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第一章 チェスター・アーサー (4)

リギル星系跳躍点方面航路の哨戒から戻ったチェスターは、各艦隊の司令官をミランの自分のオフィスに招集した。そこでチェスターは、ペルリオン星系特殊部隊の捕捉をする為、ロベルトの第二艦隊を向かわせる。

第一章 チェスター・アーサー


(4)

 チェスターは、仮ドックからミランの航宙軍基地に戻ると各艦隊の司令官を自分のオフィスに招集した。

第二艦隊ロベルト・カーライル中将、第三艦隊ミハイル・マクギリアン中将、第四艦隊ロング・マクドールド中将である。チェスターは、全員の顔を見渡すと

「オベロン中尉、始めてくれ」

そう言うとオベロン中尉が、全員の座る円形のテーブルの中央にアンドリュー星系のマップが映し出された。やがて、星系全体を取り巻くカイパーベルトが映し出され、映像が全体的に少し上にせり出してきた。

ミールワッツ星系方面跳躍点とリギル星系方面跳躍点の中間付近のカイパーベルトの下が四次元メッシュのようになり、岩礁が精密に映し出されている。

チェスターは、四次元メッシュされたカイパーベルトの外側に少し不自然に膨らんでいる部分をレーザーポインタで示すと

「ここは、軽巡航艦二隻、駆逐艦四隻を破壊したペルリオン星系の特殊部隊と思われる宙賊が潜んでいる場所だ」

「特殊部隊」

ミハイルは思わず口にすると、一瞬でついこの前まで哨戒の任務に就いていた事を思いだした。

「閣下は、特殊部隊を宙賊と言われましたが・・」

“意味が分からない”と言う顔を第四艦隊司令マクドールド中将がすると

「そうだ。我が星系に何用が有って、あのような事態を引き起こすのか分からないが、我が軍に攻撃を仕掛けてくるのだ。ペルリオン星系軍とはっきり名乗ればよいが、身を伏せている以上、宙賊と呼ばずして何と呼ぶ」

意図的に強く宙賊と言った意味を理解した三艦隊の司令官の顔に緊張の色が走った。少し落ち着くのを待って

「ここの宙域を一個艦隊で四方から包囲し捕捉する。もし、抵抗するならば破壊してか構わない」

それを聞いた、第二艦隊司令官でチェスターの友人でもあるロベルト・カーライルが

「アーサー総司令官、宙賊の戦力はどの位ですか。宙賊に一個艦隊を差し向けるほどの事もないと思いますが」

「相手の戦力が分からない上、自爆もする連中だ。圧倒的戦力で降伏を呼びかける手もある。中途半端な戦力で向かうより簡単に片がつくだろう」

「宙賊を捕捉したとして、残った施設はどうしますか」

「ミュールの部隊を連れて行け。色々と得れる情報もあるだろう。調査が終わったらすべて破壊しろ」

そう言って、アーサーは、ロベルトの顔を見た。

 それから、二週間後、補給と整備を終えたロベルト・カーライル中将率いる第二艦隊は第二軍事衛星ケルトを発進した。


 カーライルは、一度ペルリオン星系跳躍点方面に進宙した。もし、ペルリオン星系特殊部隊が帰還途中であれば、捕捉する事ができる。

十一光時だが、星系内は、標準航宙隊形〇.一光速の為、カイパーベルトまで四日間。カーライルは、司令官シートに座り、スコープビジョンの右側に見える光学分析された各惑星の映像をみていた。

緑色に雲がかかる素敵な姿を見せる首都星オリオンが、艦隊の後ろに過ぎ去り映像から消えると、シートに座りながらアーサー大将のオフィスでの話を思い出していた。

「ロベルト、相手はペルリオン星系航宙軍だ。お前も知っている通り、かの第一次ミールワッツ攻防戦の時、彼らは、散々たる失態をしでかしたが、今回は様子が違う。特殊部隊を送り込んでいるのだろう」

一呼吸置くと

「降伏勧告をしても、まず従わないだろう。スパイ行為の処分は、決まっている。だから、敵を第二艦隊で完全な包囲網にして、逃げ場を閉ざして、包囲網を狭める作戦で行ってくれ。一隻も逃すな。もし、攻撃してくれば遠慮しなくていい。残骸と兵の躯をもってペルリオンの代表に勧告する」

「アーサー総司令官。了解しました」

ロベルトが、敬礼をしながら言うとチェスターが近付いてきて右手でロベルトの左肩に触れると視線を合わせた。そして

「頼むぞ」

とチェスターは言った。

“チェスターの言う通りになるだろうか。自爆も辞さない連中だ。最初から戦闘になるのではないか”そう思いながら資源惑星である褐色の大地の姿を見せる第五惑星バデスの姿を右舷前方に見ていた。


 第二艦隊が第二軍事衛星ケルトを発進してから四日が過ぎ、カイパーベルトの外側に出るとカーライルは、四つの分艦隊司令を司令官公室の3D映像で呼び出した。

映像の向こうで敬礼をする司令官達に答礼すると目の前に3Dメッシュで映る目標地点を示して

「ケルトで説明したが、もう一度確認する。私が率いる第一分艦隊は正面から接近する。

第二分艦隊はミールワッツ跳躍点方面から接近。第三分艦隊はカイパーベルトの上方より、そして第四分艦隊は下方より接近し、彼らの後方にカイパーベルトがあるようにすればよい」

レーザーポインタで四象限の中心部にあるペルリオン星系特殊部隊の位置を示した。

「完全な包囲網を形成後、包囲網を狭めていく。最初に降伏勧告を行う。できれば戦闘をしたくないが、相手の出方次第では、攻撃も許可する。第二分艦隊は、先行してミールワッツ跳躍点方面に回ってくれ」

「質問はあるか」

分艦隊司令全員の顔を見渡しながら言うと

「カーライル司令官、質問宜しいでしょうか」

第二分艦隊司令カール・マークス中将が声をかけた。カーライルは、顎を引いて許可の意思を伝えると

「敵は、突出して自爆する連中です。降伏と見せかけて同じ作戦を取るとも限りません。かといって、攻撃してこない艦が向かってきたからと言って一方的に攻撃を仕掛けるわけにはいきません。如何しますか」

「機関の停止を呼びかける。もし、動いた場合は、攻撃を許可する」

カーライルの言いように少し驚いた顔をしたが、

「分かりました」

とだけ返答した。


 カーライルが、ペルリオン星系特殊部隊の潜む宙域に進宙いている頃、アーサーは、オフィーリア星系への訪問の準備をしていた。

この訪問は、新型航宙戦艦マルドーク級と同じく新型航宙巡航戦艦エンリル級の遠征航宙訓練と新型ミレニアンXF-02の訓練も兼ねている。

 また、星系連合体ユニオン代表であり、アンドリュー星系代表のアヤコ・ヤマモト訪問代表として同行する。

本来、オブザーバー程度であれば、自分の艦に乗せればよいが、訪問団として代表の他、議員、民間企業代表など総勢三〇〇人もの人間が同行する為、輸送艦を代表団の施設として改造するという手の入れようだ。

アーサーは、“訪問するオフィーリア星系は友好的な星系であり、今回はマリアルーテ星系からも訪問団が来訪するという。まず戦闘になる状況はないが、ペルリオン星系特殊部隊の事もある。前回の哨戒の時のようなことがあると、訪問団が要らぬ事を言い出すかもしれない。ここは慎重に事を進めよう”第二軍事衛星ミランの航宙軍基地内にある自分のオフィスで壁に映るアンドリュー星系から、オフィーリア星系、そしてマリアルーテ星系に通じる航路を見ながら考えていた。

デスクの前のスクリーンの一部が光るとそのスクリーンにアンリ・オベロン中尉大将付武官の顔が現れた。

「アーサー閣下。ヤマモト代表から連絡が入っています。如何しますか」

アーサーは一瞬だけ考えると

「ヤマモト代表の連絡だ。つないでくれ」

そう言うと3D映像が映る方向を見た。


 カーライルが第二艦隊旗艦ランドルフのスコープビジョンで目的の宙域を捉え始めていた頃、ペルリオン星系特殊部隊が潜む岩礁帯では、

「大佐、ペルリオン星系跳躍点方面からカイパーベルトの外側を通る未確認の艦隊が、この宙域に向かって進宙していると第二監視ポイントから通信が入りました」

ペルリオン星系方面跳躍点から星系内に入らずカイパーベルトの外側を進宙しながら岩礁帯に隠れるように無人監視衛星を置いた。

表面は、周りにある岩礁とほとんど変わらない。岩礁に似せた外殻に食い込む様に姿勢制御スラスタを配置している。

周りの岩礁との間をセンサーで距離を確認しながら衝突しないように姿勢制御スラスタを吹かせるのだ。余程注意深く熱探知でも行わない限り、発見は不可能だ。

第二監視ポイントは自分たちの宙域から一五〇万キロの位置だ。宇宙では“すぐそこ”と言っても良い距離だ。

 “やはり見つかったか。すぐに撤収したいところだが、偵察に出ている艦もいる。まずはそれらを帰還させることだ。だが、間に合うか”そう考えながらもすぐに動かなければ包囲殲滅させられる可能性もあることを考えるとアウグラーゼはすぐに動いた。

 アウグラーゼ達の基地としている“岩礁もどき”は全部で一〇個、ヘーメラー級航宙駆逐艦二三隻、ビーンズ級哨戒艦二六隻、ビーンズ級高速補給艦九隻と特殊工作艦一〇隻を駐留させている。アンドリュー星系航宙軍のよって破壊された駆逐艦七隻と補給艦一隻、哨戒艦四隻を除く全てだ。

この中で更に現在、航宙駆逐艦八隻、哨戒艦八隻、補給艦二隻が、基地から離れ偵察活動に出ていた。


アウグラーゼは、残りの艦数で正規航宙軍一個艦隊に立ち向かう程、バカではない。すぐに撤収の準備を考え、副隊長のジョン・キャンベルを呼んだ。

「ジョン、アンドリュー星系軍に見つかったようだ。すぐに撤収する。連中は、包囲網で来るだろう。ここはカイパーベルトを抜け、星系内に入った後、跳躍点に進む。外に出ている」

「この基地は、どうしますか」

「土産を置いて行ってやれ。たっぷりとな」

特殊部隊副隊長ジョン・キャンベル中佐は、二メートルを超えるがっちりした体躯とスキンヘッドを揺らして笑うと

「了解しました」

と言った。

キャンベルは、すぐにオペレーションルームに行くと正面に映るそれぞれ一メートル四方の一〇面のスクリーンを見ながら口元にマイクを置くと

「全基地長および艦長に告ぐ。アンドリュー星系軍に見つかったようだ。まだ、第二監視ポイントだ。一時間はある。すぐに撤収の準備をしろ。撤収コマンドはマウス。基地は放棄。置き土産はバルーンだ。急げ」

アウグラーゼは、キャンベルの指示が出たのを待って、司令官シートの前にあるスクリーンパネルにタッチすると偵察に出ているもう一人の特殊部隊副隊長オーゼッフェル・カーペンターを呼び出した。二偵察隊を連れて出ている。数分後、目の前の3D映像にオーゼッフェルが現れた。

「大佐、何でしょうか」

「オーゼッフェル、アンドリュー星系軍にこの基地が見つかった。偵察活動は終了し、撤収する。既に第二監視ポイントまで連中は来ている。お前たちを待っている時間がない。お前たちは、カイパーベルトを迂回して星系内に入り、跳躍点に向かってくれ」

「はっ、了解しました」

オーゼッフェルは、敬礼をすると

「基地は如何するのでしょうか」

「撤収コマンド、マウスだ」

一瞬だけオーゼッフェルの眉間がよると

「危険だが仕方ない。我々を、カイパーベルトを背にさせて包囲網で来るだろう。一個艦隊では勝負にならない。もちろん置き土産はバルーンだ」

そう言って目元を歪めると映像が消えた。


 アウグラーゼが、カーペンターと話して一時間後、カーライル率いる第二艦隊の四つの分艦隊は、包囲網を完成させていた。その映像をスコープビジョンに収めたカーライルは、

「全艦、前進」

口元のマイクに静に言うと、その指示にゆっくりと全艦がペルリオン星系軍特殊部隊に近付き始めた時だった。

「カーライル司令官」

いきなりの声に

「マクレガー艦長、どうした」

「宙賊の基地から、艦が離れていきます。岩礁帯に向かっています」

「なにっ」

スコープビジョンには、確かに基地を離れた哨戒艦、駆逐艦、輸送艦が岩礁帯に向かって進み始めた」

“どういうつもりだ。自殺行為だ”艦の大きさを考えれば岩礁帯に入るのは、無謀としか言えなかった。岩礁の大きさは、一〇メートル程度の塵のような大きさから直径一〇キロを超える巨大な岩礁もある。

それらは、宇宙の物理法則に従い規則的に浮遊しているが、それを人類が理解するためには、その情報を集める必要がある。資源獲得の為の宙域にある岩礁の規則性は捉えるが、そこから離れている宙域では、特に情報はもっていない。

“連中は、この宙域の岩礁帯の規則性情報を持っているのか”そう思いながらも包囲網を縮小していると

「司令官如何しますか」

マクレガー艦長の声に

「全分艦隊、駆逐艦と軽巡航艦を先行させろ。機関停止を呼びかけさせる」

カーライルの指示に主席参謀が頷くとすぐに指示をスクリーンパネルに打ち込んだ。先頭に位置する駆逐艦から既に三〇万キロを切っている。重巡航艦でさえ、主砲射程内だ。


ペルリオン星系軍特殊部隊の基地としていた岩礁もどきまで各分艦隊の駆逐艦と軽巡航艦が三万キロまで近づいた時だった。一〇個の岩礁が突然爆発した。スコープビジョンが輝度を落としたが、もの凄い輝きに司令フロアにいた各管制官が顔をそむけた。

基地の爆破エネルギーは、先頭にいた航宙駆逐艦の前面シールドを直撃した。はじめ耐えていたシールドが、徐々に崩壊し始めると駆逐艦の前部にある八門のレールキャノンが崩れ始めた。そしてそれが崩壊すると一挙に艦内部をまるで真っ赤な鉄がスチールを溶かすように崩し始めた。数秒後、残ったのは、全長二五〇メートルのヘーメラー級航宙駆逐艦の残骸だった。最前面に進宙していた四分艦隊八隻が被害を受けた。撃沈にまでは至らないが、戦闘航行不能なのは誰の目にも分かった。

「くっ」

カーライルは、わき腹に熱い鉄の棒を差し込まれたような痛みを感じると

「主砲斉射」

ほんの少しの事だった。一六メートルメガ粒子砲を持つシャルンホルスト級航宙戦艦四〇隻、同じ荷電粒子砲をもつテルマー級巡航戦艦四〇隻、一〇メートル粒子砲を持つエリザベート級航宙母艦三二隻、そして八メートル級粒子砲を持つロックウッド級重巡航艦六四隻、ハインリヒ級軽巡航艦六四隻が、四方向から一斉にその主砲を発射した。

「ロベルト、一隻も逃すな」

その言葉がカーライルの脳裏に蘇った。巨大な束となった荷電粒子が四方向からペルリオン星系軍特殊部隊が逃げ込んだ岩礁帯に迫った。そして荷電粒子の束は、岩礁を完全に消滅させるとその周りにいたペルリオン星系軍特殊部隊の艦全てを飲み込んだ。


「アウグラーゼ大佐・・」

艦長が言うが早いか、アウグラーゼがその光を見た時、スコープビジョンが輝度を落とせないままに意識が消えていった。アウグラーゼが見た最初で最後の荷電粒子の正面からの光だった。そして後には、幅が三万キロあるカイパーベルトの岩礁帯の一角がまるで削り取ったように無くなった。

「カーペンター少佐、本隊、消滅しました」

左わき腹に強い痛みを覚えながらペルリオン星系特殊部隊副隊長オーゼッフェル・カーペンター少佐は、苦み虫を潰したような顔で

「大佐」

とだけ叫んだ。

 偵察行動に出ていたカーペンター率いる八隻の航宙駆逐艦、八隻の哨戒艦と二隻の補給艦は、アウグラーゼからの連絡に偵察行動を中止し、基地へ戻る為、偵察宙域から基地へ帰還する途中だった。

アウグラーゼからは、カイパーベルトを越え、ペルリオン星系に戻るように言われているが、生死を何十年も共にした上官、仲間を見捨てる気にはならなかった。だが、それが、カーペンターにとって、生死を分けた。

 ミールワッツ星系跳躍点方面に展開していたカール・マークス少将率いる第二艦隊第二分艦隊のレーダーは、カーペンターの艦隊を捉えていた。

「マークス司令、後方に敵艦の反応有り」

 その報告にマークスの動きは早かった。第二分艦隊をミールワッツ星系跳躍点方面に反転させるとカイパーベルトの上方と下方に網で展開するように分艦隊を進めた。

カーペンターの艦隊は、ミールワッツ跳躍点方面に進宙すれば、捕捉されるのは時間の問題。カイパーベルトを上下のいずれかに逃げて星系内に入ってからペルリオン星系跳躍点に向かうとカーペンターは考えた。

「全艦、最大艦速」

マークスの言葉に第二艦隊が転進、逃走するカーペンターの艦隊を追跡しようとする時だった。突然、第二艦隊の左舷前方が、スコープビジョンが輝度を落とさなければいけないほど輝いた。

「なんだ」

特殊部隊が設置した監視衛星全てが、まるで光り輝く星のように消滅した。一瞬の輝きだった。だが、カーペンターの艦隊の逃走を隠すほどではなかった。マークスは、第二分艦隊をカイパーベルトの上方向に向けると主砲を斉射した。

カーペンターが、自分の失態を気づいた時、ヘーメラー級航宙駆逐艦八隻、哨戒艦八隻と補給艦二隻は、その姿をデブリに変えていた。


ペルリオン星系特殊部隊を率いるアウグラーゼ大佐は、岩礁帯に逃げ込むという策を取った。その上、自分たちが基地としていた岩礁を爆破するという形で。結果的にチェスターの思惑通りにはいかず、ペルリオン星系特殊部隊は、第二艦隊により影も形もなく殲滅された。さて、次回は新しい章の始まりです。お楽しみに。

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