第一章 チェスター・アーサー (3)
アンドリュー星系軍が哨戒を兼ねた新型艦マルドーク級とエンリル級、そして新型航宙戦闘機XF-02のテストを行っていた時、リギル星系跳躍方面第二象限に現れた宙賊によって航宙駆逐艦四隻と軽巡航艦二隻を失った。チェスターは、ただならぬ事態を感じたが、正体が分からなくては打つ手もなく監視衛星のみを設置した。
第一章 チェスター・アーサー
(3)
「なんだと、宙賊に四隻の航宙駆逐艦と二隻の軽巡航艦がやられただと」
チェスターは、あまりにも信じられない第二分艦隊司令ハンス・オーゲフェル少将からの報告に眉間に皺を寄せながら
「オーゲッフェル、もう少し詳しく話してくれないか」
そう言って、3D空間ディスプレイに浮かぶ第二分艦隊司令官の顔を睨んだ。射すくめられた様に額に汗をかきながら
「はっ、向かわせた派遣艦隊からの報告では、機関停止を命じた後、いきなり輸送艦が突出して、この六隻の間に入った後、突然爆発したとのことです」
一度、オーゲッフェルは言葉を切ると
「その爆発は、航宙戦艦の爆発をも凌ぐ大きさだったということです。その爆発の後、離散する宙賊を追い、千キロの至近まで追いついたところで、いきなり反転し攻撃を仕掛けてきたと派遣艦隊司令官から報告が届いております」
「それで宙賊全艦を航宙戦艦の主砲で攻撃したというのか」
チェスターは“呆れるにもほどがある。千キロの至近で航宙戦艦の主砲で撃てば、相手が同クラスでも被害甚大だ。それを航宙駆逐艦ごときに撃つとは”そう思うと腹が立つ気にもならなかった。更に言い訳を続ける第二分艦隊司令官に
「もうよい、詳しい報告書を提出しろ。派遣艦隊司令官は自室にて謹慎。交代の者を立てろ」
そう言うとアンドリュー式敬礼で固まっている男が映し出されている3Dの映像を一方的に切った。
“しかし、正規軍であることは、分かっていたはず。航宙駆逐艦クラスを五隻も用意でき、輸送艦にそれだけの爆薬を詰める”、チェスターは、単なる宙賊ではないと思いながら、ある予感があった。
目の前にあるスクリーンパネルをタップするとリギル星系跳躍点方面付近のマップを出した。
惑星周回軌道の外を取り巻くカイパーベルトから約三光時にある跳躍点まで、あと三〇光分、最大艦速で五時間の距離であった。現在は、哨戒と訓練の為、艦隊の速度を〇.〇一光速まで落としていた。
チェスターは、跳躍点から星系内までの航路に設置されている監視衛星の位置を見ながら今回出現した宙賊の位置を見ていた。スクリーンには、第二象限を五万キロ単位でメッシュしたマップが現れている。
チェスターは、第二象限を更に四つの区画に分けたそれぞれの位置にマークをポイントするとそのスクリーンを閉じた。マークがスクリーンの右上に小さくなる。そして自分の左前方に座るウィリアム・タフト大佐に
「タフト艦長、オーゲッフェル少将を呼んでくれ」
と言った。一分も経たない内に目の前に3D映像が現れると
「オーゲッフェル、第二象限の今から送るポイントに監視衛星を設置しろ。パッシブモードだ」
そう言って、自分の前にあるスクリーンパネルの右上にあるマークをタップした。
第一艦隊が、その後、跳躍点まで到達すると大きく時計方向に転進しながら進宙した。
左舷に跳躍点のホールが見える。広大な宇宙では、目にも見えない小さなホールだが、そばで見えると何とも言えなかった。
周りが、オレンジとも赤とも言えない色がガス状に取り巻いている。そしてその外枠からホールの中心に向って青白と淡い白のガス状の帯が伸びている。中心の近くは光輝くような光と真っ暗な底なしの暗さが合成されたような不気味な雰囲気を漂わせていた。
“最初にこれを見つけた先人は、どの様に思ったのだろうか”、既に数千年前の発見を思いながら多元スペクトルスコープビジョンが映像分析をする跳躍点を見ていた。
やがて、反転し、跳躍点が艦隊の後方に来るとスコープビジョンにアンドリュー星系が映し出された。まだ、十分に距離がある。星系外縁部のカイパーベルトまで三光時ある。惑星周回軌道は更に一光時だ。チェスターは、スコープビジョンに映る自星系の美しい姿を見た。
それから二日間は、何もなかった。新型艦の操艦と主砲発射とFC-02新型ミレニアンの同時射出の訓練をしている時だった。
「アーサー総司令官、新たに設置した監視衛星が未確認艦を発見しました。位置は、まったく航路座標から離れた跳躍点方面、第二象限、航路座標アルファ90、ベータ210、ガンマ140から五万キロの位置です」
主席参謀マクシミリアン・ヘンドル大佐が言うとチェスターは、“やはりな”という思いでその言葉を受け止めた。タフト艦長が
「総司令官、いかがしますか。反転し捕えますか」
「いや、止めておこう。その距離では、我々が行く前にどこかに逃げ去っているだろう。今は、新型艦とXF-02新型ミレニアンの訓練を優先する」
そう言って、ヘンドル主席参謀とタフト艦長の顔を見た。
第一艦隊がリギル星系跳躍点方面からの星系内への哨戒を行っている頃、
「アウグラーゼ大佐、第一艦隊、星系方面から転進する様子がありません」
「そうか」
ヘーメラー級航宙駆逐艦五隻が、リギル星系方面跳躍点とアンドリュー星系を結ぶ航路より大きく外れた宙域で主エンジンを微速にしながら航路方面に進んでいた。
「アウグラーゼ大佐、第五哨戒艦からの報告です」
「回せ」
「はっ」
アテル・アウグラーゼ大佐は、参謀からの通信文が、司令官席の前にあるスクリーンに映し出されると、顎を左手で軽くなぜながら“やはりな。アンドリュー星系軍も遠征型航宙戦艦の開発を行っていたか。我が星系も急がねばならないな”そう考えながら艦長の顔を見ると
「艦長、基地に戻るぞ」
アウグラーゼの言葉に艦長は、
「はっ」
と答えると口元にあるマイクに向かって
「全艦、一八〇度回頭、基地に戻る」
その言葉にヘーメラー級航宙駆逐艦五隻が右舷方向に大きく転進した。
アンドリュー星系を取り巻くカイパーベルト(岩礁帯)は、整然と揃っているわけではない。カイパーベルトからはみ出している岩もある。その宙域に外部だけは岩礁を模した軽合金の巨大な簡易基地をつくり、周りの岩礁と同じような動きをさせるのである。よほどよく見なければ岩礁を模した隙間からスラスタが制御光を出していることなど気が付かない。
ペルリオン星系は、かのミールワッツ攻防戦による大きな痛手を被ったが、責任を取らされ予備役編入となった前ペルリオン星系艦隊司令長官に代わり、新たに艦隊総司令官となったベルハルト・ローエングリン中将の命によりアンドリュー星系の軍事力を調査すべく、ペルリオン星系特殊任務部隊アテル・アウグラーゼ大佐は、カイパーベルトの一角にある岩礁帯に前線基地を設け、そこからアンドリュー星系軍を調査していたのであった。
それだけに、アンドリュー星系軍に見つかった場合、自艦を爆破してでも正体を明かすわけにはいかなかった。大体は、攻撃を仕掛けることにより宙賊もどきになり、破壊の道を選んだが。
アウグラーゼは、今回の任務の為、ヘーメラー級航宙駆逐艦三〇隻、ビーンズ級哨戒艦三〇隻、ビーンズ級高速補給艦一〇隻と特殊工作艦一〇隻を連れてきていた。だがアンドリュー星系の哨戒に見つかり、駆逐艦七隻と補給艦一隻、哨戒艦四隻が破壊されていた。
「アーサー総司令官」
声の主の方向に顔を向ける主席参謀ヘンドル大佐が、
「わが軍の航宙駆逐艦五隻と軽巡航艦二隻を爆破した宙賊の艦の調査結果が出ました。転送します」
そう言ってヘンドルは自分のシートの前にあるスクリーンにタッチした。自分のスクリーンに送られてきた調査結果にチェスターは、唸ると
「主席参謀、これは事実か」
聞くまでもない言葉を発しながらスクリーンに映る情報を見ていた。
“ペルリオン星系軍”。チェスターは、今回の件は、リギル星系から侵入した特殊工作部隊の仕業と見ていた。ペルリオン星系跳躍点方面は、リギル跳躍点方面とは、アンドリュー恒星を中心にして正反対の位置にある。リギル星系方面跳躍点まで星系内を通らずに来るには、カイパーベルトの外を回ってミールワッツ星系方面跳躍点を越えなければならず、常識では考えられなかった。
チェスターは、その情報をスクリーンから消すと
「タフト艦長。私は自室に戻る。何かあれば連絡をくれ」
それだけ言うと、大将付武官アンリ・オベロン中尉を連れて司令フロアを出た。
チェスターは、司令官公室に戻るとオベロン中尉に目配せをした。オベロンは、チェスターの目を見ると円形のテーブルのそばにより、スクリーンパネルのグリーンの部分をタップした。
部屋の明るさが少しだけ輝度を落とすと、円形のテーブルの中心が少しだけ浮き、やがて中心に金色に輝くようにアンドリュー恒星が現れた。そしてそれを取り巻く八つの惑星が映し出される。各惑星の位置は、すべて現時点の惑星の位置だ。
更にその後に大きく外側を取り巻くカイパーベルトが、まるで岩礁一つ一つを模倣するように現れてきた。
今度は、リギル星系方面、ミールワッツ星系方面、オフィーリア星系方面、ペルリオン星系方面の跳躍点が現れてきた。
チェスターは、レザービームのスティックをペルリオン星系方面跳躍点に当てるとそのまま時計方向にゆっくりとレーザーの当たるポイントをずらした。ポイントされている先には、光分がもの凄いスピードで動いていく。
ミールワッツ星系跳躍点を過ぎ、リギル星系までたどり着くとポインティングしている先の光分を表す数字にチェスターは、少しだけ眉間に皺よせると、腕を組んだ。
オベロン中尉は、チェスターの顔を見ながら
「拡大しますか。閣下」
「いや、いい。星系中心部からリギル星系方面第二象限の四次元メッシュを出してくれ」
「はっ」
と答えるとオベロン中尉は、スクリーンパネルにある、ポインティングでアンドリュー星系を上にあげ、第二象限がチェスターから垂直に正面から見るようにした。
“なるほどな”と思うと、チェスターは、一点を見た。
チェスターは、目の前にある、空間のメッシュのカイパーベルトの方向を見た。カイパーベルトの下、惑星周回軌道上から方向からちょうど死角になる位置に不自然に外側に広がる部分を見つけた。そして何か理解したように唇を右に歪めると
「オベロン中尉、十分だ。消してくれ」
そう言って大将付武官に目配せした。チェスターは、司令フロアに戻ると
「ヘンドル主席参謀」
総司令官からの声に、シートを立って右後ろに振り向いて敬礼をしながら
「はっ」
と言うと
「今すぐ、全艦のエネルギー残量を報告してくれ」
「分かりました」
と言うとすぐにヘンドルは自分のシートの前にあるスクリーンパネルに打ち込んだ。
五分後、自分の右後ろの司令官席に座るアーサーに
「アーサー総司令官、まとまりました。すぐにスクリーンパネルに送ります」
航宙戦艦 エネルギー残量 五〇パーセント
航宙巡航戦艦 エネルギー残量 五五パーセント
航宙母艦 エネルギー残量 五〇パーセント
航宙重巡航艦 エネルギー残量 五五パーセント
航宙軽巡航艦 エネルギー残量 五〇パーセント
航宙駆逐艦 エネルギー残量 四五パーセント
哨戒艦 エネルギー残量 四〇パーセント
補給艦 エネルギー残量 六〇パーセント
チェスターは、この数値を確認すると自分の前にあるスクリーンパネルの数値をウィリアム・タフト大佐に送り
「タフト艦長、全艦のエネルギー残量でリギル星系跳躍点方面まで戻り、カイパーベルトを時計方向に二百万キロ移動できるか。
総司令官からの声に立ち上がり振り向くとチェスターの意図が分かったタフトは、
「アーサー総司令官、往復だけなら行えますが、戦闘行動に出た場合、エネルギーの消耗が激しくなり、ミランまで帰還できません」
艦長の言葉にうなずくと
「では、このまま進む」
と言って第一艦隊を進駐させた。
第一軍事衛星ミラン・・直径八キロ、厚さ二キロの円盤形の軍事要塞である。第一艦隊が駐留している。円盤の上部外側は特殊軽合金クリスタルパネルで覆われておりその中に要塞に住む人々の空気、水、食料をまかなってくれる五〇キロ平方にも渡る広大な牧草地帯、田園風景が広がっている。
軍艦艇は円盤の外側から順に航宙戦艦、航宙母艦が第一層、航宙巡航戦艦、航宙重巡航艦が第二層、航宙軽巡航艦、航宙駆逐艦が第三層、そして第四層が哨戒艦、特設艦、工作艦、補給艦、強襲揚陸艦のドックヤードになっている。
ドックヤードは円盤の外周部から二キロまでとなっており、その内側直系六キロを円盤の外側から居住地区、商用地区、工業地区、資材地区と順に中心部に向かっている。居住地区が一番外側なのは、円盤の外にある田園地区が居住者の公園兼用しているのは言うまでもない。
そして円盤の中心分にこの軍事衛星の心臓部とも呼ぶエネルギープラントとグラビティユニットがある。核融合エネルギーによって生み出されるエネルギーは半永久的に運用でき、この衛星が完全な自給自足の衛星であることを物語っている。
その第一軍事衛星ミランをスコープビジョンに捉えていた。ミランから五〇〇キロには、マルドーク級航宙戦艦とエンリル級航宙巡航戦艦の仮ドックがある。
チェスターは、第四惑星カミューを右に見ながら司令官公室で見たアンドリュー星系図を思い出していた。“オフィーリアに行く前には片づけなくてはならない。しかし、なぜペルリオン星系軍が、あのような行動に出る。我が星系とは同盟関係にあるはずだ”そう考えながら目の前に近付いてきたミランを見ていた。
やがて、標準航宙隊形をとっていた第一艦隊は、航宙戦艦、航宙巡航戦艦はそのままに、
重巡航艦、軽巡航艦、哨戒艦、補給艦が、第二層、第三層に下がっていく。艦隊を前方から見れば階段状になっている。その各階が今度は両脇にいる艦から一隻ずつスラスタを吹かせながら扇状に展開し、自分のドックヤードの前に移動した。
チェスターは、その姿を確認するとヘッドセットからコムを口元にして
「第一軍事衛星宙港中央センター、こちらアンドリュー星系航宙軍第一艦隊司令官チェスター・アーサー大将、入港許可を申請する」
少しのラグの後、
「こちら第一軍事衛星宙港中央センター、第一艦隊の入港を許可する。各艦は各層の宙港センターの指示に従い入港せよ」
その指示に各艦が入港を始めた。チェスターの乗艦しているマルドーク級航宙戦艦は、ミランの宙港には係留できないため、仮ドックに向かった。
やがて第一艦隊旗艦シュバイツアーが、自艦を係留する位置にくると、仮ドックから骨のように伸びているドックヤードの宇宙側両脇から誘導ビームが伸びてきた。
その誘導ビームをシュバイツアーの艦前部にあるキャッチャーが捉えるとシュバイツアーが、ゆっくりと大きく宇宙側に開いているドックに入港して行く。
チェスターは、司令官シートに座りながら、その映像を見ていると、やがてシュバイツアーがランチャーロックにつながれる少しのショックを体に感じた。そして目の前のスコープビジョンが、真っ白くなると宇宙側のドームが閉まった。ウィリアム・タフト艦長が振り返り
「アーサー総司令官、旗艦シュバイツアー、第一軍事衛星ミラン仮ドックに帰還しました」
と言って敬礼をした。チェスターは、目元を少しだけ緩ませてて答礼をしながら
「ご苦労」
と言うと司令官席を立った。タフトはその姿を見るとまた、管制フロア方向に体を戻し
「各管制官、ファイアープレイスロック、ダブルチェック後、コントロールを宙港に移管しろ」
そう言って、管制フロアを見た。
チェスターは、破壊した宙賊の残骸からそれがペルリオン星系軍のものと分かると第二象限のカイパーベルト付近を疑ったが、各艦のエネルギー残量の考えるとそのことは、一度帰還してから改めて対応することにした。
アンドリュー星系に侵入したのはペルリオン星系軍アウグラーゼ大佐率いる特殊任務部隊だった。目的は、アンドリュー星系の軍事力を知ること。カイパーベルトの岩礁に紛れて潜伏し偵察活動を行う特殊部隊だったが。
次回もお楽しみに。




