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変わり始める関係

 咲子は目の前の箱を眺めた。きれいにラッピングされたそれは、アクセサリーのように見える。

「こんなことまでしてもらわなくてもよかったのに」

 じろりと貴也を見やると、

「にーちゃんだって、さきちゃんにプレゼントしろって言うはずだ。聞けねーけど」

 最後、気まずそうになったのは周一と話をするためには咲子の存在が必須だから。

「変なもんじゃないから、あけて見ろって」

 うながされるままに咲子は、包みを手にとって開いてみた。


「うわーお」

 場所が場所じゃなかったら、口笛の一つくらいは吹いてたかもしれない。

「これは自分では買わないわー」

「だろ?」

 目の前で得意そうに貴也が背をそらす。

 ラッピングからして、どこの店のものかはわかっていた。

 この間、祐子のいないすきにあがりこんだ伊達家のリビング。周一の見たがっていたDVDをセットするまでのタイミングで流れた情報番組。

 一粒数千円のチョコレートを見て、食べてみたいと咲子がため息をついたのを覚えていたらしい。


 身につけるものでもなく、形に残るものでもなく、食べたら消えてしまうもの。

 それを選んでくるあたりが、二人の微妙な関係を暗示している。ただの幼なじみでもなく、友人でもなく、恋人とかと問われればまた違う。かと言って、他人かと言われれば首を横にふるそんな関係。

「営業で行った会社の近くにあるんだよ、その店。どんなのがいいかわからなくて、一緒に営業してた会社の子付き合わせた」

 どこか言い訳がましい口調の貴也に、

「ありがとう! 大事に食べるね」

 と咲子は返す。


 料理が運ばれ始めた頃には、二人の間の微妙な空気は消えていた。

「にーちゃんの彼女の件なんだけどさ」

 咲子が二人分のパスタを取り分けるのを眺めながら、貴也は言った。

「今日、移動中に何人かに問い合わせしてみた」

「問い合わせって?」

「ん、彼女の勤めていた会社はわかってるだろ? だから、六年前にその会社にいたと思われる人宛にSNSメッセージ送ってみた」


 貴也が言うには、主に仕事関連のつながりを広げるために使うSNSというのが存在するのだという。

 まだ仕事を初めて二年目の貴也が、それを有効活用する機会には恵まれてはいないが、何かと勉強になっているらしい。

 登録は本名以外禁止。勤務先、業種を明らかにすることが前提なのだという。


「それで、なんてメッセージを送ったの?」

「それは悩んだけどな。ま、ある程度は正直に」

 六年前に亡くなった兄の遺品の中から、太田美奈さんのものと思われる品が出てきた。これだけ年月がたっているから、必要ないかもしれないが一応確認だけ取りたいので、何とか連絡を取れないだろうか――そんな内容を送ったのだという。


「ま、返事が来るかもしれないし、来ないかもしれない。しばらくして返事がこなかったらまた考えるさ」

 SNSの管理者が想定している本来の使用方法とは違うわけだから、警告が来るかもしれない。そう言った貴也は、その他にも何カ所かのSNSで同じことをしたらしい。

「返事……来るといいね」

 口ではそう言ったものの。


 彼女の立場になったらどうなのだろう。

 もういない人からの指輪を六年もたってから渡されるなんて――今が幸せでもそうでなかったとしても複雑な気持ちになりそうだ。

「……そうだな」

 最後にデザートが運ばれてきた。……店員のハッピーバースデー合唱つきで。

 火のついたろうそくに思いきり息をふきかける。こんなところで、こんなことをされると思っていなかったから照れくさかった。


 満腹になって、満足して新宿駅まで歩く。周囲はまだ人がたくさんいた。この街は眠ると言うことを知らないのだろう。

 気がついたら、自然と指が絡んでいた。つないだ指の先から伝わってくる体温が心地いい。

 

 最寄り駅からもそのまま歩いてくると、咲子の家にはあかりがついていたが、隣家は誰もいないようで真っ暗だった。

「さきちゃん」

 厳しい顔をして、貴也が口を開く。

「何?」

 今まで二人の間にこんな緊張感が走ったことはなかった。


 咲子はうつむく。つないでいた指がほどけた。

「……おやすみ」

 ぽんと咲子の腕を叩いて、貴也は真っ暗な家の方へと足を向ける。

「たかちゃん!」

 立ち止まった貴也は、首だけ咲子の方へと振り返った。

「……おやすみなさい」

 無言で右手をあげて、貴也は門をくぐる。それを見送って、咲子も自分の家へと入っていった。


「早くお風呂入っちゃって」

 典子にせかされて、咲子は風呂場へと急がされる。浴槽の中で、何度も貴也とつないでいた方の手を開いたり閉じたりしてみた。

 いつまで甘えていていいのだろう。貴也の好意を感じないほど鈍くはない。

 貴也が咲子に好意を持っているのは、周一のことがあるからだというのはわかっているのだけれど。

 周一とのことがなければ、再会したただの幼なじみで終わっていたはずだ。

 道ですれ違えば挨拶くらいはしただろうし、たまには両家で食事に行ったかもしれない。けれど、それ以上に発展したかどうか。


 自室の机の上に置いたチョコレートに頭がいく。寝る前に、あれを冷蔵庫にしまっておかないと。

 見つかればあれこれ言われるだろうが、常温に放置しておくわけにもいかにい。母親に追求されるのを、少し面倒くさいと思ってしまった。


「これ、もらい物。いいチョコだから、勝手に食べないでよね」

 誰からもらったのかはあえて言わず、冷蔵庫にキープする。

 テーブルの上に放置してある携帯電話が、メールの着信を告げている。

 理恵からだった。

『今度の土曜日。五人くらい集まりそうだけど、伊達君も来られそう?』


 誰が集まるのかは聞いていないが、理恵が集めるメンバーなら、だいたいあのあたりだろうと想定がつく。

 中学を卒業してからは疎遠になっていたが、成人式で再会し、そこで意気投合して大学時代はずいぶん熱心に遊んだものだ。夏は海、キャンプ、冬はゲレンデ。ずいぶん濃密なつきあいだった気がする。あの頃は。

 彼氏彼女ができたら、同行させ、別れたらみんなで慰めあって。


 去年は社会人一年目ということもあって、皆自分の生活基盤を築くのに忙しくて何回か飲み会程度で終わっていたけれど。

 咲子の知っている限りでは、そのメンバーの中で付き合っているという人はいないはずだ。

 その方が都合がいい。気持ちのいい関係が壊れなくてすむから。


『誰が来るの?』

 想定はつくが、一応誰が来るのかを確認しておく。

『佐藤君、小野田君、井上君、それに亜矢ちゃんとわたし。あとは咲子と伊達君ね』

 貴也もしっかりメンバーに入っている。

 貴也は、再会を期待しているのだろうか?

 それほど思いいれがある人間関係でもなさそうなのだけれど。

 でも、一応聞くだけ聞いておこうか。濡れた髪のまま咲子はメールをうつ。


『今度の土曜日、小学校からの同級生五人くらいで集まるらしいんだけど、一緒に行く?』

 通勤するのにさほど不便ではないから、まだ実家から通っている人も多い。咲子がそうであるように。都内で一人暮らしするには、それなりの出費が前提だし、それなら多少不自由でも実家から通うことを選択するのだ。社会人になって数年ならなおさら。

 返信は来るのだろうか。貴也の反応は、どうなのだろう。


『昼間、にーちゃんと出かけたいんだけどそれでもよければ』

 夕方から飲み会ということは、それほど遠出はしないだろう。咲子は了承の旨を返信すると、携帯電話を閉じた。


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