残飯処理係
前原タツコ(37)はスゴーイ面食いのスゴーイ金持ち好きだ。
おまけにラブコメドラマや恋愛漫画のような出会いを求めている。
最近では巷で大人気の恋愛小説家、海女室ユカリにはまっている。
彼女の描く恋愛像は女子の心をぐんぐん槍でついてくる。
壁ドンならぬ、床ダンや、天井ババンなど新たなパターンを開発し、告白もタワーの上とかではなく、地底で行うなどそのぶっとび方がこの時代に新しい風を吹かせている。
次々に彼の書いた本はテレビドラマ化や映画化しており、正に一斉風靡とはこのことだろう。
タツコはそんな出会いを求めていた。
前原タツコ(40)
もう出会い方なんてどうでもよかった。
せめて……金持ちであったら嬉しいかな……
前原タツコ(43)
……もう誰でもいいから……私をもらってくれ……
横山タケトシ(45)
がりがりで笑わない。性格は悪く、無口。顔はもちろん悪い。
女嫌いで結婚なんかに興味はない。
だがそんなこと言ってられないある出来事がおこったのだ。
タケトシは結婚相談所へ来ていた。
「タイプは問いません。なるべく生き遅れで後がないタイプがいいです。金にがめつそうな。」
タツコとタケトシは相談所の紹介で出会った。
タツコはタケトシの印象は普通。
だがタケトシの台詞で最悪なものとなった。
「あんた……お金好きそうだね。性格も悪そうだ……美人じゃないし……なんの心配もなさそうだな。」
なんだこいつは!?失礼を通り越して性格が悪い。
だがタツコには思うことがあった。
海女室ユカリの書く小説でも出会いは大体最悪なシチュエーションだ。
ここから何か良い風に変わるかもしれない……
タケトシはとどめをさした……
「ムダに性欲も強そうだ……」
後がないタツコとタケトシは結婚した。
タケトシは結婚式を大袈裟にしたくないそうで、身内だけの和装のみだった。
人前で話すのも嫌いらしく、式の最中も一切話さず笑わず、出席者たちもどうしていいかわからなそうだった。
タツコは電車でタケトシの住む家へと向かった。
車内には新発売の小説(深夜3時のバンパイアラブ)の宣伝が書かれていた。
もちろん買いました。
タツコはタケトシと会話が続かず本を読み出した。
「……タツコ……」
ふいに話しかけてきた。
「なに?」
「本の世界みたいな恋がしたかった?」
急に何を言い出すのだ。
「ええ。かっこよくてお金持ちと、この本のような出会いをして結婚したかったです!」
正直に言ってやった……前からタケトシの態度にはイライラしていたのだ。
「…………がんばれ」
タツコは汗が止まらなかった。
目の前には築何十年経ったんだよというオンボロアパートが出てきた。
多くを望みすぎたのか……そのバチがこれか……
まるで(ゲゲゲの○○)みたいだ……
「2階へ上がれ」
タケトシの命令口調にイラつきながらも上へと上がる。
タケトシは部屋を案内した。
外は汚いけど中は…………もっと汚い。
こんなとこに2人で住めるのか?
だがそこには初めてのお互いの共通点があった。
それは本棚にあった。
「タケトシさん。海女室ユカリ読むの!?」
タケトシは無表情で「あんたより大ファンだ」
と呟いた。
「あーそーですか!」
相変わらず一言余計だ。何で結婚したんだろう……
「今……何でこんなやつと結婚したんだろう……て思ったか?」
超能力者か……まあこっちも態度を隠してないからね。
「ええ……思いましたよ!あなたが冷たいことばかり言うから!こんな年齢じゃなければ……あなたとなんか結婚してませんよ!」
タケトシはタツコを睨み付けじわじわと近付いてきた。
やばい……言い過ぎたか……
そしてお互いの顔が距離1cmとなったとき……
「……やっぱり思った通りだ……」
えっ…………!?
「僕は君を見たとき、僕なんか絶対好きにならないだろうと確信した……だから良かったんだ。」
……おまえなにいってんの?
「おまけにお金好きそうだから、金のために結婚しそうな感じだった。まさに探していたタイプだ。」
いい加減にしやがれ……
「人をなんだと思ってるの!?仮にも妻となった女にそんな言い方ないでしょ!!性格悪すぎますよ!!」
タケトシは財布から3万円取りだし、タツコに差し出した。
「どういうこと?」
「日給だ。これから1年間、妻として頑張れ。その後は好きにしろ。別れたくば離婚すればいい。」
……頭がおかしいのか……自分がおかしいのか……
タケトシの言う意味がわからない……
「最近実は男なんじゃないかとバレかけていた。誰も僕の正体を知らないからね。だからもしバレても君が代わりになってくれれば最高だ。」
正体?代わり?
「まさか自分の妻が僕の本を買ってるとは思わなかったよ……」
……まさか……
「はじめまして、海女室ユカリです。これからよろしく。」