スルースキルは絶好調
前回の冒険の書を読みますか?
はい←
いいえ
城を出てまた同じような野原を歩いていた二人。
「次はどんなところなの?」
「えーっとね、このまま北東に行くと商人の街があるみたい。キナヴィアルって名前らしい」
「所持金も増えたし、そろそろ装備を整えなきゃね」
「剣もほぼ使えない状態だしな」
景色は変わらないが、魔物はがらりと変わった。所謂ウサギ型で片方の耳にも顔があるキトレニンとか、金属のように固い身体を持つヘビ型のシュダルナーとか、赤青黄の三匹で一組の新スライム号とか、色々いるのである。見ていて飽きはしないが、何しろ数が多いので、避けるのが大変だ。リザベラは、図鑑と照らし合わせていて忙しそうだ。時々何かを書き込んでいる。
ふと思った。これは動物園に来ているようだ。魔物を見るだけ。触ってはいけない。これでは僕が伝える役目になった時に、子供が期待するような冒険譚を話せなくなってしまいそうだ。
「そろそろ書けた?」
「待って、後一種類いるはずなの」
そう言って僕に見せたページには、雲のような形をしたクラードがいた。風を操るそうだ。
「見付けたら教えるよ。進もう」
過去にこんなにスルースキル?を発揮した勇者はいないだろうな…。魔物もこちらの事はちらっと見るだけで、襲ってこないと分かったからか特に僕達になにもして来ない。
小一時間程進んだ頃だろうか、クラードらしき雲が浮いているのが見えた。
「リザベラ、あれがクラードかな?」
「そうそう!やっと見つけた!図鑑には出現頻度は普通って書いてあったから、きっと数が減っちゃったのね」
「調べるのがリザベラの仕事なんだよね」
すると、こちらに気づいたクラードが興味を持ったのか近付いてきた。
そして突然、突風を起こしてきた。
「キャー!」
思ったほど強い風では無く、少し安心。様子見といった感じなのかな?
「勇者、こんなやつ倒してよ!」
リザベラの口から初めて「倒して」
という単語を聞いた。
驚いてリザベラを見てみると、恥ずかしそうに俯いている。
「どうしたの?クラードにやられた?」
僕が見た限り変なことはしていなかったと思ったのだが、リザベラを守る役目もあるのに情けない。
「いいから倒してよ!こんなやつ顔もみたくない」
取り合えず無事ではあるようだから倒してから聞こうか。
少し離れた場所に行き、剣を構えクラードと対峙する。
向風が吹いてきた。立っているので精一杯な強さだ。遠距離戦だと剣ではとても不利になってしまう。
風はどんどん強くなっていく。このままでは飛ばされてしまう。
僕は一か八かの賭けに出た。
剣を素早く(風を受けているので自分でも驚くほど素早く)、そして大きく振りかぶる。そして
クラードめがけて投げ掛けた。
運の良いことに、上手く命中し、風が止んだ。クラードは力尽きたのだ。
「リザベラ、倒したからもう大丈夫だよ」
「ありがとう」
まだ俯いている。
「クラードはいったい何したの?」
すると、赤い顔をあげて、吐き出すように答えが返ってきた。
「あいつ私のスカート捲りやがったのよ。変態もいいところだわ。じろじろ見やがって。数が減って本当に清々するわ。あんなやつ絶滅しちゃえば良いのよ」
怖い。世の風使い系の魔物よ、急いでリザベラから逃げた方が良いぞ。
しかし、これがあの
『魔物ならなんでも倒して良いの?』
と言って僕に戦闘をさせなかった人と同じ口から出てくるとは。そもそも、冒険にスカートはいてこなきゃ良いものを…。
この命題への答えがさらに難解になってきた。
冒険の書に書き込みますか?
はい←
いいえ
・・・・・・・・・・・・・・
書き込みました。




