第一章 チェスター・アーサー (2)
アンドリュー星系は、シャルンホルスト級航宙戦艦に代わるマルドーク級航宙戦艦とテルマー級巡航戦艦に代わるエンリル級巡航戦艦をリギル星系からの技術供与によって開発した。航宙戦艦と航宙母艦の二つの機能を持たせた遠征型航宙戦艦だ。
その新型艦のテストが始まっていた。
第一章 チェスター・アーサー
(2)
「本当に大きな艦だな」
ミランから五〇キロ離れ、ミランの反対方向に骨のように片側二〇本、一本あたり全長七五〇メートル、全幅四五〇メートル、全高二五〇メートルのドームが、一〇〇メートルの間隔で伸びている。
そして左右に出ているドームの中心を直径二五〇メートル、全長一一キロの筒が通っており、ミラン側に連絡艇が着岸できるオフィス棟、一片が五〇〇メートルの直方体が付いている。見ていると直方体を頭にした巨大な魚の骨に見えるのだ。
第一軍事衛星ミランの宙港では、係留できないアンドリュー星系航宙軍の新型艦マルドーク級航宙戦艦とエンリル級航宙巡航戦艦をこの仮ドックで係留している。この仮ドックにチェスターは、大将付き武官と共に来ていた。
マルドーク級航宙戦艦・・リギル星系より技術供与された最新鋭艦である。全長六六〇メートル、全高一五〇メートル、全幅三三〇メートルの巨大戦艦である。特筆すべきは、艦本体に横付けされたミレニアンの発着層で、片舷だけで全長二〇〇メートル全幅九〇メートル、戦闘機ミレニアンを四〇機搭載し、同時射出二〇機が可能である。
シャルンホルスト級航宙戦艦が全長五五〇メートル、全幅一八〇メートル、全高一〇〇メートルであることからすると二回り以上大きい。特に全幅は二倍の大きさだ。
更に、主砲は自星系が実用化した回転型メガ粒子砲。一砲塔に一二メートルメガ粒子砲二門として前部に背負い式に二砲塔、後部に一砲塔搭載している。
艦側面には、引き込み型レールキャノンを片舷一六門装備し、長距離ミサイル発射管も片舷だけで前部四門、後部四門、中距離ミサイル発射管も同数配置している。その他にもアンチミサイル発射管を片舷一二門配置している。
レーダーも従来型と大きく異なる。従来型は、艦の上下方向に板のような形のレーダーが艦の中央に配置されていたが、新型艦では、艦の最上部構造に横に羽のように左右に伸びている。大型戦艦の能力をそのままに航宙空母の機能も備えた遠征型航宙戦艦である。
エンリル級航宙巡航戦艦、マルドーク級航宙戦艦を一回り小さくした仕様である。全長六〇〇メートル、全高一三〇メートル、全幅三〇〇メートルの巨大巡航戦艦である。但し、艦速が航宙戦艦より早く、従来最大艦速〇.五光速を〇.六光速まで伸ばしている。
テルマー級巡航戦艦が全長五〇〇メートル、全幅一七〇メートル、全高一〇〇メートルであることからするとやはり二回り以上大きい。
そしてマルドーク級航宙戦艦とエンリル級航宙巡航戦艦用に開発されたミレニアンの新型機“XF-02”が有った。
仮ドックに来ている航宙軍開発センター長ヤマネ大佐に
「公試運転は順調だと聞いている。三ヵ月後に予定されているオフィーリア星系への表敬訪問に何隻向わせる事が出来る。また新型ミレニアンXF-02の方はどうだ」
「はっ、アーサー提督。オフィーリア星系表敬訪問時、用意できる艦数はマルドーク級航宙戦艦一〇隻、エンリル級航宙巡航戦艦が同数の一〇隻です。XF-02は、全艦載の一隻あたり四〇機、合計八〇〇機を予定しています」
そこまで言った後、ヤマネ大佐は、チェスターの顔から一度視線を外すと
「しかし、パイロットの旧型ミレニアンからの換装が間に合わず、表敬訪問時も訓練ということになります。もちろん、訪問前にも十分に訓練を積む予定ですが」
チェスターは、仕方ないという顔をしながら
「分った。開発センターからは誰が同行するのか」
「はっ、私ヤマネと技術官としてタカギ主任技術員、ヨコタ副主任技術員が同行する予定です」
「閣下、これから内部の説明に入りたいと思います」
その言葉に頷くと中将時代から付き添う大将付武官アンリ・オベロン中尉の顔を見た。オベロン中尉は、中将時代から付き添うチェスターの表情に意味を取ると
「閣下、一時間後、カーライル中将との会議が予定されています」
そう言ってチェスターの顔を見た。
「そうか、ヤマネ大佐、早く内部説明を聞こうか」
チェスターは、ヤマネ開発センター長の顔を見ると暗に“だらだら説明せずに早くしろ”と促した。
新型ミレニアンXF-02を覆うシールドが完全に塞がれると目の前にあるランプがグリーンに光った。
「R1Gカジオカ大佐。発進準備完了」
「エアロック解除。カジオカ大佐、射出」
聞きなれた声を耳元にしながら第一艦隊第一分艦隊(R1G)航宙戦隊長は、強烈なダウンフォースを体に感じながらマルドーク級新型航宙戦艦シュバイツアーを離れた。自身の機の計器がオールグリーンであることを確認すると
「モンティ、ガートン、ヨコイ、マエダ。発進したか」
「モンティ中隊発進しました」
「ガートン中隊発進しました」
「ヨコイ中隊発進しました」
「マエダ中隊発進しました」
「よし、予定の訓練に入る。全機右舷二時方向に上昇」
そう言うとカジオカは、意識を右舷二時方向に移した。急激な可動と共に強烈なフォースを体に感じながら上昇した。
新型ミレニアンXF-02・・全長一〇メートル、全高三メートル、全幅八メートル、従来型と大きく違うのは、〇.八メートル荷電粒子砲を両舷に二門ずつ装備し、その後ろに片舷五発の小型ミサイル発射管を装備した事だ。これにより両幅が少し広がった。粒子砲四門は、ミルファク星系の新型戦闘機FC38アトラスの倍である。
更に小型ミサイル発射管を装備することにより、従来、戦闘型と雷撃型に分かれていた運用を一つの機体で可能になったことだ。だが、従来と装備が異なる為、搭載可能な艦は、今のところ新型航宙戦艦マルドーク級と航宙巡航戦艦エンリル級に限られている。
カジオカは、四つの中隊に分けた全八〇機を引き連れ右舷二時方向に一万キロ程上昇したところで水平に戻した。もっとも宇宙では縦も横もないが。
宇宙空間における方向があるのは、星系内だけだ。恒星を中心に惑星公転周回軌道を水準面として惑星軌道側を上、反対側を下として右舷、左舷は自艦の進行方向に対して右と左だ。
星系内は、常に右側通行であり、一航路内では、前方に艦が見えた場合、常に相手を自艦の左にすれ違う。跳躍点方面に対しても右側通行となる。
カジオカは、新型艦でこれらの航路を離れた後、練習宙域まで来ていた。すでにダミーの戦闘艦や自動機動しているダミーのミレニアンが周回している。カジオカの第一分艦隊航宙戦闘機部隊が宙域に到着するとヘルメットに内蔵されたスピーカーから“カジオカ大佐、開始します”と流れてきた。カジオカは
「了解」
と返答すると
「全機、戦闘訓練に入る。中隊毎に散開」
それを聞いたモンティ中佐、ガートン中佐、ヨコイ中佐、マエダ中佐率いる二〇機毎の各中隊は散開すると、ダミーミレニアンに向かって弾き飛ばされたように突き進んだ。
各中隊は、三機を小隊として六小隊、そして中隊長と副隊長が二機を一組として、自らも攻撃を行いながらも中隊全機の動きを監視している。
カジオカは、僚機のルミナ・オカノ少佐と共にヘッドアップディスプレイに移る小さな赤い光点を、見つけると
「オカノ」
ヘルメット一体型のマイクに叫ぶと二機は、前方から向かってくる・・と言っても距離は一千キロ以上離れている。視認している訳ではない・・赤い光点に片弦に二門装備されている荷電粒子砲を発射させ、カジオカは左舷にオカノは右舷上方に機を向けた。直後、いままで二機がいた宙域に緑色のダミー粒子が通り過ぎた。
“危ない、危ない”そう思いながら、ヘッドアップディスプレイに映る赤い小さな光点が消えると分艦隊全機の状況を見た。ディスプレイに全機が映っているのを確認すると
「各中隊、前方に展開する戦闘艦を攻撃」
マイクに叫びながらディスプレイに映るやや大きな赤い光点を目指した。
チェスターは、管制フロア全面にある巨大なスコープビジョンの右上に映る第一分艦隊の航宙戦闘機部隊の動きを見ていた。
頭の中で“カジオカの部隊は問題なさそうだ。だが、第三、第四分艦隊の戦闘機部隊が、まだだ。ダミーミレニアンに撃ち落とされるようでは・・”そう思いながら航宙軍開発センター長のマトメ大佐の言葉を思い出していた。
“今回開発したXF-02新型ミレニアンは、パイロットの思考を読み取り、機を動かします。脳への負担があるわけではないですが、思考回路の動きがすばやくないと機の動きもそれなりの動きになります。パイロットを選ぶ機体です”
“確かにな。第三、第四分艦隊の戦闘機部隊の中でも動きの素早い機も多い。一部のパイロットの動きが遅いだけだ。戦闘機部隊の編成を変える必要があるな”
そんな考えをしている時、
「総司令官、左舷九時方向五万キロに宙賊です」
シャルンホルスト級航宙戦艦マリアの時から一緒にいるウイリアム・タフト艦長の言葉が、耳に入った。
「宙賊」
訓練と言っても宙賊の哨戒活動の一環の中で行っている。リギル星系方面跳躍点方向分艦隊を4つに展開させながら行っている。方向は、第二分艦隊が展開している方向だ。
アーサーはヘッドセットのマイクを口元にすると第二分艦隊司令ハンス・オーゲフェル少将を呼び出した。数秒後、目の前の3Dスクリーンに映るオーゲフェル少将に
「オーゲフェル、左舷九時方向五万キロに宙賊がいる。対処してくれ」
「はっ」
アンドリュー航宙軍式敬礼をしながら言うと3Dが消えた。
オーゲフェルは、アーサー総司令官からの指示に“この訓練中に見つかるとは、運の悪い宙賊だ”そう思いながらマイクを口元にすると第一、第二分艦隊の航宙戦闘機部隊をまとめるカール・パイツアー准将に
「現在訓練中の第二分艦隊のヤン・カッツエル航宙機戦闘機部隊を途中で帰艦させエネルギー補給を行った後、待機。必要に応じて出動させる」
目の前の3Dに映るパイツアー准将に言うと視線をスコープビジョンに戻した。
第二分艦隊に所属するマルドーク級航宙戦艦二隻、シャルンホルスト級航宙戦艦八隻、エンリル級航宙巡航戦艦二隻、テルマー級航宙巡航戦艦八隻、ロックウッド級航宙重巡航艦一六隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦一六隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦四八隻、ビーンズ級哨戒艦四八隻、ライト級高速補給艦八隻、エリザベート級航宙母艦八隻の内、マルドーク級航宙戦艦一隻とエンリル級航宙巡航戦艦一隻、テルマー級航宙巡航戦艦二隻、ロックウッド級航宙重巡航艦四隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦四隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦四隻が、宙賊が見つかった方向に転進した。途中、ヤン・カッツエルの部隊を回収しながら三万キロまで近づいた時、いきなり、太い荷電粒子の束が迫った。
「前方にエネルギー波」
言うが早いか、まさか宙賊がこれだけの編成の正規軍に撃ってくるとは思ってもいなく、前面にシールドを展開していなかったヘーメラー級航宙駆逐艦は、もろにその攻撃を受けた。
エネルギー波が航宙駆逐艦にぶつかると艦前方に干渉を避ける為に階段のように装備しているレールキャノン八門の内、三門が見事につぶれた。大きく内部に食い込むようにつぶれたが、全長二五〇メートル、全幅五〇メートル、全高五〇メートルの大きさの航宙駆逐艦だ。レールキャノンの一撃では撃沈しない。
「前方、シールド展開」
派遣艦隊の司令官がマイクに怒鳴りつけるように言ったが、二射目は、その前に到着した。今度は、ハインリヒ級航宙軽巡航艦がエネルギー波を受けた。爪で削り取られるように右舷側のミサイル発射管三門が潰れた。さすがに宙賊にミサイルの使用はあるまいと装填しなかったことが幸いした。装填していれば、自身のミサイルで自艦を撃沈することになる。
三射目が連続してきたが、既に戦闘艦の前面に展開が終わった防御シールドに中和されると何事もなかったようにエネルギー波が消えた。今度はシールドに遮られどの艦にも届くことはなかった。その映像を見ていた、派遣艦隊長は、
「ふざけたことを。艦長すぐに降伏を呼び掛けろ」
すでにスコープビジョンに映し出されている宙賊は、航宙駆逐艦クラスが五隻、後、奪った貨物を載せる為だろう。輸送艦クラスを一隻連れていた。
“しかし、どういうことだ。よく見れば、輸送船団でないことは、すぐにわかるはずだ。ましては、哨戒中の正規軍に攻撃を仕掛けるなど”そう思うと何か見落としている気がした。
派遣艦隊長はマイクを口元にすると
「全艦、前方の宙賊に警戒。アンドリュー星系軍に喧嘩を売ってきたんだ。何かあるかもしれない」
そう言いながら見ていると艦長の呼び掛けに応じて宙賊は機関を停止した。航宙駆逐艦四隻と軽巡航艦二隻が近付いた時だった。宙賊の輸送船が戦闘艦の前に出始めた。
“やつらどういうつもりだ”そう思いながら見ていると突然、輸送艦が最大艦速で突っ込んできた。
「なにっ」
派遣艦隊の誰もがスコープビジョンにくぎ付けになった時、輸送艦は宙賊処理の為に出向いた六隻の中間あたりで突然爆発した。通常警戒の場合、宙賊を取囲む様に近付くが、取るに足らない程度にしか考えていなかったがゆえに展開せずに近付いたのが、失敗だった。
スコープビジョンが自動的に輝度を落としているが、真っ白になり見えなり、外では六隻と輸送艦がいたはずの宙域にはエネルギー残量とチリしか残っていなかった。
「なにーっ」
派遣艦隊長だけでなく司令フロア全員が驚く中、スコープビジョンが徐々に元に戻り映像が映し出されると残りの宙賊が散らばるように離散した。
「逃がすなー」
派遣艦隊長のマイクに怒鳴りつけるような声に爆発に巻き込まれなかったマルドーク級航宙戦艦一隻とエンリル級航宙巡航戦艦一隻、テルマー級航宙巡航戦艦二隻、ロックウッド級航宙重巡航艦四隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦二隻が最大艦速で追跡を始めた。
追跡を始めて三〇分後、
「司令官、宙賊は射程内です。如何しますか」
艦長の声に派遣艦隊長は、
「だめだ、今回の件をはっきりさせるためにも、捕える必要がある」
そう言って、スコープビジョンに映る、宙賊を見ていた。やがて一〇〇〇キロまで近づくと
「艦長、再度停止を呼びかけてくれ」
「はっ」
艦長の呼び掛けに宙賊の艦は、機関を停止すると艦前方に付いている制御スラスタを吹かせて艦首を派遣艦隊側に向けた。その時だった。
五隻の航宙駆逐艦レベルの大きさの宙賊の艦が、一斉に主砲を放った。荷電粒子のエネルギー波が派遣艦隊を襲うと派遣艦隊長が乗艦するマルドーク級の巨大艦にぶつかった。さすがに無傷とはいかないが、軽く傷がついた。
「前方シールド最大。主砲斉射」
自分が乗艦する新型艦を傷つけられた派遣艦隊の司令官は、さすがに血が上った。マイクに怒鳴りつけるように叫ぶとスコープビジョンに映る宙賊の艦を擬視した。
航宙戦艦や航宙巡航戦艦が放つ口径一二メートルの荷電粒子の束を航宙駆逐艦クラスが受け止められるはずがなかった。
ほんの一瞬だけシールドが耐えると、後は、発泡スチロールに真っ赤な鉄の棒を突っ込んだように艦首から艦尾まで荷電粒子が突き抜けた。乗員は、痛みを感じる暇もなかっただろう。五隻に宙賊の艦が宇宙のデブリになるまでに要した一瞬の時間がこの司令官は長く感じたかもしれない。
やがて、目の前のスコープビジョンにチリだけが映ると、自分の体を思いきりシートに落とし、自分が指示した命令を振り返った。
宙賊とは思えない攻撃に、訓練を兼ねた哨戒活動に出ていたチェスター率いる第一艦隊は、要らぬ損失を出した。チェスターは、宙賊の新たな攻撃に対抗するため、監視衛星を設置するが。
来週もお楽しみに。




