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初デート


 今日はデート、そう、デート。知ってる? デートって。


 俺は知らない、生まれて初めてだ。知識だけはあるけどな。


 あれだろ? 楽しみすぎて二時間前から待ったりするんだろ? すると彼女がもう来てたりしてたり、ちょうどナンパされてるところに出くわしたり。


 んで夕立が降って雨宿りにホテル行ったりするんだろ? 知ってる知ってる。



「知識が偏っておるのう」


「やかましい」



 俺の脳内シミュレートにケチをつけないでいただこう。


 空想なら自由なのだ、何処まで想像しようとも、何を考えようとも!



「逮捕されない程度にするんじゃぞ」


「考えるのも憲法違反ってか?」


「そんなことより麗人、遅刻するぞ!!」


「え?」



 予定の時間まで後三時間ある。……余裕過ぎない?


 だというのに、リンネは『ダメだコイツ』みたいな顔で首を何度か振った。ちょっとムカつく。



「二時間前から待つんじゃろ!?」


「嘘だろ? めっちゃ暇じゃん?」


「でぇとこぉすの振り返りを何度もするんじゃ! 完璧で百点満点にするためにな!」



 でぇとこぉす、ねぇ。


 完璧なモノにしたいし、百点にはしたい。変にリンネの言葉に意地を張らず、言う通りにするのも大事なのかもな。



「わかった、じゃあ行ってくる」


「お土産待っておるぞ! いいヤツな、ゆっくり吟味するんじゃぞ!!」



 まさかそれが目的で早く出したんじゃないだろうな。


 違う、とは言い切れないリンネの言動に少し笑みをこぼしながら外に出る。


 空は快晴、少し肌寒い秋晴れではあるが、俺の人生初デートを祝福してくれている気がした。



「あ、お……おはよ」


「…………」



 扉を閉める。あれ? 今誰がいた?


 少しだけ開けて外の様子を伺う。そこには先程見た人物がいた。当たり前だけどな。というか見間違いじゃなかったのか。



「何してんの?」


「それはこっちのセリフ」



 深愛だった。いつも休日に家に来るのとは違う、いつも以上に……その、あれだ。綺麗だった。


 ってそうじゃない、約束の時間までまだ三時間あるんだけど?



「……いつからいた?」


「い、今来たとこ」


「…………」


「いや、ホントだって。私だって三時間前は早いかなあ……って思ったけど、こんな気持ちのまま家にいるのもなんだし、なんかもう全然落ち着かなくて、それならもういっそのこと外に出て待とうかな、ああでも、麗人の家の前に来たら偶然出てきたりしないかな、とかそんなことを少し考えただけで――」


「わかった、ストップ……ストップ!!」



 テンパっているのか、やたら早口でまくしたてられる。


 ここまで慌ててる深愛を見るのは割と珍しいし、もっと見ていたい気もする。するが……。


 人の、目が……あるんです。


 通りから通行人の、そして……二階からリンネの視線を感じるんです……!



「ニヤニヤ」


「……ま、まあ、予定の時間よりかなり早いけど……何か予約してる訳でもないし、行くか」


「う、うん……行こっ」



 こうして予定より早いデートは始まった。


 スタートから予定通りとはいかなくなったが、果たしてどうなりますことやら……。




 ……と、言ってみたものの。


 目的地に着く頃には、深愛の慌てた様子はすっかりと鳴りを潜め、いつも通りに。


 だからだろうか。



「……ねえ」


「へい」


「なんでここ?」



 何処? と思われた方にだけ答えましょう。



「バッティングセンター、嫌いか?」



 そう、バッセンである。


 なんで? と思うでしょう? 俺も思う。だけどこうも思う、深愛って割と体を動かすのが好きなんじゃないかと。インドアってタイプには見えない、ということはアウトドア派なのだ。


 極端だって? それはそう。



「いや、嫌いっていうか……やったことない」


「安心しろ、俺もだ」


「…………いよいよもって、なんでここに来たのかわからなくなってきたんだけど」


「……ノリ?」


「今日のデートがもう不安になってきたわ……」



 しかしながら案ずるより産むが易し。やってみたら意外と楽しいかもしれないじゃないか。


 やらずに敬遠するよりやって楽しもう、それが人生を楽しむ方法の一つなのかもしれない、たぶん。



 ………………



 …………



 ……



 交代交代で楽しむ俺たち。客もまばらなので譲る必要もなく、思うがままプレイし続ける。


 そして。



「楽しいね、麗人!」



 少し汗ばんだ深愛が太陽のような笑顔を見せる。おうおう、楽しんでくれて何よりだ、考えた甲斐があるってもんだ。



「……良かったな」


「あ、一球も打てないからって拗ねてるんじゃないの?」


「拗ねてないやい!」



 ブスッとした表情を一瞬で見抜かれ、子どものように反論してしまう。


 とは言え、生まれ持った運動神経の差か、バカスカ打ちまくる深愛に対し、俺のバットは空を切り続ける。


 あれだ、俺のバットだけヌルヌルした何かが塗られてるのかもしれない、だから当たらないのかも。


 客がまばらとはいえ、ゼロではない。だから空振りし続けるのを見られている気がするのは、精神衛生上良くない。だが、このまま引き下がるのはプライドが許さない。



「バッティングなんてものは、所詮玉を棒に当てるだけの競技だからな。目を瞑ってでも出来るが、今日は深愛のために譲ってやってるのさ」


「ふうん……」



 買っておいたペットボトルに口をつける深愛。


 そしてフタを締めながらとんでもないことを言った。



「じゃあ目を瞑りながらやってよ」


「えっ」



 なんでそうなる。あれは言葉のあやだろう?


 受け入れる必要なんてない、断ってしまえばそれで終わり。なのに。



「もし打てたら、今日何でも一つ言う事聞いてあげる」


「任せろ!」



 そんな簡単な言葉に釣られる俺が大好きです。


 適当に振っても当たる可能性はある、ならとりあえず振るだけのワンチャンに賭けてやろうじゃないか。



「もし外したら私の言う事一つ聞いてもらうからね」


「えっ」



 どうして承諾した後にそんな事を言うのか。


 今更取り消せないじゃないか!


 ……まあいい、当てれば済む話だ。


 バッターボックスに立って、バットを構える。


 まずは一球目は見送る。……なるほど、軌道は見えたぞ。


 目を瞑る。耳に届くのは周囲の喧騒や、外の車の音。


 そして、カシュッという音が聞こえた。球が射出された音だ。全力で振る!!



「う"っ」



 こ……腰が!! ゴキッて、変な感じがした!


 目を瞑って振った所為で今何処に立ってるのかもわからなくなったし、次の球を打てないじゃないかっ!


 腰の痛みの所為で、目を開けるという基本的な動作すら失念していた俺だった。だからだろうか。



「う"っ」


「麗人!?」



 カシュッ、という音と共に、俺の脇腹に何かが食い込んだ。


 何か? これはきっと……白球。縫い目の一つ一つが俺の脇腹にダメージを与えていった。



「完全……敗北……」


「きゃ、きゃー!?」




 ………………



 …………



 ……




「酷い目にあった」


「あれを酷い目で終わらせられるのはある意味凄いけど」



 軽食を済ませ、お次に訪れたのはゲームセンター。


 これは俺の予定ではなく、深愛の希望である。



「ここで何を……」


「あれあれ」



 指差す方向を見て。


 俺は踵を返す。……が、腕を既に掴まれており、脱出は不可能だった。



「お、俺には似つかわしくない筐体だな!!」


「でも一つ言う事聞かなきゃいけないんだけど?」


「く……くそっ!!」



 かつてはプリント倶楽部と呼ばれ、女子学生の中で一斉を風靡した筐体。


 つまりプリクラ。…………俺が? マジで?


 深愛の顔を見てみるが、どうやらマジのようだ。


 慣れた手つきでお金を入れ、フレームやら何やら選んでいく。……やっぱり慣れてるなぁ。



「ほら、カメラ見て!」


「ん、ああ……」



 言われた通りにする。すると。



『二人でハートを作ってね!!』


「俺に指図するなぁ!!」


「麗人!?」



 カウントダウンの後、パシャという音がした。


 暴れた俺はもちろんブレッブレ。



「ほんの数分なんだから我慢して!」


「はい」



 機械の指示通りにポージングする。……恥ずかしいよぅ。


 こんなの晒し者だよぅ、小っ恥ずかしいよぅ。



「でも深愛、一つだけ言う事聞くっていうのが、こんなことで良かったのか?」


「………………」



 撮影の合間に問いかけてみたが返事は帰ってこなかった。


 ふと隣を見てみると、顔に手を当てて目を逸らしていた。



「……どうした?」


「初めて……名前呼んだね」


「…………そうだっけ?」



 よく見れば耳が真っ赤になっていた。


 ……俺まで恥ずかしくなってきた。



『これで最後! ハグして仲良し!』



 この状況で!? 空気読め機械!!


 戸惑い、機械の言うことを聞くどころじゃない俺だったが。


 深愛は俺の体に抱きついて――頬にキスをした。


 それと同時に撮影音。



「……とんでもない写真に、なりましたよ?」


「わざとだから、いいの」



 赤くなりながらそう言う深愛の顔を、俺は一生忘れることは出来ないだろう。


 それくらい……輝いて見えた。

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