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東京侵蝕  作者: 平山 ユウ
東京侵蝕-黒-(プロローグ)
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プロローグ1 『二番目の世界より』

初投稿ですがよろしくお願いします。

『東京』それは言わずと知れた日本の首都である。

そんな多くの人が住まう都市で厄災が起きたのが全ての始まりだった。

突如東京全土の地面から噴出した紫色の霧は、一日という僅かな時間でこの大都市を壊滅させた。

強い毒性を内包していたその霧は東京全土を侵蝕し、当時東京に居た大人を例外無く死に至らせた。また子供も少なくない被害を受け、後に厄災を生き延びた子供達はこの紫色の霧を畏怖を込めて『瘴気』と呼ぶようになった。


だが瘴気の噴出は厄災の序章に過ぎなかった。


この厄災の被害を加速させた背景には瘴気とは別に瘴気によって死に至った大人達の存在があった。瘴気に侵蝕された大人達は人として死んだ後に化け物として目覚め東京を跋扈した。厄介な事にこの化け物は生き残った子供達を喰らい、何の防衛手段も持ち合わせていない子供達はそれに抗う事は叶わなかった。結果として東京の人口は激減する事となる。この化け物は瘴気より生まれし魔物『瘴魔』と呼ばれ、いとも容易く人間が頂点と言うヒエラルキーを崩壊させた。


長い歴史が紡いだ東京は瘴気と瘴魔によって一瞬のうちに死の都市へと変貌したのである。


それでも生き残った子供達は多くの犠牲を払い、何とか瘴魔に対抗し得る力を見つけた。

生き残った者達で群れ、組織を造る事で失われていた秩序を徐々に取り戻していったのである。


そんな瘴気による厄災より約二年、死の都市『新東京』の傍らで一人の青年が眠っていた。

身を包む黒い和服には多くの破損が見られ、その破損箇所からは肌が覗いているが不思議と体には傷一つ付いていない。

星一つ無い夜空を思わせる程真っ黒な髪目掛けて風が吹きすさぶと、青年はゆっくりと瞼を開ける。

そこには髪と同様に幻想的な黒色をした目が儚げに揺れていた――


――夢を見ていた。

目が覚めるとそれは掴めないほど細かく霧散してしまったけれど、とにかく何か大切なことがあって、そしてそれを忘れた気がした。

朦朧としていた意識が完全に覚醒した頃にはそのことすら忘れたのだけれど。


「えっと…………ここは?」


見慣れない場所もとい空間に対して、そしてなにより自分が野外に居ることに対して違和感を覚えた青年は、起きて間もなく未だ活動の鈍い頭に活を入れ辺りの情報を集める。

目で見、耳で聴き、鼻で嗅ぐそうして自分の置かれた状況を把握しようと試みるが、先ず目から入ってきた情報に彼は他二つの情報を手に入れる余裕すら無くなるほど驚愕した。


辺りは瓦礫で覆われていた。まるで大地震などの自然災害の後のように辺りには生の気配が無い、寧ろ死の気配で満ちている。

紫色の霧が立ち込め、良く見れば自身の着ている服も破損が多い。目覚めたばかりの青年にとって解らないことが多すぎたが、ただ一点『自分が異常な状況下に居る』と言う事は容易に理解できた。


「一体何が……?」


右手で頭に触れ、目を閉じる。

息をゆっくりと吐いて自身の記憶にアクセスしようと試みるが、記憶の扉は頑丈かつ固く閉ざされていて、思い出すことは叶わなかった。

気付けば自身の最後の記憶さえ曖昧であり、自分が何者であるかも思いだせそうにない。


「俺って誰だ? いやそもそもこの状況が全く理解できないんだが!? 周辺紫の霧に囲まれた瓦礫地帯に放置されている俺ってどう言う事よ??」


青年の問いかけに返答する者など居ない、青年としては今の問いかけで自身の状況を説明してくれる人間が登場する事を期待していたのだが、その企みはまるで紙を丸めるかのように簡単に潰えた。


「これはアレか、ライトノベルの冒頭で良くある異世界召還ってやつか!」


自身の名前すら思いだす事を許可しない記憶の扉であったが、歩き方や、言語能力、どうでも良い記憶については失われてはいないようだった。ライトノベルの記憶についてはどうやらどうでも良い記憶に分類されているのであろう。


「これから勇者として俺がこの世界で大冒険を……って異世界召還にしたら適当すぎるだろ!? 王宮も俺を召還した奴も何処にも居ねぇし、そもそも勇者様記憶失っちゃってるんですけど!?」


誰に話すわけでもなく青年の独り言は続く。


「まぁ異世界召還の可能性は置いておいて、もっと現実的な原因としては夢か何かのゲームやイベントとかか?」


異世界召還を信じる程青年も夢を見る年齢では無い、当然経験してみたいと言う欲望はあるが……現在の状況がそれによって引き起こされている可能性は限りなく零に近いだろう。

とすると当然辿り着くのは文字通り夢かゲーム、何かのイベントくらいの物であり、その一つ一つを青年は検証していく事とする。


「先ずは夢って可能性だが、こんなリアルな夢みるか普通? 五感があまりにもしっかりし過ぎているし……頬は……うんやっぱり痛い」


そう言う青年の頬は薄い赤色に染まっている、良く夢と現実を区別する為に頬を抓る行為を行った結果だった。


「んじゃゲームは……ないなそもそもVRバーチャル・リアリティゲームをするヘッドセットがやっと家庭向けに販売されていたくらいだったはずだ、こんなリアルな仮想現実を造りだせる機械が出来上がっていたなら流石にニュースになっているだろ……見た感じステータスとかアイテム欄とか開けそうに無いし……」


青年は夢とゲームの可能性を即座に否定していく、当然残った最後の可能性に対しても同様に検証する。


「最後にイベントって可能性だが、イベントに参加する毎に記憶を奪われてたんじゃ堪ったもんじゃない……つか特定の記憶だけ無くすなんて技術的に無理だろう……となると一番楽なのは『知っている人に聞く』だな」


シンプルな答えに辿り着いた青年は一先ずの目標を『誰かと接触する』に定め、取りあえず移動する事とする。当然青年が先程検証した三つの可能性についても可能性は零に近いとは思っているがそれを断言できるだけの根拠は持ち合わせていない、だがどれも違う事を前提に、とる行動を慎重に選択した方が良いだろうと考えていた。


ふらつきながら立ち上がる。


青年の前に広がるのは瓦礫と紫の霧が覆う世界。


「おぉ……これは思ったより勇気がいるな……」


少し先の様子も霧に掻き消されている世界へ一歩踏み出す。

すると彼の足に何かがぶつかり金属音が響く、しかしその音は霧に吸収され長く響くことはなかった。


「……っと何だ?」


音が鳴った方に目を動かすとそこにはおそらく剣のような物があった。

おそらくと言うのはあまりにもその形状が特殊だった為である。(きっさき)や刀身、柄など間違いなく剣の要素はあるのだが、刀身の中央にはシリンダーのような物が装着されている。良く見れば鋩はマズルのようになっており、刀身もバレルのようになっている。簡単に言うならば剣とリボルバーを合体させたようなそんな奇妙な物が落ちていた。


「えっとこれは剣なのか、それとも銃なのか? まぁいいか、ひょっとしたら異世界召還の可能性に賭けて何があるか解らないから持っていく事にしよう……えっとそうだな名前は……剣銃(けんじゅう)でいいか」


酷いネーミングセンスと共に青年は自身の足元にあるソレを拾い上げる。クルクルと廻しある程度眺めた後、腰に引っ掛け歩みを再開した。

青年にとって使い方は一切不明だが、万が一の事態に備えて持っていて損はないだろう。剣の部分だけでも十分に役に立つそう考えた。全くの素人が剣を振って当たるとも思えないが……


服の袖で口を覆って瓦礫だらけの道を歩く。


「……マジでこの霧は一体なんだ??」


視界全体が紫に染まるほど濃い霧、理由も根拠も無いがこの霧は吸わない方がいい、そんな気が青年を支配していた。


瓦礫だらけの道を歩く。兎に角歩く。道中所々に建物が存在していたかのような痕があるが、それは既に瓦礫と化していて元の姿を想像する事はできない。


ただひたすらに青年はその足を前へと進めた。


三十分いや数時間は歩いただろうか、周辺の様子が変化する気配はない。進んでも進んでも都市は瓦礫一色。立ち込める紫色の霧は方向と時間を狂わせ、精神をまるで砂時計の砂が落ちるかのようにゆっくりと、しかし確実に磨り減らす。


取りあえず移動すれば誰かしらと接触できる甘く考えていた青年にとって誰とも会えないというこの状況は正気を遠慮なく削る。


他者との接触を絶たれるというだけで想像以上にその人間は脆くなる。加えて何も完全には把握出来ていない不安な状況下だ、ただ人と接触できないだけよりも精神にかかる負担は大きいだろう。


「誰か! 誰か居ないのか!?」


乱暴に言葉を吐き出す。しかし乱暴な声は霧の中に埋もれ、返ってきた返事は静寂だった。


「誰か! 誰でもいい…………だれか……」


返事は無いが叫び続ける、まるで世界に一人だけの様に感じられるほどの静寂と孤独、異常な周辺の状況、なにより自分が何者かもわからない程の記憶の欠如、それらは不安や恐怖となって彼の首を遠慮なく締め上げ、彼の体を蝕み侵蝕する。

叫び続けなければ正気を保っている自信はない。それはまるで足場の分からない暗闇の道を明かり無しで歩かされている気分。


混乱はもうすぐそこまで迫っていた。


目覚めたばかりの――異世界召還を疑っていた際の余裕は消え去り、必死で取り繕っていた青年の脆弱な部分が露になる。


そんなギリギリの精神状態で歩いていた青年は一際大きな交差点に辿り着く。錆付き朽ちた信号機から覗くダイオードが辺りを赤く不気味に照らしていた。


「返事を………………頼む……」


それはもはや祈りに近い、最早返事など青年は期待してはいなかった。

しかし孤独と恐怖に負けて膝を突きそうになったとき、青年の後ろで音が響く。音が響いたほうにすぐさま振り返るも立ち込める紫色の霧の所為でその姿を見ることは叶わないが、音の連続性から考えて生物の可能性が高いと判断する。暗闇の道を何時間も歩かされた後に突如もたらされた光に向かって、青年は無意識に走りよる。 


「よかった! その自分以外にはいないんじゃないかって。 ……それでここ――は?」


青年が走りよった所に居たのは人……とはとても呼べないようなものだった。


それは楕円形の塊であり、体の至るところから金属製の突起が出ていた。楕円の中央には人間の上半身のような物がぶら下がっていて、肌色と紫色が混ざったような色をしている。ぶら下がっていた人のような物の顔には既に目や鼻といった器官は存在せず、ただ中央に不敵な笑みを浮かべるかのように口角のつり上がった口が存在していた。口からは唾液ともとれるような液体が流れ出し地面に垂れる。気付けは、思わず鼻を覆いたくなるほどの悪臭を放っていた。楕円形の下に付いた無数の突起を細かく、器用に動かしソレは青年を捉えた。


「なんだよ……こんなの……マジで異世界召還だったのかよ……」


青年の頭は狂気と恐怖それに順ずるものに一瞬にして支配されていた。正常な状態を白だとするならば彼の頭は現在真っ黒、黒に黒を塗りたくってもこの色に到達できるか解らない。それほどに混乱し、動けないでいた。

だがそんな混乱しきった頭とは裏腹にどこかこの状況を冷静に見つめている自分の存在に青年は気付かない。


怪物がゆっくりと動く、悪臭が絶えず放たれる口の口角がより上がったような気がしたとき、黒に一瞬『生存本能』という白が混じり我に返った。


――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!

何が起こったのかは解らない、理解したくもない。しかし恐怖という槍で勢いよく貫かれた体は、ガクガクと震える体を無理矢理にでも殺し、足を先程まで居た交差点へと運ばせた。

そんな逃走を開始した青年をまるで餌見せられた動物のように怪物は追いかける。


「あぁクソ、クソったれ!! 実際に魔物が出てきてもビビッて震えて逃げるしか出来ねぇなんて!!」


青年は自身の腰にぶら下げていた剣銃を見て吐き捨てる。青年はコレを出合った誰かが友好的で無かった場合、そして万が一今回のコレが異世界召還で、もしそれで魔物と出くわして戦闘になった場合の自己防衛の為に持ってきた。だが実際に魔物に遭遇すると青年の体は自身の想像通りには動かず結果として全力の逃走を選んでいた。そもそも心の何処かで出くわす魔物はスライムやゴブリンと言った低級なもので、あんなにも恐ろしく常識の領域外に位置するものだとは思っていなかったのだった。


目覚めてからずっと立ち込めている紫色の霧は、青年の心を曇らすかのようにさらにその濃さを増す。視界不良の中瓦礫だらけの道を焦燥感に駆られて走る、結果として転倒するのは当然だった。

瓦礫の山から細く突き出された鋭い突起が転倒した体に何度もかする。全身が無数の軽い痛みに支配されたが、後ろに居るはずの絶対的な恐怖に比べれば、そんなことはもはやどうでもよかった。混乱と焦燥感によってもはや息を吸っているのか吐いているのかさえ解らない。


「…………クソッ!!」


自身の絶望的な状況を短く呪いながら体勢を立て直す。

追いつかれれば死ぬ、そんな確信が青年には在った。


転んだ事によって化け物は自分との距離を詰めただろうと考え、青年は状況の理解の為に顔をあげる。すると目の前にはもう怪物の口があった。


意見や誤字脱字などの指摘は厳しい物まで含めて随時募集中です。

2017/2/13 内容を大幅に改稿

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