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すいーつばいきんぐ(疑念)


 カレンダーを見る。


 デカデカと書かれた10月の数字。



「では、良いか?」


「ああ、頼む」



 リンネが言っていた、半年ごとの途中記録。この手続きが終われば、俺が巻き戻ったとしても今日この日から始まる。


 無限に続いた入学式のループは終わり、苦戦した不良グループの対処ももうしなくていい。


 途中セーブ万歳三唱といったところだ。


 目の前にいるリンネもいつもより厳しい顔をしている。きっとそれだけ手続きが複雑で困難なのだろう。



「では……」



 ベッドに腰掛けた俺の前に立つリンネ。


 背後へと手を回したかと思えば、取り出したのは。


 ゲームのコントローラー。



「んじゃ、セーブ……っと」



 ぽちぽち。



「え、そんなんなの!?」


「よし、これでセーブ完了じゃ」


「マジでゲーム感覚じゃん……」


「ちなみにコントローラーは演出で、本当は必要ないぞ。ワシが頭で命じてそれで終了じゃ」



 良く見たら俺の家にあるコントローラーだった。


 無駄な演出と言わざるを得ない。



「これで、今日この瞬間に巻き戻るんだな?」


「うむ、戻った瞬間コントローラーを持ったワシが目の前にいるはずじゃ」


「視界が邪魔すぎない?」


「なにおう!」


「まあいいや、ありがとう。大福でも買いに行くか?」


「いつでも食べるぞ!」



 というわけで外に出る。


 秋にも差し掛かり、多少涼しくなったが……それでもまだまだ蒸し暑さが残る。残暑ってやつだね。


 だからだろうか。



「はぁ…………はぁ」



 息を切らせ、汗を流した一ノ瀬が家の目の前にいるのは。



「途中セーブ、も……もう、終わった……?」


「うん」


「あああっ……!」



 ずしゃあ、と崩れ落ちる、なんで?


 ひょっとして立ち会いたかったのか?



「これで巻き戻っても、生徒会風紀とかいうワケ解んない役職はそのままってこと?」


「そうなる」


「つまり、既に会長と知り合った事実は消えないってこと……?」


「……そうなる」



 悔しそうに項垂れた。


 昔馴染みに会ったことがそこまで問題か?


 まあ、記憶よりも斜め上に変人に育ってはいると思ったけども。


 それよりも、不良の危機が完全に去ったということが俺にとっては胸を撫で下ろす事ができる案件なんだが。


 あ、もしかして?



「今回、先輩と仲を深められなかったから不満だったのか!?」


「まあ、それは置いといて」



 置いとかれた。


 じゃあ一体なんだというのだ。



「美影先輩が嫌いなのか?」


「いや……嫌いじゃないんだけど、なんていうか……苦手っていうか、押しが強いっていうか、強引っていうか。得意なタイプじゃない、かな?」


「アレが得意なタイプって存在しないんじゃないか? エスパータイプくらい?」


「……何の話?」



 頭の中がゴリ押しで出来ているのだ、まさしくかくとうタイプって感じだろう。


 まあ、それも置いといて。



「なあ麗人、麗人」


「リンネ?」


「ワシ、大福が大好物じゃが……今回は、行ってみたい場所があるんじゃ」


「何処だ? 頑張りに報いることは出来るだけやってやらんこともないぞ」


「あのな、あのな……ワシ、すいーつばいきんぐ、っていうのに行ってみたい!!」



 ………………。


 は?


 スイーツバイキング? なんで?


 いや、カスタードを騙して食べさせたことがあってからというもの、ちょいちょい洋菓子を嗜むようにはなったが。


 そもそもそんな知識を何処でつけた? 一ノ瀬か?


 首を振ってるから違うようだ。



「麗人が持ってたぎゃるげぇなるもので、でぇとしてた!」


「そんなの持ってるんだ」


「そりゃ持ってるだろ、ブサイクでデブで生まれてこないほうが良かったとか言われてた俺だぞ? せめて仮想の世界で恋愛したいだろ!?」


「聞くんじゃなかった、むさ苦しい」



 失礼な。というかリンネに余計な知識をつけたのは俺でした。


 でも、バイキングか。近頃はビュッフェとも称されるあの、食べ放題形式のことである。


 しかしながらそれには問題がある。その問題は何かというと……。



「リンネ誰にも見えないから、無銭飲食みたいになっちゃう」


「麗人が食べる分をリンネちゃんにあげたらダメなの?」


「俺一人分の値段で二人分食べるんだぞ? 脱法飲食みたいな空気になっちゃうだろ?」


「なるかな……?」



 まあ、巻き戻れば脱法飲食したことすら無かったことになってしまうのだが。


 それを容認していけば、最終的にはどんな犯罪行為をしようと『巻き戻ればいい』で済ませてしまうことになる。


 それは良くない。


 リンネの教育に良くない。まあ元々法の外の存在っぽい気はするけど。



「じゃあ姿出せばいいんじゃろ? じゃあ出してやろうじゃないか!」


「なんでキレてんの」


「行きたいからじゃ!!」


「っていうか姿出せたの!? 俺がコンビニで独り言いってた時に出してくれれば良かったじゃん!?」


「その方が面白いからの」



 行動原理が幼稚過ぎる。



「ほら、コレでよいか!?」


「見た目じゃわからないんだが」



 毎日のように見えてる俺からすれば、見えていない時と見えてる時の違いがわからん。


 しかし、まだ問題はある。


 それは……服装だ。


 神に仕える衣装のような、厳かで古風な衣装。


 コスプレ以外で見たことのないそういった系統の衣装を着ていくのは、人目を引きすぎる。



「まったく、ああ言えばこう言う! まったくもうったらまったくもうじゃ!!」


「そんな事言われてもしょうがないだろ!!」


「麗人の昔の服とか取ってあったりしないかな?」



 あるかなぁ?


 仮にあったとしても男物だけども?



「それなら一ノ瀬の方が良くないか? 女の子同士だし」


「私の家にはそんなの無いから」



 なんか、冷たい声だった。


 堅く拒絶するような声で、追求することすらも許されないような。そんな声。



「とりあえず聞いてみるだけ聞いてみましょ、おばさんこんにちはー」


「ちゃっかり知り合いになってやがる」


「常連さんじゃからの」



 住んでる俺が知らないってのは如何なものかな?


 結論からいいますと。


 ありました。


 しかも女物。


 なんで? と聞いてみたら、とっても胸が苦しくなる答えが返ってきた。



『本当は女の子が欲しかったの。せっかく生まれてきたのに、男の子でしかもブサ……あれ? そこまでブサイクじゃない……でも、あれ、ブサイク……』


『撤収じゃーっ!!』



 脳が混乱し始めてきたのでリンネが服を持って逃げ出した。


 俺の部屋で着替え、俺は廊下で待たされ。


 ……っていうか、母さんリンネがいても不思議に思わなかったな。いつの間にか知り合いに?


 それとも、例の認識のすり替えとかいうやつか? あな恐ろしや。



「お待たせじゃ!」


「あの服脱がしにくいのね……」



 出てきたリンネは、銀髪であることを除けば何処にでもいる幼女のような出で立ちだった。


 幼女にしては目鼻立ちが整いすぎてるし、口調も妙に古風だが。



「どうじゃ麗人」


「幼稚園児みたい」


「素直に褒めることも出来んのかお主」


「あー、はー、まーいーんじゃないっすか?」


「強制でブサイクにしてやろうか」


「とても可愛らしいです」



 へりくだる。いや、へりくだらされた。


 というわけでバイキングへゴーなのだが。



「これって、次回に続く必要あるか?」


「あるぞ! 食べたいじゃろうが!!」



 らしいです。

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