


「……ノイン……ノインは……私を裏切りませんよね?」


返事を待つまでもなくフィーアから届けられたその音にノインは困惑を浮かべる。


「…………え?」


これがフィーアの言葉を受けて出たノインの音だった。


先程までとは打って変わって静寂に満たされた広間で二人は見つめ合う、何時の間にか広間には二人の人影しか見えない。

そんな静寂の糸を先に切ったのはフィーアだった。


「……いえすみません……馬鹿な事を聞きました、忘れてください」


そうフィーアは呟くと、朝の光に照らされた美しい茶色の髪を靡かせ訓練場へと足を進める。ちらりと横目で覗いたフィーアの表情は既に陰りを平常で覆い隠していた。

そんなフィーアの後ろ姿をノインはどこか寂しげに感じる。


フィーアにどんな過去があって、どんな意図で質問をしてきたのかは当然ノインには分からない。知り会ってからそこまで経っていない上、先程もちょっとした雑談を交わしたくらいである。裏切るどころかまだ仲間でもなく、顔見知りの関係とも言えるかもしれない。

――それでもノインには一つ約束できる事があった。


「――裏切らないよ」


「……はい?」


ノインが発した言葉によって訓練場に向うために運ばれていたフィーアの足は再びその歩みを止める。

フィーアがノインの方に振り返れば立場は逆転していた。真剣な眼差しのノインに射抜かれたフィーアは彼が続けるであろう言葉を待つ。


「正直フィーアの事は性格をはじめ何一つ俺にはまだ分かっちゃいない、自己紹介はし合ったけどそれで『はい、これから仲間です』とはならないだろうしな……結局そういうのは時間によってしか培えないんだと思う。 でもだからこそ一度出来てしまえば切りたくても切れないんだよ……」


そんな事を言うノインの眼差しは今フィーアではなく遠くを捉えていた、そんな様子にフィーアは「やっぱり同じなんだなと」心では思うが口には出さない。

斜め上から再びフィーアに眼差しが戻って来ると同時にノインは言葉を続ける。


「俺達には圧倒的に時間が足りない……信頼という面でも、それこそ仲間という面でも」


ノインの言葉にフィーアは少し表情を暗くするが、直ぐに納得でその表情を隠した。


フィーアにとってノインの考えは予想外ではなかった、つまりは『裏切る』という行為はそもそも仲間同士の間や一定の信頼で結ばれた人間の間に成り立つものであり、昨日連れて来られまだその前提にすら立てていない時間的弱者のノインにとっては裏切る、裏切らないの判断を下すのは早計だと言う事である。

加えて裏切ると一言で言っても、それに至った背景や心理などが普通はあるだろう。それを与えずにただ漠然と裏切るか否かを問われても答えられないのが当然である。


ノインの考えをある程度推測したフィーアは「そうですか」と適当に返し、この話題を打ち切ろうと試みるが、フィーアが発した言葉はノインの言葉で遮られる。


「時間は足らないし、これと言った信頼関係もない、でも……それでもこの先何が起きても……例えフィーアが俺を裏切っても、俺はフィーアを裏切らないことだけは約束するよ」


フィーアは――いや彼女に限らずブルーメのメンバーは既にノインにとって、信頼や仲間など一切関係なく裏切れないものとなっていた。その理由は、記憶を失った状態での唯一の知人という側面ももちろんあるが、どちらかと言うとノインがこの抵抗組織に入った動機にある。つまりノインにとっては所属していたであろう機関を捨ててまで、皆を守る事が出来る楯役を引き受けたのである、アインスやツヴァイは気にしなくて良いと言ったが、やはり命を救ってもらった恩義や記憶の無い自身の居所として、この短時間で最早ブルーメはノインにとって生きる目的そのものと化していた。

ブルーメ所属というステータスをノインから取り除けば、この新東京で記憶の無いノインなど風の前の塵、もしくは霞のように消えてしまうかもしれない。


簡単に言ってしまえばノインはブルーメに依存している、そんなノインの発言にフィーアは答える。


「……そうですか……まあ、期待せずに約束されときます」


フィーアはそう短く答えるとまた訓練場へと歩みを再開する。

すっかり訓練場に向かう事を忘れていたノインであったが、もうこの広間にはフィーアとノインしか残っていないため、慌ててノインは彼女を追う。


広間の扉に手をかけたところで不意に、隣に居るフィーアから不満が飛んだ。


「……というか、私が裏切るなんてありえないです」


「いやぁ解らないよ? 万が一って事がありえるじゃん?」


開かれた扉を通過し、先を歩くフィーアに続く。


「……いえ、ありえないです。 ……裏切りません」

「裏切る」


「……裏切りません」

「裏切る」













「裏切りません」

「裏切る」


そんな他愛ないやり取りをしながらフィーアとノインは朝の光が眩しく照らす広間の外へとその姿を消した。


◆◇◆◇◆◇


「それで? 戦闘訓練というのは、具体的に何をやるんだ?」


現在ノインが居るのは広間から出て直ぐの外だった。ここも魔業によって空気浄化が施されており、そこそこの広さを有している。


「ああ、これからやってもらうのは四対二の模擬戦だ、もっと言うならお前達9と4(ノインとフィーア)には1と2そして5と10アインス・ツヴァイ・フュンフ・ツェーンのチームと戦ってもらう――得物はコレだ」


そう言うヌルの横にはショットガンのように見える銃器が六丁用意されている。


「こいつは、七連射まで可能な銃型魔業でな……中にはペイント弾が入っている」


「成る程な! ペイント弾に当たった奴が失格って訳だな……面白れェ」


そう言うツヴァイの手には既に銃器が握られている。どうやら既に銃の感触を確かめているようだ。皆が銃器を手に取ろうと近づく中、アインスはヌルに疑問をぶつける。


「だけどヌル……少し戦力に差がありすぎじゃないか? ツヴァイはこう見えてもブルーメの中で最大戦力、まあノイン君は未知数としてフィーアはそこまで戦闘が出来るタイプじゃないだろう?」


「だからだよ……敢えてある程度戦力差がある状態で行う。 ノインの楯としての能力を見たい」


「了解……つまりヌルはノイン君に防戦しか、させる気はないわけだ」


ヌルとアインスがそんな話しをしているがそんな音はノインには届かず、その頃ノインは与えられた銃型の魔業に興味を示していた。


「なあなあ、この魔業どうやって使うんだ?」


きらきらとまるで新しい玩具でも与えられた子供のように目を輝かせたノインに対してツェーンが口を開く。


「全く……我眷属は仕方がないわね。 ここはこのツェーン様が特別に教えて――」


「通常の銃と同じです……そうですね引鉄(トリガー)を引けば弾が出ます」


「フィーア! さっきも言ったが口を挟んでくるでない!!」


茶髪の少女に説明を遮られた所為でゴスロリ少女はご立腹のようだ。


「お姉ちゃん……ノインさんが困ってるよぉ……」


言いあっている少女達を仲裁しようとオロオロする少女を見ていると後ろからツヴァイに声を掛けられる。


「実際のところ、お前の実戦経験ってどーよ?」


「いや、まだ正直分からないな……まああの瘴魔にはボコボコにされたけどな!」


瘴魔との戦闘の際に体は瘴魔の攻撃を的確に避け反撃を行っていたが、アレが生存本能から来る火事場の馬鹿力だったのか、はたまた記憶がなくなる前の瘴魔との戦いで養った経験から来ていたのかは今のノインにとっては判断しかねるところだ。


「動いていたら体が思いだすかもしれねぇし――とりあえず実践あるのみってやつか」


「多分そうなるだろうな」


命のやり取りが絡まない訓練ならば、火事場の馬鹿力が発動する事はないだろう。


そんな話しをしているとヌルとアインスが一緒に歩いて来る。


「さてと、さっきツヴァイも言っていたが、訓練はこの銃を使って行ってもらう。 基本的にペイント弾が付着したらそいつはその場で退場だ、そして最後にフィールドに残っていた者が所属しているチームの勝ちってわけだ」


「……基本的な退場の方法がペイント弾の付着なのは分かったです。 それでは例外は何ですか?」


ヌルの説明にフィーアが素早く切り込む。


「まさにフィーアの指摘通り、退場には例外が存在する。 その銃には七発のペイント弾しか装填されていない、弾の補填も行わない――つまり弾切れを起こす可能性がある、よって近接格闘で相手を気絶させてもその者は退場だ」


つまりは体にペイント弾が当たるか気絶するかで退場者が決まるデスマッチという事だ。弾の補充が出来ないという事はノイン達はフィーアを合わせて十四発、向こうは四人で二十八発な訳だが……


「……あのぅ……ヌルさん、それだとあまりにもノインさん達が不利なんじゃ……」


「まあそうだろうな、だからノイン達の方には壁を用意した」


そういってヌルの指さす先には腰位の高さ位に積み上がったレンガの壁があった。


「審判は私とゼクスそしてドライが行う」


「…………………………」


「ノインさ~ん! 記録は任せてください!」


ゼクスは相変わらず無口で、ドライはカメラをこちらに構えながら叫んでいる。


「ヌルよ早く始めようぞ! 我眷属の力、我は早く確認したいのじゃ!」


「ツェン坊の言う通りだぜ、さっさと始めようや」


「全く君達は……ノイン君達も準備はいいかな?」


アインスは訓練を始めたくてウズウズしている二人を尻目に尋ねる。


「ああ俺は大丈夫、魔業の使い方も何となく解った」


「……私も準備オッケーです」


そんな全員の状況を見てヌルが懐からコインを取り出す。


「いいか、このコインを弾いて地面に落ちたら訓練開始な、あんま無茶はすんなよ?」


「まあお互いよろしくね、ノイン君」


「うぅぅぅぅ、宜しくお願いしますぅ……」


「二人ともよろしく」


ヌルが親指にコインを乗せ軽く弾く、コインはキィンという音を立て空中を漂い、ある一定の軌跡を描く。


そしてそれが地面に着いたとき――即ち戦闘訓練が開始した瞬間、ノインは自身の手にしていた銃を四人めがけて六発撃ち込んだ。


戦闘訓練編開始です。

冒頭にもありましたが、まあ早い話がフィーア攻略編開始である。

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