表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

島、渡る

那覇空港からタクシーで港までいき、そこからはフェリーで最寄りの島まで渡る。


流浪島は以外に大きな島らしく、戦時中は軍の兵器工廠があったという。

現在は人口400人ほどの小さな漁村があるだけで、特に観光地というわけでもない。つまり何にも無い。


だが琉球文化の色濃く残る土地と風景、そして青い空と青い海だけでも、十分見応えのあるものだった。


だが問題もある


「あつい・・」


佑磨はさんさんと輝く太陽の日差しの下、ため息まじりにつぶやいた。


佑磨達一行は今、流浪島に一番近い与那国島に来ていた。

ここからは漁船しか渡航手段がない。

朝9時からずっと漁師を回っているのだが、どの漁師も首を振るばかりだ

さすがにバテて、木陰の石段に座り休憩を取った


「あっつー!!さすが沖縄あついね!佑磨もあっついよねやっぱ!なにこの暑さは!コレはもう暑いというより熱いよね!?」

朝喜がバカでかいサングラスを掛けた顔を佑磨に近づけながら叫んでいる。


「あついあついうるせーんだよ!余計暑くなってくるだろうが!」

佑磨は朝喜の顔を押しやりながら一喝した


「ちょっとこの暑さはねー・・」

瑞希が白い帽子を脱いで額の汗をタオルで拭った。

「和帆、身体大丈夫?」

瑞希は隣に座る人物にペットボトルの水を差し出しながら話しかけた


隣の石段に腰掛けているのは、佑磨にとってこの旅行に来る最大の理由となった、薬学部1年の七海和帆だ。


「大丈夫よ。ありがと。」

和帆はペットボトルを受け取ると、こきゅこきゅと喉を鳴らして水を飲んだ。


一筋の涼しい風が、和帆の長い髪をふわりと撫ぜる


ああ、かわいいな・・声かけたいな・・とつい見惚れる

そこへ、突然後ろから冷たい缶を頬に付けられ、佑磨は飛び上がった


「な、なんだよ関口・・!」


「なあーに見惚れとんの?」

後ろにはニヤニヤと笑っている巨漢とチビがいて、巨漢は関口守、小柄は浅野広太だった。

ふたりとも同じ1年である


守は人数分の缶ジュースを抱え、浅野はビニール袋を提げていた。中身はどうやらサンドイッチらしい。


「見惚れてねえよ。そんなことより、見つかったか?漁船。」

できるだけ平静を装いながら佑磨は巨漢に尋ねた


「一隻だけ話がついたぜ。それと、途中で店見つけたから買って来た。」


ずいっとマウンテンデューを佑磨に差し出しながら守は答えた


「マジ!?やるじゃん関口!ちょうど腹へってきてたんだ!褒めてつかわす!」

はしゃぐ朝喜を佑磨はゴンと叩く


「大変でしたよ。残り四件しかなくって、最後の一件がなんとかオッケーくれたんです。」

広太がサンドイッチを配りながら言った。


「本当にお疲れさま。ちょっと休んでからそこにいきましょう。」

二人を労い、瑞希はサンドイッチを頬張った。


しばらくここは暑すぎるとか、船酔いが心配だとか、そんな雑談だったが、守が突然真顔になって言った。

「なあ、みんなちょっと感じないか?」


「何を?」

和帆がお茶を飲みながら聞く


「俺な、漁師の家を回るときにちょっと聞いたんやけど、この辺ではあの島に近づくのはタブーっちゅうことになっとるらしい。なんでも、旧日本軍の生物兵器の工場があって、人体実験とかも行われてたところだから、祟られるーとか、人魚の伝説が伝わっていて、一度渡ったら戻れなくなるーとか。昔っからあんまり縁起のいい土地じゃなかったみたいや。俺、そういうの昔っからなんとなく感じんねん。なんか嫌な予感がするんや。」


一瞬全員の背中に悪寒が走った


「なーんてなー!どうや!?涼しくなったやろ!?」


突然守がおおげさなほど明るい声を発する 


「ちょっとー!ほんとに怖くなるからやめなさいよー!」

「いいねえ!いいねえ!俺こういうのがやりたかったんだ!」

「お前は黙ってろ!」

「あはは」

皆で口々に話す。


「じゃあ、そろそろ移動しましょ。あまりその漁師さんを待たせても悪いし。」

瑞希の提案で、一同は腰を上げた





・・・・・・・・


結局のところ、渡航料としてその無口な漁師に財布の中身半分を渡すことになった。


古い型の漁船で、対馬海流と日本海流のちょうど合流するポイントのせいもあるのか、木の葉のように船は揺れた。

船尾では広太が盛大に先ほどのサンドイッチを海に放っている。


20分もすると、島の外観が見えてきた


流浪島という名にふさわしいかの如く、温暖な地域にも関わらず、島の周りは霧がかかったようにもやっていて、その霧が流れる度に、まるで島自体が漂っているようにみえる。


佑磨はなぜか背筋に寒気を感じ、船内にもどった



・・・・・・・・


さすが、もともと軍隊が管理していただけもあってか、桟橋はコンクリート製の頑丈な作りだ。

だが崖下にあり、筏みたいな大きさしかないので、5人と荷物だけでスペースはいっぱいいっぱいだった。


上にむかって、崖をくりぬいた階段が続いている。

連れて来てくれた漁師は、なにかに怯えるように佑磨達と荷物を下ろすと、なにかを早口にしゃべり、さっさと行ってしまった。


「ぐぶり〜さびら」

さようなら、と最後に言っていたのはなんとか理解できたが、他は訛りでさっぱりわからなかった。


3日後にもう一度ここに来てくれるよう、約束はしたが・・


「大丈夫か〜広太」


船酔いで盛大にやってしまっていた広太は、キャリーバックに腰掛けてぐったりしている。


「朝喜、旅館はどこなんだ?」

佑磨が朝喜に尋ねた


「うーんとねー。迎えが来るはずなんだけど・・。」


とにかく崖上に上ろうということになり、一同は荷物を抱え、30メートルはあるだろう階段を上って行った。


みゃうみゃうというウミネコの声をBGMに、皆で主に朝喜に文句を良いながら、上にたどり着くと、そこは舗装されただだっ広い広場だった。向こうにかまぼこ型の建物が並んでいるのをみると、どうやら飛行場らしい。


すると、向こうから一台のワゴン車が、猛スピードで近づいて来た。



つづく

感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ