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第三章 オフィーリア (1)

チェスターは、オフィーリア星系カーター代表の依頼で、部下と共にハインリヒ級軽巡航艦“プロテウス”に乗艦し、プロシオンに向かった。

そしてカーター代表の意外な程の丁重な受け入れに疑念を抱きます。

第三章 オフィーリア


(1)

 第一艦隊司令官チェスター・アーサー大将、主席参謀マクシミリアン・ヘンドル大佐、同副参謀ハロルド・ハーランド中佐、同副参謀カルビン・クーリッジが、ハインリヒ級軽巡航艦“プロテウス”に乗艦し、プロシオンに向かった。

 

二〇分後、航宙艦スロットの一つに入港するとチェスターは、司令シートからスコープビジョンに映るスロットの中を見た。

輸送艦が近付くとスロットの宇宙側のプレートが縦にスライドしていく。完全にプレートが開くとスロットの口の両脇から誘導ビームが出て、輸送艦の艦首に下側にあるレシーバがリンクすると輸送艦はゆっくりとスロットに入港して行った。

やがてチェスターが乗艦する軽巡航艦“プロテウス”の管制フロアでもプロシオンの宙港管制センターとのやり取りが聞こえ始め、スロットへの入港が始まった。

“やはり違う。アンドリューのドックヤードは、一隻毎ドームで覆われているとは言え、横並びに係留するが、オフィーリアは、円盤状のドックが階段状に球体に沿って構成されている。赤道部分が一番長い、航宙戦艦用で上下の極に行くほどに巡航戦艦、重巡航艦、軽巡航艦、駆逐艦、哨戒艦、輸送艦、そして民間艦艇になっている。

”チェスターが思いふけっていると艦長が、

「アーサー閣下、プロシオンに到着しました“そう言ってアンドリュー航宙軍式敬礼をした。

チェスターはそれを見て頷くと

「ご苦労」

そう言って司令シートを立ちあがった。


 スロットの横、ドックヤードからプレートブリッジが伸びると軽巡航艦“プロメテウス”の後部ハッチに接続された。

チェスターの前にあるドアの横のランプがレッドからグリーンに変わり、ドアが横にスライドして、目の前にプロシオンの入り口に入る通路が現れた。

チェスターとその一行がドックヤードに架かるプレートブリッジに姿を見せるとプロシオン側ドックヤードに第一艦隊旗艦シュバイツアーの司令フロアの3Dで見た三人の姿があった。

真ん中の男は、グリーンのスーツを着ている。横の背の高い男は紺のスーツだ。そして眼鏡をかけた横の女性だけは、華やかなレモンピンクのスーツに真っ白なハイヒールを履いていた。更に後ろに私服姿の数人の男女がいる。軍関係の人間はいないように見えた。

 チェスター達がプレートブリッジを降りていくと

「アーサー閣下。オフィーリア星系評議会代表リンドン・カーターです。ようこそオフィーリア星系へいらっしゃいました。オフィーリアを代表してお喜び申し上げます」

あまりの丁寧な言い方にチェスターは、少し“うがった思い”になったが、

「アンドリュー星系航宙軍大将チェスター・アーサーです。丁重なお迎えありがとうございます」

 そう言って、アンドリュー式敬礼をした。その姿を見たカーターは、両脇に立っている男と女を交互に見て右側に手を出しながら

「マサル・オオガキ評議会議員です。そしてこちらがエミ・カキモト評議会議員です」

そう言って笑顔を崩さずに紹介した。

チェスターと同じ位の背の高い男と、眼鏡をかけ少しきつい目をしたほっそりした女性を紹介されるとチェスターも同行させた参謀たちを紹介した。それが終わるとカーターは、

「アーサー閣下。ヤマモト代表と合流しましょう。申し訳ありませんが、あちらは大勢なので、こちらから出向いた方が早いので」

そう言って、少し目元を緩ますと先を歩いた。

チェスターはカーターの考えが読めずにいた。“どういうつもりだ。この男。今回の訪問はヤマモト代表が訪問団の代表だ。私はヤマモトの護衛としてきた軍人にすぎないはずだが、この男には、そう映っていないのか”そう思いながら、付いて行くとスロットの脇にあるドックヤードからドアを抜けたところで訪問団があふれていた。

 宙港の入出ゲートの待合室のような感じのスペースに訪問団はいた。チェスター達が、そのスペースに姿を現すとヤマモト代表が足早に歩いてきた。

「アーサー提督」

そう声をかけながら近付くヤマモトに少しだけ微笑むと隣に立っているカーターが、

「ヤマモト代表、アーサー閣下。本日は長い航宙でお疲れでしょう。ホテルで体を休めて頂きます。会談とセレモニーは明日からを予定しています」

そう言って微笑んだ。目が笑っていない。

“この男何を考えている”そう思いながらもヤマモト代表の顔を見ると確かに休ませた方が良い感じがした。頬が少し痩せていた。

“無理もないか。初めての星系間航宙だ”そう思うと

「カーター代表。ありがとうございます」

そう言ってカーターの顔を見た。


翌日、アーサーと警護の陸戦隊長ミュール少将と部下、主席参謀ヘンドル大佐、同副参謀ハーランド中佐、同副参謀クーリッジ中佐は、ヤマモト代表たちと一緒に、ホテルに迎えに来たオフィーリアのオオガキ評議会議員とともに会談の会場に向かった。

アーサーは、自分の反対側に座るヘンドル主席参謀に

「ヘンドル、外の景色は、我が星系とあまり変わらないな」

「そうですね。歩いている人達も非常に穏やかな感じを受けます。政治、経済ともに安定している証拠ではないでしょうか」

主席参謀の言葉に“確かにその通りだ。独自の軍事力、安定した経済力、そして星系内の民間船の航宙量。どれをとっても我が星系にも決して劣らない”。

 アーサーは、当然ながら盗聴されていることを前提に、同乗している参謀たちとオフィーリアの感想を他愛無い内容で話していた。


 一行を乗せた、エアカーは、前後に警護のセキュリティカーを同行しながら、ホテルのある商用区から政治経済の中心地区に移動して行くとやがて会場が見えて来た。プロシオンは球体形をしているとはいえ、平面を移動する限り、その形状は感じない。

セレモニー会場に着くとカーター代表の横に知らない顔の女性が立っていた。華やかな衣装もそうだが、独特の美しさを持つ女性だ。その横には明らかにその女性のセキュリティと思われる頑強な体の男が立っていた。

 エアカーから降りると

「アーサー提督。どうぞこちらへ」

と言って、カーター代表が、会場に案内した。カーターの横にいた女性も一緒にセレモニー会場に入って行った。


最初、オフィーリア星系を代表してカーターが開会の挨拶を行った後、アヤコ・ヤマモトが、挨拶を始めた。

「オフィーリア星系の代表の方、マリアルーテ星系の代表の方、私はアヤコ・ヤマモト。アンドリュー星系評議会代表です。そしてリギル星系、ペルリオン星系との星系連合体ユニオンの議長も務めています。私は、今回の会談を通じてオフィーリア星系、マリアルーテ星系にもこの星系連合体ユニオンに加盟して頂き、星系間貿易の拡大と経済の発展、全星系が団結することによる外部からの圧力に決して屈しない強くそして平和な世界を作りたいと思っております。・・」

カーターは、ヤマモトの挨拶を聞きながら“ヤマモト代表は、ユニオンを売り込み来たのか。我が星系は、ユニオンの力なぞ借りなくても十分に自治星系として生きていける。あの件さえ、片付けば”そう思いながら、ヤマモトの挨拶を顔の表面だけは、つくろいながら聞いていた。


アーサーは、二時間に亘る会議も終わり、ボディガード役のミュール他参謀たちと会場を出ると

「アーサー提督」

柔らかい歌声のような言葉に歩みを止めて振り返ると先程まで自分の隣に座る女性・・アデール・フォルテ・マリアルーテ王女。マリアルーテ星系王室第一皇女が立っていた。

 声をかけられた意味も分からないままに横に立つ屈強な男に視線を流し、特に自分に危害を加えるつもりでないことを感じると

「マリアルーテ王女、何か」

心の中が構えていることを出さないようにしながら返答すると

「提督、少しお話しする時間を取って頂けないでしょうか」

いきなりの言葉にアーサーは、一瞬躊躇したが、ヘンドル主席参謀に視線を流すと“ご用心下さい”と目が答えて来た。

 アーサーは、しっかりとそのエメラルド色の瞳を見つめながら

「宜しいですが」

そう言って目は笑わずに答えた。


「アーサー提督、我、マリアルーテ星系は、アンドリュー星系の様な強力な航宙軍を擁しておりません。幸い宙賊も少なく、それはオフィーリア星系も同じですが・・特に貿易を他星系と行うには、困りませんでした」

言葉を切ると

「しかし、ここ数年、オフィーリア星系跳躍点方面から見知らぬ艦艇が出没しています。それはオフィーリアの艦艇ではありません。その艦艇は、時として、我が星系内に侵入し、輸送艦や航宙駆逐艦を攻撃していきます。宙賊の様に物資を奪うということをしません。今は、致命的な被害は出ていませんが、このままでは、手の打ちようがないと考えています。オフィーリア星系もその正体を掴めずにいます」

再度言葉を切ると

「この状況にオフィーリア以外に貿易を行っているビジリア星系及カンドリア星系からもその正体を突き止めるよう催促が来ています。力を貸して頂けないでしょうか」

アーサーは、この王女の言葉を理解出来ないでいた。話が途切れたのを見計らって

「マリアルーテ王女。オフィーリア星系に依頼すればよろしいのではないですか。この星系は独自の技術力を持ち、星系内の治安も問題ないようですが。わざわざ、我が星系に依頼しなくても良いと思いますが」

「それが、・・オフィーリアの航宙軍では、その艦艇を捕えることが出来ないと言っています」

「艦艇を捕えることが出来ない」

意味不明な言葉に

「オフィーリア航宙軍は“ステルス機能ではないか”と言っています。しかし、航宙駆逐艦レベルの大きさの艦にステルス機能を搭載することは、オフィーリアの技術力では出来ません。故に正体が掴めないと言っています」

アーサーは、自星系内でオフィーリア方面跳躍点へ向かう途中、取り逃がした艦隊を思い出していた。


やがて同席しているヘンドル主席参謀に顔を向けた。ヘンドルは、アーサーからの視線に頷くと

「王女、私たちは、オフィーリア星系は入った時、情報を受けていない跳躍点を発見しました。我が星系方面跳躍点から見て四時方向です。その跳躍点の存在はご存知ですか」

顔を横に振り、知らないという顔をする王女にアーサーは、

「王女、いずれにしても我々だけで話しても仕方ありません。オフィーリア星系の評議会の人達とも一緒に話しましょう」

アーサーの言葉に不安を隠せないままにマリアルーテ王女は頷くと

「ヤマモト代表を通してカーター代表に話を通します」

その言葉に

「カーター代表は、アーサー提督に期待しています」

アーサーは、王女のこの言葉で、自航宙軍がこの星系に来てから取ったカーター代表の意図を理解出来たような気がした。


夕方の夕食会まではホテルに戻るつもりでいたアーサーは、“この星系内で安全に話せる場所は、宙港に係留している航宙駆逐艦プロメテウスだけだ”そう考えると、

「ヘンドル、代表団の護衛となる陸戦隊を除き、プロシオンにいる航宙軍全員をプロメテウスに戻るよう伝えてくれ」

「はっ」

ヘンドルはアーサーからの言葉に返事をすると、自身が持っているパッドに指示を入れ始めた。


「マリアルーテ王女は、うまく提督に話をしてくれたようだな」

「はい、上手く行ったようです」

「今回アンドリュー星系の訪問を許可したのは、あのヤマモトの演説を聞くためではない。彼の星系の軍事力と提督の手腕を期待しての事だ。残念ならが我が星系の力では、あの跳躍点から出没する艦艇を防ぐことが出来ない。アーサー提督一行が星系内を進宙中に彼の輩が攻撃を仕掛けてでもくれれば、お尻に火を付けるのは簡単だったが、流石にあれだけの艦隊を相手にする気にはならなかったのだろう」

「私もそう思います」

カーターは、アーサーのアンドリュー星系航宙軍の緊急招集の知らせを自分のオフィスでオオガキ委員とカキモト委員の二人を相手に話していた。

「さて、今晩の夕食会は楽しくなりそうだ」

口元を少し歪ませながらカーターは目元を緩ましていた。


「ヘンドル、どう思う、マリアルーテ王女の件と言い、カーター代表の対応と言い」

「司令官のお考えに間違いないと思います。カーター代表が我々の訪問を受け入れたのは、X1JPから現れる正体不明の艦隊の攻撃。願わくは、その跳躍点から現れる艦隊の捕獲と正体の判明」

「やはりお前もそう思うか」

「しかし、今回は、あくまで表敬訪問を目的とした艦隊編成です。未知の跳躍点の調査を行う為の編成になっておりません。特に訪問団が同行している以上、調査と対応は、今後の事と言うことにしてはどうでしょうか」

「その通りだ。オフィーリア星系やマリアルーテ星系の為に我が航宙軍を危険にさらす必要はない。我が星系内でオフィーリア星系方面跳躍点の監視を強化すればよい」

「では、ヤマモト代表には、私の方から伝えよう」

そこまで話をした時、

「提督、そろそろ時間です」

大将付武官オベロン中尉の言葉に

「そうか」

と言って、目元を緩ますと航宙駆逐艦プロメテウス内にある司令官公室の椅子を立った。


ヤマモト代表とカーター代表のやり取りでオフィーリア星系とマリアルーテ星系のユニオン加盟の一端を航宙軍に負わされたチェスターは、腹にたまるものがあります。そしてマリアルーテ王女からの依頼に、なぜという疑惑が浮かびます。

次回はマリアルーテ王女の想像もしなかった行動にチェスターが驚きます。

お楽しみに。

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