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第一話 厄災の魔女

読んで貰えたら嬉しいです。

『あぁ、愛しい魔女よ……だから我は言ったのだ

人間になど関わるなと……』


美しい黒の鱗で覆われた圧倒的な迄の強者。


いつの時代、どの世界でも生物の頂点とされる者は

全てを見渡すと言われるその紫の瞳で空を見上げ



命を燃やし切りこの世を去る者に語り掛ける。



燃えさかる炎に身を囚われている彼女は


かつて人々を魅了した姿は消え失せ

黒く焼け焦げながら


語り掛ける愛しい(ひと)へと言葉を返す。


『愛しい(ひと)、私は後悔などしていないわ

この結末には意味があったのよ


きっと、誰かが私の意思を継いでくれるわ

どれだけの時が経とうともね…


誰かに繋がるの、これがきっと私の運命だったのよ……』


もう、何も見えないであろうその瞳を空へと向け


上がった顎が僅かに動く、何を口にしたのか


灰となって消えていく彼女に人々が歓喜の声を上げる




『……逝ったか、我も眠ろう。

愛しい魔女よ、お前が再び我を訪うその日まで……


____』


雷鳴により竜のその言葉は掻き消された。


その年、長く続いた雷雨により田畑は荒れ


飢饉が起きた。

人々は魔女の呪いだと恐れ竜に祈ったが竜は一度たりともその目を開かなかった。




あぁ苦しい、狭い、目も見えない。


一体、どうなっているのか……自分の喉から不思議な音が鳴る


『オギャー!うぅ、あぁ!!』


何だこの声は……まるで人間の赤子の様な……


ん?いや、私は……なんだ


暖かい何かが私をそっと包み込む

頭の方でちゅっと音が鳴る


『産まれてきてくれて……ありがとう』


柔らかな人の声が聞こえた


初めて触れるその温もりにほっとしていつの間にか眠っていた。




意識を取り戻しやっと開いた目のすぐ前には


白髪に青の瞳を持つ男がこちらを見ていた。


その目はまるでおぞましい物を見るような目で見ていた。


どうしてそんな目を向けられているのか理解出来ないが


その男はすぐに此方から目を逸らし近くに居た女に声を掛けた


何らかを話すと部屋から出て行った。


声を掛けられた女がこちらにやって来て抱き上げられる


そのままどこかへ連れて行かれる。



運ばれたのは暗くて埃っぽくジメジメとした嫌な所だった


不満を訴えようと声を出すと女が溜息をついて出ていってしまった


そのまま誰もやってくる事はなく暗いこの部屋に閉じ込められてしまった。




どれ程の時間が経ったのか


相変わらず柵に囲まれた狭い所に閉じ込められている


時折、此処へ連れてきた女が世話をしにやって来る


それ以外は誰も来ずここから出られない。


体も相変わらず上手く動かない


成長し、動ける様になるまでの我慢だ。



どうしてこうなったのか、本来自分が何者だったのか


思い出せそうで思い出せない。



『あら、こんな所に居たのね?

随分と探したのよ!


全く、貴方は相変わらず気ままなのね』


何処からか高い幼子の様な声が聞こえてくる


目線を動かすといつの間にか目の前に黒いのが浮いていた


視線が合うと黒いのは小さな羽で器用にくるりと回った


『あら、貴方私が誰だか分からないのかしら?』


小さな手(正確には前足)で自分の顔を指さしている。


まだ言葉を話せそうに無いので首を縦に振る


『そう、貴方は私を忘れられたのね……

貴方にとって私は数いる魔女の一人に過ぎなかったのだわ……』


何かを憂いているような表情で顔を俯かせた


どうやら私と面識があったようだな。


『貴方、語り掛けることは出来ないの?


貴方が()()()()()()()()だけでも驚いたけれど


まさか赤子になっているなんて。


ふふ、信じられないわ。これは夢かしら?』


彼女は小さな手を口元に持っていきクスクスと笑う


何となく不快に思い心の中で悪態をつくと


『…煩い奴だな』


今度は私をビシッと指をさし怒った


『まぁ、やっと語り掛けてくれたと思ったら

煩いだなんて!ほんと、口が悪いのも相変わらずね?


貴方達は尊い存在だったから無意識に人族を下に見ている所があったわ』


全くと呆れたように溜息をつく


『貴方は私の愛する(ひと)……人々の護り神、神竜と呼ばれた偉大な存在。


私は貴方が愛してくれた魔女、エラよ


ふふ、立場が逆になってしまったわね。


貴方が今世での私の愛する()()


愛しい私だけの魔女、レイラ


レイラ…それが今世の()()の名前よ』


エラと言った彼女は私に頭を下げ、まるで淑女の様な礼をした


私はエラという名前に何処か懐かしさを感じた。


彼女の言う事はもしかしたら本当なのかもしれない。


早鐘を打つように激しく動く心臓に手を当てながら


心の中で彼女の名前を呼んだ


『…エラ』


その瞬間、彼女はその大きな赤紫の瞳を見開き


涙を浮かべながら嬉しそうに微笑んだ。


『これからもよろしくね、レイラ』


そう言って彼女は小さな手を私に差し出した


その手をそっと握りしめた。




「レイラ様ぁ、レイラ様!何処にいらっしゃるんですかぁ!」


メイドの服を着た少女がオレンジの瞳に涙を溜めながら


走り回り私の名を呼んでいる。


ひらひらとスカートを揺らしふわふわと長い茶色の髪を揺らして扉という扉を開け


探し回っている。


私は現在、逃げている


私は礼儀作法の授業が1番嫌いだ、何故なら家庭教師が嫌いだからだ。


少しでもミスをするとあいつはほくそ笑んで鞭で打ってくるのだ。


私は十分、礼儀作法は学んだし実行だって出来る。


あいつの前で礼儀なんか必要あるものか


下卑た女だ、私が父から虐げられているからと好き勝手に振舞って。


全く持って腹立たしい。


だが、これ以上探させるのも申し訳ないな……


彼女は私によく仕えてくれている。


仕方が無いと登っていた木から降りると


突然上から降ってきた私に驚いたのか


オレンジの瞳を丸くした彼女がぽかんと口を開けて


突っ立っていた。



「…も、もう!レイラ様

心配したんですよ!あの先生が嫌なのは分かります


私だってレイラ様をお連れしたくはありません!

けれど、それならそれで私もお連れ下さいと言っていますでしょ?


レイラ様に何かあったら私、私!!!」


いっぱいに溜めていた涙をぽろぽろと流し


ゴシゴシとハンカチで拭っている。


そのハンカチを奪いそっと目元に触れさせる。


「すまない、ミリー。

どうもあの女とは気が合わないんだ、子供だな


もう10歳になるというのに……


私は強いからな護衛などいらないし

もし、何かあっても対処出来る。


それよりお前を連れていて

お前が罰を受けて欲しくないんだ」


そっと頭を撫でてやるとふわりと笑った。




彼女は子爵家の子で、私が5歳の頃から仕えてくれている。


初日には慣れない事ばかりで上手くいかず帰りたいと


よく泣いていた、こんな幼子を一人にするなんてと


酷い親だと思ったが時折届く手紙に彼女は笑っていた。


エラ曰く、幼い頃より家格が上の家に奉公に行かせておけば


将来が幾ばくが安心なのだそうだ。


子爵家と言うのもあり、我が子の将来を考えた上での


決断というのもある様だ。


最初こそミリーは私の紫の瞳と黒髪に魔女の様だと


びくびくとしていたが今ではこれ程までに心を開いてくれている。


この屋敷で唯一、私が信頼出来る存在だ。


エラは私以外には姿を見せていないのでミリーも知らない。


触れていた頭から手を離しミリーの手を取り


歩き出す、仕方が無いあの女は嫌いだが戻ろう



部屋の扉を開くとそこには鞭を手に仁王立ちしていた


下卑た笑いを浮かべ私を見やると口の端を上げ


「あら、レイラ様随分と遅かったですわね?

また、逃げ出したのかしら。


お得意の木登りでもなさったの?

まったく、淑女のする行いとは言えませんわね」


とんとんと鞭を振っている。


礼を取り口角を上げ微笑む


「…先生、申し訳ありません。

朝から体調が優れなくて……


暫くお休みさせて頂きますね。


父の方にも連絡は入れておきますね」


ミリーを振り返り帰ってもらうように促すが


彼女は動かずに鼻で笑って見せた


「…ふ、ふふ。旦那様に連絡するですって?


貴女の連絡なんてあの方に届くのかしら


あの方が貴女のことを気にとめるとでも?」


馬鹿にしたように笑った。


「なっ!貴女、無礼ですよ!!

レイラ様は、正しくホイットマン侯爵家の尊き方なのですよ!


謝ってください!!!」


ミリーが言い募ると女は眉を寄せ


「……貴女こそ弁えなさい。

たかが子爵家の小娘が、侯爵家の使用人だからと


家格が上の私に口答えするだなんて……

貴女にも教育が必要かしら?」


そう言って鞭をミリーに振るった


その間に割って入り顔に当たる。


「……あぁ、もうダメだ。


おい、小娘。お前、誰に手を出したのか分かっているのか?


たかだか伯爵家の小娘が侯爵家の私に顔に傷を付けるなど

幾らあの男が私に関心がなくとも世間体は気にするだろう。


顔に傷のある娘、それも自分が雇った女に傷つけられたとあれば……


なぁ、愚かな小娘でもわかるだろう?」


顔を青くした女はその場に崩れた。


私のすぐ横で怒っているエラから発されている殺気に当てられたのだろう。


ミリーも怯えている。


私はミリーの手を取りその場を離れた。



自室に戻りソファでミリーに手当てをして貰っている。


「…申し訳ありません。

レイラ様の美しいお顔に傷を……私なんかを庇って…


私、私はなんと償えばいいのか……」


瞳を揺らし俯いてしまう。


とても大事そうに手当した頬に触れられる。


その手を包みほんの少し力を込めるとハッと顔を上げた


あげられた瞳を見つめそして微笑みかける。


「ミリー、いつも私の世話をしてくれてありがとう


貴女だけがこの屋敷で私が唯一、信頼出来る人間だ


貴女はいつも私を支えてくれる。

ならば貴女の尊厳とその身は私が必ず守ると約束しよう」


手を取りその手を両手で包み込むと


彼女は大粒の涙を流ししゃくりをあげている。


袖で顔を拭いその場に膝をつき胸に手を当て


「私も、約束致します。

貴女の傍には必ず私が居ます!


何があったとしても


私、ミリー・スペンサーは永遠にレイラ様にお仕えしこの命に替えてもお守りすると誓います」


再び顔を上げた彼女の目には涙は無く

その表情は凛としていてなんの陰もなかった。



後日、父からはあの家庭教師には暇を出したと連絡が来た。


新しくやって来たのは母の兄である現神官長を勤める


セオドラーだった。


母と同じ美しい銀髪に紫の瞳、穏やかでまるで父の様に私に接した。


時折厳しくけれど親愛を持って接してくれている


とても、心地が良かった。






エラ、ミリー、セオドラーとの穏やかな毎日に


慣れてきた頃だった。



父から家に一度帰るようにと連絡が来た。


今年で私ももう15歳になる、そろそろ成人として


貴族社会へと出るべきだと判断されたらしい。


セオドラーは私が公に出る事と家に帰る事に反対していた。


「…レイラ、私は心配です。

義弟(かれ)がレイラを何かに利用しようとしているかもしれません


叔父という立場とはいえ、貴女は侯爵家の息女だ


神官である私では何を言っても聞いては貰えないでしょう」


美しい顔に皺を寄せ険しい顔をしている。


「…叔父上、貴女の憂いは当たっているかもしれません。


ですが、私とてもう成人の身です。


ただ父の言いなりには成りませんよ、全て私の思い通りに動かしてみせましょう」


そう言って胸を張ると可笑しそうに笑う。


「ふふ、レイラは強いですね。

それでも、困った事があれば私が必ず味方になりましょう。


どうにもならなくなったら私の元へ逃げてきなさい」


大きな手で優しく頭を撫でられる。


いつまで経っても幼子に接する様にされるが


これも悪くないとも思っている。


「ありがとう、叔父上。

もしもの時はお願いしますよ」


ふふっと笑うと叔父上は目を細め微笑みまた頭を撫でられた。



馬車に揺られ半日かけて辿り着いた実家にはずらりと使用人が並んでいた。


扉が開かれ手を借り降りると案内されるまま歩き


父の書斎へと案内された。


ドアをノックすると入れと短く返される。


「…ご無沙汰しております。ち「座れ」


挨拶も途中に座れと促され座る。


対面のソファに腰掛けそして明日に行われる王城で行われる


第2王子のレビュタントに私も出席する様にと命じられた。


それで話しは以上だと部屋を追い出された。


産まれてからこの歳まで会っていなかったと言うのに


随分とあっさりとした再会だ事だと思っていた時だった。


壁にもたれ掛かり足をふわふわと動かしている少女がいた。


こちらに気が付き顔を上げこちらを向くとふっと笑った。


「…貴女がお姉様?

まぁ、本当に真っ黒な髪に紫の瞳なんですね!


私のお母様が言っていたわ、厄災の魔女の生き写しだって!


本当にあの物語に出てくる悪い魔女みたい!


これが私のお姉様だなんて私、可哀想……」


こちらへ近づいて来たかと思うと私の手を取り笑った


「…まぁ、お姉様だなんて思ってないから

全く、気にしていないけどね?


あぁ、魔女は人を惹きつける力を持っているって聞いたから


お父様が貴女を可愛がるんじゃないかってちょっと心配だったけど


そんな事、心配するまでもなかったわね!


だって私の方が可愛いんですもの!」


ピンクの瞳を細めほくそ笑む。


そのふわふわの褐色の髪を手で靡かせる。


少女の仕草には見えないからきっと母親の真似をしているのだろう。


とんだマセガキで生意気な小娘だな。


可愛らしい顔をしているのに残念な中身だな。


「…御機嫌よう、可愛らしいお嬢様。


お可愛らしい内面がその表情に出ていますね?」


と、答えてやると眉を寄せ顔を顰める。


「なによ!どういう意味よ!!」


手を突き出し押そうとしてきたのでスっと避けると


そのまま転げていた。


それを見ていた彼女の護衛は少女に駆け寄る


「ベラ様!……レイラ様、まだ幼いベラ様になんて口を!

挙句にいたいけなベラ様を転げさせるなんて!」


声を荒らげて怒る護衛を目で制した。


「…私が、何をしましたか?

押そうとしてきたのは其方のお嬢さんであって私は


ただ避けただけでしょう

私になんの非があると言うのです?」


そう返すと今にも憤死しそうに剣に手を触れた。


借りにも侯爵令嬢である私に剣を向けようとは


呆れかけていた所へ声が聞こえた。


「…そこで何を騒いでいる。ベラ、レイラ何をしている?」


侯爵がそう言うとベラは急いで侯爵に駆け寄った。


「…お姉様が私に悪口を言って私を押したんです!」


それを聞いた侯爵が私に目を向け歩いてきたかと思うと


パチンと頬を打たれた。


「…お前の妹であるベラに手を挙げたのか?

全く、お前があの暮らしに不満を持っていようが


ベラにはなんの非も無いだろうに、大人気ない


お前は生かしてもらえているだけ感謝しなければならないだろう?


魔女であるというだけでも忌々しい存在だと言うのに


その上お前の容姿は厄災の魔女に瓜二つだ!


全く、もっと弁えた行動を心掛けなさい」


その言葉に私は可笑しくなってしまった。


「…ふ、ふふ。

貴方は私の事を全く分かっていないだけでなく


貴方の可愛いお嬢様の事もよく分かっていないと見えます。


貴方は子育て等向いていないようですね。


私はあの屋敷で学べて良かったと思っております


あちらでの暮らしの方が私には合っています

それでは私はこれで失礼致します」


踵を返しその場から離れる。


後ろからギャーギャーと騒ぎ声が聞こえてきたが


侯爵に止められ宥められていた。


あの男にどう思われていようがどうでもいい。


何年も会っていなかった男に父親面されるよりは余程いい。


そう、どうでもいいことなのだ。


だから、少し痛むこの胸も


いつもより早く歩くこの足もなんでもない。


そう、なんでもないことなんだ。





翌日、用意されたドレスに身を包む。


純白の白に金糸で花が縫われているくるぶし丈のイブニングドレス


胸元にはダイヤのついたネックレス


髪は纏められ白のリボンで飾られている

黒髪が目立たないようにと纏めるように言われたのだろう。


頭が重い気がして気分が悪いがまぁ、仕方が無いだろう。



気の重いパーティが始まる。


用意された馬車に私だけ1人で乗り王城へと運ばれる。


憂鬱な気分に窓の外を眺めながら溜息をこぼす。


着いた頃には帰りたくなった。


どこを見ても人、人、人。


私の姿を見るなり皆が振り返った、ヒソヒソと話している。


きっと私のこの容姿が恐ろしいのだろう。


私は隅の柱で配られていたドリンクを手にじっとしていた


はぁ、帰りたい。何故、私が見世物にならねばならないのか。


あの男は何故、こんな所に連れてきたのか。


やはり何かを企んでいるのだろう……


考え耽っていると目の前に大きな影が出来た


視線をあげるとそこには大男が立っていた。


「貴女はホイットマン侯爵家のご息女レイラ様だろうか?


いやぁ、そのお姿まさに絶世の美女と言われた魔女にそっくりでいらっしゃる。


私と隣の部屋に行きませんか?」


そう言いながら私の腰に手を回し強引に連れて行こうとした。


私はその手を抓ってやった。


驚いて離した手を男は擦りながら言った


「…はっ!下賎な魔女の癖に俺に逆らうのか?


いいから付いてこい!!!」


手首を捕まれ力任せに引っ張られる。


と、その手を叩き落とした少年がいた。


「嫌がっているだろう!その手を離せデカブツ!!」


そのまま私の手を引き駆け出した


私は抵抗せずに引かれるまま走った


この子供からはなんだか懐かしい香りがした。


お互いに息を切らしながらふふっと笑った。


「は、ははは!お前、あんな大男に堂々とした態度


素晴らしかったぞ、いや令嬢の中にも強い意志を持った者もいるのだな!」


「…ふふ、貴方こそ。


他の連中は見て見ぬふりしていたのに

貴方だけが立ち向かってくれた。ありがとう」


お互いが顔を上げ視線がぶつかり合う。


夜に浮かぶ美しい金髪に赤紫の瞳……


息を飲むほどに美しい……それにいい匂い


その香りに誘われるままに彼の首筋に鼻を寄せた


すんっと匂いを嗅ぐと彼はびくりと肩を揺らし


慌てて私の肩を掴み距離を取られた。


「…な、何をする!」


顔を真っ赤にしながら睨み付けられたが私は彼の手を取り


そっと手の甲に口付けた。


『…あぁ、やはり。

お前……魔女の血が入っているな?…いい香りだ』


無意識に語り掛けると彼は驚いた顔をして目を見開いた。


そして片手で目を覆うように視線を逸らされた。


「…何故そう思った?

私の瞳が赤紫の瞳だからか?それとも母が隣国の者だからか?


お前も、この瞳は卑しいと思うのか……」


顔を隠す様に添えられている手を取り…いや、掴み


此方に引く力なく引かれた彼はそれでも視線を下げてたままだった


両手を掴みじっと見詰めそれでも上がらない視線に


その場で膝を折り騎士のように傅く。


そして、驚いた彼は顔を上げ私は彼を見上げて


片手を取りもう一度、その手の甲に口付けた。


「我が愛しい魔女の子よ、逢えて嬉しい。

お前が我の魔女だ、お前の名を聞きたい」


手を取ったままその瞳を見つめると再び顔を赤くした


「……わ、たしはルーカス。貴女の名は?」


今度こそじっと私の瞳を見てくれた。


「我は()()()()()だ、我が魔女よ。

お前は卑しく等ない、美しく聡明で私の唯一だ。


光の名を持つお前は必ず、今世の救世主となるだろう」


『……ちょっと!!!

レイラ?貴女、突然、何をしているの?


…もしや、記憶が戻ったの?!』


エラが驚いて姿を現した


竜の姿を見たルーカスは驚き私を見る。


「…な、何故ここに竜がこんな所に!

そ、それにエラだと?


厄災の魔女の名を持つ竜等……一体、何者なんだ?」


立ち上がり彼と視線を合わせると彼は警戒した様に後退る。


「…私はかつて神竜だった。

我等の主である神の悪戯なのか私は人族として生まれ落ちた


そして今、お前と出逢い神竜エリオットだった時の記憶を思い出したのだ」


彼は額に手を置き僅かに頭を降って俯いた


「……これは夢か?

一体、何が起こっているんだ?」


私はエラに手を差し出し肩に乗る様に言うと


素直に肩にとまりルーカスをじっと見ていた。


『…あの子、私と同じ気配を感じるわ何故かしら?』


首を傾げて唸っている。


「…ルーカス、今日の事は夢だったと思えばいい。


でも、これだけは頭の隅でいいから覚えていて欲しい


例え、誰が貴方を否定しようとも我だけは必ず貴方の味方となろう。


貴方を愛する竜が居る事を忘れないでくれ」


目を見開いた彼は赤紫の瞳を揺らし唇を噛み


何かを口にしようとして黙り込み

私の前から去って行った。


『…ねぇ、エリオット。

どうして私ではなくあの子なのかしら?


貴方は私を深く愛してくれていたのに……』


俯き愛らしい瞳を涙で濡らす彼女の頭を撫でた。


「…今世の私は魔女で、お前が私の竜だからだ。

私にとってのお前は特別な存在である事に変わりはない。


それともう1つ理由があるが……これはまだ確信が無いから

はっきりとは言えないが……


恐らく私は1()()()()とは言い難い様だ」


『…輪廻転生ってこんなに複雑な物だったかしら?』


「…おかしいのは私だけでは無いだろうか。

本来、前世の記憶は昇華される筈なのだが……


何の手違いか、もしくは我に何かをさせようと神が企てられているかだな。


で、あれば我などでは到底分からんだろうな……


まぁ、お前も居る事だきっとやり遂げられるさ」


『…そうね!エリオ…いいえ、レイラ。

私の今世の唯一、私が貴女の力になると誓うわ!』


先程まで涙を浮かべていたのにどうやら復活した様だ。


微笑み合い会場へと戻った。



パーティがそろそろ終わりへと近づいていた頃


会場は静まり返っていた演奏も止められ


会場へと足を踏み入れた私を見てその場は凍りつく


一体、何事かと視線を漂わせると


父である侯爵が私を振り返り行った


「…何処へ行って居たのだ!

此方へ来なさい!!」


人目も憚らず私に怒鳴りつける


出そうになる溜息をすんでで呑み込み


「…一体、何があったと言うのですか?」


その一言で今度はザワついた


『どういう事だ?知らないのか?』


『…借りにも娘に……なんて事』

口々に囁いていた。


父は私の腕を掴み


そして椅子に腰かける陛下に挨拶しろと言われ


散々躾られたカーテシーで挨拶をする


「…ホイットマン侯爵、その娘は知っているのか?


本人の意志もなく行える儀式では無いぞ……」


肘置きに肘をつき額を支えるように溜息をつく


「…これは一体、何の話でしょうか?」


只事では無さそうな雰囲気に疑問をいだいていると


陛下が溜息をこぼしながら言った。


「…そなたを神竜の贄乙女にと侯爵がそう、言ったのだ


そなたはそれを了承しているのだろうか?」


成程、私を贄にして厄介払いが出来ておまけに


その名誉により更に家格を上げようとしているのか。


全く、欲深い事だ……これだから人間は。



私は、再度陛下に礼をしその場で声たかだかに答えた


()()()()()()()()()()

私はその御役目、賜りたく存じます。


この国の安寧の為、この身を捧げましょう!」


陛下は驚いた様に目を見開き


見事な碧眼を揺らし複雑そうな顔をしながら


「…そなたの覚悟に感謝を。


これより、この者は神竜の贄乙女である!


無礼な行いはヘンリー・マッキンリーの名において

罰せられる、この者に心からの祝福を!」


貴族達は皆、口々に『祝福を!』と言って拍手をした



会場のこの空気、あぁ。

覚えがある、これはエラ…君が経験した過去だ。


私の肩に乗ったエラは私を撫でるように羽を動かした。


あぁ、素晴らしき人間達よ。


お前達は何も分かっていない、神竜はもう居ない。


お前達は愚かにも千年も前に自らの手で


自分達を導く光を手放したのだ……


エラの頭をそっと撫でた。


エラ、お前の意志は私が継ごう。



必ず、この国を滅ぼしてみせよう。






最後まで見て頂きありがとうございました。


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