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ベランダ恋愛始まります?

作者: かちこ
掲載日:2026/07/22

夏のベランダは暑い

 

「くっそ疲れた。」


アパートの自室のドアの鍵を開けながら優木恭介は一日の負の感情を全て吐き出すようにボソリと呟く。ガチャリとドアを開けると自分の部屋の空気に包まれイライラしていた気持ちがほんの少し緩んだ。

玄関で靴を乱暴に脱ぎ、リビングを突っ切りがてら荷物をソファーに放り投げ、手も洗わずにベランダに出た。ベランダの柵に寄りかかりながらポケットに入れているタバコを視線を向けることなく取り出し、慣れた手つきでライターでタバコに火をつける。

肺の奥まで目一杯吸い込みタバコの先端が真っ赤に燃えるのを確認しながらゆっくりと煙を吐き出した。

仕事のクレーム処理に後輩のフォロー、上司からの嫌味と今日は嫌な事ばかり続いた。

タバコを吸いながらスマホを取り出し時刻を確認するとすでに23時を過ぎていた。


煙を吐き出すのとは違うため息を吐き出し、酒が飲みてぇなと考えながら恭介がベランダでタバコを吸っていると、ガラガラと隣から掃き出し窓を開ける音が聞こえた。


(やべっ!)


いつもは隣の部屋の電気が点いていないか確認してからタバコを吸うのに今日はイライラから確認せずに吸ってしまった。まだ、起きていたのか。

今更火を消しても遅いのだが、恭介は慌ててタバコを灰皿に押し当てた。


隣からチッと舌打ちがしてベランダに置きっぱなしだろうサンダルを履いて恭介の部屋との境に足早に近付いてくる音がする。


(今日は本当に嫌な事ばかり起こる日だ。)


 


隣のベランダからガッ!という効果音がつきそうな勢いで目を見開いた女が顔を覗かせた。

片手で鼻をつまみ、もう片方の手で口を覆っているため目と頭しか見えないが怒っているのがよくわかった。

「・・・またですか。吸わないでくださいって前にもお願いしましたよね。」


しばらく凝視された後、開口一番の苦情。”前にも”の所をえらく協調された気がする。


「聞いてますか?優木さん!」

夜中なので小声ではあるのだが怒気が凄まじい。目が吊り上がっている。


「あーはい。すみません。もう寝てるかと思いましてー。」

もうどう言い訳しようが怒っているのは変わらないのだが恭介はとりあえず謝ってみることにした。まぁ、無駄だろうが。


「ちゃんと確認してください!こっちは寝ている時だってタバコの匂いが嫌なのに我慢してるんですから!」

恭介の頭の中では女の声がキャンキャンという小型犬の声に変換されている。俺、小型犬苦手。猫の方が好きなんだよなぁ。静かだもんなぁ。はぁ、疲れたなぁ。


「聞いてます!?」

「はぃ、聞いてます。すみませんでした。以後気を付けます。」

お叱りの言葉が止まらない時の上司に対するように恭介は頭をペコリと下げた。


女が黙る。チラリと伺うと唇を噛みしめて言いたいことをぐっと我慢したような顔になっている。


「?」

話は終わりだろうか?恭介はでは、と、もう一度ペコリと頭を下げて逃げるように自室に戻った。


その背中をベランダの柵から身を乗り出した女が悔しそうに見ているのには気付かなかった。



恭介は喫煙者だ。ここ数年は電子タバコの方が主流かもしれないが恭介は紙タバコに火を点け、吸い込む瞬間が好きだった。ジジジと紙とタバコの葉が燃える時の音も好きだ。台所の換気扇の下で吸うとどうしても部屋内に煙が漂うため出来るだけベランダに出て吸っていた。

学生の頃から住んでいるアパートでは他にも喫煙者がいるらしくベランダに出れば自分の物とは違うタバコの香りがしたりしていたため今まで苦情など言われたこともなかった。


冬になろうかという頃、ベランダでタバコを吸っている時にふと隣の部屋の掃き出し窓を見ると今までベージュのカーテンがかかっていたのに何もなくなっているのに気付いた。カーテンがないため室内がよく見えたが空室になっていて初めて隣人が引っ越したことに気付いた。見かけることもなかったため、学生だったのか社会人だったのか、女なのか男なのかもわからない。今時は入室や退室の挨拶などしないため、特に気にもしていなかった。隣人がいなくなったからといって恭介の日常は変わらない。


それが3月後半になり、可愛らしいピンクのカーテンがかかっているのに気付いた。

あぁ、次が引っ越してきたのか。そう思っただけだった。


ある夜。仕事から帰っていつものようにベランダでタバコを吸っていると突然声を掛けられた。


「あの、隣に引っ越してきた者ですが、、、」


びっくりした恭介は持っていたタバコを思わず落としそうになった。

「あっぶねぇ。」

声のした方を見ると隣のベランダから手で口と鼻を覆った女が顔を覗かせていた。

恭介よりも年下だろうか。目元しか見えないが黒髪で顔立ちはまだ幼さそうだ。学生だろうか?


「はぁ、」とタバコを持ったまま恭介が答えると女はしばらく恭介を凝視した後、持っているタバコを見て


「あの、すみません。私タバコがダメなんです。煙がこちらにも流れてくるのでそこで吸うのやめてもらえませんか。」

「・・・え?タバコ?」

どう見ても恭介より年下だろう女の子にズバリと言われて頭にすんなりと入ってこなかった。

恭介の見た目は自分で言うのもなんだが怖いと思う。切れ長の目に身長も高い方なため威圧感があり初対面では怖がられることが多いのに、この子すごい度胸あるなと感心さえしていた。


「あの、聞いてます?」

おぉ、さらに追撃してきた。強火だなと思ったが明らかに女の子がイライラし始めたので


「あぁ、聞いてます。すみません。今まで言われたことがなかったし、引っ越してきたのも知らなかったので。ただ、俺もタバコを止めるつもりはないので今まで通りここで吸いたいんですが。このアパート禁煙て訳じゃないですよね?」

心の中では俺の方が先に住んでいるのになんであんたに合わせる必要があるんだと思っていた。窓閉めればいいんじゃね?


「それはそうですが、本当に匂いが嫌いなんです。」


「・・・・。」知るかよ。と心の中でごちる。面倒くさい子が引っ越してきたなぁと思った。


「あの、私、この春から社会人なんですが仕事が不規則なので夜いないことも多いんです。なので部屋にいない時はここに空き缶を置いておくのでその時にベランダで吸うとかはどうですか?」

ベランダのエアコンの室外機の上を指さしながら女の子が言う。


社会人なりたてか、じゃぁ20~22歳あたりだろうか。

なんでそんな条件を俺が了承しないといけないのだ。面倒くせぇな。

恭介はタバコを吸うだけのつもりだったので薄着でベランダに出ていた。肌寒くて体がブルリと震える。3月末といってもまだまだ寒い。もう部屋に入りたかった。


「あー、はいはい。出来るだけ気をつけます。では。」

新参者のことなど知るか、適当に返事をして恭介はペコリと頭を下げて部屋に戻った。


ガラガラと掃き出し窓を閉める時に女の子が何か言っていたような気がするが聞こえなかったことにしてカギを閉めた。そういえば名前を名乗らなかったし、聞かなかった。まぁいいか、興味ないしなぁ。

黒髪でキャンキャン吠えるから黒ポメにしとこう。


あー面倒くさい。




隣人黒ポメからの要望を恭介は全く聞く気がなかった。一応、室外機の上の空き缶は確認するが窓が閉まっていれば大丈夫だろうと構わずにタバコを吸っていた。だが黒ポメは目ざとく見つけてはその度に鼻と口を覆って恭介に苦情を言いに来た。キャンキャン吠える黒ポメなど大型犬の恭介は全く怖くなかった。

気付きませんでしたー。と言って逃げ、また吸っては逃げるを繰り返していた。


数カ月が経った頃、仕事で久々の大ハズレの一日を過ごして大いに疲れた恭介は早くタバコが吸いたくて真っすぐにベランダを目指した。今日は黒ポメにキャンキャン吠えられたくなかったため、隣のベランダの室外機の上を確認すると空き缶が置かれていた。部屋も真っ暗で不在のようだった。


「よっしゃ。」

少し気分が上昇し、ベランダの柵にもたれタバコに火を点け煙を深く吸い込んで吐き出した。

(あー生き返る。)

実はベランダには簡易の机と椅子も置いてある。アウトドアの時に使うような折り畳みの物だ。

今日はここで過ごそうと買ってきた総菜を並べ、プシュッと缶ビールを開ける。

割り箸を割ったところで、恭介は何かに気付いた。

今、隣のベランダから何か音がしたか?鼻をすするような音がした気がする。

恭介がそぉっとベランダから身を乗り出して隣のベランダを覗き込むと恭介と黒ポメのベランダの間仕切り版の所に黒ポメが座り込んでいた。三角座り?体育座り?で膝を抱え込んで鼻を啜っていた。


「おゎっ!びっくりしたー!」

恭介が驚いて声を出すと、その声に驚いた黒ポメがビクッと震えて恭介を見上げた。

涙と鼻水でびちゃびちゃだった。


「どうしたの。」

思わず尋ねてしまった。黒ポメはびちゃびちゃな顔に今度はくしゃくしゃな顔を足して、真っ赤に充血した目からドバドバと涙を流しながらうわーんと泣き出した。

顔が大惨事で大洪水なことになっている。


「えー・・・・。」

恭介はこんなに泣く人間を目の前で見たことがなかった。一人っ子だから兄弟喧嘩とかもなかったし、乳幼児ならまだしも一応の大人が赤ちゃんのように泣く様に驚いて固まってしまった。

思わず尋ねてしまったし、どうしたらいいんだろう。


恭介が固まっていると黒ポメが大惨事の顔のまま、きっとこちらを睨みつけた。そういえば黒ポメの顔を初めてまともに見た。いつも鼻と口を覆っているから見たことがなかったのだ。

大惨事で大洪水だから結局よくわからないが。


「俺が話を聞くよ。とか、気の利いた言葉も言えないんですかー!」

「えー・・・・。」

俺が聞かなきゃいけないのか。っていうか、俺の事嫌いじゃないのか?いや、聞いてくれるんなら何でもいいのだろうか。


はぁ、と大きなため息をついた恭介はチラリと簡易テーブルの上に並べられた自分の晩御飯を見た。

「俺、まだご飯これからだし、食べながらでもいいならどうぞ。こっちに来れる?」

えっと驚いた顔をした黒ポメの涙が止まった。あ、鼻水垂れた。

くすっと笑った恭介がおいでおいでと手招きする。大惨事の顔を見てたら敬語も抜けてしまったがまぁ、いいか。面倒だし。


部屋の中は散らかり放題でとてもじゃないが通せないため、ベランダの柵を乗り越えてもらおう。

恭介達の部屋は1階のため落ちても大丈夫だ。

まさかの提案に黒ポメはパチパチと瞬きをする。さすがに来ないかと恭介が思い始めた頃、

「行く。」と黒ポメがベランダの柵を乗り越えて一旦、アパートの庭に降りた後、恭介のベランダに手を掛けて飛び上がった。手助けがいるだろうかと思ったがさすが若いだけあり、軽やかに着地した。


「あ、私手ぶら。」

恭介のベランダの食事を見て黒ポメが呟いた。

「いいよ、いいよ、これ一緒に食べる?つまみのような物しかないけど。酒は飲める?」

ベランダ用の椅子は一脚しかないため、黒ポメに譲り恭介は部屋の中に置きっぱなしだった米の入った段ボール箱をよいしょっとベランダに置いてその上に座った。まぁ、見てくれは悪いが気にしない。

酒は飲まないと言った黒ポメにお茶と割りばし、小皿を出してついでに濡らしたタオルを渡す。


「目が真っ赤だから冷やしなよ」

ありがとうとボソリと黒ポメが言って素直に目元を冷やし始めた。

恭介は飲みかけの少しぬるくなった缶ビールを口に含んでゆっくりと飲み込んでから食事に手を付け始めた。

しばらく沈黙が流れたが黒ポメがボソボソと話し始めた。


「私、タバコの匂いが苦手で。上司がすごくヘビースモーカーで匂いが常にするから話をする時とか、エレベーターに乗り合わせた時とかも匂いがすごくて辛くて。いつも何でもない顔をしていたんですけど、最近優木さんにズバズバ言うようになってつい言っちゃったんです。臭いって。」


「え。上司に?臭いって?」

「はい、言っちゃいました。体調悪くてしんどくて、薬飲んでたからぼーっとしちゃってて。なんか臭うなぁって思って、確認せずに臭いって言った後、後ろを振り向いたら上司がめっちゃ睨んできてました。」

ぐすんと黒ポメが鼻を啜る。

「その時は何も言われなかったんですけど、それからその上司から無視されたり、嫌味言われたり、ちょっとしたミスも私のせいにされたり嫌がらせが始まっちゃって。他の人達も私が標的にされてるのがわかったら関わらないようになっちゃって・・・。」

「ハブられちゃったのかぁ。」

「う”う・・・。はい。」

ぐすん、ぐすんとまた泣き出してしまった。


「何でこの世にタバコなんてあるんですかね。害でしかないのに皆バカスカバカスカ吸いやがって。あんなん毒でしょ。迷惑になってるってなんでわかんないんだろ、まじで死ねばいいのに。」


どんどん、物騒な言葉になっている。その死ねばいいのにに分類される恭介が目の前にいるのに黒ポメの毒吐きは止まらなかった。


「私の父親、くそだったんですよ。家の中だろうがどこだろうが所かまわず喫煙して、いつも家の中はヤニで汚れてて私にも匂いが移って同級生とかに臭いって言われて。まぁ両親は離婚したんでもう会うこともないですけど。私にはトラウマレベルなんですよ。」

あ、俺の食べたかった最後の餃子食われた。喋りながらよく食えるな。

「社会人になって職場も喫煙者あまりいないからぁって言ってたくせに、あのくそ上司。言った本人がヘビースモーカーって。まじでやってらんない。あー。明日からどうしたらいいんだろう。ハラスメントだらけの上司になんて会いたくない。」

あ、俺の食べたかった最後の唐揚げ食われた。あ、こいつまだ食う気かよ。


泣きながら喋って、食べる器用なことをしてのける黒ポメの止まらない勢いに恭介はすっかり圧倒されていた。


「聞いてます!?」


「ん-はいはい。聞いてるよ。吸ってる方からしたら自分のタバコ臭って案外気付かないんだよなぁ。まぁ、もう言っちゃったもんは仕方ないし。まぁ、しばらくは様子見るしかないんじゃない。」


案外食欲はあったらしい黒ポメにあらかた食べられてしまったため、恭介は残ったビールを飲むしかなかった。

(あータバコ吸いてーな。)黒ポメのタバコ事情も職場トラブルも恭介には関係ないし興味もない。


「まぁ、あんまり度が過ぎるんならパワハラだってコンプラ違反だって言やいんじゃない。あるんでしょ、そういう部署。」


「そんなの、こっちが辞める覚悟じゃないと言えないじゃないですか。」

黒ポメの箸が初めて止まった。恭介をキッと睨みつける。


「えー。そんなことないよ。気まずいんなら部署移動っていう方法もあるし、今頃はすぐパワハラだーとか皆言ってるんじゃないの?」

恭介も後輩がいるし、特に女の子には気を付けている。セクハラって言われたくないし。


「言えない環境はダメだと思いますけど、ちょっと気に入らないこと言われたらすぐパワハラって言うのも何だか嫌で。・・・なんて言うか負けた気がする。」


「何と勝負してんだよ。仕事しに行ってるんだろ?業務と関係ないことで煩わされないように、トラブルを未然に防いだりするためにコンプライアンスってあるんだろ。従業員の安全とか権利を守るためにあるんだから活用すればいいだろ。それで居づらくなるんならその会社の将来性ってないよ、早く辞めるべきだと思うけど。」

黒ポメが俯いてしまった。あ、泣く?厳しめだったか。


「・・・正論信じて突き進んで孤立するだろう未来が見えます。こうすればいいだろとか正論言っちゃう人ほど、それ信じて行動起こして孤立したときに一番に見限るんですよ。」

口だけのくせに、と、ボソリとこぼした。


恭介は何も言えなかった。黒ポメの言い方、まるでそうされた事があるような言い方だ。もしかしてお前、以前にもやらかしてるのか。そして恭介は口だけの人間らしい。


「負けん気強いなぁ、さすが黒ポメ。」

黒ポメが以前からやらかしている苦労人だと恭介の妄想が勝手に膨らんでいく。


「・・・黒ポメ?」


あ、しまった。黒ポメって言っちゃった。


「何ですか、黒ポメって。」

黒ポメの眉間に皺が盛大に寄っている。なんなら顎も少し突き出ていないか?メン切るチンピラみたいだ。


「あ、いやー・・・俺、君の名前知らないし。」

「いやいや、表札に恩田って書いてますけど!?」

「えっ、今時表札に書いてんの!?やめときなよ、危ないよー。」

「いやいや、そうじゃなくて!隣人の名前くらい気にしときましょうよ!」

「いやー、あんまり興味ないしなぁ・・。」

「で、なんで黒ポメなんですか!」

「会った初日にギャンギャン言ってたから黒髪だし。小型犬が吠えてんなーって。」

あ、俺も大概酔ってきてるかもしれない。するすると本音が出る。


ばっと黒ポメが立ち上がった。舌打ちしそうな勢いで座ったままの俺を見下ろしている。


ポケットから自分のスマホを取り出し、何やら打ち込みだした。

ばっと、恭介に画面を見せてくる。


「恩田、、、わおん?、え、犬じゃん。」

わおんて、鳴き声かよ。俺、すごい。黒ポメってあだ名ぴったりじゃん。やめろよビール吹き出すかと思った。


「恩田かずね!和音と書いてか・ず・ね!」

今度こそチッっと舌打ちが聞こえた。涙も鼻水もすっかり止まったが今度は般若の顔になっている。

表情筋忙しいな。よくそんだけコロコロ変わるもんだ。

やっぱり大型犬に喧嘩を売ってくる小型犬にしか見えなくて恭介はへらりと笑った。


「ごめん、ごめん。俺、漢字弱いんだよねぇ。和音ちゃんね。覚えた覚えた。」

嘘、ごめん。心の中では黒ポメって呼ぶ。そっちの方がしっくりくる。


「優木さんていくつですか?ちなみに下の名前なんて言うんですか?」

「え、俺?優木恭介、25だけど。」

にやりと黒ポメが笑った。

「私、いくつだと思ってます?」

「・・・20~22?」え、この言い方。違うのか?


「私、27ですけど。」


「・・・・・え。・・・・・え!?」

恭介が驚いて固まっていると、にやりと笑った黒ポメが恭介の開けたばかりの2本目のビールを奪いさり、ぐーっと一気飲みしてしまった。


ぷはーっと息を吐き出した黒ポメは空き缶を恭介に手渡し、ベランダの柵に手をかけ、ひらりと庭に降りた。

勝ち誇った顔して恭介を見た黒ポメは


「ごちそう様でした。恭介・・・・君?私、童顔なんでよく学生とか言われますけど、君より年上ですからねぇ。見た目だけで判断するの、気を付けた方がいいですよ。助言、ありがとうございました。」


黒ポメ、いや、恩田和音さんは自分のベランダの柵に手をかけるとまたひらりと跨り、恭介におやすみなさーいと言って自室に消えてしまった。ガチャリとカギを掛ける音がする。



1人取り残された恭介は静かな周囲とは反対にバクバクと心臓の鼓動が体内で鳴り響いていた。


「はは、まじかよ。童顔が過ぎる。俺より年上かよ。」


俺、恥ずかしすぎる。


胸に手を当て、自分の鼓動を確認しながら恭介は恩田和音が消えて行ったベランダを見つめた。

この鼓動がやらかした焦りからくるものか、恥ずかしさからくるものか、他の意味からくるものかはわからないが黒ポメが突然、黒ポメではなくなった衝撃に戸惑っていた。


「あーあ、次からどうしよ。」


次ってなんだ。別に会いたい訳じゃないだろ。避ければいい話だ。


一応、ちらり恩田和音のベランダを確認すると窓は閉まっていた。

タバコを吸おうと1本取り出し、火を点けようとしたところで恩田和音の顔がちらついた。

吸ったら、また怒って出てくるのだろうか。


「・・・とりあえず、風呂入って寝よ。」


吸いたい気持ちが萎んでしまったことに少し驚いた恭介はタバコを箱に戻し、大きなため息をこぼして自室へと入っていった。














すみません。何か始まるかもしれないエピソードが書きたかっただけです。

気になる!って声がいただけたら、恋愛始まる・・・かもしれません。

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