表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/59

友情と愛情の天秤


「ちょっとタイム」



 一ノ瀬が両手をTの形にして、少し離れた美影先輩に言い放った。


 俺に顔を近付けて、ヒソヒソ話。やめろ顔が近いドキッとするだろ。



「……どうしよう、予想外なんだけど」


「今あの人なんてった?」


「友人が欲しかっただけ、って言ってた。別に麗人のことなんて好きでもなんでもないって」


「ちょっと言い方に悪意無い?」



 激しいまでの執着心。


 凄まじい独占欲。


 手元に置くために職権を乱用する狡猾さ。


 これら全部、友人が欲しかっただけ……だと……!?


 そんなバカな話があるかい。



「会長会長、確認なんですけど」


「ああ」


「麗人のことどう思ってます?」


「好きだよ?」



 やっぱ俺が想像してたパターンじゃない? 友人とかって誤魔化しただけでさぁ?


 俺が自惚れてたパターンじゃなぁいぃ?



「会長ってご両親や祖父母はいらっしゃいます?」


「ああ、全員健在だよ」


「好きですか?」


「もちろん」


「麗人の好きと、家族の好きって、一緒ですか?」


「…………」



 顎に指を添えて天井を眺める。


 俺も美影先輩の目線を追いかけて天井を見るが、そこにあるのはトラバーチン模様の天井だけ。


 悩むこと数十秒。視線を戻して、大きく頷いた。



「そうだね」


「……」



 マジで恋愛感情なさそう。


 自分の想像がまるで見当違いだったからか、渋い顔をする一ノ瀬。


 より確信を得るために、なおも質問攻め。



「麗人に裸って見せられますか?」


「レイくんが望むならね」


「マジで!?」


「麗人?」



 ハイ、スイマセン。


 でも質問の内容が悪いよ内容がさぁ。



「じゃあ、麗人の裸って見たいですか?」


「……いや別に。レイくんが望むなら良いけども」


「望むわけないでしょうが!」



 なんで好き好んで裸を見せなきゃならんのだ。


 しかし、これは……やっぱり……?


 っていうか家族愛と異性愛の判別って裸が見たいかどうかなの? どうかしてる。



「会長って……本当に友達が欲しいだけだったんですね……」


「……? そう言っていただろう?」


「言ってましたけど……ねぇ」



 照れ隠しか、自分で恋心に気付いていないパターンもあったわけだしな。


 しかし美影先輩の表情を見るに、どちらの線も無さそうだ。


 つまり、今の彼女は病的なまでに友人を欲しがっている友達欲しがりモンスターということになる。



「美影先輩」


「……うん?」


「距離間がおかしい!!」



 ベッドの上からビシィ、と指差す。


 指を差された美影先輩はキョロキョロと左右を見たり、後ろを見たり。あんたに言ってるんだあんたに。



「友達にはあんなにベタベタしないし、四六時中一緒にいたがったりしません!」


「ふうん、そんなことしてたんだ」


「待て、今は一ノ瀬のターンじゃない」



 ややこしくなるだろうが。


 しかし俺が衝撃の事実を告げた当人はきょとんとしていた。なんでそんな顔出来るの?



「仲の良い人と一緒にいたいのは、普通じゃないのかい?」


「節度ってものがありますよね。今回の美影先輩は相手のことを思いやらずに自分の欲だけを押し通した状態ですよ」


「………………言われてみれば、そうと判断できる可能性が一分でもあるかもしれないね」


「素直に認めろや」



 思い当たるフシが少しはあるんだろう、先程よりは難しい顔をしていた。


 だけど、そうだな……友達が欲しいだけなんだとしたら、俺も身構えすぎていたのかも。


 まああの素振りから友達が欲しいだけっていうのは想像し辛いけどな。



「俺だって別に美影先輩と決別したい訳じゃありませんよ。仲良く出来るならそれに越したことはないと思いますし」


「……レイくん」



 友達付き合いが下手くそなのは俺もそうだ。


 だから下手っぴ同士、少しずつ距離のとり方を理解していけばいいんじゃないかと、俺は思う。



「最後に確認したいんですけど、会長は麗人に恋愛感情を持ってないんですよね?」


「ああ、持ってないよ。レイくんの貞操を賭けてもいい」


「勝手に賭けないで貰えますぅ!?」



 確認が取れて気が抜けたのか、一ノ瀬はベッドの上にぽすりと座り、上半身を起こした俺に少しもたれかかってきた。


 邪魔……というわけでもないので、そのままにしていると美影先輩が少し息を吐き、俺達を見た。



「少し、自分語りをしてもいいかな」



 咳払い一つ、自分の過去を語り始める。



「私は……昔、いや今もかな。人の役に立つのが好きだったんだ、人に喜んでもらうことが好きでね。ほら、覚えてるかい、あの絵の地面、土を盛っていたんだろう?」


「そうですね、出来るだけ高くして、雪を掴もうとしてました」


「一緒に書かれたあの子……もう顔も名前も思い出せないけれど、あの子が喜ぶ顔を見たかったんだろうね。だからこうして生徒会長になって、生徒たちが喜ぶ校内を作り上げたかった」



 とは言え、女性一人で出来ることに限界はある。


 現に犯罪行為を犯していた不良グループには手も足も出せずに歯がゆい思いをしていたようだ。


 そんな時に、俺が現れた。突然現れた風紀委員が不良グループの決定的な証拠を掴み、学校から排除。


 それは美影先輩がどれだけ模索しても出来なかったこと。



「凄いな、と思ったよ。しかもそれがレイくんだったからね、ダブルで凄いな、だよ」


「んで、暴走したと」


「そうだね、懐かしい気持ちが爆発して、溢れ出てしまったんだろう。閉じ込めたりして、申し訳なかった」



 深々と頭を下げられる。


 何を言おうかと思い悩んでいると、代わりに一ノ瀬が口を開く。



「正直、やりすぎだと思います。麗人がこうやって怪我をしてるのは、会長がいきすぎた所為なんですから」


「反論の余地がないね……」


「麗人が有耶無耶に許そうとしていることにも腹が立ちますけど…………でもこれは、私が出る幕じゃないんで。でも会長、覚えていてください。許された裏側にも、許せない人間がいるってことを」


「肝に銘じるよ」



 …………さて。これで一件落着、ということだろうか。


 美影先輩の暴走には困ったものがあったけれど、そのおかげで気付けなかったことにも気付けた。



「…………」


「……ん? なに?」


「いや別に」



 一ノ瀬を見ていたのがバレたようだ、俺はすぐさま目を逸らす。


 しかし一ノ瀬の視線を感じる。これは気まずいぞう!


 えーと……えーと、あ、そうだっ!



「美影先輩、聞きたいことがあるんですけど!?」


「なにかな」


「俺があなたに向かって反論した時、なんかビクンビクンしてる時ありましたよね、あれってなんだったんですか?」


「あ、ああ……あれか。あれはね……ちょっというのも恥ずかしいんだけど、歯に衣着せない物言いが、気持ちよかったというか……」


「………………………………変態?」


「なっ……! 失礼なっ! ただ、体の奥底から何かが込み上がってきて体が勝手に震えるだけだよ!」



 変態じゃん。


 彼女の名誉の為に口には出さずにおいた。



「ほら、あれだ。頑張りすぎて、私の周りには私を慕う人間しかいなかったんだ。そんな中、レイくんだけは臆さずに、強い言葉を投げかけてくれた。それが嬉しくてね」


「性的に?」


「違う!!!」



 力強い否定だった。


 顔を真っ赤にしてる、これ以上突っ込むのは流石に酷だろう。



「………………じゃ、じゃあ私からも質問いいかな?」



 真っ赤になったままの美影先輩が、俺に向かって不敵な笑みを向ける。


 ……いや、目線が少しズレてる。俺じゃなくて……一ノ瀬か?



「……なんです?」


「さっき、レイくんの裸を見たいかって質問したよね。じゃあキミはどうなのかな?」


「へぁ!?」


「恋心なのかどうか確かめる時に、言っただろう?」



 なんだろう、俺の話題なのに俺が口を挟む余地がない。


 俺の肩に当たる一ノ瀬の背中がプルプルと震えていた。俺まで居心地が悪いじゃないか!



「べ…………別に、見たく、ありません、けど……ぉ?」


「…………ふうん……?」



 たどたどしく、震える声。


 背中に触れてる肩が熱くなってきた。



「レイくんはどうだい? 一ノ瀬くんの裸を見たいかい?」


「いつでも見たい」


「なっ……スケベ!!」



 頭を叩かれる。


 が、今は良くない。



「あ、頭はやめてけろぉ……! 今はやめてけろ……!」


「そ、そうだった! ごめん麗人!」


「ふふ……じゃあ、私はこれで失礼するよ。……ああそうだレイくん、風紀は完治するまで休んでくれて構わないから。重ね重ね悪かったね、じゃ」



 そして保健室から退室する。


 残されたのは、俺と一ノ瀬。


 頭を心配してかがみ込んだ一ノ瀬の顔は俺の顔に近くて。


 一ノ瀬の顔から目を離せなかった。


 彼女も同じなんだろうか、至近距離だというのに、じっと見たまま。



「…………麗人って、私の裸……見たいんだ」


「そういう一ノ瀬は、見たくないんだったっけ……?」


「………………別に、そういう時が……来るなら」



 …………なんだろう、この空気。


 ピンク色のエフェクトがかかってそうな、そんな空気。


 だったのだが。



「はいはい、イチャイチャするなら帰ってからやってねー」


「ひゃああああああぁぁっ!?」


「うおおおおおおお!?」



 養護教諭だった。


 そうだ、保健室だもんな、いるよな。


 今までは空気を読んで黙ってただけか。



「じゃ、じゃあ私は……麗人の荷物取ってくる、また後で!!」



 バタバタと慌てながら保健室を出ていく。


 残されたのは頭に包帯を巻いた俺と、ニヤニヤと笑う養護教諭。


 養護教諭の視線が少し下へ向いたかと思うと、からかうような笑顔が余計にニヤつき、こう言った。



「若いね」


「何処見て言ってんスか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ