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流浪島パート3


『お食事処 さぶらい』と書かれたワゴン車は急速に近づくと、朝喜たちの5メートルほど先で急停車した。


降り立ったのは、夫婦と見られるの若い男女で、女のほうはきちんと着付けられた着物を、男のほうは背中に『さぶらい』と書かれたはっぴを、ワイシャツの上から羽織っていた。


「流浪島へようこそいらっしゃいました。わたしは今回皆さんのお世話をさせていただく高橋といいます。ゆたしくうにげ~さびら!」


少し訛りはあったものの、青年は流暢な標準語で一同に挨拶した。よく見ると、高橋青年の瞳は青く、体格も日本人とは思えないほどがっしりとしている。そして変にテンションが高い。


「よ、よろしくおねがいします。」


瑞希が恐る恐るといった感じで返事を返すと、高橋青年はうれしそうに微笑んだ。


「ここへたどり着くのも一苦労だったでしょう。とにかく、旅館へご案内いたします。ちょっと天気も荒れそうですし。」



言われてみれば空には暗雲がたちこみ始め、風も強まっている。


5人がワゴン車に乗り込むと、車はゆっくりと進み始めた



助手席には着物の女性が乗っていた。



「あのー、旅館までどのくらいですか」

どうやら乗り物が苦手らしい公太が、運転席に向かって話しかけた。そういえば飛行機でも苦労していた気がする。


高橋青年が答えた

「20分ほどです。山道を通れば10分ほどで往復できるんですが、最近は火山活動が活発らしく、現在は封鎖されてまして。秘湯なんかもあるので是非紹介したかったのですが・・」


高橋青年はバックミラー越しに申し訳なさそうに目を細めた。


「うわー・・秘湯・・」


祐磨は心から残念に思った。

これでも大の風呂好きで、週に一度は必ず銭湯に行くほどである

うちの風呂が体育座りしないと入れないくらい狭い、というのも理由のひとつではあるが


「助手席の方は奥さんですか?」


今度は和帆が尋ねた。着物の女性は、先ほどから前をずっと向いていて、顔がよく見えない。


「え、ああ、まあ・・」

高橋青年は前を向いたまま、歯切れの悪い返事をした。


「おい、挨拶くらいしないか」

高橋青年の促しに、着物の女性はゆっくりとこちらを向いた。

首の回る角度が妙に大きい


だがそんなことも気にならないくらい、一同は一瞬その女性に見惚れてしまっていた。

さっき車の外にいたときは遠くてよく見えなかったが、驚くほどきれいな顔立ちをした女性だったのだ。

大きな二重の瞳は高橋青年のように青く、肌は透けるように白い。背中までの長い髪の毛は高い位置でまとめてあり、日本のどの女優も羨むほどの艶を有していた


「奈月、と申します」


高すぎでも、低すぎでもない美しい声で、奈月はお辞儀をした

そしてまた前を向く


「よろしくです!奈月さん!」

さっきまでの不調はどこへやら、公太が急に元気になった


高橋青年がまたもや申し訳なさそうにしながら、バックミラー越しに皆をみて言った


「すみません、ご挨拶が遅れてしまって。こいつは昔から人付き合いが苦手なのです。客商売としてお恥ずかしい限りなんですが」


「訛りなんてあったか?」

祐磨はふと気になり口に出したが、ぜんぜん気になんないっすよ!!という公太の声にかき消されてしまった





しばらく走っていくと、山道と県道の分かれ道が見えてきた山道に入るほうは黄色と黒のカラーコーンが置かれ、『立ち入り禁止』と書かれたテープが張られていた。



だが、よく見るとカラーコーンが横にどかされ、グレーのキャラバンが路肩に停車している。


「ちっ・・・またあいつらか・・・」

それを見るや否や、高橋青年は分かれ道を県道のほうに行かず、山道のほうに進路を換えた


一瞬バックミラー越しに見えた瞳は、はっきりと怒りの感情を露わにしていた。


「お客さん、すみません、立ち入り禁止の場所に入った輩がいるようです。ちょっと注意してくるので、少々お待ちください」










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