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委員長と呼ばれる委員長ではない部外者


 放課後。


 部活へ行くものは部活へ、帰宅するものは帰宅。


 日常であればそれが通常運転。だけど今は違う。


 廊下にまでワイワイ、ザワザワと話し声が響き渡り、騒がしい喧騒が学校中を満たしていく。


 何故今現在、ここまで人がひしめき合っているのか? それは…………。



「委員長! 端材何処にやったっけ?」

「委員長! 絵の具切れたんだけど!?」

「委員長! これ持っててくれない?」

「委員長! 呼んだだけ!」



 一斉に声を掛けられる。おいおい、俺は聖徳太子じゃないんだ、そんな同時に対応なんて――



「端材は階段の隣! 絵の具は美術室行ってもらってこい! 持っててくれないって……これゴミ袋だろうが! 自分で捨てろ! 最後のやつ、死ね!!」



 出来た出来た。やれば出来るもんだ。


 というか。



「なんで俺委員長って呼ばれてんだ?」


「委員長っぽいからじゃね?」



 そばにいた男子生徒が俺の疑問に答えてくれる。


 教卓の位置から、クラスメイト全員が製作に取り掛かっているのを眺める。


 既にお気付きの方もいるだろう。そう、今は文化祭の準備の真っ只中。


 普段は直帰する生徒たちもこぞってサービス残業に勤しむ、学園三大イベントの一つ。


 ちなみに残りの二つは修学旅行と体育祭。


 え? 今年の体育祭はどうしたかって? クソ雑魚フィジカルの俺にトラウマイベントの記憶を持ってろなんて鬼畜な発言をしないで欲しい。


 と、いうわけで、今は全員が一丸となって製作に当たっているようだ。


 我らがクラスの出店は喫茶店。メイドでも女装でも仮装でもなく、ただの喫茶店。


 そして俺はこの決定に何の関与もしていない。


 だって文化祭実行委員じゃないし。



「そうだよ、俺関係ないのになんで委員長って呼ばれてんだ?」


「は? だから委員長っぽいからだろ?」


「っぽい、ってなんだよ。文実は他にもいるし、クラス委員長もいるし、俺ただの生徒会なだけだってのに、なんで委員長?」



 俺はどちらかというとこの裁縫だの大道具だの雑用だの有象無象の仲間入りする人間なのであって、間違っても指揮するポジションじゃないだろう。


 っていうか文実のヤツ何処行った? あ、大道具やってやがる! 俺がやりたいやつ!!



「でもよ委員長、一年で異例の生徒会新役職、会長のお気に入りで教師にも割と顔が利く。こんなの委員長じゃないと無理だろ?」


「でも俺委員長じゃないし、学校モノで委員長って言えば、クラス委員だろ? 三つ編みで、メガネかけてて、真面目で」


「イメージ像が古すぎないか? それにクラス委員を委員長って呼ぶのって可哀想だと思わないか? 彼女たちにだって名前はあるんだぞ?」


「俺にだってあるんですけど!?」



 なんで『俺には良い』みたいな風潮になってんの?


 勢いのまま詰め寄ると、目の前のクラスメイトの視線から感情が消えた。


 スッと目は細くなり、感情のない瞳で俺を見る。



「でも俺の名前知らないだろ」


「知っ………………って、ますぅ…………?」



 図星である。誰だっけこいつ。


 何周もしてるというのに、未だに覚えられないのは俺の記憶が悪いからか、他の奴らがモブみたいな顔してるからか。


 後者だなきっと。



「ほーん、じゃあ俺の名前言ってみ?」


「…………田中、山田、佐藤、木村のどれか」


「有名どころ集めただけじゃねえか」



 だって知らないんだもん。


 薄情なやつ、なんてブツブツ言いながら立ち去っていく謎のクラスメイトを横目で見送り、俺は自分に出来ることがないか視線を彷徨わせる。



「………………」



 一ノ瀬と目があった。


 裁縫を担当してるらしく、俺を見つめながらも手はすいすいと動いている。すごくない?



「…………」



 ふいと俺の方から目を逸らす。


 ここのところ、俺はおかしい。


 蓋をしていた感情が漏れ出ている気がするのだ。


 例えるならば、ポリバケツにちゃんと蓋はしたのに、悪臭だけは抜けてくるような…………。


 ごめんその例え無し。俺の甘酸っぱい感情をゴミに例えるのは我ながら悲しくなってくる。


 さて、商品の発注の確認でもしてこようかな! そのついでに校内の巡回もしよう!


 委員長などと呼ばれているが、役職のない俺は体の良い小間使い。元々いてもいなくても同じ立場なのだ。


 だから気配を隠して教室を出ていくなど造作もない。


 こばやんに電話番号確認してこよっと。



 ………………



 …………



 ……




 中庭で電話を終え、ベンチで一息。


 前日に取りに行くことを確約したので、後はクラス全員にその旨を伝えるくらいか。


 …………過去も喫茶店だったっけ? 初期モデルの頃は何も参加させてもらえなかったしな。


 そのくせ何もしてないって文句言われて殴られたこともあったか。今となっては笑い話だが。



「麗人」


「…………一ノ瀬か」



 手に持った缶コーヒーを手渡してくれる。


 ありがたくいただく…………が、少し……いやかなり落ち着かない。


 隣に座った一ノ瀬を意識しすぎていて、中々缶コーヒーが開けられない。決して指の力がないってわけじゃないぞ? たぶん。



「貸して」



 短く言うが早いか、俺の手から缶コーヒーを抜き取ってタブを開く。


 そして何を思ったか、一口飲んだ。



「なんで? ねえなんで?」


「私が買ったんだもん、一口くらい飲む権利はあるはず」



 言いたいことはわかる。わかるけどわからない。



「ん」



 ずい、と手渡す。


 大人しく受け取る俺だが、これをどうしろというのか。


 一ノ瀬は一ノ瀬で俺と缶コーヒーを交互に見てるし。


 え、飲めと? 目の前で? 恥ずくない?


 かといって突き返すわけにもいかない、それは一ノ瀬に失礼だろうし。


 ええい、ままよ。…………実際口に出して言わない言葉だよな。


 そんな余計なことを考えていないと、恥ずかしさでどうにかなりそうだった。


 口をつけて缶を傾ける。


 中身が口内に入ってきて、急いで嚥下。



「どう?」


「味がわかんねえ」



 何故このような羞恥プレイをなさるのか?


 いや、一ノ瀬はいつも通りなのだ、たぶん。おかしいのはきっと俺、たぶん。



「ね、もう一口ちょうだい?」


「えっ」



 いつも通り…………だよな?


 固まる俺に対して、一ノ瀬は俺の缶コーヒーに狙いを定めて手を伸ばす。


 遠ざける俺。睨む一ノ瀬。だって、だってっ!!



「あ、アタイが口つけたやつだから!」


「良いよ、別に」


「俺がよくないんだが!?」



 仰け反ってコーヒーを遠くにやる俺と、俺にのしかかるようにコーヒーを奪いにかかる一ノ瀬。


 コーヒーを掛けた壮絶なバトルが今始まるっ!!



「もーらい」



 だったのだが、予想していなかった方向から缶コーヒーが奪われた。


 声の主を見ると、そこにいたのは。



「ぷはっ、苦いね!」


「…………美影先輩」


「暇だからウロウロしてたら見かけてね、来たよ!」



 そう言いながら笑う美影先輩はいつもどおりだ、間違いない。


 だが、反対側にいる一ノ瀬は……。



「………………むぅ」



 拗ねていた。これほどまでにわかりやすく拗ねた顔を見せたことがあっただろうか? いやない。


 手元にあるコーヒーは空になり、残ったものは俺を押し倒すように手を伸ばした一ノ瀬のみ。



「また買ってあげるから、ね?」


「うっさいバカ! 子ども扱いするな!」



 羞恥の根源が無くなったことによって落ち着きを取り戻した俺は、一ノ瀬に優しく話しかける。


 が、返ってきたのは辛辣な言葉だった。慣れてるけどな。



「バーカ! 大福食べ放題に出場してお腹破裂しろ!」


「何処かの幼女が聞いたら喜んで飛び跳ねそうな言葉を罵声にするな」



 ぷりぷりと肩をいからせながら一ノ瀬は去っていく。


 残されたのは俺と美影先輩。



「さて、二人っきりだね」


「ヒェ……」



 何やら黒い物を感じる俺だった。

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