不思議商人と少女の噺。
男は一人歩いている。
大きな大きな荷物を背負い。
歩いて歩いてしばらくすると、古びた小さな家がある。
そこは村の外れの様だ。
蜘蛛の巣が張って、窓や壁は汚れている。
「誰かいるのかな?」
扉を開けて入ってみる。
人の気配は無い。
…………カタッ
奥の方から音がした。
向こうを見ると少女が一人うずくまっている。
「………だれ?」
少女が男に声を掛けると、男は不敵に笑いながら言った。
「私はしがない旅の商人です。ところでお嬢さん、貴女は何故こんなところで隠れていらっしゃるのでしょうか?」
「私は右の足が生れつきないの。だから村では忌み子の様に扱われ。友人とも遊べない。今なら誰も私のことを覚えている人はいないかもしれない、けど他人の目が怖いの………。」
確かに少女の右足は付け根からなかった。
「だったら、お嬢さんにはこれを差し上げましょう。」
男は大きな荷物から一つの足の形をした物を取り出した。
「ひっ…な、に…?それ?」
「これは遠い異国の品でね。これを付ければ足の無い人でも足があるように見え、足のある人の様に歩き、走る事ができる物だ。これをお嬢さんに進呈しよう!」
「…本当に走れるの?」
「もちろん!さぁ、これで君はこんなところに隠れている必要は無いだろう?それを付けて村に戻ってみなさい。」
少女の顔は明るくなった。
「…あ、ありがとう!」
「さ、これで付いただろう。行きなさい、これで君は普通の人だ。」
少女は扉を出て村の方へ駆けて行った。
「……本当は、君は普通なんだ。足がなくても、体の一部が無くても人は人なんだ。それを偏見の目で見るのは駄目なことなんだ…。さて、行くか。」
男はまた歩きだした。
空はまだ青く、明るい。