拉致、監禁、拘束、誘拐。好きなシチュを選んでね!
「優しく持って……そう、強く握りすぎると、怪我しちゃうからね……」
「…………」
「じゃあ、次は腰に力を入れて。そのまま、まっすぐ」
「……上じゃなくて?」
「うん、上じゃなくて。まっすぐ、力を、込めて」
「ふんぬぅぅぅっ!!」
ダメだ、上がらない。
……え? 何をしてるのかって?
見ての通り、倉庫に閉じ込められてるんですけど?
なに想像してたの? えっち!!
「っていうか、美影先輩の言い方が変なんじゃないですかねぇ!?」
「おや、そうかな?」
「っていうか、なんでこんなことしたんだ!?」
入口に倒れる、スチールの棚。
積んであった荷物はバラバラと崩れ去り、よりかかるように斜めに倒れたスチール棚は何かが引っかかってるのか、それとも重すぎるのかまったく動く気配がない。
それもこれも、壁際で不敵に笑う美影先輩の仕業である。
「なんのことかなぁ? わかんないなぁ?」
「入るなり、よいしょー、とか言って棚をなぎ倒しただろうが!」
つまりこの閉じ込められている状況は、目の前の先輩による仕業。
何故こんなことを? 出られなくて困ってる俺を見て楽しんでるのか?
ありえそうだな。
「単に二人っきりになりたかっただけなんだけどね。出られなくなるのは予想外だね」
「…………閉じ込めてまで二人っきりになりたいとか、それは恐怖しか感じないんですが」
いつもの勝ち気な笑み。
それが俺には不気味なものに見えてくるのは、内心彼女に恐怖しているからか、それとも――
「良いよ。いろんな表情を私に見せてくれ。恐怖、懇願、泣き顔、悲痛、喜びから悦びまですべて、あますことなく、何もかもを、私のために、私だけに、見せて欲しいんだ」
「……美影、先輩?」
――本当に不気味なことを考えているからか。
壁際でもたれていた先輩はゆらりと動き始め、俺に近付いてくる。
思わず後退る、けれど足元には倒れた棚、移動できる場所なんてそんなにない。
「ほら、レイくん」
俺の手を握る。軽く引き寄せてくる優しい力に、俺は抵抗が出来なかった。
俺がクソ雑魚フィジカルだからか? ……まあ、それもあるかもしれないけれど。
それよりも逆らい難い上下関係を、ひしひしと感じているからかもしれない。
美影先輩はまたも壁に寄りかかる。彼女の右手には俺の右手。俺は壁近くまで引き寄せられた。
「私はキミが欲しいんだ」
「欲しい……って」
「幼少のみぎりからの古い縁、今になってのまさかの再会。これは運命? それとも必然だろうか」
どっちでもないと思う。だって俺が初期モデルの時出会ってないし。
お互いに気付かないままの高校生活を送ってたし。ただ単に今回は俺が目立ちすぎたにすぎない。
美影先輩は自らが紡ぐポエムに若干悦に入っている気がするが、俺は真逆。徐々に冷めていく。
「俺は美影先輩のモノじゃありませんよ」
「知ってるよ。だからモノにするんじゃないか」
「それ目の前で言うかね。身構えるってわかりません?」
「身構えていようが関係ないさ。キミは私のモノになるんだから」
何なのだろうか、この自信。
俺はこんなたっぷりな自信を持てたことはない。誰かを自分のモノにするって?
……正直、俺にだってそういう欲望はある。だけど必死に気持ちに蓋をしている俺は臆病なだけか?
それともこの先輩が直情的なだけか?
「美影先輩、ひょっとしてバカなんじゃないですか?」
「ふ、ふふふ……どうして、そう思うのかな」
ぴくり、ぴくりと肩が何度か跳ねた。
怒ったのだろうか? でも顔は笑っている。
「相手の気持ちなんてお構いなしってことだろ? 誰かと関わるなら、お互いに思いやりが必要なんじゃないか? …………って、俺が言えた義理じゃないけど」
俺はついこの間まで孤独だった。
そんな俺が人との関わりと人に説くなんてな。
「でも、欲しい物は争奪戦だよ? 安売りのモノ、先着順のモノ、期間限定販売のモノ、ぜんぶが早いもの勝ちだからね」
「販売品と俺を一緒くたにするのはやめてほしいんだけど」
「キミはいつも一ノ瀬くんと一緒にいるだろう? 彼女といる間、私はキミのことを知ることが出来ない。なら縛り付けておくのが一番良いのさ」
随分と短絡的な結論だ。
関係を育んでいくという単純な過程をすべて無視し、結果だけを欲しているような。
…………俺もそうだったかもしれないなぁ。
見た目がマシになれば、すべての結果が勝手についてくると思っていた。
だから人を思いやり、考えることなんてなく、ただ目標に向かって歩き続けて。
結果、一ノ瀬を巻き込んでしまって。だけど巻き込んだからこそ、見た目が良くなるだけじゃダメだとわかった。
元々は思い出作りだった告白だったけど。今は……。
「美影先輩」
「ん? どうしたのかな」
「シリアス飽きた!!」
「…………は?」
「出して! 出して!!」
じたばたじたばた。
と、やってみたところで出られるわけがない。こんな駄々で出られるなら最初から閉じ込めていないだろう。
なら。
「出られないなら――――こうするまで!」
首を反らせたあと――全力で壁に頭をぶつけた。
嫌な音と共に、ツーンとした痛みが頭に来る。目に電流が走り、目眩を起こす。
「な……っ!? や、やめないか!?」
「このまま閉じ込められるなら……戻った方が手っ取り早い!」
何度も、何度も。
壁に打ち続ける。
眉間を濡れた何かが通って、鼻先まで降りてきた。
「いってぇ……っ!!」
こういうやり方は初めてだけど……すっごい痛い!!
特に壁に自分をぶつけるやり方。これがとても痛い。
無意識に自分自身にセーブを掛けているようで、全力になりきれていない感じがある。
「わかった! わかったから、今すぐやめなさい!」
「いや、ここまで来たら……最後、まで、やりき、って………………」
視界が黒くなる。意識が浮いていくのがわかった。
俺は無くなっていく意識の中誓う。
…………これ、二度とやらない……。
――――――――――
「う……っ」
目が覚める。……あれ、いつもの戻り方となんか違うし……それに、リンネのアナウンスは……?
目を開くと、最初に映ったのは蛍光灯がついた天井。
「……知らない天井だ」
いやマジで。
戻ったらリンネがコントローラーを持った状態で戻るんじゃなかったっけ?
「麗人?」
「…………あれぇ?」
横に首を向けると、そこには目を赤く腫らした一ノ瀬がいた。
……あれ? ひょっとして……。
「巻き戻ってない……?」
「うん……戻ってないよ。意識なくしただけだって……」
「マジかぁ……あいて……っ!」
現状を把握すると、途端に頭痛が走る。
ああ、そうか。ここ保健室か……。
ってことは、出られたんだ。
「……あれ、美影先輩は?」
「………………」
途端に一ノ瀬の表情から感情が消えて、首で入口の方向を指す。
そっちに首を動かすと、沈んだ表情の美影先輩が座り込んでいた。
「頭から血を流してる麗人を背負ってるのを見つけてね、全部聞いた」
「あ、ここまで運んでくれたの美影先輩か。……あざっす」
「…………よしてくれ。私は、礼を言われる資格なんて……」
「そうだよ、会長が閉じ込めてなかったら、こんなことにはなってないんだから」
確かにそう。
美影先輩は怖いし、何考えてるかわからないし、無駄に勝ち気で無駄に自信があって、脳筋で強引。
だけど、どうしてか嫌いにはなれない。怖いけど。
根底にあるのが、ただの子どものワガママなだけな気がして。
「いてて……」
「まだ寝てないと……」
上半身を起こす。
止めようとする一ノ瀬だけど、俺は首を振って拒否。背中を支えてくれた。
「美影先輩……俺、先輩のモノにはなれません」
「ああ……私は、とんでもないことをしたみたいだね」
その時だった。
俺の頭に柔らかく、温かいものに包まれる。
一ノ瀬が俺を優しく抱きしめていた。
「麗人には、私がいますから」
「そうだね。割り込もうとするなんて、私は先輩失格だ」
のろのろと立ち上がり、保健室から出て行こうとする背中を見送る。
そんな時、ぽそりと美影先輩が呟いた。
「私は、ただ友人が欲しかっただけなんだけどね……」
「…………」
「…………」
なんつった?
友人? 奴隷じゃなくて?
奴隷でもこの現代においての制度では難しいけどな?
「ちょ……会長? 友人ってどういうことなんですか?」
「え、言葉の通りだけど……?」
「生徒会長って、麗人を好きだったんじゃ……?」
正直俺もそう思ってた。
自惚れんじゃないわよ、ってビンタされたくないから思わないようにしてたけど。
だが、美影先輩はきょとんとした表情で。
「え?」
なんて言った。
こっちのセリフなんですけど?
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