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「婚約破棄だ!」「では新婚約者を発表しますね」

作者: 満原こもじ

 王立学校一学期末のサマーパーティーで。

 私の婚約者テイラム王国第一王子ゼルテス殿下が左腕に可愛らしい令嬢を抱えながら、鼻を得意げにピクピクさせている。

 予想通りの行動に出るようだ。

 私もスタンバイ。


「フリージア、お前なんか婚約破棄だ!」

「では私の新婚約者を発表しますね」

「は?」


 若い貴族女性にとって婚約破棄というのは、我が身に降りかかり得る結構な災難だ。

 うん、災難というのが正しい。

 自分が悪くなくても被ることがあるという意味では。


 賢い私は考えた。

 婚約破棄される危険が高いなら、放置しておくのは時間のムダだ。

 前もって対処法を考えておくべきなのでは。

 特に私の婚約者ゼルテス殿下なんか、傲慢で後先考えなくて私のこと嫌いって直に言うものな。

 殿下のわかりやすいところは長所。


 陛下の目が届かない王立学校でのパーティー。

 ゼルテス殿下は公開婚約破棄の絶好の機会と考えるんじゃないかな。

 ちょっと調べさせたら案の定だ。

 周囲に私を婚約破棄するって息巻いてる。

 私は次のパーティーでゼルテス殿下から解放されることに決定。


 新しい婚約者を誰にしようかと思ったけど、まだ殿下との婚約があるから動けないのか。

 煩わしいなと思ったけど、ハルムショー伯爵家の嫡男コンラッド様から早めの打診があった。

 コンラッド様はできる男というイメージがあったけどやるなあ。

 コンラッド様に対する好感度爆上がり。


 お父様お母様にも文句はなかったので、私は将来ハルムショー伯爵家にお嫁に行くことに仮決定だ。

 順調順調。

 思えばゼルテス殿下の婚約者になってからいいことないなあと思ってたけど、人生ここで取り返せるわ。

 ふんふーん。


「私の新婚約者は、コンラッド・ハルムショー伯爵令息です!」

「フリージア、どういうことだ!」


 ゼルテス殿下は何を怒ってるんだろうな?

 どうもこの人の各種感情スイッチはどこについてるんだかわからない。

 性格のわかりやすさとは真逆。


「どうもこうも。ただ今殿下から婚約破棄されたので、新しい婚約者を発表しただけです」

「ゼルテス殿下、ありがとうございます。僕はフリージア嬢のことが好きだったのです。しかし殿下の婚約者であったがためにどうすることもできず。しかし殿下のおかげをもちまして、晴れてフリージアと結ばれることができます!」


 コンラッド様はお上手だな。

 聞いてるとゼルテス殿下が私達のために婚約を破棄してくれた有徳の士みたいに思える。

 実際は私とエースプラット侯爵家に連絡すら寄越さず、わざわざ公開婚約破棄などという手法を選ぶゲス野郎だけれども。


「殿下が私との婚約を破棄するという情報が入ったので、新たにコンラッド様と婚約者すると発表させてもらっただけですよ」


 いい機会だったから。

 因果関係もわかりやすいし。

 ムダがなくていいと思う。


「おまっ、オレという婚約者がありながら婚約しているとは不誠実だろうが!」

「正式な婚約はこれからです」

「同じことだろうが!」

「同じでしょうか? 殿下もわたくしという婚約者がありながら、おっぱいピンクブロンドとお付き合いしていたのですから、少なくともイーブンではありますよね?」

「おっぱいピンクブロンドとはダーナのことか?」

「名前は存じ上げませんでしたが、今殿下の左腕に絡みついている令嬢のことです」


 下級生でどこかの男爵家の娘だと聞いている。

 無邪気そうな顔で、小柄で華奢なのにも拘らず胸が大きい。

 男好きのする令嬢だと思う。


「おっぱいピンクブロンドとは素晴らしい表現だな。さすがは王立学校で成績トップだけのことはある」

「お褒めに与り光栄です」

「しかしオレはダーナを愛している! 真実の愛なのだ!」

「ゼルテス殿下は既に私との婚約を破棄すると宣言したではありませんか。王族の言葉は重いですよ? ならば私との関係は既にないものと考えるべきです。事実私も殿下の言葉に従い、次の婚約者コンラッド様を定めたわけですし」

「うむ」

「おっぱいピンクブロンドを好きなだけ愛すればよろしいのでは?」


 陛下が男爵令嬢との関係を認めるかは別として。

 ……多分認めるのではないかな?


「だがフリージアは強欲だろう?」

「は?」


 いつ私に強欲設定がついたのだろう?

 殿下に強欲と思われているとはこれいかに?


「オレに未練を持つがためフリージアがダーナに嫉妬し、さらに婚約者としてコンラッドをキープするということも十分あり得る。どうだ、強欲ではないか」

「ありません。殿下がおっぱいピンクブロンドといくら仲良くしようと、私は一切文句ありません」


 婚約中だっておっぱいピンクブロンドのことを知っていたけど、そのことに関して不平を言った思えはないんだが

 他のことに不満はあったけれども。


「本当か?」

「本当ですとも。私が強欲などというのは誤った認識です」

「いや、お前はオレから仕事を奪ったではないか」

「はい?」

「政務も生徒会の仕事も、皆オレから取り上げた!」


 ……えっ?

 あれは私に押しつけていたのではなかったの?

 ゼルテス殿下の周囲の者達が私に仕事を振っていただけ?

 殿下がこれほど仕事に対して意欲があるとは知らなかったわ。

 見直した、ほんのほんのちょっとだけだが。


「申し訳ありませんでした。私が殿下のやる気を削いでいたようです」

「だろう?」

「御安心ください。殿下の婚約者でなくなった私は、政務にも生徒会関係にも権限を失いましたから。今後は一切関わらないと誓います」


 殿下の側近の生徒会役員達が慌てているけど。

 もう私が政務を執ることはあり得ず、またそもそも私は生徒会役員ではないしな。

 ……殿下が生徒会長だと執行部が機能しないから、側近連中が私に仕事を押しつけてたんだな?

 殿下の代わりに決裁して失敗すると、自分の失点になるから。

 ズル賢いやつらめ。


「おお、そうか! これにて一件落着ということだな?」

「さようです。殿下はおっぱいピンクブロンドと思う存分乳繰り合えばよろしいです。私はコンラッド様と愛を深めます」


          ◇


 ――――――――――コンラッド・ハルムショー伯爵令息視点。


 フリージア・エースプラット侯爵令嬢は清楚な美しさが目を引く、明るい髪色の淑女だ。

 であるばかりでなく学業成績やマナー、人脈、他者からの信頼において他の追随を許さないと言われている。

 テイラム王国の次期王であろうと思われていた第一王子ゼルテス殿下の婚約者として、何の不足もなかった。

 ゼルテス殿下に少々短慮なところがあっても、フリージア嬢がカバーするから問題ないと思われていたのだ。

 事実それは本来ゼルテス殿下が処理すべき政務をフリージア嬢がこなしていたことでも証明されていた。


 僕はゼルテス殿下に嫉妬した。

 フリージア嬢のような完璧に近い令嬢を婚約者にしているなんて。

 ゼルテス殿下が生徒会執行部を召集した時、声をかけられながら領主教育の忙しさを理由に参加を断ったのは、妬ましさのせいだったかもしれない。


『ゼルテス殿下とフリージア嬢の関係が不穏?』

『まあ。殿下は自分を褒め称えてくれるような令嬢を好むようだから。コンラッドも知ってるだろ?』

『それにしたって……』

『フリージア嬢は将来の王妃だ。下卑て媚びたところなんか見せられないと、殿下も理解すりゃいいのにな』


 この時僕は全然違うことを考えていた。

 ゼルテス殿下とフリージア嬢の関係が破綻し、婚約解消に至ればいいと。

 この頃から僕は手伝いを名目にフリージア嬢と喋ることが多くなった。

 が、フリージア嬢はついぞゼルテス殿下への不満なんか口にしたことはなかった。


 一方でゼルテス殿下のフリージア嬢への不満はエスカレートしてきた。

 そうした話がちらほら漏れてくる。

 ……王立学校学期末のパーティーで公開婚約破棄か。

 確かな情報を手に入れた僕は父を説得しにかかる。


『フリージア嬢が婚約破棄されたら即アプローチだと? 王家に目をつけられたらかなわん。王家の意向を判断し、それに対する各家の反応を見てからが妥当だぞ?』

『それでは遅いのですよ』


 フリージア嬢がフリーになった。

 王家からの干渉もどうやら問題ないとなったら、エースプラット侯爵家には婚約の申し入れが殺到するに決まっている。

 我がハルムショー伯爵家より家格が明らかに上の家の令息にも二、三心当たりがあるから、比較検討の段階になったら僕は勝てないのだ。

 先んじないと。


 父上に言い聞かせ、エースプラット侯爵家に婚約を申し入れた。

 

『まだゼルテス殿下との婚約が有効な内から話を持ってくるのはビックリしました』

『やる気と誠意は見せておかないとね』

『ええ、よろしくお願いいたしますね』


 やった、婚約内定!

 これで無事にフリージア嬢が婚約破棄されたら万々歳だ!

 無事に婚約破棄というのもおかしいけれども。


 かくして運命のパーティーを経過し、フリージアは僕の婚約者になったのさ。

 今日はエースプラット侯爵家邸でお茶会で。


「はあ、フリージアが目の前にいると和む」

「うふふ。何ですか? それは」


 いや、学校でのフリージアって完璧淑女だからさ。

 そんなフリージアを好きになったのだけれど、今日みたいな柔らかい笑顔を見せられたら撃ち抜かれるでしょ。

 ズキューンだよ。

 しかし……。


「……ごめんね」

「えっ? 何がでしょう」

「君は王妃になるだけの資質があったのに」


 僕はゼルテス殿下の側近にと誘われたくらいだ。

 側近連中との付き合いもある。


「ゼルテス殿下の考えを変えさせ、君との婚約を続けさせることはおそらくできた」

「やめてくださいよ。王妃なんて私には向いてなかったです」

「フリージアの能力は王妃向きだよ。欠けているものがなかった」


 僕は自分の都合を優先し、フリージアの栄光の道を閉ざしてしまったのかもしれない。

 それだけは本当に申し訳なかった。

 フリージアが笑って言う。

 

「私は本来怠け者なんです。性格が向いてないのですよ」


 意表を突かれた気がした。

 フリージアは誰よりも勤勉だよね?

 怠け者って?


「やれと言われればやりますけれど、追い立てられるように仕事するのは創造性がないように思えて。実はちょっと苦手なのです」

「そうだったのか……」


 意外だ。

 でもわかる言い分だな。

 苦手でもこなせてしまうスペックがあるから任されてしまっていたのか。


「ゼルテス殿下の婚約者でなくなれば、政務や生徒会の仕事を丸投げされることもないです。お妃教育からも解放されました」

「うん」

「今の私は本当に充実しているんです」


 それが今の柔らかい笑顔に表れているのかな。

 うん、クールで隙のないフリージアもいいけど、今の表情の方がずっと好きだ。

 だったら僕の婚約者になってくれたことは意味があると思いたい。


「非公式ですけれど、我が家に陛下から謝罪があったのです」

「婚約破棄に関してだね? エースプラット侯爵家の返答は?」

「お気になさらず。私はコンラッド・ハルムショー伯爵令息と婚約が成立しましたから、と」


 唸らずを得ない。

 本来ならゼルテス殿下を次期王候補から外し、第二王子ライナー殿下の婚約者にフリージアを充てるという考えも、陛下の中にあったと思われる。

 しかしお気になさらずと暗に慰謝料を拒否されてしまい、婚約の成立を告げてしまえば、もう王家からのアプローチはないと思われる。


「ゼルテス殿下は政務に対してやる気を見せていたでしょう? 私に回ってきていた簡単な処理事項を殿下に振ってみたそうなのですよ」

「どうなった?」

「全部の書類に判を押して許可を出したらしいですね。現場の処理能力を超えてしまって、パニックに陥ったようです」

「殿下もやるなあ」


 補佐官くらいいるんだろう?

 わからないことは聞けばいいのに。

 想像力の足りない人だなあ。


「ゼルテス殿下はどうなるんだろう? エースプラット侯爵家には報告があった?」

「殿下の望み通りにするというニュアンスが聞こえてきましたよ」

「つまりダーナ嬢と一緒になる?」

「おっぱいピンクブロンドと婚約のようですね。王家に留まるのか臣籍降下になるか、将来のことはわかりませんけれど」


 男爵令嬢が妃では、仮に王族のままであったとしても次期王ということはあるまい。

 まあゼルテス殿下は後先考えない人ではあった。

 側近も結局イエスマンしか残らなかったし、第二王子ライナー殿下に期待した方がいい。


「フリージアにはやりたいことってある?」


 様々なことをやらされていたフリージアが、自分からやりたいことって何だろう?

 これは興味あるな。

 言い分からすると創造性のあること?


「大きい商売をしてみたい気はありますね。テイラム王国を担うような」

「発想が王妃だね」

「うふふ。エースプラット侯爵家領には南方諸国との貿易に使えそうな、いい港があるのですよ。でも現状はただの漁港に過ぎなくて」

「あれ、結構具体的な話になるのかな?」

「そうでもないですけれど。ハルムショー伯爵家領は地理的に近いですから、特産品でもあれば少しずつ貿易振興できるのかなと」


 テイラム王国にとって交易の拡大は課題だと思う。

 陛下もいつぞやの演説で似たことを言っておられた。

 これまであまり関わってこなかった南方諸国を交易圏にしようという、フリージアの構想は大きい。

 やはり王妃の才……いや、こういう考え方は高官から出てこないとダメか。

 王妃の職責を超えているように思える。


 逆に交易の拡大というのは、必ずしも国が関わらなくてもいいことだ。

 貴族や商人が主導しても可能なことではある。

 だからフリージアはそういう発想を口にしたんだろう。

 夢が広がるなあ。


「さすがはフリージアだね。僕も楽しみになってきたよ。いつか必ず実現したいものだ」

「実際には港の整備だけで大変な資金が必要なので、簡単にはいかないですけれどもね。まずは南方諸国のマーケティングと自領の産業の掘り起こしからですか」

「フリージアの言う創造性というのがわかった気がする」

「ありがとうございます。あとやりたいことと言えば子作りですかね」

「えっ?」

「何でもないです」


 その企むような笑顔は反則だろう!

 フリージアの茶目っ気というか変化球には意表を突かれるな。

 まったくいくつ隠し玉を持っているのだろう。

 僕の愛する婚約者は。

 ――――――――――後日談。


「ゼルテス殿下、決裁をお願いいたします」

「お、オレはもう絶対処理しないぞ、うん」

「(この前の現場運営麻痺で陛下にこっぴどく叱られたのに懲りたようだ)いけません、王族の義務ですから」

「フリージアにやらせればいいではないか。オレが雇う!」

「王族の義務なのですって。フリージア嬢は殿下の婚約者でなくなったので決裁の権限がないのです」

「お、オレばかりがやらねばならんのは理不尽だ!」

「(成年王族は皆こなしていますよ)その負担を軽減するのが婚約者の役割ですが」

「そうだ! 早くダーナと婚約し、やらせればいいのだ!」

「(あの乳に栄養全部を回してるような令嬢にフリージア嬢の代わりが務まるのかなあ)今は殿下がやるべきことですからお願いしますね」

「しええええええ!」

「……(ここで結果を残さないと多分平民落ちでしょ。陛下は甘くないですよ)」


 頑張れおっぱいピンクブロンド。

 今クシャミしてるかもしれないけど、それはカゼじゃないよ。


 最後までお読みいただきありがとうございました。

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