最後の戦い
前回の冒険の書を読みますか?
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勇者は魔王にかかっていった。咄嗟だったからか、魔王はうまく避けることが出来ず、毛が飛び散り、体に赤い線が走った。
「こんな私でも生への執着はある。本気で戦わせてもらおう」
気が付いたときには、僕もリザベラもすぐ目の前まで火の玉が迫っていた。全身が瞬間的に燃え上がった。これが魔王の力、けれども魔王だけは倒さなければならない。
「スダルジェラ、ラスレビン」
魔法の力が加わり、勇者は痺れているはずの魔王に再び切りかかった。だが剣は虚しく空を切った。
「そんな小細工なんぞ通用しないわ」
嫌な予感がして避けたが、魔王の放った電撃が僕の体をかすめた。
避けた勢いのままスラッシュをお見舞いするが、すんでのところで間合いから外れるので大した攻撃にはならなかった。魔王は三歩下がると突進してきた。楯を構えても壁まで飛ばされた。
「エリラン」
勇者が飛ばされた瞬間、リザベラは魔王をキッとにらみながら聞いたこともないような低い声で呪文を唱えた。魔王も反対側の壁まで吹き飛ばされ、壁が壊れるミシミシという音がする程打ち付けられた。勇者はなんとか立ち上がると、これでとどめだというように魔王の体に剣を突き刺した。
「うおぉぉ、はあっはあっ。まだまだだ」
魔王は苦しそうに顔を歪めながら、背中に刺さっている剣を投げ飛ばした。
「カヌス
「最後は僕にやらせてくれ」
飛んでった剣を手に取る。あの職人さんの渾身の作品だ、剣には傷すらついていない。
「勇者は詰めが甘いかr……ウガァ」
リザベラには一瞬の事すぎて何も分からなかったが、勇者は魔王の心臓めがけて矢のごとく走り刺したのだった。魔王はドスッと音をたて倒れた。
「私はもうすぐ息絶えるだろう。この部屋の外に魔方陣がある。カヴィエント村に繋がっているから、それを使って帰るがいい」
「最後に教えてくれ。本当に魔王がやったことなのか?」
「さあな、覚えてない。言いたいことはそれだけか?終わったのならさっさと部屋から出ていってくれ。私の側近が今にも勇者を倒さんと構えているぞ」
リザベラと勇者は何も言わず部屋を後にした。
「魔王様、本当にこれで良かったのですか?回復魔法もいっさい使っていないではないですか」
「イルーガスは人間のせいですよね。だってあの新種の魔物は人間が……」
勇者達が去った後、側近達は口々に泣きながら言った。
「いいんだ。こうでもしなければ勇者は私を倒そうとはしなかっただろう。それにあの二人だ、納得するまで調べるだろう。私の事はともかく、曾祖父の事は誤りだったと気付くさ」
「ですが、本当に魔王一族が終わっても……」
「こんな腐った魔物はいつか消えるべきだったんだ。私で最後とは中々ではないかね。魔物達の事は頼んだぞ。さて、私もそろそろ眠りにつこうかな」
薄れゆく意識の中で、魔王はあの日のことを思い出していた。まだ5歳だったときのことだ。
自分の兄、魔王四代目と勇者四代目との戦いの日だ。
兄は死に際に私を呼んでこう言った。
「弟よ、今日からお前が魔王五代目だ。この世界のことをよろしく頼む。私は何も変えることができなかった」
大好きだった歳の離れた兄を倒した勇者のことを、その時はひどく憎んだ。人間なんていなくなればいいのにと思っていた。だがあの手記を読んだときに、兄が背負っていた事実の重さを知り、兄ができなかった世界を私が変えてやろうと、誓ったのだった。
いざ変えようと思っても何も考えが出てこない。いつの間にか時は経ち、勇者の冒険は始まってしまっていた。
結局世界を変えたのは私ではなく勇者だった。勇者達は、魔物を倒さずここまでやってきた。私にはやはり世界を変えるなど、到底無理だったのだ。でも、変えることは出来なかったが終わらせることは出来た。
私は魔王一族の生き残り。他に魔王はいない。魔王六代目は存在しないのだ。
「この世界を頼んだぞ、勇者」
そして魔王の呼吸は止まった。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・
書き込みました。




