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リズム  作者: 安拓
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プロローグ

 つっつったった、つっつったった、17歳の私はリズムに乗る。この曲名はリズム。私はただリズムに身を任せる。目の前には虎が見える。静かに私を見ている。私は怖くない。なぜってこれは夢だから。私が創り出した幻想。そして彼は優しい虎。彼が私に近づく。私は彼に触れる。暖かい。一つの命がここにはある。私は彼にまたがって首に腕を回す。顔を頭に近づけると、なぜかシャンプーのにおいがした。彼はゆっくりと歩き出した。私はそのまま眠った。

 目覚めると私は海の中にいた。静かな海底。ここでは生命活動のひとかけらさえ感じられない。ここに存在するのは私だけ。少し歩こう。

 しばらく歩くとまたリズムが流れる。音源は私の脳みそ。不意にひどい吐き気を感じた。立っていられず、私は流れに身を任せた。リズムは鳴り止まない。ふと視線を横に向けると、彼が傍にいた。立派なたてがみをもち、勇ましい顔で私を見つめる。彼は水の流れに動じず、自分の足で水底に立っている。彼は勇ましくも優しい目で、一言こう言った。

 「大丈夫。鈴なら」

 そう言われたとたん、私の目から大粒の涙が流れた。そして喘ぎながら泣きじゃくった。

 「あり・・・がと・・・悟志」

 そんな声にならない言葉を伝えると悟志は私に微笑んだ。


 1991年4月5日、私は当時17歳。しかしほかの女の子達のように高校には進まず、もうすでに幸せな新結婚生活を送っていた。相手は2つ年上で、同じ中学の先輩。悟志は高校を卒業した後、親戚が経営する建設会社で働き、日々汗を流して働いた。そしてその日、建設現場での事故により悟志は帰らぬ人となる。

 私は現在40歳。彼の死後、本当にいろいろあった。しかし何とか立ち直り、今では再婚し14歳と12歳の子供が2人いる。2人とも男の子だ。家事に仕事に日々多忙な毎日だが、私には幸せな家庭があり、それが私に力をくれる。旦那とは職場の病院で知り合い、30歳の時に結婚した。旦那は医者で多忙であるにも関わらず、家庭を大切にするマイホームパパである。私の現在の仕事は医療事務で、20代のとき通信教育で資格を取り、ここに転職した。私の胸の奥底の宝箱にはいつも悟志がいて、悩んだとき、つまずいたときはその箱をこっそり開く。彼はあの頃のままいつも笑顔でいて、時には叱ってくれる。

 

 

 

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