第一章 チェスター・アーサー (1)
アンドリュー星系の説明と航宙軍総司令官チェスター・アーサーの振り返りから始まります。そしてチェスターマリアの結婚も・・
いよいよ始まります。「ウエストギャラクシー 第五巻 オフィーリア」お楽しみに。
第一章 チェスター・アーサー
(1)
アンドリュー星系。中心には永遠の輝きを持つかのような恒星アンドリュー。そしてこの恒星を中心として惑星公転周回軌道上に八つの惑星を持つ。第一惑星は恒星より五光分と近く、第二惑星オグラントが八光分、第三惑星オリオンが一二光分、第四惑星カミューが一五光分で、人類生存域の限界域となっている。
更に第五惑星バデスと第六惑星との間に小さな岩礁帯があり、第四惑星からこの岩礁帯までが、資源調達可能な宙域となっている。第六惑星から第八惑星までは、恒星から三光時以上離れており、第七、第八惑星はガス惑星である。
そして惑星オグラントにはムーン、首都星としている惑星オリオンにはハント、マティス、工業資源惑星カミューにはベルー、マイス、バドー、同じく資源惑星バデスにはアーリント、ロッテ、バードがそれぞれの惑星を中心に衛星として回っている。
人類がリギル星系に移住してから二五〇年後、航路探査の目的でアンドリュー星系が発見された後、人類が移住し、更に一五〇年後、WGC1605年にリギルより独立した。
その後、リギルとは星系連合体ユニオンを持って共存関係を確立している。それから一四三六年後、資源豊富な自治星系として四個艦隊を有し、リギル、ペルリオン以外にもオフィーリア星系、マリアルーテ星系などと有効関係を持つようになった。
アンドリュー星系は、そのままでは平和な星系として時間が過ぎていくはずだった。ところが、今から四年前WGC3045、リギル星系とミルファク星系のミールワッツ遭遇戦によりこの星系の運命は大きく変わった。
その後の第一次ミールワッツ攻防戦、第二次ミールワッツ攻防戦によりリギル星系は大きな痛手を被り、ペルリオン星系は立場を失った。ミールワッツ星系をめぐる戦いは、アンドリュー星系航宙軍の中心にいるアーサー家にも大きな変化をもたらした。
WGC3033。まだ二二歳だったチェスター・アーサーは、星系軍に入るのを嫌い航宙軍士官学校時代からの親友ロベルト・カーライルと共に貨物輸送を専門とするマクシミリアン・デリバリーに勤めていた。
だが、祖父ウィリアム・アーサーが健康を理由に軍事統括を引退し軍事顧問に就任すると父アルフレッド・アーサーが第七三代軍事統括へと就任した。これに伴いチェスターは、ロベルトと共に半場強制的に星系軍に移籍させられた。
それから一二年、チェスター・アーサーが中将まで昇進した時、ミールワッツ遭遇戦が勃発した。ミールワッツ星系をめぐる攻防戦の中でチェスターは、その活躍で大将の地位を得ると共に四艦隊総司令官になったのであった。
そして今、アンドリュー星系軍四艦隊総司令官チェスター・アーサー大将は、首都星オリオンの上空五〇〇キロに浮かぶ第一軍事衛星ミランにある統合作戦本部に各艦隊の司令官を集めていた。
第二艦隊司令官ロベルト・カーライル中将、第三艦隊司令官ミハイル・マクギリアン中将、そして第四艦隊司令官ロング・マクドールド中将である。
三人は、ドアが開かれチェスター・アーサーが入ってくると全員が起立してアンドリュー星系軍式敬礼をした。
チェスターは、それを横目で見ながら自分の席に着くと答礼をして、全員の顔を見渡した。答礼を止めて自分も座ると他の三司令官も着席した。
「ヤマモト代表が、六ヶ月後にオフィーリア星系に行くことになった。目的は表敬訪問だ。私の第一艦隊で行くことにする」
その言葉に他の三人の提督が目を大きく開けて反応すると第二艦隊司令官であり、チェスターの士官学校時代からの親友カーライル中将が、
「総司令官自らが行くことは、ありません。私か他の艦隊を向かわせればよいのではないですか。指揮系統のこともあります」
その言葉に少し目元を緩めると
「カーライル中将、心配するな。オフィーリア星系のアンドリュー星系方面跳躍点までは、第一艦隊全艦が行く」
「全艦が」
「そうだ。戦争に行くわけでもないが、宙賊の事もある。中途半端な艦数よりも全艦で出向いたほうが代表も安心するだろう。指揮系統は、ここにいる各司令官がいつものようにしっかりとしていてくれれば、何も問題ない」
各司令官が自分の言った言葉を呑込むのを待って
「最近、ペルリオン星系、リギル星系跳躍点方面の宙賊の出没が多い。かの星系は、先の戦闘から完全には立ち直っていない。そこを付け込まれているのだろ。開発が順調に進んだミールワッツ星系跳躍点方面もしっかりと警戒する必要がある。諸君達の力が必要だ」
チェスターの言葉に頷きながらも
「しかし、総司令官は、後一ヶ月で妻を迎えられます。その五ヵ月後にわざわざ他星系に行かれなくても」
カーライル中将が、自分の大切な親友を心配するような声で言うと
「ロベルト、心配するな。それとこれとは別だ。それにお前も一緒だろう」
他の司令官も“そこまでしなくても”という顔をすると
「私個人のことだ。気にするな。全員自艦隊の整備と宙族の取締りに励むように」
そう言って、チェスターは、別の話題に切り換えた。
艦隊司令官とのミーティング終了後、チェスターは、ロベルトを残した。
「ロベルト、どうだ」
チェスターの質問の意味を分かりながらロベルトは
「なにが」
と言った。二人になれば、言葉も親友同士になる。チェスターは、ロベルトに暗にこの後のことを聞いていた。少し目元を緩ますと
「大変だよ。“誰を呼ぶ、どこに座らせると”。まあ俺は仲間を呼べればいいだけだからな。それよりチェスターの方が大変だろう。アンドリュー星系の名門中の名門アーサー家、それも航宙軍四艦隊の総司令官殿の結婚式だ。簡単にはいくまい」
「でもない、出席者は、決まっている。並び順も決まっている」
アンドリュー星系軍発足当時から軍の中枢にあり歴代の軍事統括を務めてきた名門アーサー家は、祖父のウィリアム・アーサー第七二代アンドリュー星系軍事顧問、父のアルフレッド・アーサー第七三代アンドリュー星系軍事統括の時もすべては、歴代の婚式に従って行われてきた。席次も星系軍制服組と政府官僚組で決まっている。
ロベルトの家、カーライル家も軍事の名門であり、双方の親がするなら一緒という信じられないことを決めた。
式は、首都星オリオンの中央宙港のそばにあるハイランクのホテル“アルファルト”で行うことになっていた。列席者は、アンドリュー星系の軍事、政治の中枢を司る者ばかりである。
その為に、第一艦隊第二、第三分艦隊は、オリオンの惑星軌道上に展開し、万一の時は、第二艦隊第二分艦隊が応援に当たることになっていた。警察機構もオリオンの中央宙港の半径一〇キロ以内を三ヶ月前から捜査するという前代未聞のことになった。当日、ホテルの周辺二キロ四方は、実に一万の警察関係者が警備にあたることになっていた。
マリア・アフロデーテ・・・マクシミリアン・デリバリーのオーナーを父に持つが、マリアが、一三歳の時に離婚。母方に引き取られ、今は軍関係の物資の取引を行っているトレイディング・カンパニーに勤めていた。気高く頭の回転が速く、その美しさは、衆人の目を引き付けたが、普通の男では近寄ることもできなかった。
そのマリアの友人が、親友でありアンドリュー星系軍第二艦隊司令官ロベルト・カーライルの友達であるミリア・フィルモアだった。
チェスターは、マリアに知り合った時、何もできずにいた。ただ、マリアといると心が安らぐチェスターは、ロベルトに何かと理由を付けては、マリアとのデートを取りつけた。
いつもマリアがリードしてくれた。自分は、ただマリアの笑顔が自分の心を安らいでくれることに気持ち良さを感じていた。そんな時、祖父のウイリアム・アーサーアンドリュー星系軍事顧問が、
「チェスター、もう私も長くない。美しい姫とお前の子供を見せてくれないか」
という一言で心が揺らいだ。
だが、そんなことで妻となる女性を決めたくはないという気持ちと祖父そして父の言葉に揺らいだのも確かだった。悩みの中にチェスターが何も言わずにいると、マリアが
「チェスター、私を一生守れる自身がありますか」
と聞いた。最初は“なにを”と思っていたが、やがて流れた時間の中で頷くとマリアが瞳を閉じた。
それから半年、いま、妻となったマリア・アフロデーテ・アーサーが、目の前に座っている。輝きを放つ宝石のそのもののように見えた。
ワイングラスに漂う黒スグリ色の液体とワインの淵の間の透明なラインを見ながらアーサーは、グラスの向こうに映る女性を見ていた。
「ふふっ。初めてお会いした時から何も変わらないのですね。チェスター」
目の間に座る美しい女性の言葉に“はにかみ”ながら目元を緩めた。
気高く、美しく、輝く程に胸元まで伸びた髪の毛、切れ長の大きめの目に“すっ”と通った鼻筋、心持ち大きめの口にそれを綺麗にかたどる顔のライン、色白の肌が胸元まで透き通るように見える。やや大きめの胸は、少し胸元が開いたドレスで強調されていた。
「マリア」
それだけ言うとグラスを口元に持ってきた、ワイングラスにしてはスマートなほんの少し口元が絞られたグラスを唇に付けるとゆっくりと口の中にその液体を流し込んだ。ゆっくりと口の中に広げ、その深みと柔らかな味わいを感じると喉を通らせていった。
さっきまで続いたアンドリュー星系きっての名門アーサー家の次期当主チェスター・アーサーとマリア・アフロデーテの披露宴が終わり、やっと二人だけになったところだった。
小鳥のさえずりと絹のような感触の肌を右手に感じながらチェスターはゆっくりと瞳を開けた。自分の右にはたとえようのない美しい女性が瞳を閉じて眠っていた。
チェスターは、その女性が起きないようにゆっくりと右手を離すと顔を近づけ、唇を添えた。まるでマシュマロのように柔らかく、そしていつまでもそうしていたい気持ちにさせる唇に接しながら少しの間そうしていると唇が吸いついて来た。やがて目の前にいる宝石のように輝く女性が瞳を開けると両腕をチェスターの首に柔らかく巻きつけて優しく微笑んだ。
柔らか瞳の中に優しさを見つけると、やがてチェスターはゆっくりとその女性に体を添えた。
「ロベルト、オフィーリア星系への訪問時、例の新型艦の完熟運転も兼ねようと思う。すでに公試運転も終了している。リギル星系からの技術供与だが、まだ我が星系が独自であのような大型艦を設計できるほど科学技術は進んでいない」
「分かっています。しかし、あの艦は大型過ぎて我が星系には、不向きではないのですか。それに航宙戦闘機が必要な時は、航宙母艦を随伴すれば良いだけの事です」
チェスターは、親友ロベルトの意味するところは理解していた。それだけに
「分かっている。だが、航宙戦艦の建造は大きな技術発展を伴う。我が星系が発展するためには、もっと多くの新星系の開発が必要だ。その為にも新型艦の建造は重要視しなければならない。一艦で航宙戦艦と航宙母艦の役割を果たす今回の新型艦は、新星系開発に十分に有効と考えている」
ロベルトは、“チェスターは、航宙軍士官学校時代からの親友だが、アンドリュー星系航宙軍の中では、大将と中将の立場の違いがある。国益を考えての発言は、星系代表部の意向でもあるのだ”と思うとこれ以上の口出しは無用と考えた。
「ところでロベルト、宙賊の取り締まりはどうだ。ペルリオン星系跳躍点までの航路で最近、宙賊の出没が多発していると聞くが」
「はい、ペルリオン星系は、ミールワッツ星系攻防戦以降、軍事力の低下が著しく、星系内でも苦慮していると聞いています」
ロベルトの言葉に少し考えると
「確か、ミールワッツの失態依頼、ペルリオン星系では、ベルハルト・ローエングリンが星系艦隊司令長官となったと聞いている。この男は、輸送艦護送と宙賊の撃滅に多大な功績を上げていたと聞いているが」
「はい、新任の司令官の技量よりもミールワッツでの失敗の保障費がかさみ、航宙軍への予算が十分に回っていないとの情報を得ています。それが現在の状況を招いている原因と考えます」
「ロベルト、ペルリオン星系跳躍点方面の航路は、第三艦隊が担当していたな。ミハイルに状況を詳しく聞くことにしよう」
チェスターは、平時の哨戒担当を各跳躍点方面に分けていた。要注意なリギル星系跳躍点方面を自分が直轄する第一艦隊、新たな資源先であるミールワッツ星系跳躍点方面をロベルトの第二艦隊、比較的安全なオフィーリア星系跳躍点方面は、構成して間もないロング・マクドールド中将の第四艦隊、そしてミハイル・マクギリアン中将第三艦隊をやはり重要なペルリオン星系跳躍点方面の哨戒に当たらせていた。
チェスターとロベルトが第一軍事衛星ミランの航宙軍作戦本部で話をしていた頃、ミハイル・マクギリアン第三艦隊司令官は、第三艦隊旗艦タイタニアで第三分艦隊の報告を聞いていた。
「司令官。宙賊が降伏しました。定常手続きに入ります」
3D映像に映し出される第三分艦隊司令の報告に頷きながら“それにしても多い。今回の出動だけで四つの宙賊を捉えた”そう思いながらスコープビジョンに映る第三分艦隊の手続きを見ていた。
機関を停止した宙賊に陸戦隊が乗艦し、輸送艦から強奪した物資を確保すると乗員を全て退艦させて艦を破壊する。通常、宙賊は大きくても哨戒艦レベルの大きさだ。ヘーメラー級航宙駆逐艦が装備するレールキャノンで十分に破壊が可能だ。
ミハイルは、“我星系内でこれだけの宙賊がいる。ペルリオン星系内では、どうなっているのか”そう思いながら 一通りの手続きを見ていた。
「司令官。手続き完了しました。通常警戒に戻ります」
3D映像の向こうで敬礼をしながら話す第三分艦隊司令官に
「ごくろう」
そう言うと映像が切れた。
跳躍点方面から星系内の航路には、無人、有人の監視衛星が置かれており、航路を通る輸送艦は、監視衛星と連絡を取りながら航行する。これにより広大な宇宙空間を安全に跳躍点から星系内まで迷うことなく航行することが出来る。だが、宙賊は、この航路を進む輸送艦に横槍を入れるように突然現れては、襲い掛かり、必要物資だけを搾取するといずことも無く消えてします。
したがって、哨戒に当る星系航宙軍は、航路をパイプに見立てその四象限に分艦隊を置き星系方面から跳躍点方面、そして跳躍点まで到着すると星系方面に同じ隊形で進むのだ。これにより、航路に対してどの方向から来ても取り締まる事が出来るようにしている。
旗艦タイタニア艦長ケイトビーン・ハメル大佐は、
「司令官、跳躍点から折り返して星系内まで後三日です。捕らえた宙賊の人数も五〇〇人を越えました。さすがにもう出没してほしくありませんな」
そう言って右後ろに座る司令官の顔を見た。ミハイルは、二〇以上年上の艦長の顔を見ながら
「ハメル艦長、私もそう思いたい。しかし、今回は多い」
ミハイル率いる第三艦隊は、スコープビジョンに映る多元スペクトル分析と光学合成による広大な宇宙空間を見ながらまだ続く哨戒の任務をこなしていた。
ペルリオン星系跳躍点方面への宙賊取り締まりを行うミハイル・・マクギリアン第三艦隊司令官は、いつもより多い発生にあきれながら、哨戒を行いますが、宙賊とは呼べない組織的な活動が実は始まります。
次回もお楽しみに。




