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つるぺた欲情は事故の元


 幾度目か数えることが面倒なほどの入学式を終え、俺は家に戻る。


 手には勿論山程の大福。少し重量感のあるビニール袋がガサガサと階段を登る度に音を立てる。


 ガチャリとドアを開けると。



「大福っ!!」



 朝沈んでいたリンネはいずこへか。既にビニール袋の中身を察している少女が俺ではなく俺の手にあるビニール袋を凝視していた。


 普段なら高く掲げたりとイタズラをするところだが、今日の朝の様子を見ているとどうもそんな気分にはなれない。


 素直に渡すことにした。



「ただいま」


「おかえりなのじゃー」



 俺を見てすらいねえ。


 まあいいか、それよりも気になることがある。



「俺さ、一ノ瀬に殺されなかったんだけど」


「今更ながら凄いパワーワードよな、殺されなかったって。当たり前なんじゃが」



 それはそう。


 しかし巻き戻る度に大福を食べているリンネだが、飽きないのだろうか。


 満面の笑顔で大福を頬張る姿を見ていると、飽きるとは無縁の表情だが。



「おそらく……もぐ、顔を見た途端突き飛ばすほどの……もぐもぐ、ブサイクじゃ……無くなったのじゃろ、ごくん」



 ハムスターのように頬を膨らませて食べるリンネ。


 多少の行儀悪さよりも、俺はこれからを想像して絶望していた。


 前はとんでもないブサイクだから突き飛ばされていた、しかし繰り返し重ねることによって、まだ見れないこともないブサイクに変貌。殺すほどでもないブサイクになった……と。


 殺したいくらいブサイクっていうのも酷い話だが、そういった負の感情によって俺の体が研磨されていたのは紛れもない事実。


 ……ということは。



「これからどうすればいいんだ?」


「さあ?」



 他人事かこいつ。いやまあ他人事だろうけど。



「事情を話して頼み込んでみるかじゃな。どうせ巻き戻れば記憶は消える、自分の手を汚した事実も無くなるのじゃから」


「割と鬼畜な発言どうもありがとう」



 ただ、現状思いつくのはそれしかない。とは言え……話したところで殺してもらえるだろうか?



――――――――――



「は? イヤなんだけど。意味わかんないし」



 ですよね。


 翌日早速話して頼み込んでみるものの一蹴。なんなら不審者を見る目付きで俺から遠ざかりつつある。


 余計にハードルが上がったと言わざるを得ない。



「そもそも、私にメリット無くない?」


「ごもっとも」



 言いながらジリジリと後退していく一ノ瀬。しかし悲鳴を上げて逃げられないだけ進歩したもんだ。


 今となっては困る進歩だけどな。



「じゃあ、もう行ってもいいよね? 付いてこないでよ?」


「良くはない。殺してもらわないと」


「なんで私が殺さないといけないのよ」



 朝礼前の廊下。教室の前で繰り広げられる殺す殺さないの応酬。いつもであれば入学二日目で友人に囲まれている一ノ瀬だが、物騒なワードが飛び交う所為で彼女にすら人が寄ってこない始末。


 教師が来るまでに済ませないともっと大事になり、それどころじゃなくなってしまうかもしれないな。



「それは、一ノ瀬が一番美人だからだ」


「なっ……!」


「三年間見てきて、お前ほど美人なヤツはいない。殺されるならお前以外いないんだ!」



 拳を振るって熱弁する。


 男からの真っ直ぐな愛の告白に、さぞ一ノ瀬も赤面して――――



「キショい」


「やっぱり」



 ゴミを見る目をしていた。幾度となく注がれた視線、逆にそれが安心するまである。



「殺す殺さないの話の前に言ってたら…………いや、でもないわ。ブサイクだもん」


「ブサイク関係ある?」


「あるでしょ?」


「あるな」



 ブサイクの彼氏は御免被るって? 至極当然の反応だ。


 しかしだからこそイケメンになろうと思っているわけであって。


 とは言っても『俺死んで徐々にイケメンになってくんだー。だから殺してくれー』と真っ正直に言ったところで返ってくるのはこちらの反応であるからして。


 正に八方塞がり。うーむ、これからどうしたものか。



「おーい、教室入れー」



 悩んでいる間に予鈴も鳴り、教師もやってくる。


 ……時間切れか。一ノ瀬に視線を戻すと、立っていた場所には既におらず教室内で自分の席に座っていた。


 す、素早い……。



「おい池杉、早く入れ」


「へい」



 今は言われた通りにしておこう。しかし見てるが良い名も無き教師よ、いつか巻き戻って俺に注意したことそのものを無くしてやるからな……。


 ……………………と意気込んだのも束の間。


 俺は避けに避けられ続けた。


 一ノ瀬からは、もう既にヤバいヤツという烙印を押されているから、視線が合う前に逃げられる。


 ある時はダッシュで、またある時は女子の輪の中へ。


 女子の輪の中に入った一人の女生徒を追いかけるとどうなるか知ってるか?


 全員からゴミを見る目で見られるんだ。ゾクゾクするよね。


 してる場合か。


 そうこうしている間に放課後へ。


 教師からは部活動の見学を許可するお達しがあったが、どうせ巻き戻るこの身。部活動に時間を費やしたところで得られるものは限られている。


 ……仕方ない、今日のところは帰ろう。


 死に戻れる身になってから、最長で生きていたのは夏休み前まで。


 そこまで引き伸ばしたのも、いつでも死んで戻れるという確証があったからだ。


 確証が無い今となっては……正直、不安でたまらない。


 はっ……!? 一度自殺して、殺したくなるくらいのブサイクに戻るか?


 いや、それだとマイナスとプラスの行ったり来たりだ、堂々巡りなだけ。


 そういえば、彼女が危ない所を助けるとボーナスが入るんだっけ。その時を狙えば……。


 ただ24時間常につけ狙う必要がある。もしその際にお縄になれば俺が待っているのはペナルティの獄中死。


 御免被る。



「う~~~~~~む……」



 夕焼けが染める廊下。一人腕を組んで悩んでいたところで現状が変わるわけもなく。


 …………帰ろ。


 今日は大人しく帰ることにした。


 ………………


 …………


 ……


 帰るなり、リンネに相談してみた俺だが。



「たまにはゆっくりするのもいいんじゃないかのう。どうせ巻き戻るんじゃ、急いだところでしょうがあるまいて」



 などと非常に呑気なアドバイスを賜った。


 現状打てる手が無い俺は、そのアドバイス通りにするしかない訳で。


 ………………一ヶ月が経過。



「今日お小遣いの日じゃろ? 大福大福~」


「ああ、そうだな」



 …………二ヶ月が経過。



「大福買いに行くぞ麗人よ!」


「……ああ」



 ……三ヶ月が経過。



「……あの、大福を……ですね」


「…………」



 四ヶ月が経過。季節は夏、学生の俺は夏休みの真っ最中。


 普段勉学に励んでいる学生たちだが、長期休暇である今となっては遊びに明け暮れ、怠惰で充実した休みを満喫しているはず――――俺以外。



「死にたい死にたい死にたい殺して死にたい死にたい死にたい殺して殺して殺して殺して殺して」


「ヒィ…………!!」



 同じ部屋に住むリンネが引きつったような悲鳴を上げた。失礼な奴め、殺してほしいぞまったく?


 暇があれば外を彷徨い、一ノ瀬がピンチな場面が無いか探してみたりするものの、そうそうピンチな時は無いわけで。


 散歩して帰宅するという非常に健康的な生活を送っていた。


 おかげでフラストレーションは最高潮。殺して欲しい欲望が溢れんばかりである。



「…………そういえば、欲情出来る相手なら誰でもいいんだよな?」


「ん? あ、ああ……誰でも、というわけではないが……そうじゃな」



 ……なるほど。


 俺はリンネをじっと見る。


 幼いが整った顔立ち、癖っ毛の銀髪はチャームポイントだろう。


 体付きは絶壁……まあ幼女だしな。



「な、なんじゃ……ジロジロ見おって……?」


「………………リンネで欲情できるか試してみてる」


「ひ、ひやぁ! やめんかたわけ者!!」



 ジャンプして頭を叩かれた。


 体中に駆け巡る不快感を消すかのように身を抱いて、俺から距離を取るリンネ。



「ワシで欲情するとか変態か!? 少子高齢化は貴様の責任か!?」


「落ち着け、欲情できるか試してるだけだ。今のところ出来ない」


「なんでじゃ!? ワシぷりちーじゃろ!? 欲情せんか!」



 どうしろっちゅーんじゃ。


 しかしやはり無理そうだ、何日も巻き戻るのを積み重ね続け、毎日のように突き合わせた顔だ。エロい妄想なんて不可能に近い。こいつはどちらかと言えば家族みたいなもんだった。



「それにワシがお主を殺してもノーカンじゃ。ワシはあくまでもお主を外側から眺めている存在、お主の主観の中に収めるでない」


「チッ、なんだ。時間損した」


「こ、こいつ……っ!」



 む、もうこんな時間か。


 日課の徘徊……じゃなくて、見回り……でも無くて、一ノ瀬のピンチを探しに行こう。



「気を付けてなー」


「むしろ気を付けずにトラブルに巻き込まれたいな」



 とは言っても、やはりトラブルなんて早々起きるわけも無く。


 今日の散歩も無駄足で終わろうとしていた。そんな時だった。



「………………」



 一ノ瀬発見。一人で歩いている。


 周囲に友人はいないようだ。


 …………落ち着け、もう無駄だって思い知っただろう?


 あれから一ノ瀬は俺を無視するようになった。それだけだとまあ、殺されてた時と何ら変わらない状況だが。


 殺してくれと熱弁して以降、俺を見つめる視線は異常者を見つめる視線だった。


 コンタクトを取りたくても取れない、もどかしい状況。


――しかし今は一人。俺は背後にいて、一ノ瀬は俺に気付いていない。


 驚かせて突き飛ばしてもらう……とか、ありか?


 クソ、リンネがいたら聞けたんだが……。


 しかしこんな機会は次いつ巡り会えるだろうか。…………やるしかないか?


 俺は足を速める、みるみる内に一ノ瀬の背中に追いつく。


 ……今はまだだ、車が通っていない。通り始めたら…………よし、今だ!!



「一ノ瀬えええええぇぇぇぇっ!!」


「えっ? いやああああぁぁぁぁああっ!!



 ドンッ。さすが俺は策士、読み通りだ。一ノ瀬は俺を突き飛ばし、俺は目論見通り車道へ出た。


 しかし策士はとんでもなく無能だった。彼女の服に指が引っかかり、一ノ瀬も共に車道へと躍り出る。



「クソっ……!!」


「いやっ――――!!」



 指を外し、彼女だけでも車道から出そうとしたが間に合わない。


 ブレーキ音と共に意識は途切れ、いつも通りのナビボイスが脳内に響く。



――んー……これはどうしようかのう……。


 ……これは俺の失敗だ。だからマイナスにしてくれ。


――まあ、確かにな。だいぶ無茶したからのう…………じゃあ、身長1cmダウンじゃ!


 ……そうだな。あれは良くなかった。


――次からは気をつけるんじゃぞ。


 次はポケットに手を仕舞ってやることにする。


――そうじゃないんじゃよなぁ……。



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 目元  37  / 100%


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 鼻筋  50  / 100%


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 口元  33  / 100%


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 身長  163 / 177cm   164cm→163cm  

 1cm Down!!


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 体重  81 / 70kg


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