表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘だった。三ヶ月だけ恋人のふりをする契約でした。  作者: 絹ごし春雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

第四話 噂


 校内は、朝からざわめいていた。


「ねえ、本当に付き合ってるの?」

「契約って聞いたけど……それ、ありなの?」

「でもさ、カイルが否定しなかったって」


視線が、背中に刺さる。

通り過ぎるたび、ひそひそ声が追いかけてくる。


セレーナは俯いたまま、歩調を速めた。

否定しなかったのは、カイルだ。

否定できないのは、自分だ。


契約。

それは紛れもない事実で、言い訳にも盾にもならない。


胸の奥が、鈍く痛んだ。


 廊下の角を曲がったところで、誰かが立ちはだかった。


「……ちょっと、いい?」


カイルの名を口にすることが多い女子だった。

柔らかく整えた髪と、張りついたような笑顔。


「ね、噂……本当なの?」

「契約って、どういう意味?」


答えを探す前に、視線が突き刺さる。


「演技でしょ? だってあなた……」

一瞬の間。

「釣り合ってないもの」


息が、止まった。


「カイルは、ちゃんとした未来がある人だから」

「軽い気持ちで隣に立つなら、やめてあげて」


何も言い返せなかった。

言い返す資格が、ある気がしなかった。


 


 夜の講義室は、昼よりも広く感じた。


照明魔石の淡い光が、机と床の境目をぼかしている。

セレーナは杖を握り、呪文を唱えた。


魔力が広がり、歪む。

形を保てないまま、消えた。


「……今日、変だ」


低い声。

顔を上げると、カイルがこちらを見ていた。


「昼、何かあっただろ」


探るような視線。

心配しているのが、隠しきれていない。


「……別に」


視線を逸らす。


「契約だし、関係ないでしょ。気にしないで」


空気が、きしんだ。


カイルはしばらく黙っていた。

拳を一度、強く握りしめてから、低く言う。


「そんな言い方、ないだろ」


セレーナは笑った。

喉がひりつくような、弱い笑み。


「私、あなたの隣にいる理由ないよね」

「演技でも……もっと上手くやれる人の方が、よかったんじゃない?」


顔を伏せる。

床に落ちる影だけが、揺れた。


椅子が引かれる音。

足音が近づく。


肩に、手が置かれた。


驚くほど、静かで、あたたかい。


「……」


言葉はなかった。

それなのに、胸の奥で、何かが崩れた。


この距離は、戻れない。

優しさが、逃げ場を奪っていく。


「……お前に何かあったら、困る」


ずるい。

そんなふうに言われたら。


どちらも動けなかった。

契約の内側で、真実が触れてしまった夜。


二人はただ、互いの体温を感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ